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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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6.改革のはじまり(1)

井戸の改造を行ってから数日。

前世から積み重ねた知識と、今世手に入れた650の魔術で次に何をするか。

アイデアが次々に思い浮かび、真里は上機嫌で公爵城を進む。


ふと、中庭を通りかかった辺りで叫ぶような声に呼び止められた。

先日井戸作りを手伝ってくれた少年――ルークがこちらに駆けてくる。


「はぁはぁ……マルガレーテ様!助け……っ、助けてください!」


「あらどうしたのルーク、そんなに息を荒げて」


まだ幼いとはいえ、庭師見習いとして貴族屋敷にも出入りしている少年だ。

最低限の作法は身に着けており、普段ならばお嬢様の前で大声を出すことなどしない。

ならば、何かしら「普段通りでない」事態が起こったのだろうと真里は推察する。

言葉を促すと彼は泣きそうに顔を歪め、告げた。


「母ちゃんが……母ちゃんが熱を出して倒れちまったんです!すごく苦しそうで……どうしたら……!」


「わかったわ、家まで案内してちょうだい」


案内された家は昼間だというのに少し薄暗い。

貴族屋敷のような大きな硝子窓も魔術の明かりもここにはなく、開け放たれた木窓から入る日光のみだ。

部屋数も多くなく、古びたダイニングを通り抜けてすぐ寝室に辿り着く。


簡素な寝台に横たわっていたのは、ルークに似た顔立ちの女性。

彼女が母親だろう。

頬を火照らせ荒い息を吐く姿を、真里は己の目を通してレクシスにも観察させる。


『体温が40度、呼吸が浅く、肺から異音がする』


「これはいつからなの?」


「えっと……母ちゃん昨日からちょっと具合悪そうだったんだけど、その時は大したことないって言ってたんだ。寝たらすぐ直るって。それなのに今日の朝、畑でいきなり……」


ルークの説明を聞きながら同時に脳内の相棒と議論を開始する。


(レクシス、原因はどれだと思う?)


『ウイルスと違い劇症化の兆候。細菌性の感染症が疑われる』


(私もそう思うわ。ならば必要になるのは……)


一通りの説明を終えたところで、ルークは勢いよく頭を下げた。

床に膝までついて殆ど土下座のような状態だ。


「あの、お貴族様の魔法なら母ちゃんを治せるんですよね?お願いします、お願いします!お礼は何だってしますから……!」


「大丈夫よルーク、落ち着きなさい。あとそういうこと他の人に言っちゃだめよ?」


「マルガレーテ様……」


やっと顔を上げた少年の頭を撫でてやる。


「そうね、この辺りに枝が鞭や縄のように垂れ下がった木はあるかしら」


「え、木……?」


真里の唐突な発言に一瞬ぽかんと口を開けたルークだが、すぐに表情を引き締め答えた。

先日の井戸の一件で、真里の意味のわからない発言にも何か意味があるのだと信じてくれているのだろう。


「あ、あるよ。森の中にお化けの木って言われてるやつが」


「案内してちょうだい」


――ルークたちが暮らす集落の裏手に広がる森の中。

その一角に枝をだらりと垂れ下がらせた木々が連なる場所があった。


「はぁはぁ……これがお化けの木だよ」


このシルエットで幽霊を連想するのは、国どころか世界を跨いでも同じというのも興味深い。

だが、今は中身の方が重要だ。


『チェックを開始する』


(どう?わかったレクシス)


『幸運だな、白ヤナギの近縁種だがこちらの方が薬効成分が多い』


(これならあれが作れそうね)


それに――と、もう一つ確認せねばならない項目を思い浮かべ、不安気に見守る少年へと声をかける。


「ルーク、今すぐ同じ畑で働いている人たちを確認してきて。熱を出している人や具合が悪い人がいれば報告なさい。私は今から薬を作るから」


「え、薬?でもそれなら手伝いがいるんじゃ……」


「村の状況確認も大切なことなの、いいから早くなさい」


「う、うん、わかった。僕、マルガレーテ様を信じるよ!」


そう言って、小さな影は村の方へと駆けていく。

命令するような言い方になってしまったが、確認が必要なのは嘘ではない。

薬を作るのに彼の目があっては困るというのも、全てが真実だ。


『どうやら行ったようだな』


「早速やってみますか」


人命と領地の未来がかかった深刻な状況だというのに、これから始まる実験が楽しみで自然と口角が上がってしまう。


『この状況での最適解は……術式アーカイブ検索。今、キミが思い浮かべている物に一番近い魔法はこれだな。水魔法ウォータークリエイト』


「そう。泥水を浄化して清水に変える魔法……と思われているけど、実はそれだけじゃない」


『この術式の正体は特定の――この場合は水分子を選別し抽出する魔法』


「便利な呪文よね。前の……2085年の地球の技術を超えてるわ」


『呪文の効果は一定だと固定概念を抱いている者たちには使えない技術だろうが』


「相変わらず皮肉屋ね。さあ、呪文改変サクッとやってみちゃいましょう」


『試作も検証も無しに本番とは』


「何年私と付き合ってるの、もう慣れっこでしょ」


『確かに。術式改変。抽出物質イメージ構成。対象物質C7H6O3……サリチル酸』


特定の物質を抽出するというイメージは前世から知っている。

魔法を使う感覚はマルガレーテの身体が知っている。

樹皮に触れながら、真里は改変されたばかりの、この世界に無かった新しい呪文を唱えた。


「ウォータークリエイト改め――分子抽出魔法モレキュールクリエイト」


真里の手から放たれた多色の光が、木を取り囲むように宙に紋様を描く。

規則正しく動くそれが収まったとき、もう片手に握られていた瓶の中に白みがかった結晶が現れていた。


瞬時に、レクシスのチェック機能がそれが望み通りの物質であることを伝えてくる。


『想定以上の量を回収できたな。このまま飲ませるか?これだけでも抗炎症効果があるはずだが』


「確かに、古代ギリシャ時代には既に柳の皮や枝を薬として使っていた記録もあるくらいだものね」


『人間は何故、木の皮に薬効成分があるのか解ったのだろうか。野菜や果実ならばともかく、木の皮を食べるのは一部の偶蹄目だけだろう。それも北部の冬の話だ。動物の行動を見て思いついでは説明しきれない。本当に人間の発想力には驚かされる、我々人工意識体には思いもつかないことだ』


「ふふ、素直に褒めるじゃない」


ならば、彼が称賛する人間の発想と叡智を披露しよう。


「その辺りから酸化物質を取り出して処理して結晶化。一気にアスピリンの精製までやっちゃいましょう」


『あまり異端なことばかりしていると魔女認定されてしまうぞ』


「あら、実際魔女なんだからいいじゃない。まだ15歳なんだから魔法少女かしら」


前世のアニメの魔法少女を真似てポーズを取る真里に、頭の奥でレクシスの深い深いため息が聞こえた気がした。

当然サクッと無視したが。


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