第60話
風呂を出て、また大部屋へ。
マサヒデ達男衆に、カオルだけが呼び出された。
「マサヒデ様、何用でございましょう」
マサヒデは申し訳無さそうに、ぺこっと頭を下げた。
「いやあ、申し訳ありません。ジンノジョウさんが、カオルさんが持っている得物にもう興味津々で。何持ってるか、見せてもらえますか? 見せられるものだけで結構です。全部じゃなくても良いですから」
俺かよ、という言葉を、ジンノジョウがぐっと飲み込む。
実際、興味津々ではある。
「あ、そのような事で。承知致しました」
ごとり。いきなり拳銃。
「これは昨日に頂きました白露の拳銃と」
とん、とん、とん、とん、とん、と小壺が並べられていく。
「油、火薬、目潰し、睡眠薬、下剤、麻痺、またたび、これは即死の毒、これは遅効性ので、こちらは緊急時の痛み止め、血止め、これも火薬ですが燃え方が・・・」
どんどん並べられる小壺と紙包み。
ジンノジョウもナガタニもトワダも、驚き半分、呆れ半分。
「おいおい・・・」
「凄いですね・・・」
「いかにも忍という持ち物じゃの」
ごそりと棒手裏剣をまとめて引っ張り出し、並べる。
「これは手裏剣」
「あ、棒手裏剣なんだな? 忍者って、十字って感じするけど」
「十字はかさばりますし、威力はありますが、どちらにしろ一撃必殺とは中々参りません。ならば、数も持てます棒手裏剣です。扱いにさえ慣れればこちらの方が良うございます。腕などに巻いておけば、籠手代わり。マサヒデ様もそのように持っておりますし」
すっとマサヒデが袖をめくると、いつの間にか手首に革が巻いてあり、棒手裏剣がずらりと差し込んである。
「こんな感じです。左小手は狙われても守れますよ」
ナガタニが感心して、マサヒデの腕を見つめる。
「ううむ、なるほど・・・私も少し手裏剣術を勉強してみましょう」
「トミヤス道場でも教えてますから、行ったら練習してみて下さい」
「はい」
カオルが懐に手を入れて、次の得物をばらりと床に置く。
「次は撒菱など」
「あー、忍者っぽい!」
「ほう。天然菱を使うのか・・・」
と、トワダが手に取って、む、と眉を寄せた。
「何か仕込んであるの」
にやりとカオルが笑う。
「流石はトワダ様。こちら、踏むと爆散するように、火薬が仕込んでございます」
「え!?」
手を伸ばしかけていたジンノジョウが、びくっと手を引いた。
「ブーツなどには、撒菱は中々効果がございませんので、ちと手を加えまして」
「なるほど! ううむ・・・それで天然菱か。身を抜けば、中が空くからの」
「はい」
「良い工夫じゃ。流石じゃのう」
「ありがとうございます」
トワダが撒菱を置くと、カオルが撒菱をまとめて懐に入れ、すっと鉄扇を出す。
「次はこちら。私の自慢の品でございます」
ジンノジョウが少し首を傾げて、鉄扇を見る。
はて。別に珍しい物ではないが。
「鉄扇か。まあ、武器っちゃ武器か」
マサヒデが手を振って、にやっと笑う。
「いやいや、ジンノジョウさん、これが凄く良い鉄扇なんですよ。ね? カオルさん」
「はい」
ぴ、と根本を引っ張ると、ばらりと鉄扇の羽がバラける。
1枚取って、懐紙を出して、すうー・・・
羽の1枚1枚に、刃がついているのだ。
「むう! 暗器か!」
トワダが眉を寄せて鉄扇の羽を見つめる。
「広げて斬っても良し。簡単にばらせて、手裏剣、ナイフ代わりにもなると」
「はい」
「ううむ! これは良い物じゃのう・・・」
唸って、トワダが腕を組む。
マサヒデも声を上げる。
「ですよね! 私も見た時、欲しいと思いましたよ」
うんうん、とトワダが頷く。
「うむ。これは良いのう! 羨ましいのう」
そうかな? と、ジンノジョウとナガタニが顔を見合わせる。
ちょっと凶悪というか・・・
「掘り出し物で運良く。次はこちらなど」
懐に手を入れてなかったのに、すっと鉄線が置かれた。
「こちらも特別製でございまして。サカバヤシ様、ここで指をすっと」
ジンノジョウが目を細める。
「・・・斬れるんだな? それ」
くす、とカオルが笑い、ぴん、と鉄線を引っ張る。
「はい。軽く引くだけで、骨までするりと斬れていきます。首に巻けば、後はお察しの通り。ぐっと締め付ける必要もなく、つるうりという感じで・・・」
「つるうりって、まじかよ」
「う、ううむ・・・」
ジンノジョウとナガタニはやや引き気味だが、カオルが小首を傾げ、少し考える。
まだまだあるが、何が良いだろう?
「次は・・・ああ! これにしましょうか。まだ勉強中なのですが。サカバヤシ様、お手を拝借」
「ええっ!? 俺!?」
「痛くはございませんので」
「本当?」
おっかなびっくりジンノジョウが左手を出すと、カオルが手を取って、ぽん、ぽん、ぽん、と肘辺りまで手を置いていき、す、と手を引いた。
「如何でしょう? これは痛いですか?」
「いや別に? 手に隠し武器みたいな? 全然何ともねえけど」
「それは宜しゅうございました。もう手を引かれても」
「ああ・・・」
「手を引かれても」
「ん・・・んん・・・」
ジンノジョウの手が差し出されたまま、引かれない。
「サカバヤシさん?」
ナガタニが怪訝な顔でジンノジョウを覗き込む。
ジンノジョウは真っ赤な顔で、ん! ん! と小さく声を出す。
「いや。いやいや。引こうとしてんだ。くそ、やられた。点穴だ。動かねえ」
「む!?」
よく見ると、きらり、きらりと細い光。
ナガタニがすっとジンノジョウの腕の上で手を動かすと、確かに何かが当たる。
「これは・・・鍼、か。ううむ、ほとんど見えないですね・・・」
「ふふふ」
カオルがすっと手を払うように動かすと、ことん、とジンノジョウの手が落ちる。
ジンノジョウは手を開いたり握ったりして、ほ、と息をついた。
「ビビったぜ。これ、肩こり治療とかも出来る?」
「勿論。ただし、練習中ですので、事故はご勘弁を」
「うん。やめとく」
ナガタニが感心して頷く。
「いや、これは驚きました。服の上から、よく狙えますね」
「これでもまだ練習中でございます。さて次はこちら」
カオルの手から、つや消し加工のカランビットナイフが、くるっと回って出てくる。
「む・・・」
トワダの目が険しくなる。
え? え? とナガタニがカオルの手を見て、
「今、どこに隠してたんですか?」
「秘密です。さてこのナイフ、曲がっております」
「ええ」
「今度はナガタニ様。さ、お手を。斬りませんので」
「はい」
ナガタニがすっと手を差し出すと、カオルが座ったまま、くるっとナガタニの横に回り、手首にナイフを付ける。
「う!?」
「ふふふ。これでナガタニ様は死にます。もう外す事は出来ません」
「え」
「勿論、ナイフを押したら手首が斬れます。しかし、外側に私を押そうとすると・・・」
く、とナイフが手首に。
「ふふふ。上にも、下にも動かせませぬ。脈が斬られてしまいます。引いたり押したり、手首を回そうとしたら、すぱっと斬ります。そのまま首にもいけます」
「む・・・ううむ・・・」
ジンノジョウが首を傾げ、
「ナイフ持ってる方の手え取られたら?」
「こうです」
カオルがナガタニの手からナイフを離し、くるっと回す。
「深くは斬れませんが、脈を斬るならこれで十分です。指1本で回りますので」
「なるほどな」
もう一度カオルがくるっとナイフを回すと、手からナイフが消えた。両手を広げ、
「小さいので、このように隠すにも簡単。良いナイフが手に入りました」
「こわー・・・」
「怖ろしいナイフがあるのですね・・・」
「さて次は」
「え。まだあんの?」
「はい。まだ半分くらいですが」
「半分!? 半分なの? どこに入れてんだよ!?」
カオルが楽しそうに笑った。
子供に手品を見せているような気分。
「秘密です」
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す、す、す、とカオルが置かれた隠し武器をしまっていく。
「すっげえな! いや、まじでビビったぜ!」
「まだございます。今出したのは武器だけでしたので。色々と道具なども」
「まあじ!?」
「色々と仕事もございますので、いつどんな事にも対応出来ますようにしておきませんと、咄嗟に困りますので」
「大変だな・・・あのさ、そんなに持ってて、隠したの忘れちゃう事ないの? あれどこにしまったっけ? みたいな」
「今の所はございません。倍くらいになると、そのような事もあるかもしれませんが」
「すげえ記憶力というか・・・あ、じゃさ、何か術とかある? 忍者っぽいやつ! 分身の術ー! とか、でっかいカエルに乗るとか!」
くす、とカオルが笑い、
「カエルはございませんが、らしい術と言いますと、このような術が」
ぼん!
「うおっ!?」
音に驚き、ジンノジョウ達が身を仰け反らせる。
煙が上がって・・・
「あ! いねえ!?」
「消えた!?」
「後ろじゃ。そこ」
は! とジンノジョウが振り返ると、抜身を下げたカオル。
「サカバヤシ様、一本頂きました」
「う、ううむ・・・」
くすくすとカオルとマサヒデが笑う。
「いざ勝負となれば気も張りますから、このように簡単に背後は取れませんので、今の一本はなしで構いません。ふふふ」
「参ったね・・・」
「いや、こんな術、本当にあるのですね。創作のものとばかり思っていました」
驚くジンノジョウとナガタニを見て、トワダが嬉しそうに笑う。
「ふふふ」
ぱちん! とジンノジョウが手を叩いて、
「あ! じゃあ分身の術とかも本当にあるの!?」
勘の良い事だ。
カオルは分身の術を使える。
分身の術はカザマ忍者の十八番、と言われるが、カザマ流は消えた。
だが、カオルの居た養成所にはカザマの技術が少し残っていて、教えているのだ。
首都ではカザマ流を復興させようと研究しつつ、汚い仕事に忍を貸し出していた忍術道場を潰し、その研究資料を奪ってきたので、カオルには更にカザマ流の技術が身についたが、あまり見せたくはない。
「さあて、如何でしょう。お伽噺と見えて、実は本物であった、というのも我らの世界ではよくある事で」
「え、じゃあ凧に乗って飛んだりとかもするの? 壁にくっついて布かぶるとか」
「秘密です」
「ええー! 見たいよ! なあ? ナガタニさん」
「ん、んん・・・」
子供のように駄々をこねるジンノジョウを見て、トワダが苦笑した。
「まあまあ、仕方あるまいて。ここまで見せてもらえただけでも、ありがたい」
カオルがにっこり笑って、刀を納めた。




