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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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24.公女様の農業革命(9)

三月に入ってサイロの扉を開いてから、本来領民総出で一か月がかりの脱穀作業が、風車小屋と水車小屋の自動脱穀機により凡そ一週間でカタが付いてしまった。

では残った三週間領民は遊び惚けていたかというとそうではない。

今まで領外の荒れ地といわれていた土地を、開墾する作業に入ったのだが、そこで真里の出番である。

目の前に広がっている一面の雑草と低木小石に占拠され、斜面も起伏もある固い大地を一気に開拓する腹積もりなのだ。

その総面積を聞いて領民はたじろぐ。


「お嬢様無理ですぜ。こんな面積を開墾していたら何年もかかってしまいまさぁ」


「いいから見てて」


(お願いね、レクシス)


『了解。ウォータークリエイトの魔法を逆式改変。対象範囲設定。対象地形のスキャニングを開始。地形形状完全掌握。いつでも行けるぞマリ』


「大地液状化魔法……アースリクェファクション!」


地面の液状化現象。

前世であれば地震の二次災害に起きる自然現象。

地震による大きな振動に伴い地下水が砂や土と混ざり、まるで湿地か流砂のような状態になってしまうことを指すが、今回真里の使った魔法は泥水から水を精製するウォータークリエイトの魔法式を逆転させ、

大気中の水分や地下水を地面に大量に混ぜ淹れわざわざ液状化させる魔法である。

はたして液状化した地面がどうなるか。

起伏のある大地は液状化することによって限りなく平面に近づき、耕作や開拓の何よりも邪魔となる小石などの質量の重いものは底に沈み、低木や雑草は根の保持力を失い今まで自身を育んでいた土の中に沈み込む。

領民たちの見ている目の前でほんの少し前まで荒れ地だったそこは、差し込む陽光を照り返す一面に広がる土色の沼と化していた。


『マリ、小石等の耕作障害物はほぼ着底したと思われる』


(オーケー。適量の水分を残して液状化した土から水分を蒸散させるわよ)


そして真里は今度は一面の泥の沼に無改変のウォータークリエイトをかけ、液状化していた大地を一気に引き締める。


(さぁて、それじゃアースコンプレッションの元になった無改変魔法。ディートリヒ母様お得意のアース・カルティベイト。どうかしらレクシス、状況をスキャンしてみて)


『土壌酸素量、pH、水分量オールクリア』


「よしオッケー。領民の皆!私の魔法で手伝えるところまではやったわ。あとはきっちり区分けして灌漑水路を作って、畑に害獣が寄ってこないような柵を作ったり色々頑張ってちょうだい」


「お……お嬢様万歳!」


「裸足の乙女に栄光あれ」


「お恵みを感謝いたしますだ、お嬢様」


真里に声を掛けられるまでぽかんと口を広げていた領民たちは、先程の真里の一声を聞くと途端に歓声をあげ始めた。

当然だろう。

本来なら5年から10年くらいかかる荒れ地の開墾開拓を、ほんの一時間で魔法のように――いや実際魔法だが、あとは少量手を加えるだけの土地に変えてしまったのである。

そこから先は農民の仕事だ。

真里が作ってくれた窒素肥料やクマ狩りのときに出た大量の骨をもとにした骨粉、大漁に飼われることになったアヒルと鶏の鶏糞とを撒き、脱穀で余った麦わらを細かく刻んで肥料と一緒に大地を耕し、灌漑水路を設け、害獣除けの柵を作り、春先の収穫の時期までに本当に今までの農地の1.5倍の広さを確保してしまったのである。


4月。それは緑が芽吹き、春の到来を風が届けてくれる花の香りが教えてくれるそんな時期でもある。

だが畑の麦は山々の緑とはコントラストを描くように、黄金色の実りを穂に溜め、少しばかり穂先が斜めにしなるそんな頃合い。

前世でサリンジャーが書いたような子供が鬼ごっこで隠れられるような背の高い麦は一本もなく、大人の腰の高さで春風にたなびく麦の穂がさわさわと心地よい音を立てていた。


「さあ皆、どんどん刈り取ってちょうだい」


領民たちはその手に刈り取った麦の穂の重さに驚く。

今までの丈の半分くらいしかない麦が、まるで前のシーズンに刈り取った麦と同じくらい重さがあるのだ。

つまりはその分、しっかり麦の穂に身が詰まっているという何よりの証である。

驚いたのは公爵領から派遣された地方徴税官ゼイトール氏である。


「こ、これが万年底辺だったバルザック領の小麦の収穫量ですと!?」


徴税官が驚くのも無理はない。

1ヘクタールあたり300キロもなかった山間の貧しい領地バルザック領の麦の取れ高が、万年豊作の公爵領の430キロを超え、1ヘクタールあたり450キロもあったのだ。


老子爵はその長い眉毛を喜びのあまり上下に揺らしながら答えた。


「ええ、間違いございませんとも。全ては公爵家令嬢、マルガレーテ様のご尽力のおかげにございます。これからの春先の麦もこれと同量、いえそれ以上を目指す所存であると公爵閣下にお伝えいただければ幸いでございます」


「は、はぁ……」


呆れを通り越してため息しか出ない徴税官たちを尻目に、公爵家令嬢にふさわしい微笑みの裏で真里は脳内の相棒へと愚痴をこぼす。


(目標値の500キログラムまでいかなかったわね)


『まあ仕方あるまい、500キロは計算上最高値のいわば理論値だ。目標値はきっちりクリアしたではないか』


(まあそうなんだけどねえ。帰ったときに父様に思いっきりドヤ顔したかったんだけどなあ)


『今までの結果から見れば十分な成果だと私は思うのだがな』


(せっかくの異世界だしもうちょっとド派手にチートしたかったんだけどね、私としては)


『いや、今までの結果を総括してみると十分に派手だったと思うぞ。誰がどう見ても』


(さーて完全に刈り入れが終わるまであと二日くらいかな。それまでに父様に提出する農業改革のレポートまとめておかなくちゃ)


『ふむ、またデスマーチ開始というわけか』


(よろしく頼むわね相棒)


『了解した、我が宿主よ』



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