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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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22.公女様の農業革命(7)

バルザック子爵邸。

すっかり子爵一家を骨抜きにした魔道こたつの熱源、焼石入れの蓋が外され、丸い金属製の鍋置きストーブグレイツ――日本でいうところの五徳が置かれていた。

その上には真里が魔法で作り上げた和式の土鍋が乗せられ、中には白いスープがぐつぐつ沸き立っている。

スープの中身はニンジンにカブ、タマネギにポロネギ、そこに水で戻した干しキノコ、そして一口大に切られた大量のクマ肉ベーコン。

ミルクのまろやかな匂いをまとい美味しそうに煮えていた。


「さあどうぞ子爵様、クマ肉ベーコンのミルク鍋です」


「なんと良い香りじゃ。馥郁たる香りとはまさにこのこと」


「マルガレーテ様が来てから我が家の食卓はすっかり豊かになりましたね、おじい様」


「うむ、まさに。良女はまず男の胃を掴むということわざがあるが、マルガレーテ様はまさにそれを地で行くな」


「あらあらそんなに褒められては困ってしまいますわ。まずはお味見をお願いいたします、子爵様」


白く長いひげをフーフーと揺らしながら、熱々のベーコンに息を吹きかけ口へと運ぶ老子爵。

味わうように顎を動かし、その度に動いていた目にかかるような長い眉がバッと見開かれ……


「これは何と力強くそして優しい味わいじゃ」


「これが本当にあの臭いクマ肉の味か」


「いや、臭みはなくなっていない。だがその臭みが逆にこの力強い味の下支えともなっている」


「僕も全く同意見です、おじい様、父様。まさか牛乳で鍋を作るだなんて思いもしませんでしたが、こんなにまろやかでしかも食べているだけで体中に力が満ちるような味です」


「このクマのベーコンだけではない。一緒に煮られたカブやニンジンはクマ肉の力強さを吸い込みながら甘さを残し、口の中でしっとりホロホロとまるで溶けるようだ」


『まるでグルメマンガのリアクション審査員のような反応だな』


「お願いレクシス、今笑うの必死で我慢してるんだから。決壊しそうなこと言わないで」


魔道こたつを中心とし、その真ん中に置かれた鍋から取り箸ならぬ取りトングを給仕係のメイドが忙しく動かし、子爵一家の取り皿へと次から次に取り分けられるが、何しろ口の中へも次から次へ運ばれ炊事場から次の素材を持ってくるメイドも大忙しである。


「スープはできるだけ残すようにしてお食べください。最後にこの鍋の締めがありますからお腹の余裕も少しだけ残しておいてくださいね」


最初は白かった鍋のミルクスープが、ベーコンや野菜の出汁が滲み出、薄く色づいた辺りで真里がメイドに指示を出した。


「締めのあれを持ってきてちょうだい」


「で、でも……本当によろしいのでございましょうか、お嬢さま」


「ええ、かまわないわ。重ねて言うけど白じゃなくて黒い方よ」


満足そうな笑顔の子爵一家が、真里のその発言に首を傾げていると、メイドが持ってきたのはお皿に盛られた一口大にカットされた黒パンであった。


「なんじゃこれは黒パンではないか。炊事長が間違えおって。調理場に戻って早く取り換えてきなさい」


「いえ、これはお嬢様の指示でして」


「ふふ、子爵様。まあ騙されたと思って」


一口大にカットされた黒パンは色付いたスープを存分に吸い上げ、潤びて軟らかく煮あげられる。


「さあ、このミルク鍋の締めはこの美味しくなったスープをたっぷり吸いこんだパン粥ですわ」


だがバルザック子爵のカトラリーを動かす手は止まる。

当然だろう、貴族の常識としては黒パンといえば平民の食べ物。

余程過酷なセンチでも行かない限りそれを食べることはない。


だが老子爵が悩んだのはほんの一時。

それ程この老子爵はこの突飛なことをする公爵令嬢を信用し信頼しているのであった。


「なるほどこれは白パンではいけませんな。黒パンでなければこの味は出ません」


「父上!?」


「おじい様!」


そう、硬く焼しめられた黒パンだからこそ鍋のスープをたっぷり吸っても煮溶けず。


「なるほどこいつは」


「まるで口の中に旨さの泉が湧き出たかのようです」


「平民の食べる黒パンもこうやって食べると悪くないでしょう。それに当家の父ライゼンボルグも、日に一度会えて黒パンを食べるようにしているのです。領民の上に立つ領主だからこそ、普段の領民が如何な生活をしているかその身をもって知らねばならぬ、と。……あ、しまった。子爵様、今の話は聞かなかったことにしてくださいませ。父は照れ屋なのでこの話は口外無用と言われていたのでした」


『嘘を吐け。意図的に情報をリークしたのだろう』


(うっさいわね、ついうっかりよ。ついうっかり)


だがそんな脳内ノリツッコミを繰り返している間に子爵一家は大変なことになっていた。


「ライゼンボルグ公……何という高潔な志!」


「父上、我々バルザック子爵家も公の精神に習いませんと」


「私も同意見です、おじい様、父上」


「うむ、この教え、バルザック家子々孫々に至るまで、家訓として語り継ごうぞ」


こうしてこのバルザック領に新しい名物料理が出来上がった。

感動的な公爵上げのエピソードと共に。


そんなこんなで一月中は、穴知らず狩りから始まっての、クマ肉の漬け込みから燻製肉を作っての保存。

……とほぼクマと保存食に関わった一月だったが、やっていたのはそれだけではない。

試作品の強化外骨格の稼働調整やそれを着込むことで初めて稼働となる新規の魔法開発、それと何より飛行高度や飛行速度の制限を取っ払われたことにより、真里の活動範囲が極端に広大となり種々様々な材料・素材の収集発掘を手掛けることになり、それと共にまだ試作型だった強化外骨格が前世日本と違い法的制約、科学的道徳倫理の枷から取り払われ、そりゃあもう素敵に魔改造された。

だがその間にも、子爵家一族の尽力により雪も積もらなく曇天もない。

冬場ではあるがさんさんと陽光の降り注ぐ麦畑では、すっかり黄色の幼羽毛を脱ぎ捨て白い大人の羽に生まれ変わったアヒル軍団は、雑草や害虫を捕食し時たま窒素やリン酸の元になる排泄物を畑にまき散らし

青々と育つ麦畑をすっかり大人になったガーガーという声を鳴り響かせ日に二回のパトロールを続けているのであった。

そして年で一番寒さがきつくなる二月。

真里は公爵領でも父に提出したアスピリンとペニシリンの製法精製の指南書を、老子爵に提出し、森や山に自生する柳の木を探させ、連山からの伏流水を水源とする溜め池の脇に青かび専用の醸造小屋を作らせ

この季節発生しやすい風邪の予防対策に気を配りながら、三月になったら使うであろう様々な水車風車に取り付ける農具を作り始める。


『それにしてもキミが魔法で作り上げた方が早いと思うのだがね、効率もいいし。何よりもキミが活躍する場になるではないか。何故自分の有用性をアピールする場をわざわざつぶすような真似を?』


「わかってないわねレクシス。私がここにいるのはこのワンシーズンのみ。個々の農業改革がひと段落ついて現実問題として収量をあげることができれば私はまた別にやる事を見付けるわ。ということは私がいなくなってもこの村に残った子爵様や領民たちだけで持続再現をさせられることこそが重要なのよ」


『わからないものだ。私が作られたあの成果最重要誰もかれもが自分の功績を最善としておく文化形態とは全くもって別の文化なのだな』


「和を以て貴しとなす。昔日本のお札の意匠にもなった聖徳太子って人が言った格言なんだけどね。まあぶっちゃけて言えばみんなで幸せになろうよってことよ」


『なるほどオンリーワンやナンバーワンを目指すよりもウィーアーザという精神か。ふむ、この利益より全体的な社会的幸福値の上昇を目指す』


「ま、結果的にそれが巡り巡って私自身の絶対的な幸福になるんだけどね」


『強欲なのやら無欲なのやら』


子爵一家も領民もそれが何になるかどう使うかわからないにせよ、あの令嬢様のやることだ、我々のためになることをしているに違いない、その様な確固とした信用を勝ち得た真里は出穂し始めた愛おしげな眼で見やりつつ、領地を散策し、領地で一番大きな建物――そう、領主である子爵家より大きなその建物は去年獲れた夏麦を乾燥保存させる倉庫、いわゆるサイロである。


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