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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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26.伏線も脈絡も無しに始まる世界の危機(2)

「ええい、何じゃ騒々しい。報告を許す、急ぎ語るが良い」


「はっ!今しがた西辺境伯アイゼンボルグ家より早馬での至急便。アラニア山脈を越えた西方の隣国、神聖オムウ法国において伝説の最悪アヴァドン発生との報有り。時を置かず高き峰を超え、恐るべき銀の災悪が我が国土にも群れなして襲い来る公算大とのこと。急ぎ軍備と避難の用意を、と!」


アヴァドン。

その言葉に諸侯たちの間にざわめきが広がった。

皆一様に顔色が悪く、先程までの明るい空気などどこにもない。


「アヴァドン……」


「アヴァドンだと……」


「数千年前に大陸にあった大帝国を滅ぼし、その四分の一を死の砂漠に変えたというあの……!」


「緊急じゃ!緊急事態じゃ!国王たるジャービス十六世の名において命ずる。王権を発動する、挙国一致体制において大災悪に備えるのじゃ」


アヴァドンとは魔界の門が開き、全長30センチほどの金属の外骨格を持つ毒イナゴが無数に湧き出る大災悪である。

彼らは尻の毒針で人を刺し殺し、人も植物も建物すら食べ尽くしてしまう。

数千年前その災悪に見舞われた大陸では未だに自然が回復していない――そう、歴史の授業の中で語られていた。


(流石に単なる伝説だと思ってたわ。魔界の門だのなんだの、流石魔法文明世界ね)


『前世地球の常識にあてはめれば、何らかの自然災害を言い換えたものと思うのが妥当だろうな』


(金属の外骨格を持つ虫ね……前世にもアイアンクラッドビートルなんて強靭な外殻を持つ昆虫がいたけど、情報が正しければきっとそれ以上……)


騒がしい部屋の中、真里は一人悠々と用意された飲み物を堪能していた。

僅かに果実の酸味が付けられた新鮮な水が喉の奥へと流れ込んでいく。

慌ただしくここまで連れてこられて乾いていた体に心地がいい。


何の果物だろうかと思案している最中、その肩に大きな手が置かれた。


「お前は公爵領に戻り、南方への避難誘導をしなさい。ディートリヒや弟達、領民を頼むぞ……」


「お父様は?」


「私はこのまま王の軍隊と共に行く。カールが成人するまでは領主代理もお前に頼んだ」


まるで遺言だというツッコミを寸でのところで飲みこむ。

あまりにも空気を読んでいない思考だが、父に対してそんなものが出てしまうくらい今の真里は荒ぶり始めていた。


恐怖ではなく期待と興奮で。


『動悸、脈拍の上昇。血中アドレナリンの濃度上昇。ドーパミンの大量分泌を確認。表情筋制御フル稼働。どうしたマリ?何をそんなに興奮している。』


(キタ……キタコレ……!これよ、私が待っていたのはまさにこれなのよ!)


『一体どうした?待っていた、とは……』


(異世界転生ものの定番、世界の危機……ああ、なんて甘美な言葉。私が読んでいた異世界転生ものではね、三ヵ月に一回くらいのペースで世界の危機やら王国の破滅やら激ヤバイベントがポップしてたのよ。それを主人公がチート能力で「え、私なんかやっちゃいました?」なんて軽いノリで解決してしまうの)


『……そうなのか』


(行くわよレクシス!せっかくの機会に大人しく待つ側に回るなんてあり得ない。この場の陛下や諸侯を納得させるようなシナリオと演出効果緊急発注!私の記憶にあるラノベの継ぎはぎでいいから。締め切りは数秒後、お願い!)


『やれやれ、どこまで無茶を言うクライアントだ』


文句を言いながらも優秀な相棒のことだ。

直後から頭の中に言葉が溢れてくる。

真里はそれをそのまま、いつも以上に険しい顔の父にぶつけるだけでいい。


「いいえ、お父様。公爵領には戻りません」


「何を言うマルガレーテ!今はワガママを言っている時では……」


「私が参ります」


「ふざけるな!行ってどうするというのだ!」


「お母様からデビュタントの時にいただいた、王家の血を引く証であるこのミスリルの指輪。私の体に流れる王祖様の血脈が私に戦えと……閉ざされし王家の封印を解けと伝えているのです」


「そ、その指輪は……確かに王家に伝わるミスリルの指輪じゃが……マルガレーテよ、我が末妹ディートリヒがお主に託したのか」


真摯でありながらどこか切なさを滲ませた声、決して逸らされない視線。

表情も仕草も一切の乱れなく完璧なものに仕上がっている。

慌てて走り回り叫んでいた人々も動きを止め、彼女に見入ってしまっていた。


『光学魔法無詠唱発動。ビジュアルイメージ:王家の紋章』


「あ、あれは……王家の紋章じゃねえか!紋章の輝きが指輪から放たれてるぞ!」


「待てマルガレーテ、そっちはベランダだ」


「離れてくださいお父様。マルガレーテ・フォン・バルディアン……今より王祖様の力を借り受け出陣いたします」


『マリ、スタンバイオーケーだ。魔道強化外骨格システムオールグリーン』


「嬢着!」


『説明しよう!公爵家長女マルガレーテは凡そ0.1ミリ秒で魔道強化外骨格をその身に完全装着することができるのだ!……とこんなもので良かったかな』


(上出来よ、レクシス)


『こういう時のOYAKUSOKUを守らないと後からきついお仕置きが待っているからな』


(飛行魔法完全展開、全速力でかっ飛ばして)


王も含め、四公八伯が唖然と口を開ける中、ベランダから白銀の鎧に身を包み空に飛び立つ。

その瞬間、背中からかかった声に真里とレクシスは一瞬意識を惹かれた。


「何だよあれ……三虎六一式じゃねえか……」

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