表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/70

第64話


 ここはオリネオの町。


 マサヒデの父、剣聖カゲミツと、ジンノジョウの父、サカバヤシ流宗家ジンゴロウが馬を下りて歩いて行く。

 町の門を潜ってすぐが魔術師協会。


「ここが魔術師協会な。マサヒデの嫁のマツさんが居る所」


「ここお?」


 向かいの冒険者ギルドを見て、魔術師協会に目を戻す。

 看板は出ているが、ただの平屋。

 冒険者ギルドは大きなホテルくらいの大きさ。


「カゲやん、こう言っちゃなんだが、小せえぞ」


「マツさん1人で十分なんだよ。1人でこの町、全部捌いてんだぞ」


「そっか・・・そりゃそうか。大魔術師だもんな・・・そう考えるとすげえな」


「だろ? まあ、マツさんは後な。先に三尺刀の注文済ませよう」


「ああ・・・」



----------



 ホルニ工房前。


「ここが噂の鍛冶屋ってわけ」


「・・・こう言っちゃ何だが、小せえぞ」


「なあに、市井に埋もれた達人って奴だ。あのな、帰ったらホルニさんの作、見せてやるよ。ミカサ上工並だぞ」


「まじ!? 現代刀匠で?」


「ああ。何本か増えてると思うから、良いのあったら買ってけよ。刀の店売りはしてねえんだ。これって人にしか売ってくれねえし、注文も受けねえ。一級の職人だぜ」


「へーえ・・・」


 がらり。


「ちわー」


「あ! カゲミツ様!」


 カウンターのラディの母が顔を上げる。


「どうもー! ちっと、稽古用の刀、注文に来たんだ」


 カゲミツがジンゴロウを親指で差して、


「これ、俺の古い友達ってやつ。抜き打ち名人。ジンゴロウ=サカバヤシ」


「お前な・・・」


 ジンゴロウが渋い顔で頭を下げ、


「サカバヤシ流宗家、ジンゴロウ=サカバヤシと申します」


「宗家! これは、また・・・」


 くす、とカゲミツが笑って、


「奥方さん、俺もトミヤス流宗家。しかも初代宗家」


「あ、あっ・・・そうでした・・・」


「ははは! 中、邪魔して良いかい」


 カゲミツが鍛冶場の戸を指差す。

 中からは「かあん! かあん!」と、槌の音が響いてくる。


「どうぞどうぞ! 火にはお気を付け下さいませ」


 がらりと戸を開けると、むわっと熱気。

 ホルニが凄い目で黄色く熱せられた鋼を叩いている。

 何度か叩き、たがねを入れ、折り返してまた叩き、ふうー・・・と息をついて顔を上げ、


「あっ! カゲミツ様!」


「おう、ホルニさん! 客連れて来たぜ!」


 ぐ、とジンゴロウが頭を下げた。


「サカバヤシ流、ジンゴロウ=サカバヤシと申します」


「むう! サカバヤシ流の・・・」


 ホルニの目が驚きで見開かれる。


「しばらくトミヤス道場に逗留致します。代稽古を致しますので、稽古に使う刀を打って頂きたく」


「3尺3寸の?」


「あ、ご存知で。刃はいりませぬ。抜く、納めるの稽古が出来れば良いのです。撃ち合うでもないので、安い鉄で結構。数打ちで何本か」


 む、とホルニが頷き、


「承知致しました。その、時に・・・」


「む。何か」


 ホルニが目を泳がせ、声を小さくして、


「娘とはお会いに・・・」


「はっはっはー! ホルニさあん、ラディちゃん心配で心配で、なあ!?」


 カゲミツが笑いながら、ホルニの肩を叩く。


「背の高い?」


「はい」


 くす、とジンゴロウが笑った。


「ほとんどすれ違いで喋りは致しませんでしたが、お元気でしたぞ。可愛いコートを着ておりましたな」


「可愛い・・・さ、左様で・・・」


 ホルニが手拭いを出し、ごしごしと顔を擦り、ぱあん! と頬を張った。


「いやはや、お見苦しい所を。おほん! ご注文、確かに承りました。上がりましたら、トミヤス道場にお届けに参ります」


「宜しくお願い致します」


「ははは! じゃ、今日は顔合わせって所でな。また今度、こいつにあんたの刀、見せてやってくれるかい。これからマツさん所にも挨拶に行くからさ」


「は・・・」


「おい、行くぜ。ホルニさん、仕事中だからな」


 む、とジンゴロウが頷き、軽く頭を下げた。


「それではまた後日、改めて参ります。本日はこれにて」


「は。わざわざのお運び、感謝致します」



----------



 魔術師協会。


 玄関に手を掛けたカゲミツを、ジンゴロウが止める。


「カゲやん、ちょ、待って」


「何」


「平常心、平常心」


 言いながら、帯を整え、襟を正し、髪を撫でて・・・・


「何? ジンちゃん、ビビってんの?」


「正直言うと、ちょっとビビってる、えれえ大魔術師なんだろ?」


 カゲミツが、ははあ、と面白そうに笑う。


「まあねー。すげえんだから。嫁自慢しちゃう? 元陰陽頭。王宮魔術師のトップってやつ。従六位下? だったかな?」


「官位持ってんの!? 王宮魔術師のトップとか!?」


「もう返上してるけど」


「おいおい。緊張さすなって・・・ちょ待ってって」


 刀の位置、脇差の位置・・・

 おほん、と咳払いして、


「うし・・・ん! いいぞ、カゲやん。開けてくれ」


「ビビんなよ」


 がらり。

 開けると、手を付いたマツ。


「あら、お父上」


「よう! 元気?」


「勿論ですとも! そちらのお方は・・・」


 ジンゴロウが「ん、ん」と小さく咳払いして、


「お初にお目に掛かります。ジンゴロウ=サカバヤシと申します」


「サカバヤシ・・・ああ!」


 ぽん、とマツが手を叩き、


「あの、ジンノジョウ? 様、のお父上でございますか?」


「は。その節は息子がお騒がせ致しました」


「これは失礼致しました。改めまして、マツ=トミヤスと申します。ささ、お父上、サカバヤシ様、ここでは何ですから、お上がり下さいませ」


「はーい」


「失礼致す」



----------



 こおん!

 ししおどしの音が響く。


 カゲミツは普通の茶だが、ジンゴロウにはマツが茶を点てている。

 す・・・と絶妙な所で茶筅を止め、ふわっと上げると、綺麗に泡が立つ。


「お見事」


「大した腕ではございませんが」


 ジンゴロウがすっと椀を取り、ゆっくりと回して、


「ううむ・・・」


「お分かりになりますか?」


「いや。恥ずかしながら、さっぱりでございますが・・・」


 椀はぐにゃりと曲がった形で、見た事もない。

 だが、触っていると分かる。歪んでいるのに、しっかりと安定している。


「茶碗の値はさっぱり分かりませぬが、これは高いと見えます。初めて見る」


「うふふ」


 ずずっとカゲミツが茶をすすり、


「何だ、ジンちゃん、茶器なんて分かるの? 適当言ってんじゃねえの?」


「ジンちゃん」


 マツが驚いた顔で、ジンゴロウを見ると、は! とジンゴロウがカゲミツを見て、


「おおい! やめろよなあ!」


「いいよ、他人じゃないんだから・・・マツさん、こいつ俺の古い友達だから。堅っ苦しい仲じゃねえんだ」


 ジンゴロウが渋い顔をして、


「参ったな・・・カゲやん、他でうっかり呼ぶなよ」


「カゲやん」


 またマツが驚き、カゲミツを見ると、カゲミツが笑って、


「くくく。ま、こうやって呼び合う仲なのさ」


「・・・」


 ジンゴロウが渋い顔のまま、茶を喫して、すっと懐紙で茶碗の縁を拭い、


「結構なお点前」


 と、椀をマツに戻した。

 くすっとマツが笑い、


「お粗末でございました」


 と、椀を引く。


「そうでした。サカバヤシ様、御刀は大丈夫でしたか?」


 ジンゴロウが怪訝な顔をして、


「御刀?」


 と聞き返した。

 は! とカゲミツが気付く。

 ジンノジョウは刀を斬られた事を話していないのだ!


「ジンノジョウ様の御刀が壊れてしまっていて、私が直しました」


 慌てて口に指を当てたが、時すでに遅し。


「何!?」


「お父上が斬られてしまったんですよね。柄だけ斬り落とすなんて流石です。そうすれば抜けませんもの」


 きりきりきり・・・とジンゴロウがカゲミツの方にゆっくり顔を向ける。


「カゲやん・・・」


「し、知らねえって! 抜き打ち勝負って来たから! 後から気付いて・・・マツさんに頼んで直してもらえって」


 マツはにこにこ笑ったまま。


「凄い御刀だったんですね。ご先祖様伝来の御刀と聞きました」


「ええ・・・それはもう・・・」


 カゲミツは目を逸らして固い笑みを浮かべ、


「な、凄いだろ? マツさん、何でも元通りに直せちゃうんだぜ・・・」


「ああ」


「な、な? 元通り! だから怒るなって! 息子さんも悪気があったわけじゃねえって」


「悪気なくサカバヤシの太刀を持ち出したりするものか!」


 びくっとマツが驚いて肩を竦める。

 声が大きいだけではなく、凄い気迫!


「でーすよねー・・・あはははー・・・」


 カゲミツは固い笑みのまま・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ