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第十三話:桜のテトラポッド
病室のミニコンサートから長い季節が巡り、三月。窓の外で柔らかな春の風が吹き抜け、あのときみんなで約束した桜の蕾が固く膨らみ始めた日。
神宮寺蒼輔がいないまま、僕たちは静かに、けれどしっかりと高校の卒業式を迎えた。
満開の桜の花びらが舞い散る校庭で、送辞ではなく卒業生代表として壇上に立った奏多は、その胸のポケットに蒼輔の遺書の一部を大切に忍ばせていた。
「僕たちには、最後まで自分の痛みを隠し、僕たちを思ってくれていた大切な親友がいました。彼は何も言わずに突然旅立ってしまったけれど、僕たちの胸の中には、彼にもらった温かい色彩がずっと生き続けています――」
式が滞りなく終わり、生徒たちがそれぞれの未来へ向けて校門へと歩き出す。
海沿いの道、冷たい潮風を受けるテトラポッドが並ぶ防波堤の上に、葵と奏多、そして莉子たちが集まっていた。
「神宮寺くん、こっち見てる?」
葵が、少しだけ笑って青空を見上げる。その手には、蒼輔が遺した小さなスケッチブックがしっかりと抱えられていた。
奏多がサックスを構え、澄み切った春の青空に向かって、力強い第一音を響かせる。
その音色は春の風に乗り、テトラポッドを越えて、どこまでも広い海原へと溶けていった。




