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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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35.公爵令嬢の花嫁修業~アイゼンボルグ辺境伯領編~(1)

「いやあ、船酔いのない船旅って最高ね。この船旅の間ほどあんたを私の頭の中に飼っていてよかったって思うことはかなり少ないわよ、レクシス」


『それは全く光栄の極みだ公女様。私はただ三半規管の揺れの影響誤差を修正したに過ぎないのだがね」


真里は潮風の風圧が長く癖のない綺麗な黄金色の髪を後ろに流そうとするのを抑えた。

彼女の乗る近海用の帆船は、海鳥と潮騒の音の響く港にそろりそろりと帆をたたみ、船留めのロープで船体を引かれながら入港していくのであった。


「見よ、アイゼンハイムの領民諸君。あの船の船首に立つ美しき乙女を」


人がごった返す港に、聞き覚えのある落ち着いた男性の声が信じられない声量でこだまする。


「諸君らも耳にしたであろう!あれなるは初代勇者である王祖様の偉大な血脈に導かれ、大災悪アヴァドン――幾百幾千万の毒イナゴの群れから諸君らを救った救国の乙女」


「すごい声量ね」


『どうやら板という板を音波の共振反射板として使う魔法のようだな。平面が全てスピーカーになっているようなものだ。マイクで入力しているわけではないからハウリングも起きない。実にクリアな音質だ』


「そりゃ便利な魔法ね。レクシス、データを記録しておいて」


『了解だ』


「そして彼女はその溢れる叡智で、山陰の貧しき子爵領の麦の取れ高を半年で倍増させた緑の手を持つ才女でもある」


『それにしても持ち上げすぎだな』


「あら私が頼んどいたのよ。また一から子爵様んところみたく信頼築き上げていかなきゃいけないってのも手間だしね」


「なるほど。ファーストインパクトを最大値化することでキミの主眼たる文明発展のエネルギーにしようと、そういう魂胆だな」


「領民諸君、紹介しよう。彼女こそ東の公爵家バルディアン家長女マルガレーテ・フォン・バルディアン。我が婚約者、我が将来の伴侶である」


「さてダメ押し一発いっときますか」


『重力制御魔法スタンバイ。了解だ。落下速度はスカートが捲れない程度でよろしいかな』


「そう願うわ」


帆船の舳先からマルガレーテは自分の脚力だけで空へと駆け上がる。

どよめく領民たちの頭上を陽光を後ろに、まるで聖女の降臨のような姿を指さしジークフリートはさらに熱量をあげた声を発する。


「見よ、愛するアイゼンハイムの民よ。あれこそ王祖様以外誰も成しえなかった飛行魔法。彼女の血脈を表わす何よりの証拠。キミたちは今奇跡を目撃している」


どよめきはやがて歓声に変わり、沸き立つ観衆の中、

少し高めの演台で演説をしていたジークフリートのすぐ脇にふわりふわりと降り立った。


(レクシス、魔法複製の準備はいい?)


『データは十分に取れた。何だったらBGMも合成しようか』


(それは遠慮しとくわ。音声拡大魔法サウンドイコライザ発動)


船の船首から演台までの少し長めの距離を、存分な滞空時間で自分の姿を民衆に見せつけた真里は、

着地の瞬間まるで10点満点を連発するような体操選手のごときレクシスの身体補助機能で

それはそれは見事なカーテシーを聴衆と婚約者の前で最高のアングルで決める。


「お久しぶりでございます、ジーク様。5月のあの日、月夜の下、王宮の花園で数多の赤きバラに見守られながらあなた様からの求婚をお受けした時より私の心の半分はあなた様のもとへ行き、今導きのままにもう半分もこちらへ辿り着きました。どうぞこれから先もよしなに」


「ああ、何たる幸せなことか。私の手の触れられる先にキミがいる。キミは飛行魔法と共に今日は二つも私に奇跡を与えてくれた。私の中に生まれいずるこの幸せこそがまさに奇跡だ。領民諸君、私達の幸福と諸君たちの未来を祝ってくれるのであれば拍手をもってそれを示してくれ」


まさに万雷の拍手。

顔を紅潮させ笑顔で拍手をする女性領民。

お祭りの時のような笑顔で拍手をする子供たち。

男たちは港の男らしくその丈夫な手の平を打ち鳴らす。

歓声は止むことを知らず、主役たる二人が演台を降り、伯爵邸に向かう馬車に乗り込むまで拍手は鳴り止まなかった。


『やーすごい三文芝居だったわねー』


『相変わらずキミは失礼だな。この国の文明レベルを計算し、私の作り上げたシナリオに何か不満でも』


「まあどうしても娯楽が吟遊詩人の謳うサーガ系だし、それ準拠のセリフ回しになるとねえ……」


「ほんとっすよ教授。俺は去年までほんとに魔法技術に関する研究に没頭してたボンボンだったのに、親父が倒れてから慣れない領主仕事が始まって……さらにはこんな舞台劇みたいなセリフ回しのデータが送られてきたんですからね」


「まあでも上手くいった方なんじゃない?あれなら明日からの領地開発のプロジェクトも上手くいきそうだし。やっぱ領民のモチベーションって大切よ」


「帝王学ってやつっすか。教授は博識だとは思ってましたが、まさかそっちにまで学識が深いとは思ってなかったですね」


「帝王学じゃないわ心理学よ。んなことより、5月にイリスちゃんに渡しといたデータ通りの工場は形になってるかしら」


『万事オッケーよ。建設地も言われた通り川の近く。強度も十分、技術者はアラニア山脈に根を張るドワーフの一族に求人を出してあるわ』


「オーケー、完璧ね。まずは科学肥料の工場から作るの。今度は国ごとどどんと農業革新いってみよっか」


『これはまた明日から忙しいことになりそうだな』


翌日から始まったそれはデスマーチどころの話ではない。

複数名が関わるデスシンフォニー、いや、デスオーケストラとも言えるような目まぐるしい忙しさだった。


ジークが前世の工業知識をフル動員し、イリスがきっちりと構造計算、耐久計算を行う。

その工場となる主軸の建物は約0.5平米の大きな建物が北公領に向かう河川のそばに建てられ、真里はその三つの建物をそれぞれ窒素合成工場、カリウム精製工場、リン酸精製工場とした。

内部に子爵領で集めた酸化アルミをベースに作り上げたファインセラミックス製の炉や精製機器を魔法で作り上げ、それぞれの材料は窒素は大気から、カリウムとリン酸は元々海の底にあった地質が造山されているアラニア山脈の岩塩鉱床からドワーフたちに掘り出しを依頼し、レクシスがマニュアル化した合成及び精錬法をそれぞれの工場の責任者になるドワーフたちに手渡した。


「さあ皆、まず最初の1ヶ月はゆっくり丁寧にでいいわ。作り出す過程と魔法を体と頭に叩き込んでちょうだい。次の3ヶ月で自分たちのペースで仕事の最適化をしていって。生産ノルマが達成できたグループから最高級のつまみと酒を用意するわ」


無類の酒好きのドワーフたちの心にこの言葉が響かないはずはなかった。

翌日からドワーフたちは寝食を忘れ……ということはなく、けれども必死に文字通り目を血走らせながら肥料生産作業に没頭した。


「うん、よし。4ヶ月後が楽しみね。次郎君、私が持ってきた種もみと肥料での小麦の拡大生産の準備はできてる?」


「そっちはばっちりっす。でも教授、この水路用の溜め池、ちょっと変わった作りしてないですか?」


「そこはね、来年の春から別なことにも使うのよ。さて忙しくなるわ。これからヤギを増やさなくちゃ」


「えっ?教授待ってくださいよ。うちの領地は平地がほとんど麦畑に取られてるんです。あのでっかい山脈際の領ですからね。牧場構えるなんて贅沢なこと無理です」


「だからヤギを飼うんじゃないの。山の羊って書いてヤギって読むのよ。あの子たちは元々山での生活がメインの生き物。基本山林限界地点くらいまで森の下草をイイ感じに食べさせて森を豊かにするのが第一の主眼」


「ってことは第二の主眼があるってことっすか」


「そゆこと。それは来年以降のお楽しみね」


『マスター。スケジュールでは本日はそろそろお父様へのお見舞いとご婚約者との顔合わせの時間に間に合わなくなるわよ』


『ふむ、御父上というと先代伯爵の』


「ああ、ジークムント・フォン・アイゼンボルグ。今世での俺の父親だ。どうも肺を患ってるみたいなんだけど……」


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― 新着の感想 ―
工場の主軸となる大きな建物が約0.5平米ですか。 1m✕0.5mの設置面積……だいたい裏庭の小さな物置サイズですねぇ。 工場のサイズは色々ですが、参考までにサイズ感を掴むのに田んぼで例えるなら、1反=…
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