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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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21.公女様の農業革命(6)

「はぁ~あ……」

『……で、この大量の獲物をどうする気かね、キミは』


新年を迎えたばかりのバルザック子爵領。

そこの領主邸の一室で真里はクソデカい溜め息を吐き、またレクシスはいつも通り暴走した後の真里にツッコミを入れていた。


事の始まりは年の瀬に食べた蕎麦の感動の余韻も消え去らぬ1月1日、山の麓に近い蕎麦畑で畑の見回りをしていたある領民が冬眠をしていないクマを見たという報告からだった。

真冬のこの時期に冬眠をせずに人里に下りてくるクマ、前世日本のとある地方の言葉を借りるならば「穴知らず」という奴である。

この穴知らずと言われるクマ、とにかくタチが悪い。

越冬できない理由はクマによってそれぞれあるのだろう。

越冬前の脂肪の貯蓄が足りず、冬眠に必要なホルモンの分泌が促されなかった。

冬眠に必要な屋根付き一戸建てならぬ適度な洞窟を作れなかった、見つけられなかった、それとも自分より強いクマに縄張りごと取られ追い出されてしまった等。

酷い話になると、自分の孕ませたメス熊でもないのに、だがメス熊は基本的に冬眠時に出産をするのでオス熊の縄張り&洞窟を半ば力づくで奪う托卵&財産乗っ取りのような話もある程だ。


このように理由は多々あれど、穴知らずになってしまったクマがどうするか。

大抵は人里に下りてきて悪さをする。

今回の場合は、ほぼ収穫の終わった蕎麦畑の、収穫した時に畑に落ちた蕎麦の実を拾い食いに来てたのが原因の一端。

クマの興味が穀物に向いているうちはまだいいが、人間という捕食しやすくまた栄養価も高い存在に目が行くといけない。

それでなくても冬の山というものは獲物や食料が不足しているのだ。

長年の経験により領民たちはそのことを知っている。

その日の内にクマ発見の報は領主館に伝えられる。

そこで目を輝かせたのが真里である。


「なんて素敵!これで試作品の稼働実験ができるわ」


それからは真里の独壇場であった。

日つに籠ってちまちま作っていた強化外骨格を全身にまとい、冬のセレニア連山の厳しい寒さも何のその。

むしろその寒さゆえに、山の峰を徘徊する穴知らずたちを赤外線センサーで上空から見付けては、強化外骨格に備え付けた様々な武装で領民の安全のためという七色に輝く錦の御旗を背に次から次へと狩りとっていった。


『なあマリ、おかしいとは思わないか。前世のデータから見てもこの数の未越冬のクマの数は理屈に合わない』


「さあ?果物にも表年と裏年ってのがあるくらいだし今年はクマの当たり年なんじゃないの?」


『これは私の推論だが、恐らく雪雲をセレニア連山の方に追いやった弊害ではないかな。穴倉を掘ったり、毎回使っていた穴が雪で閉ざされて使い物にならなくなったり。そういった環境的弊害があったのではないかと類推できるのだが』


「……あっ」


『やれやれ、これも一種の人為的環境破壊という奴か』


「う~ん……あ、28匹目発見!よ、よーしレクシス!次、単分子ワイヤーの高周波切断モードでクマの生け作りいってみよっか」


『あまりうまく誤魔化せていないぞ。宿主のアドレナリン大量分泌を確認。これが大量時の漁師や釣り人が体験する大漁ハイ、もしくは釣果酔いという奴だな。やれやれ』


その結果――。


『……で、どうするんだ。この50頭を超える大量のクマ肉を。個人で処理できる限界をとうに超えているぞ』


「ごめんなさい、ついカッとなってやってしまった。今は反省してるわ」


『領民にふるまうとしてもこれでは量が多すぎる。無限収納に入れておけば鮮度は保たれるだろうが、何よりクマ肉は臭い。しかも獲った獲物の8割はオス熊だ。一般的には男性ホルモンが多く、より臭みが強いと言われている』


「うーん、臭い肉臭い肉……クマ肉の処理クマ肉の処理……そうだ、いいこと思い付いた!」


『どうする気だね』


「レクシス、このままエールの醸造小屋へ行くわよ」


領民総出で新年の祝いで大量に作られたエールを作ったときに出る残りカス、モルトを回収し、そこに塩、大量のおろししょうがを加え、塩こうじならぬ塩モルトを作り上げた。

その中に無限収納のデータ分別の機能を使い、綺麗に精肉されたクマ肉を2キロ単位に分割し次々と漬け込んでいく。


『なるほど生姜と塩こうじならぬ塩モルトの力を借りて臭みの軽減を図るわけだな。だがこれだけでは……』


「わかってるって。まだこれだけじゃ臭みが残るよね。日本だったらこの後に味噌鍋にして食べるって方法もあるだろうけど」


『ああ、おまけにこの季節でもこの量だ。保存の観点的に問題が』


「そこも考えてあるわ。レクシス、オートドラフター用意」


『今度は何を作る気だ』


「保存食を作るんだったらやっぱり燻製でしょ」


領民を動員しての燻製小屋作りは三日で成し遂げられた。

大漁のクマ肉をショウガ入り塩モルトに漬け込んで一週間目の朝。

表面をきれいに拭かれ、乾燥した冬の風で風の中に半日ほど吊るされたクマ肉たちは、燻製小屋に上下にたっぷり鈴なりに吊るされ、ブナを中心とした真里のセレクトにより調整されたより香り高い燻蒸煙で最低八時間、脂肪分の多い部位だと十時間燻蒸され立派なクマ肉ベーコンになった。


『なるほどベーコンか。これならある程度保存もきくし、燻蒸香で残った臭みも大分カバーできるな』


「ふふ、これだけじゃないのよ」


その後ベーコンは風通しを良くした燻製室の中で一週間ほど乾燥・熟成をされ、真里はその間に公爵家令嬢の名前を使い王都からドワーフ特製の火酒と言われる蒸留酒の空き樽を大量に取り寄せた。


「燻製したてのベーコンは匂いがきつすぎるからね」


『なるほど、肉を乾燥干しさせることで熟成させ、アミノ酸分解を促進させ、さらにうま味を引き出すという寸法か』


「それだけじゃないわ。この蒸留酒の入ってた空き樽に詰め込んで保存することによって」


『揮発アルコールの殺菌効果が期待できるな。これなら上手く節約すれば、初夏くらいまで肉で困ることは無いだろう』


「うーん、もう一歩!」


『ふむ』


「ベーコンはそのまま炙っても美味しいけどあくまで食材ということよ、レクシス君」


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