第十五話:永遠の親友へ
新学期の放課後から少し時が進み、初夏の眩しい日差しが照りつけるコンクール地区予選当日。
緊張感に包まれた会場の控室で、奏多は一人、出番を前にサックスのリードを丁寧に調整していた。
「奏多、緊張してない?」
莉子がフルートのケースを抱えて近づいてくる。
「……少しな。でも、不思議と怖くはないさ」
奏多は自分の胸ポケットをそっと叩いた。そこには、あの遺書と一緒に、蒼輔が残してくれた小さなメモが今も入っていた。
『奏多へ。お前の音は、人の心を動かす魔法だ。自信を持っていけ!』
下手くそだけど真っ直ぐな文字で書かれた、親友からの最後の言葉。
「あいつが客席のどこかで聞いてるからさ。最高の演奏をしなきゃ、後で天国から怒鳴り込まれるからな」
「そうね。神宮寺に『下手くそ』なんて言わせないわよ!」
莉子は頼もしく笑ってみせた。
ステージの扉が開き、眩しい照明の光の下へと足を踏み出す。
指揮者がタクトを大きく上げる。奏多は深く息を吸い込み、空の上へ届けるための第一音を、魂を込めて力強く吹き鳴らした。
その音色は会場全体を優しく包み込み、聴く者すべての心を温かい涙で満たしていった。
コンクールが終わり、夕暮れの染まる帰り道。
青空の彼方へ向かって、二人は心の中でそっと語りかけた。
さようなら、僕らのたった一人の親友。
ありがとう、僕たちの世界に色をくれた君へ。
晴れやかなサックスの音が、どこまでも高く、いつまでもいつまでも、響き渡っていった。




