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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第51話


 ここはヒラウチ温泉。

 川の隣に出来た、河原にある天然の露天風呂である。

 温泉のすぐ隣は川で、手を伸ばせば川から水がすくえる程。


「おおっ・・・これは良いの!」


 川は広く、さらさらと流れており、太陽の光を反射してきらきらと輝く。

 林には雪が積もっており、まさに絶景。

 しかし・・・


「サカバヤシよ、この湯、随分と濁っておらぬか?」


 ジンノジョウがトワダと顔を合わせ、にやりと笑い、温泉の縁に立つ。


「ああ・・・ふふふ。王女様、ちょいとこちらへ」


「何じゃ」


「ままま! ちょいとお手を入れて、まずは温度でも確かめて下さいまし」


「んん?」


 怪訝な顔をしながら、アナスターシャが近付き、屈んで湯に手を入れる。

 お? と顔が変わり、うんうん、と頷く。


「うむ、中々良いな。私の好みには少しぬるいが、冷たくはない。これなら長く浸かっておられるな」


「でしょう?」


「あ、そうじゃ。この底は大丈夫か? 石だらけではないか」


「底は板が敷いてありますよ」


「そうか。なら良いの」


 そう言って王女が湯から手を上げた時、ジンノジョウがさっと手拭いを出し、ぱん! と広げる。


「おおっと! 濡れたままじゃ冷えちまう。ささ、お手を拝借」


「む。殊勝である」


 すりすり・・・

 は! とクレールが気付いた。これはもしや・・・


「ありゃあ? こりゃ何だあ?」


「?」


 アナスターシャが手を見ると、白く小さな物がぷつぷつと・・・


「うぇえ!?」


 ばしばしとアナスターシャが手を払い、


「サカバヤシ! 貴様、何を!?」


 ジンノジョウが慌てるアナスターシャを見てげらげら笑う。


「ははは! 何もしてませんって! それ、垢です」


「何!? 垢じゃと!? この私の手が!?」


「そうそう! この湯、見た目じゃ分からない、細かーい汚れを取ってくれるんですよ。普通に洗っただけじゃ取れない、毛穴の中まですっきり綺麗!」


 あはあ、とアナスターシャが肩を落とし、ぱ、ぱ、と手を払う。


「ほ、ほう。そうじゃったのか・・・先に言え。驚かすな」


 ジンノジョウはにやにやしながら、


「しかし、王女様の手も」


「言うなっ! 斬首にするぞ!」


「へいへい」


「ちっ! まあ許してやる。入るぞ」


「は!」


 返事をして騎士が王女の側に寄ってくる。

 まさか・・・

 手を横に開いた王女の服を、騎士達が脱がせに掛かる!


「まま待ーって! 王女!」


 慌ててクレールが駆け寄り、騎士を押しのけてアナスターシャに抱きつく。


「なな? レイシクラン様、如何なされた?」


「ここで脱いではいけません!」


「何故?」


 王族、貴族によくある事。

 着替えや入浴の際は、人に裸を見られても何故か平気。

 なのに、裸で町中を歩くのは恥ずかしい。よく考えればおかしなものだ。


「ええと、ええと・・・平民に王女の高貴な肌を見せてはいけません!」


「ホルニコヴァもシズクも一緒に入るのでは?」


「そうですけど、ええと、ええと、殿御がおられるんですよ! ふしだらな気になったらいけません!」


「あ、それもそうか。サカバヤシ」


 すいっとジンノジョウが顔を逸らして、川の方を向く。


「・・・ちっ」


 クレールがジンノジョウを指差し、


「あっ! 今、舌打ちしましたよ! 王女、サカバヤシさんはふしだらですよ!」


「ぬうっ!? 貴様!」


「まさか! 違いますって。俺が小屋まで行って、浴衣と桶を持って来るのかなーって考えたら、面倒だなーって」


「・・・」「・・・」


 ふん! とジンノジョウが鼻を鳴らし、不機嫌な顔で腕を組む。


「全く! 変な目で見ないで下さいよ。俺あ今日はサカバヤシ流の看板背負って来てんだぜ。奥方もだ! 誤解を招く言い方しないで下さいよ!」


「んん・・・すみませんでした・・・」


 謝りはしたが、クレールはまだじっとりとジンノジョウを見ている。


「ったく・・・じゃあ行きますぜ! さっきの小屋に、浴衣も桶も置いてありますから! ふん! 俺らに見えねえようにさっさと着替えなさいよ!」


 ざすざすと石を踏んでジンノジョウが歩いて行く。

 トワダが横に並び、小声で囁く。


「残念じゃったの」


「いやー・・・惜しかったですね」



----------



 女衆が小屋に入る中、イザベルがマサヒデに近寄ってくる。


「どうしました」


「マサヒデ様、温泉の匂いで、鼻が利きませぬ。少々見張りに困難が」


「ああ・・・」


 マサヒデは左右をきょろきょろ見て、


「まあ、大丈夫でしょう。イザベルさんもカオルさんもシズクさんも、勘は尋常ではない。鼻に頼らなくても構いません。クレールさんの忍もいますし」


「マサヒデ様、こちら側ではなく、対岸が危険です」


「と言うと?」


 イザベルが川の方を指差す。


「対岸は、狙撃に絶好のポジションです。相手は鉄砲を使うのです。川幅は広く、跳び越えるのは無理。橋はありますが、河原から登ってからでないと渡れませんので、追えません。ラディの腕では、向こうの林に潜んだ者を撃つのは難しいでしょう。私でも中々」


「なるほど」


 難しい顔で2人が話していると、ナガタニが寄って来た。


「どうかしましたか?」


 あ、とマサヒデがナガタニに顔を向ける。


「ああ、ナガタニさん。ほら、王女が温泉に入る時、私達が周り見張らないとって話をしてたんです。ここの周り、ほら。木も多いし、隠れる所はたくさんです。こっそり近寄るのは簡単ですよ」


「む、確かに・・・」


 イザベルが川向うを指差す。


「川幅も広く、あちら側から鉄砲を撃たれるとどうしようもないので、と、今相談しておりました」


 ん、とナガタニが軽く頷く。


「ああ。では、川向うへは私と先生が参りましょう」


「お願い出来ますか。助かります」


 マサヒデとイザベルが頭を下げる。


「お任せ下さい」


 ナガタニは頷いて、トワダの所に歩いて行った。

 少し話して、トワダが笑顔を向け、2人で橋に歩いて行く。


「あの2人が行ってくれるなら安心ですよ。トワダ先生は当然、ナガタニさんも何度も獣や魔獣狩りしてるから、こういう所には慣れてるはず。イザベルさんも湯に行ってきなさい。こちらは私達が固めますから」


「は!」


 頭を下げ、イザベルも小屋の中に入って行った。

 入れ違いにアルマダが来て、歩いて行くナガタニとトワダを見て、


「トワダ先生達はどこへ?」


「川の向こうに行くんです。ほら、相手、鉄砲使うでしょう。居るなら川の向こうから狙うだろうって」


 アルマダが首を伸ばして、林の隙間から見える川を見る。


「なるほど・・・温泉の周りは何もない。向こうは林の中。隠れて狙撃するには絶好の位置ですね」


「そういう訳です。こちら側は私達で少し散っておきますか。ジンノジョウさん!」


「はいはーい」


 のたりのたりとジンノジョウが歩いて来て、


「聞こえてたよー。何だよ、やっぱり護衛なのかよ」


「や、すみません。でも、王女が会いたいって言ってたのは本当ですよ」


「へえ。で、狙撃。鉄砲と。どこの軍に狙われてる? やっぱ米衆なのか?」


 マサヒデとアルマダが顔を見合わせる。

 少し考えたが、ジンノジョウには話しても良いか。


「それがですね、白露なんです」


「はい!?」


 ジンノジョウがちらちら周りを見て、そっと顔を近付け、


「おい、あれ白露の姫様じゃねえのかよ」


「そうです」


「もしかして、あの姫様、何かやったのか? やべえ物運んできたとか?」


「何もしてませんよ。まあ、政治上の問題ってやつです」


 お、とジンノジョウが顔を引き、耳を手で押さえ、声を上げる。


「あー! もう聞かない! 知ーらないっ! あー! あー! 聞こえなーい!」


 マサヒデもアルマダも苦笑して頷く。

 む、とジンノジョウが耳から手を離し、声を潜める。


「俺ら、問題にならねえだろうな」


「じゃなきゃ誘ってませんよ。そうだったら私達も来てません。大丈夫です。外務大臣のミスジ様が、絶対に大丈夫って保証してくれました」


 ジンノジョウはまだ不安そうな顔で、ちらちら周りを見る。


「そうかい? まあ、居るだけなら良いとして、もし襲ってきてやべえってなったら、斬っても大丈夫なのか?」


 マサヒデが笑って頷く。


「大丈夫ですって。自国の王女を手に掛けるなんて、バレたら国家反逆罪なんですから。向こうは絶対にそんな奴は白露にはいません、知らんと言います。追求しなきゃ目をつけられる事もないですよ」


「なら良いけどよ」


 と、話が一段落した所で、ぽん、とマサヒデが手を叩いた。


「ああ! そう言えば、やばい物、運んで来てましたよ」


「やっぱりかよ!? 何を!」


 くすっとマサヒデが笑って、


「魔剣です」


「は!? おいおい!」


「いや、王女の私物ですけどね。魔剣が原因で狙われたって事ではないですよ」


 かくっとジンノジョウが肩を落とした。


「ビビらせんなよ・・・」


 そして、ぐぐっとマサヒデに詰め寄り、目を輝かせる。


「で、で? 何の魔剣? 白露って何があったっけ? 何持って来た?」


「アルマダさん、何て言ってましたっけ?」


 アルマダがにっこり笑って、


「オッテペル。魔剣オッテペルです」


 魔剣オッテペル!

 白露帝国の御物のひとつである。

 その魔剣は、美しく雪の如く輝くという謂れのみが公表されている。

 魔剣図鑑には名は載っているが、その形も、宿した力も謎の魔剣なのだ!


「おおっ!? まじかっ・・・見せてくれるかな・・・オッテペルってあれだろ、確か力は公表されてないんだよな?」


「ええ。最初は聞いて驚きましたけど、最初だけです。マツさんも同じような術を使いますからね。ああそうか、凄いなって感じで」


 その実態は、マツの防護の魔術のようなもので、周りを包んでしまう力。

 持ったまま歩いて行けば、深い雪の中も雪をどけて自由にすいすい歩けるので、雪解けという意で『オッテペル』と名付けられたのだ。


「マツさん・・・て、あんたの、オリネオに残してきた奥方だろ? 俺の刀、直してくれた大魔術師」(※勇者祭872話)


「そうです」


「どっ、どんな魔術? それどんな力? 教えて?」


 うーん、とマサヒデはわざとらしく唸って、顎に手を当て、ちらりとジンノジョウを見る。


「どうしましょうかねえ? ジンノジョウさんの護衛の働き次第では」


 ああもう! と、ジンノジョウが渋い顔をする。


「ちっ! 良い所突くな、トミヤスさんよお! でも頑張っちゃう。公表されてない魔剣の力かあ! 興味あるぜ・・・」


 してやったり。

 後ろでは、小屋から浴衣に着替えた女衆が出てきて、桶を抱えてぞろぞろと温泉に向かって歩いて行く。


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