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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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19.公女様の農業革命(4)

領民たちが見詰める先にはセレニア連山。

間を縫って人だかりの中に入り、真里は周囲の声に耳を澄ませる。


「今年はちょいと遅かったんだな」


「全くあいつら、麦がええ感じになると山から下りてきて悪さしやがる」


「……何が来るっていうの?」


「あ、お嬢様!いやあ、それがなあ、あのセレニアの山から風猪たちが降りてくるんだよ」


「そいつらいつも麦を滅茶苦茶にしちまうんだ」


「風猪……」


初めて聞くその名前を口の中で繰り返す。


(いかにも魔物っぽいわね!いいじゃない!)


『公爵家にあった図鑑データを参照してもその名前は無いな。この地域の固有種だろうか』


魔物(仮)に興味を惹かれるまま人の群れを抜けた先には、すっかり見慣れた白いひげの老人――バルザック子爵の姿。

隣には同じく貴族服をまとった中年男性と10代後半と思われる少年。


「息子よ孫よ、これがバルザック家の血に連なる魔法。よく頭に叩き込みなさい」


「はい父上」


「わかりました、おじい様!」


バルザック家一同がくるりと連山の方へと体を向ける。

老子爵が高く掲げた手の周囲に緑色の魔力が渦を巻き始めた。


(お、これは……バルザック家固有の血縁魔法ってやつかしら)


『血縁魔法。一族のみに伝わり、決して他家のものは扱えない特殊な魔法、と言われているものだな』


(つまり公爵家の魔導書の中には無い呪文ってことよね……)


真里が思案している間にも、子爵の風属性魔力は膨れ上がっていく。

腹からの低い気合の声はいつもの彼とはまるで別人だ。


「ん、あれ……これは?」


来るぞと誰かの声が響いた。

ゴウゴウと音を立て、山の方から突風が駆け下りてくる。

小さな木をなぎ倒し枝葉をへし折りながら迫ってくる強烈な山おろし。

それがそのままの勢いで領地にまでも迫ってきた、その瞬間――


「ではやるぞ!ストームディフェンダー!」


バルザック子爵の呪文が発動した。


『急激な大気圧の上昇を確認』


「すっご……」


まるで見えない壁があるようだ。

飛ばされてきた枝が何かにぶつかり押し戻され、上空に木の葉を撒きながら散っていく。

突風は人々のいるところまで届くことはない。


「流石、領主様の魔法はいつ見ても大したもんだ!」


「毎年真夏と真冬のこの時期にはこれが一番の見ものだなァ」


「先代様も先々代様も見事であったが、現子爵様の魔法もまた素晴らしいものじゃ……寿命延びるのう」


満足そうに手を叩く領民たちの中、真里とレクシスだけは目の前で起こった現象を冷静に分析していた。


『セレニア連山に海岸からの海風がぶつかり、それによって引き起こされるフェーン現象によって麦畑に風害が起きる。日本でいう山風、山おろしなどと言われる大風だな』


(年に数回起きる強烈な突風の日……それが風猪って呼ばれてるわけね。確かに猪の群れみたいな勢いだったわ)


『風速はおおよそ25メートル前後。先程の魔法は局所的に高気圧を作り出し、山から来る大風を無理矢理上方へ拡散させたというわけだな』


(局所的に高気圧……気圧操作……うん!)


真里の瞳が輝く。


(使える……これは使えるわ。この後早速バルザック子爵と交渉して……ふふふ、楽しみね)


『相手は引退直前の老貴族だぞ。一体何をするつもりなんだ』


(何を言ってるの、普段私のこと100歳越えだ~って言ってくるくせに。私からしたら60代なんてまだまだ若いわよ?若者にはがんばってもらわなきゃ、ね)


『キミ、立派な悪役令嬢になれると思うぞ』


高笑いでもした方がいい?と提案すると、脳内の相棒は即遠慮を伝えてきた。

全く、悪役令嬢の腰巾着ポジションのくせにノリが悪い。



◇◇◇



12月初頭。


ジュピターサイエンス社謹製スマートブレイン「タイプ:レクシス」の朝は早い。

起床時に宿主である真里の脳内で目覚めのアラームを慣らすだけが仕事ではないのだ。

起床30分前には肝機能に働きかけ、保存グリコーゲンをほんの少量血中に促し脳や筋肉への最低限の糖分を確保し

起床時の血圧を整えるためにバイオサイクルを安定化させるのだ。

何故そのような手間暇をかけるのかというと、人類の功罪、冬の二度寝を防止する為である。

とかく人類という種は、冬場の温かい寝具からの誘惑に耐えられないということをレクシスは知っている。


そして起床時間。

真里はふかふかの布団を捲り寝ぼけ眼をこしこしと擦りつつ脳内の相棒に挨拶をする。


「おはよう、今日も爽やかな朝ね」


『そうかそうか、それは良かった何よりだ』


そして真里は部屋のカーテンを開け、ガラス窓越しのセレニア連山を見やる。

9月10月11月と紅葉という名の秋物のコーデをしていた山はその装いを変え、山頂から山腹まですっかりとスノーホワイトなトップス。


『見事な雪化粧だな』


「これも子爵様一家総出の追い込み漁の成果ね」


バルザック子爵家に伝わるストームディフェンダーという魔法。

彼らはただ単にこれを防風壁の魔法と思い込んでいる節があったのだが、レクシスが環境データを調べてみると局所的な高気圧を発生させる魔法だと解った。


そこから先は真里の計略。

親子三代を説得し、三方向から高気圧の網でまるで追い込み漁でもやるようなイメージで、麦畑に降り積もりそうな大き目の雪雲を連山の方に押しやったのである。

近傍に見える白銀に染まったセレニア連山の峰を見ながら真里は呟く。


「計画通り……」


『死神の落とし物を拾った自称新世界の神のような笑い方はやめないか』


「まあいいわ。それよりも子爵様達、今日も外でお孫さんたちと魔法の練習でしょ。何か温かいものでも用意してあげなくちゃ」



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