27.伏線も脈絡も無しに始まる世界の危機(3)
三虎六一式。
前世地球日本国国防自衛軍で2061年に正式採用された戦闘用強化外骨格。
表面装甲超超ジェラルミン&炭化ケイ素セラミックを主軸とする複合型積層構造。
主軸可動部は電位収縮高分子化合物製の人工筋肉と、リニアアクチュエータをボーンフレームにしたハイブリットアクチュエータ。
主動力源は両腰部と背部に備え付けられたナトリウム媒の全固体化電池。
フル充電で約八時間の戦闘行動が可能。
関節部及び人体接面部はバイオナノチップマテリアルで成形されており、細かな外部破損であれば自己修復が可能。
世界初となるスマートブレインとの同調・同期を主軸とした強化外骨格であり、今までの米独露中の開発した機械式強化外骨格とは一線を画し、より有機的な運動性能を発揮する。
マリーナリータイムラグがほぼ存在せず、試作品での戦闘訓練では米軍一個中隊に対し、試作機三体による一個小隊で中隊規模の米軍機械化外骨格部隊別名「マシーナリーズプラトゥーン」を圧倒することができた。
これの試作機を作ったのが日本三大財閥の一角、三虎一族の次男「三虎次郎(当時25歳)」である。
2055年当時日本科学技術大学の院生であった次郎は、転生前、当時56歳であった冴島真里教授の指導の元、その溢れかえる財力と偏った趣味嗜好、そして何より長男ではないので財閥の後を引き継がなくていいという天下無双の無責任感をいかんなく発揮し、僕の考えた最強のパワードスーツのプロトタイプを作り上げた。
普通ならただの妄想で終わらせ、知識がある人間でも図面や設計を引く所で終わらせるそれを、現実世界に顕現させたのである。
それが当時の防衛軍関係者の目に留まり、三虎財閥傘下の三虎重工でブラッシュアップされ正式採用へと至ったのが「三虎六一式」。
だが真里が着込んでいるのは、名前を拝借した似て非なるもの。
こちらの正式名称は私製三虎六一式(改)である。
表面装甲は母ディートリヒよりデビュタント時に譲り受けた指輪から組成を割り出した魔法合金ミスリル。
この素材は非常に魔力の伝導率が高いが、現存する現品のほぼ少ない希少金属であり希少合金である。
レクシスの協力によってその合金の組成を割り出し、元素結合化魔法「マテリアルクリスタライゼーション」で熱や圧力を加えずに原子と原子をつなげる過電子に干渉、ブロックのようにパチパチパチパチと繋ぎ止め共有結合結晶化することにより、見事に青白い輝きをまとった白銀の金属・準ミスリル製の外装を作り上げた。
さらにそこに炭素を水で溶いたものを練り込み、またもマテリアルクリスタライゼーションの魔法を使い、表面に薄く頑丈な炭素共有結晶の人工ダイヤモンド皮膜を作り出すことで、決して傷付かずキラキラと輝くド派手な外装となった。
ただし、内部のアクチュエータ部分は作りが雑というか手抜きである。
前世であればどちらかが故障しても大丈夫なように作られた二十動力のハイブリッドアクチュエータを、全て培養型バイオナノチップマテリアルで代用。
その分体の各種色んな所にこれでもかというくらい浪漫武器を内蔵し、かなりヒロイックファンタジーにハンドルを振り切った魔法戦闘特化用強化外骨格なのである。
『現状海抜高度1万メートル。巡行速度時速1500キロメートルで安定』
「現場到着までどのくらい?」
『アラニア山脈を飛び越えて凡そ500キロくらいだと思うが、何せGPSも無いこの世界の手書きの地図を参考にした試算だ。人工意識らしからぬ不正確で曖昧な表現だがそれは勘弁してくれたまえ』
「うへえ、このポーズで小一時間固定?決めた、次は絶対乗り物作る」
『おやマリ、いいんだぞ。この前みたいにカッコイイポーズを取っても』
「もうあれは嫌よ。光の国から来た宇宙警備隊の飛行ポーズ取ってみたら、空気抵抗が激しすぎて両手が逆間接行きそうになるわ、首がムチ打ちになりかけるわもうたくさん」
『試行錯誤の結果そのポーズに落ち着いたわけか』
「そそ。頭は真っ直ぐ動かさず、両手は真っ直ぐ腰に張り付ける。この格好が一番楽だわ」
問題点はカッコ良くないことと長時間同じ姿勢でいると疲れること。
前者に関しては高速で飛ぶ物体を視認できる人間もいないからと真里は渋々納得していた。
『しかし1980年代の背中にロケットエンジン背負ったアメリカンヒーローといい、キミがポーズを真似した宇宙警備隊の巨大ヒーローといい、あのネイティブインディアンのモヒカン族の伝統的頭髪衣装を真似たような図形意匠にまさかあのような空気力学的効果があったとはな』
「ほんとほんと。球形の丸い頭部のまんまだと前方からの空気圧は360度等圧に飛ぶけど、あのヒレみたいな飾りが一枚あるだけで空気圧が左右に分散されて逆に頭の位置が安定するなんて意外な発見だったわ」
『人間の頭は飛行機等の機首と違い首という可動範囲があるからな』
「人間そのものを高速で飛ばそうなんて馬鹿な発想が無かったら誰も気づかなかったでしょうね。まさしくイグノーベル賞ものよ」
『生前のキミは本物の方のノーベル賞を三つ取得したらしいが、あっちの方は取得しなかったのかね』
「生前の私は生徒や同僚に紙一重でマッドとかリアルモロー教授とか言われ続けてたけど、一応学会では真っ当な博士で通ってきたもの」
『真っ当な博士か……』
「なによ、なにか文句でもあるっての?」
『いや人生の最後に自分自身の身体で人体実験を行う人間を真っ当と言えるかについては……』
「やかましい。ところで……さっきのあれ、気が付いた?」
『ああ、諸侯会議の席の方から聞こえてきた言葉だろう』
常人であれば聞き流してしまうような呟き。
だが、レクシスのセンサーまで使って周囲の反応を確認していた真里の耳にはしっかりと届いていた。
この世界の誰も知らないはずの「三虎六一式」の名を口にした誰かの声が。
「しかも陸自正式採用型のデザインじゃなくて、プロトタイプに近いこっちのデザインを知っているということは……」
『キミの記憶データを当たっても前世でのそのデザインを知っている人間はあまりいなかったはず』
「その中の誰かがあの中にいたってことになるわよね」
『ああその通りだな』
「会議にいた人物のデータ洗い直しておいて」
『了解した、マリ。正面下方にアラニア山脈を視認確認。目的地までおよそ550キロ』
「よーし、一気にかっ飛ばすわよ」
『やめておきたまえ。音速で発生する衝撃派と振動、人工筋肉でこれでも99%カットしているんだ。理論的には巡航速度マッハ7までは出せるが、そうなると恐らくキミの首と頭が持たん』
「うー、ここぞって時なのに雰囲気ぶち壊しー!」




