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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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34.公爵令嬢の花嫁修業~バルザック子爵領編~(2)

かくして暑き夏の7月8月が過ぎ、真里が転生して三度目の黄金色の穂が実る季節、すっかり馴染んだバルザック子爵邸のリビングでの昼食。

本日のメニューは年末に引き続き、夏に収穫されたまだ麺にほのかな緑色が入る打ちたての新蕎麦だ。

しかも冷たく連山から染み出る清水で冷やしたざるそば。

つゆは手製の醤油(仮)と6月に領民たちと作った魚の燻製をさらに干したものを出汁に加えたこだわりの逸品。

そろそろ麦の収穫を迎える晩夏にこれ以上嬉しいごちそうはない。

この世界では十分な老齢であるバルザック子爵も、真里がこの領地に普及させた箸という木材とナイフさえあればいつどこでも作れる原始的でありながら慣れると使いやすくまた優美なそのカトラリーで冷たいそばを一口つまみ、つゆに沈め勢いよく喉を鳴らしすすりあげる。


「いやまた今回の蕎麦も見事な味ですな。年末の温かき蕎麦とは違い、こちらの蕎麦はまた香り良い。何よりも冷たいのど越しとこのつゆと申しましたか……特製の黒きスープの味わいが何とも」


「うふふ、子爵様のお口にあったようで何よりですわ。このお蕎麦のレシピも農業改革のレポートとは他に調理長に渡しておきますわね」


「しかし寂しくなりますな。マルガレーテ様が我が領にいらっしゃってもうすぐ1年なのでございますね。何とも愉快で美味しくて忙しく充実した1年でございました」


「そう仰ってくださると私もこの1年頑張ったかいがあるというものです」


「マルガレーテ様、正直に申します。わしは最初、公爵様にとんでもないお荷物を預けられたのかとヒヤヒヤしておりました。ですが、出逢った初日からあなた様は誰よりも……そう領主である私よりも真面目に、この寂れいくばかりの土地を一歩一歩どころではなく、それこそヤマイワザルの三段跳びのような速さで工夫に工夫を重ね、小麦の黄金溢れる豊かな領へと変えていただきました。わしだけではなく我が子爵一族全て、感謝してもしきれません。我々は一体、あなた様にどのような恩をお返しできるのでしょうか……」


子爵は一時食べる手を止め、つゆの入った小鉢をテーブルの上に置くと、溜め息を一つ言葉を続けた。


「もちろん我らがバルザック子爵家はこの御恩に報いるため、なお一層の忠誠をバルディアン公爵家に捧げるつもりでございます。ですが、それだけでは遠く北西のアイゼンボルグ伯領に嫁ぎゆかれるあなた様個人への大恩が返せませぬ。それがこの老骨めにはとても悲しくて悔しいことなのです」


「いいえ子爵様、大恩を感じるのはむしろ私の方なのですよ。子爵様はただの夢想家にすぎない恐れのある公爵家生まれというだけの私のような小娘の言うことを真面目に信じてちゃんと最後まで私の農業改革を誠心誠意手伝ってくれました。

その御恩に比べれば私のやったことなど、鉢植えに種植えて花を咲かせることに興じる小娘の行う戯れ言と何ら変わりはございませんわ」


老子爵の瞳の見えないくらい長く白い眉毛がジワリと湿り気を帯びる。


「マルガレーテ様……」


「さあ子爵様、お蕎麦がのびない内に食べてくださいな。このお料理は美味しさの持続力がそれほど長続きしないものなのですよ」


「はい、はい、わかりました」


感涙を胸に老子爵は箸を動かし、勢い良く音を立てて蕎麦を啜りあげる。



◇◇◇



そして9月、小麦の刈り取りが終わり、子爵邸を離れるときに身の回りの荷物をまとめ、馬車2台でこの地にやってきたマルガレーテが帰りに引く馬車の数は全部で6台。

その増えた分は子爵の呼びかけに応えた領民たちからの、一年間しかいなかった公爵令嬢に対する感謝の贈り物がぎっしりと詰まった荷馬車だったという。


子爵領からバルディアン公爵家の公都バルディシュタットまで馬車で二日、自身の生家であるバルディアン城で一泊し、そこでさらに荷が追加された。

母ディートリヒからの嫁入り道具代わりにと半ば無理矢理持たされた、いやげもの的若き頃の母の大量のドレス。


「はぁ……全くもう、サイズが合わないってのに……」


その百着以上あろうかという、様々な素材、色、デザインの下手をすると一度しか袖を通していないような絢爛豪華な物品に真里は溜め息を吐くのであった。


「しかしこの世界、コルセットはしっかりあるのにブラが無いとか間違ってない?」


『マリ、検索してみたらキミの記憶データにあったぞ。前世でもキミの知るブラジャーという存在とコルセットの歴史的な相関性はコルセットが先だ。その前からあったものはヘアバンドのようなもので乳房を抑えるだけの布帯であったようだぞ。しかしその数々の衣装、視覚データだけで恐縮だが胸のサイズが……』


「……円周率……」


『こほん、しかしながらキミは今年の7月で満16歳になったばかりの乙女だ。身体的なシルエットデータはそう、日々にうつろうものだ。ああそういえば、キミの父君も木酢酸液と新品種の小麦の育成データを主軸とした農地改革レポート春~夏版は随分気に入ってくれていたようだな』


「まあそうね。新品種の種や化学肥料、あとは色々な種のサンプルも渡したし、まあ上手くやれば次の秋撒きの小麦で子爵領程じゃないけど、数パーセントから十数パーセントの収量アップが見込めるんじゃないかな」


『さてマリ、キミの父母にいただいた大量の嫁入り道具や子爵からもらった大量の土産物の類はある程度無限収納に入れるとしてだ。はるか北西のアイゼンボルグ領まではどんな旅程を行く腹積もりだ?馬車で移動するとなると、馬を交換して徹夜で走らせたとしても10日。普通の旅程で行けば半月から20日はかかる工程なのだが』


「そこは考えてあるわ。総移動距離的には遠くなっちゃうけど……」


『ふむ、どういうことかね』


「急がば回れってやつよ」


そこからの真里の旅路は早かった。

王都に馬車で入り、アトミック湖で船に乗り換え、西公領方面に流れるスタンプ側を下り、タリアンド半島西側の湾岸部を右にみやり、2日ほど北進。

そしてアイゼンボルグ伯爵量の軍港であり、港町でもある、そして領都でもあるアイゼンハイムへと到着したのである。

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