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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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29.伏線も脈絡も無しに始まる世界の危機(5)

アヴァドン殲滅から真里とレクシスが文字通り飛んで帰ってきて、王城のベランダについて初めてやったことは死んだふりならぬ倒れたふりだった。

そう、あたかも「王祖の血に操られていた自分、今正気に返りました」感を演出しながら。


今まで聞いた事も無いような焦った声で自分を抱き起し、泣きそうな、しかし諸侯の前では意地でも泣くまいと男の意地のようなものをその顔面に貼り付かせた父ライゼンボルグに(厳格な父のデレイベントキタコレ。こういう心配性な所、和ちゃんにちょっと似てるわね)などと内心で思いつつ、医師の間に運ばれた後、気絶している芝居中の身体コントロールをレクシスに委任し、真里本人とレクシスの意識は脳内で反省会+改善案会議を行っていた。


(うーん、ブラストパニッシャー一発で決めちゃうのは爽快感はあったけど、やっぱアポルオンの群れから子供とか村人とか守るって展開欲しかったかもね)


『仕方あるまい、首都らしき都市は全滅。スキャニングした範囲内でも、全滅した町や村は多数あったが現在進行形で襲われている村は一つもなかった。例えあったとしても、その一か所にかかずらってる間に被害範囲が余計に増えるという結果になるだけ。まさにあの時が千載一遇のチャンスだったのは間違いはない』


(それはそうなんだけどね……。ところでレクシス、推計の被害者は一体どのくらいだったの?)


『この世界の都市規模からの概算で凡そ数万人から十数万人。多くても15万人は超えてないはずだ』


(そんなに……)


『仕方あるまい。監視用レーダーも衛星も遠隔通信手段すら狼煙以外ほぼ存在しない世界だ。災悪がいつどこで発生するのか誰にもわからない。前世知識を持つキミや私にだって、この世の全てを監視することなど不可能だ』


(ふむ。それよレクシス)


『何がだ?』


(出撃前にも言ったでしょ?異世界転生ものってジャンルはね、平均して三ヵ月に一回くらいは世界崩壊の序章的イベントが起こるものなの)


『統計学的にいってそんな事は実際にはあり得い。今回のアヴァドンとて私が収集したデータでは史上二回目。前回に起きたのは数千年前という話だ』


(だーかーらー!作るんじゃない)


『まさかマッチポンプをして自分が魔王で勇者になろうという腹積もりじゃないだろうな』


(そんなずるっこはしませんー。作るのよ、人間の力で人ならざる神の目をね。レクシス、前世地球の技術関係のデータフォルダ開いてちょうだい。多分ちょうどいいのがあるはずよ)


『了解した、我が宿主よ』



◇◇◇



一週間後。

真里は「指輪から何か声のようなものが聞こえてきてその後はよく覚えていない」という、謎の力に操られていましたてへぺろ系ムーブを王や諸侯の前でぶちかまし、「夏蒔きの麦の作業が残っているので私はこれで失礼いたします」と余計な後始末に関わらないようすたこらさっさととんずらをかました。

残された王や四公八伯の諸侯たちにとってはいい面の皮である。

事件現場に一番近い西の辺境伯領や王城から現場確認のため兵団が派遣され、現在は御前での報告の真っ只中であった。

並ぶ視察兵団の顔は皆一様に引きつっている。

有り得ないものを見てしまったとでも言わんばかりの表情だ。


「一面のガラスの平野……じゃと?」


「はっ!同行した宮廷魔法士によれば、鉄をも溶かすような高温で焼き溶かさない限り大地があのような有り様にはならぬと」


兵団長の言葉を聞き、諸侯の間にざわめきが広がった。

一瞬呆けていた表情がみるみるうちに青ざめていく。

アポルオンが殲滅され王国への被害が未然に防がれたのは喜ぶべきことだ。

だが、それを可能にした力のあまりの強大さを思うと歓喜よりも恐怖が湧き上がるのを止められない。


「ただならぬことだ」


「大英雄たる王祖様以外歴史上誰も無しえなかった飛行魔法……しかも見える範囲全てが死の砂漠ならぬ七色に輝くガラスの平野に……」


「だがいくら公爵家の長女とはいえ、国王直系でもない娘に何故あのような力が……恐ろしい」


「かの子女が謙虚な気性であるから助かるが……」


「ああ、我欲の強い者だったら、この国は……いや世界はどうなっていたことか。この王城が浮かぶ湖も王祖様の大魔法の

一撃で穿たれたと伝説にあるが、あながち伝説ではないのかもしれぬ」


「落ち着くのじゃ、皆のもの」


焦ったように我先にと語る諸侯たちを王が手を叩いて静まらせる。


「して結局法国の現状は……あの国の民草共は如何なっておるのじゃ」


王に促され、視察兵団長は報告書の続きを読み上げる。


「はっ!神聖オムウ法国は首都を中心に、先程も奏上いたしました通り凡そ500キロメートルは生けるものは草木一本すらない、まるで王城のシャンデリアのように七色に輝く死の荒野。毒イナゴの群れより助かった避難民は西方と北方の隣国に散り散りに逃げ、法国はその国体を成しておりませぬ。恐らく再建は不可能かと思われます」


四公の中でも一番の切れ者と言われる西公が円卓に両の肘をつき、重ねた手を額に押し付け言葉を紡ぐ。


「国土の凡そ四分の一が焼け野原……ですか。はるか東方の聖山で神の声を聞いたなどと、まやかしごとをのたまわっていた自称聖人の法王シャーバラが一代で起こした国が何とも無残な」


「だがよぉ西の。どっちみちあのくそったれ国家とオイラたちの国はいつケンカが起きてもおかしくねえぐらい険悪だったじゃねえか。まあアラニア山脈がでっけえ城壁になってくれてたから直接的なドンパチは起きちゃねえが。おめえんところの外部交易では法国の私掠船の被害に大分そのデコの中身痛めてたんだろ」


「某の治める南方領とそのさらに南の港を持つ二伯領は、大渦潮のおかげで交易もままなりませぬからのう」


南公の言葉の後にはそれぞれの諸侯が今や死に体となってしまった困った隣人の途切れない噂話を口にするように、それぞれの顎を動かす。


「さて困ったのう、ライゼンよ」


国王は片手を自分の頬に当て、悩ましげな声で呟く。


「あの娘……マルガレーテ嬢は確か去年デビュタントを済ませていたな。早ければ今年、遅くても2、3年以内には婚約者を決めねばならぬ年じゃ。だが、あのような強大な力……しかもこのような……」


王は残るもう片方の手で、農業改革案の分厚いレポートの表紙を叩く。


「我が国の農業改革も推し進めようとする才媛じゃ。できれば王家に嫁いでもらいたいが、困った事に我が不肖の息子たちは強大な力を恐れ顔を青くしている始末」


「陛下。それをいうならうちのボンクラ息子共も以下同文だぜ」


「恥ずかしながら当家の愚息たちもです」


「某の一族におるのは、マルガレーテ嬢と年釣り合わぬ幼子たちばかりなれば……」


「困った……実に困ったことじゃのう。強大すぎる知恵と力は時に婚期の障害足り得るか。国王として……そして姪の生末を心配する伯父として大問題じゃわい」


その時、八伯の席の内から一本の手が真っ直ぐに上がった。


「陛下、諸侯の皆様、どうか発言の許可をいただきたい」



一方その頃、バルザック子爵領では――。

液化呪文を駆使して開拓した新しい農地で牛に鉄製のプラウを引かせて畝を作り、複数の領民を並ばせ筋蒔きでの麦蒔きを始めている真っ最中であった。


「さあ皆ガンガンいくわよ。目指せ、夏の取れ高ヘクタール辺り500キロ!」


『理想値は理想値だというのに。全くこの宿主は』


(いいのよ、目標は高い方がクリアした時の達成感半端ないんだから)


『処置なしとはまさにこのことだ』


今日もドレスの裾や長く綺麗な金髪に付いた土ぼこりを気にする事も無く、公爵令嬢は額の汗も何のその、子爵領の農業改革に精を出すのであった。


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