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2085年の超AIをインプラントしたまま転生した元科学者令嬢、魔法文明世界で科学無双します!  作者: 垂水川


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15.とても贅沢で貧しい食事(5)

「……なんのこと?」


「黒パンがどうしたんですか?」


周囲が不思議そうに首を傾げる中、事情を知っているだろう母だけはバーガーを食べ続けていた。


「何故知っている……」


「仕事があるからと昼食に参加しないのは、その時間、一人だけ平民と同じ黒パンと野菜スープの食事を取っているからなのでしょう?」


「そうなんだ……全然知らなかった……」


「し、下々の者のことを理解するのも領主の務め……ただ、それだけだ」


「父様、領主の務めというのならば僕も同じ昼食がいいです」


「うん、同じにして欲しい……」


「まあいいわね、今度から私達も黒パンをいただきましょうか」


「こら、お前たちまでやる必要はない。白パンを食べなさい」


「あら、あなた。こうして知られてしまったのですからいいではありませんか。それに子供が率先してやりたいと言ってるんですもの。親としてはその気持ちを尊重すべきでしょう?」


「おとうさまとおひるたべたい。いっしょがいいな」


妻からの正論とまだ幼い末の息子の無垢すぎる視線の攻撃力がライゼンボルグの防御力を上回り、ついに彼は観念したようにわかった……と頷いた。

子供相手には厳格鉄面皮野郎だった父親が頬を赤くしている姿を目にし、真里の内心ではニヤニヤが止まらない。


真里は思った。ここは追撃のターンだと。

容赦をしてはいけないと。


「お父様、領民の生活を理解しようとするのは素晴らしいことだと思います。だから恥じたり隠したりする必要はないのでは?」


「ふふ、私もあなたのそういうところが好きですわ」


「僕も父様を尊敬しています」


「わ、私が考えたことではない。我がバルディアン家の家訓だ」


「ならば猶更、長男である僕は知らなければいけませんね」


「お前はまだ成人前だろう?知らなくとも良かったのだ……!」


「数年早いだけです。僕はお父様のような立派な領主になりたいのです、だから教えてください」


「……か、考えておく」


ライゼンボルグの頬の赤さがどんどん増していく。


「おとうさま、てれてる?」


最早末っ子にすら隠せていない。

真里が井戸作りをして怒鳴られた時だって、ここまで感情をあらわにはしていなかった。


(ちょっとちょっと!レクシス、これちゃんと視覚情報記録しといてね)


『悪趣味だぞ……』


相棒の正論ツッコミは受け流した。

ニヤニヤはさらに加速し、表情の維持にスマートブレインの行動補助まで起動するレベルだ。


「それでですね、お父様。レタスと軽く水に晒した薄切り玉ねぎ、グリルした肉、赤ワインソースを黒パンでサンドするのはどうでしょう。これならお仕事が忙しい時には片手で食べることも可能ですし」


「それも美味しそう……」


「ぼく、たべてみたい!」


「美味しそうでしょう?公爵領の名物として売り出したら、外から来るお客様も増えるのではないかと思うんです。公爵領は豊かな土地ですが、そういった名物料理はありませんよね」


「確かにそうね、美味しそうなお料理ですもの。私達が楽しむだけではもったいないわ」


父は誤魔化すようにバーガーを黙々と食べきり、再び赤ワインを煽る。

その頬は先程より落ち着いたもののまだ赤い。


「ではお父様、この件について後ほどレシピとレポートをまとめておきますね」


「……わかった」


「ではそろそろデザートを用意をお願い」


「かしこまりました」


炊事長がタイミングを見計らってくれていたのだろう。

すぐに使用人たちがデザートを運んでくる。


「茶色いけど……これ、リンゴ……?」


「あまくていいにおい。それにやわらかい」


「ええ、リンゴを甘く煮たものよ」


皮付きのままくし形に切られたリンゴというのは普段の晩餐と同じ。

だが今日のリンゴは少し角が取れ、とろりとした琥珀色の液体に包まれながら甘く香ばしい香りを放っていた。


ここまでのメニューで真里の料理を全面的に信頼してくれているのだろう。

渋面が崩れて拗ねた子供のような顔になった父を除き、全員が笑顔でリンゴを口に含んだ。


「まあ、すごく柔らかくて口の中で溶けるみたい」


「この甘さは……?」


「エールに使う大麦から麦芽糖を作ったんです。公爵領のリンゴの強い酸味もこれなら長所にできるかと思いまして」


「マルガレーテ、本当に色々考えてくれたのね」


「ええ、日夜使用人たちが丁寧に掃除して整えてくれているこの晩餐の間で、公爵領の豊かな恵みを使った食事をいただくんです。品位という意味でも丁寧に調理に気を配った方が良いのではと思いまして」


「……ふふ、ふふふ。これはもう認めるしかないわね、あなた」


リンゴのカラメル煮を一切れ残らず食べきり、ナプキンで口元を拭ってから、父はゆっくりと口を開いた。


「今夜の晩餐、なかなかのものだった……賭けはお前の勝ちだ」


「ありがとうございます、お父様」


食後にふるまわれたディートリヒ特製のハーブティは、これまでの晩餐と変わらず美味しいものだった。


(あー美味しかった。こんな晩餐、転生して初めてよ。頑張ったかいがあったわね)


『しかし、所詮はうま味成分の量による味覚の違いではないか』


(蜂蜜パンのときにも言ったでしょ。人間の味覚は感動の多寡によって違うものになるのよ。家族が笑顔でわいわい食事をするから余計に美味しくなるってわけ)


『そういうものか』


感情に起因する数値に現れない部分というのは、スマートブレインである彼には不可思議に思えるのだろう。


(あ、そうだレクシス。一般的な料理人でも作れるように簡易化したレシピとレポートの作成よろしくね)


『やはりキミはスマートブレイン使いが荒すぎる』



◇◇◇



――その夜。


不在の内にメイドが整えてくれたベッドに、真里は勢いよく大の字で寝転がる。

美味しい晩餐も味わえたし賭けにも勝利できた。

今夜はいい気分で眠れそう――ではない。

真里の脳内は妙に騒がしかった。


『重要になる部分は赤ワインソースのコストダウンだな。赤ワインではコストが合わない、醸造に失敗したものを流用し、量は控えめに。シャンピニオンは年中手に入らないから却下。その分ガーリックと玉ねぎを増量。照りを出すための蜂蜜も麦芽水飴に変更しなければいけないな。硬く酸味の強い乳酸発酵の黒パンと合わせる分、ソースはとろみより汁気重視。ジビエ肉は豚肉に置き換えるが、この世界では養豚業も未熟。肉質に関しては……』


「ねえレクシス、ちょっとうるさいんだけど……」


『気にしないでくれマリ。理不尽な上司に急な企画書作成を依頼された部下のロールプレイをしているだけだ』


「あんたそんな機能までついてたの?」


『私のプロトタイプを開発するためにデスマーチをした研究者たちの怨念が宿っているのかもしれないな。豚肉を柔らかくするため、玉ねぎと共に漬け込んでペプチドの効果でたんぱく質を分解……ぶつぶつ……ローストの際にもその玉ねぎを共に使い、甘味と柔らかさを求め……ぶつぶつ……』


「わかったわかった働かせすぎてごめんね、ちゃんと明日私も協力するから」


相棒を宥め、やっと真里は静けさを手に入れる。

明日は忙しくなりそうだ。


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