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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第39話


 ウスケシの安宿。


 ゾエの開拓長官、シラタ伯爵が身分を偽り、マサヒデを飲み会に誘いに来た。

 が、当然ながらクレール配下の忍には看破され、カオルにもバレてしまった。

 結局、白状して飲み会の誘いとなったのだが、なんと海軍中将ナツキも来ると言う。


「分かりました。で、質問があります」


「む、何であろう」


「何故、クレールさんとイザベルさんに聞こえないようにと」


 おほん、とシラタが咳払いして、ちらりとイザベルを見て、


「ファッテンベルク様は陸軍の出であるゆえ。まあ、昔から陸軍と海軍は、気が合わぬというか。しょっちゅう喧嘩になる所を見ておるから」


 なるほど。確かに、イザベルもそういう節がある。


「分かりました。で、クレールさんは何故」


 つ、とシラタが目を逸らす。


「その・・・あれだ、場所が相応しくないと言うか・・・うむ・・・」


 もごもごとシラタが小さな声で答える。


「?」


 また下を向いてしまったシラタを、皆が怪訝な顔で見る。

 一体、クレールに何を聞かれたくなかったのか。


「・・・カヤノの店であるから・・・」


 蚊の鳴くような声でシラタが白状すると、女性陣の顔が一気に不機嫌になった。

 カヤノはいわゆる歓楽街で、女郎屋の並ぶ所である。

 クレールが口を尖らせて、つーん! と俯くシラタを見る。


「ああら! そういう飲み会でございましたの?」


 ぶんぶんとシラタが手を振る。


「ああ、いやいや! いかがわしい事は何も!」


「それで身をお隠しになって?」


「とんでもない!」


「・・・」


 慌てふためくシラタを見るクレールの目は、何の感情もなく怖ろしい目だ。

 カオルもイザベルも白けた目でシラタを見ている。

 シズクだけは拗ねた顔。

 飯もなく、酒も呑めないのか、とでも考えているのか。


「夫を疑う訳ではございませんけれども、マサヒデ様もお年頃。逆らい難い所はございましょう。お目付け役を同伴させても宜しいでしょうか」


「は! ご随意に!」


 ふう、とマサヒデが溜め息をついて、頬杖をつく。


「私って信用されてないんですね」



----------



 そして夕刻。


 身を隠して行くという事で、当然ながら高い店ではなく、普段着で良いとの事。

 マサヒデがうんざりした顔で部屋から出ると、アルマダもうんざりした顔で部屋から出て来た。


「お目付け役が私ですか」


「申し訳ありません・・・」


「クレール様の頼みでなければ、行きませんよ」


「すみません・・・」


 マサヒデが縮こまってアルマダに頭を下げる。


「さっさと行って、さっさと帰ってきましょう。何杯か呑んで、酔っ払ったふりでもして下さい。私が送って行くと言って出ますから」


「はい・・・」


「行きましょう」


「はい・・・」



----------



 カヤノはウスケシに隣接した町ではあるが、いわゆる歓楽街で、ウスケシの一地区と言っても良い。

 日が沈みかかったカヤノの町は、提灯の灯りを受けた雪が美しく・・・


「ちっ」


 アルマダがこれみよがしに舌打ちをする。

 面倒な、という表情があからさまに見える。


「何でこんな雪の中を」


 ぶつぶつと先程から文句ばかり。


「まあまあ」


「何がまあまあですか。全く、あなたは面倒ばかり引き寄せて・・・」


「仕方ないじゃないですか。ご自身が出向いてお誘いなんて、断れませんよ」


「なら、あなたも貴族になって下さいよ。近衛騎士にでもなったらどうです。陛下に希望を出せば、即日了承です」


「嫌ですよ」


「その我儘のせいで、私はここに来てるんです」


「はい・・・」


 アルマダが溜め息をついて馬を止める。


「ここですか」


 よしず、と書いてある看板。

 いわゆる揚屋で、女郎などはおらず、客が希望した場合に他店から呼ぶ。

 酒と料理だけであれば、それほど高い店ではない。

 と言っても、勿論、平民には結構な値段だ。

 歓楽街の料理屋、と言った所だが、太夫なども呼ぶ事もあるから、店は綺麗だ。


「さっさと済ませましょう」


 馬を下り、繋ぎ場につないで、アルマダががらりと店の戸を開ける。


「ほう」


 小さく声を上げる。

 泊まっている安宿の酒場と大して変わらないと思っていたが、しっかりしている。賑やかではあるが騒がしくはなく、客も身なりの良い者がちらほら見える。格を感じる店だ。良い服を着ているアルマダも、それらの客と大して変わらない。

 アルマダがコートを脱いで脇に抱えると、店員が出て来てカウンターに入り、


「いらっしゃいませ」


 と、頭を下げる。

 アルマダも軽く頭を下げ、


「シラタ家の用人、チュウベエさんは来ていますか。誘いを受けて参りました」


「ああ、チュウベエさんの。もう来ておられます。ご案内致します」


 店員が人を呼ぶと、女中が出て来た。


「2階のチュウベエさんのお部屋に。ご予約の2人だよ」


「はい。ではこちらへ」



----------



「失礼致しますー」


 女中が声を掛け、さらりと襖を開き、


「チュウベエさん、お客様をお連れしました」


「おお、来たか! ささ、入ってもらって!」


 シラタの嬉しそうな声が廊下のマサヒデに聞こえる。


「はい。では、お入り下さいませ」


「失礼致します」


「うっ」


 チュウベエと名乗るシラタ伯爵が、身を固めた。

 アルマダ=ハワード・・・この国一の貴族、ハワード公爵家の三男坊。

 先程までの不機嫌な顔は何処へやら、アルマダは爽やかな笑みを浮かべ、


「はじめまして。マサヒデさんにお目付け役でついてきました」


「や、それは、どうも・・・」


 アルマダは女中にコートを渡し、すたすたとシラタの前に歩き、


「座っても?」


「どうぞ・・・」


「では失礼して」


 続いてマサヒデも入って来て、刀を帯から抜き、右手に置いて座り、


「本日はお誘いありがとうございます。マサヒデ=トミヤスです」


 と、シラタに頭を下げる。

 シラタの隣の顎髭を蓄えた男が、海軍中将のナツキか。

 マサヒデを見て、にこやかな顔で頭を下げる。


 マサヒデの名を聞いて、女中の方は、あっと顔を上げた。

 アルマダは驚いた女中の方を向き、


「とりあえず、酒を頼みます」


「あっ! はい! 少々お待ち下さい!」


 さ、と襖を閉め、女中が下がって行くと、アルマダが2人に頭を下げた。


「改めまして、本日はお誘いを感謝致します。アルマダ=ハワードと申します」


 はっ! とナツキも顔色を変えた。

 まさかお目付け役に、ハワード家の者が来るとは思っていなかったのだろう。

 慌てて頭を下げ、


「海軍中将、ヨシタケ=ナツキであります」


 シラタも続いて頭を下げる。


「改めまして、ゾエ開拓長官、リュウセイ=シラタです」


 アルマダが頭を上げて、シラタとナツキを見る。


「さて、ナツキ中将。この場では何とお呼びしたら良いでしょうか」


「ナベジロウと」


「分かりました。マサヒデさん、覚えましたか?」


「覚えましたよ。チュウベエさん、ナベジロウさん」


「うっかりナツキ様とか中将とか呼ばないように」


「分かってます」


 アルマダが頷く。


「では、本日はプライベートな飲み会という事で。私もハワード家の者ではない、ただの若造です」


「は」「恐れ入ります」


 シラタとナツキが頭を上げると、アルマダがにっこり笑った。

 2人は完全に手球に取られている。



----------



 しばらくして酒を持って来た女中に、シラタがにこやかな顔で、


「お女中、この2人はゾエは初めてなんだ。ゾエの自慢、海の幸で見繕ってくれるかい。見ての通りの若者、がっつりしたのを頼むよ」


「はい、あの、トミヤス様」


 ん、とマサヒデが顔を向ける。


「はい?」


「勇者祭のトミヤス様でございますか?」


「ええ。多分、そのトミヤスだと思いますが」


「わあ! やっぱり! ではでは、そちらのお方は、もしかして」


 アルマダが爽やかに笑う。


「ええ。多分、そのアルマダ=ハワードですよ」


「うわあ・・・」


 女中が目を輝かせてアルマダを見つめ、は! として、


「あの、厨房の者に伝えてきます! うちでご満足頂けるか分かりませんが、精一杯の物を運んで参ります!」


 アルマダが女中を見て苦笑する。


「大丈夫ですよ。旅の最中は乾パンと干し肉生活。蛇なんかも食べてたりするんですから」


「蛇!?」


「ええ。ですから、ちゃんとしたお店で食べられるだけで、ありがたいんです」


「では、余計に腕を振るわないと! 美味しい物をご馳走しますから!」


 そう言って、女中はぱたぱたと部屋を出て行った。


「やれやれ・・・」


 そう言って、アルマダはとくとくとお猪口に酒を注ぎ、


「では皆様、まずは乾杯をしましょう」


「む、そうですな」


 シラタとナツキも酒を注ぐ。

 マサヒデも嫌だなあ、と思いながら酒を注ぐ。


「では、この美しいゾエに乾杯」


「乾杯」


 ぐぐ、と皆が酒を飲み干し、たん! とお猪口を置く。

 ふはっ! と苦い顔をしたマサヒデを見て、アルマダが笑う。


「ははは! マサヒデさんは、まだ酒には慣れませんか!」


「いやあ・・・」


 マサヒデが苦笑いで頭に手を置くと、シラタもナツキもにっこり笑った。


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