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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第35話


 ウスケシの安宿。


 キタジョウも帰り、客も帰って行き、1階にはマサヒデ達が残っているだけだ。


「ご主人様、あのキタジョウなる同心ですが」


 マサヒデが頷き、


「ええ。私も勘で分かりました。あの方がマチダ殿を手助けしていたんですね」


 アルマダとイザベルも無言で頷く。

 証拠はないが、間違いないと思う。

 マサヒデは目を細めて顎に手を当て、


「厄介事を引き受けてくれるかって、そういう意味で言ったんでしょうか」


 いや、とアルマダが首を振る。


「違うでしょう。私達がここには旅の途中で寄っただけとは、当然知っていますよ。キタジョウさんが新しい天虎をと誘うなら、サカバヤシ様やナガタニさんか」


「ううむ」


「まあ、それでも自分から誘いに行く事はないでしょう。それに」


 アルマダが指を立て、


「マサヒデさん、言いましたよね。見ざる、言わざる、聞かざる。それが良い。勘付いた所は見せないようにしましょう。言葉の端々にも見えましたが、おそらく、キタジョウさんは勘付いて欲しくて遅くまで居たんです」


「ふむ」


「勘付いたと見せなければ、もう声を掛けてくる事はないでしょう。私達には、ここで正義の味方をしている時間はありませんし・・・」


 カオルが首を傾げる。


「何故、勘付いてほしかったのでしょう?」


 アルマダも腕を組む。


「さ・・・我々を引き込む事は出来ないと分かっていたと思いますが」


 マサヒデが首を振る。


「待って下さい。それ、違うんじゃないですか?」


「違う? 違うとはどういう意味でしょう?」


「キタジョウさんがマチダ殿の黒幕みたいに考えてませんか? 私もそうでしたけど」


「・・・」「・・・」「・・・」


「逆でしょう。マチダ殿がキタジョウさんに助けを求めたのでは? キタジョウさんは、私の事は探らないで、という感じで、我々にそれとなく、こう・・・あれですよ。自白をしにきたみたいな感じでは」


「なるほど。そうかもしれませんね」


 アルマダ達が頷く。


「見ざる、言わざる、聞かざる。キタジョウさんの事は黙っていましょう。探ればすぐに分かりますし、必要があればで」


「そうですね。放っておきますか」



----------



 翌日。


 マサヒデはマチダの様子を見に行こうかと思ったが、先に材木問屋のウノ屋を先に見に行こうと考えた。マチダの娘、ヨネの奉公先だ。

 今日は馬の後ろにクレールを乗せ、イザベルを連れての3人。

 クレールはさぞ喜ぶだろうと思ったが・・・


「さーむいですうー!」


 風が吹くたびに声を上げ、マサヒデにしがみつく。


「いつも馬車の中ですからね」


「風が当たりますう」


「黒嵐は背が高いですから」


「いつもこんな寒い馬に乗ってるんですか?」


 ふ、とマサヒデが失笑して、


「寒い馬って何です」


 ぽんぽん、と黒嵐の首を軽く叩く。


「黒嵐はそんな馬ではありませんよ。大体、私達の中で一番暖かそうな格好しているじゃないですか」


「それでも寒いです」


 ひゅ、と小さく風が吹く。


「ひえー!」


「何ですか」


「風が!」


 後ろでイザベルがにやにやとマサヒデとクレールを見ている。


「顔がしもやけになりそうです!」


「・・・仕方ないですね・・・」


 後ろを向いてイザベルに合図して、道の脇に一旦馬を止めて下り、


「じゃあ、もう少し着て下さい」


 黒嵐の鞍袋から、ラディのコートを引っ張り出して、クレールに被せる。

 クレールの物と同じデザインのもこもこのコートだが、サイズが大きいので、小さなクレールなら重ねて着れるはず。


「・・・それ、血が付いてるって」


 マサヒデはこのコートをラディから借りて、立ち回りをしてしまった。ばっちり血が染み込んでしまい、ラディがご立腹なので、洗濯屋に出しに行くのだ。


「ええ。洗濯屋に出しに行きますが、後にしましょう。さあ」


 ばさりと広げると、ばっちり血が。


「・・・我慢します」


 イザベルが進み出てきて、


「クレール様。そのコートの上からでは少々きついかもしれませんが、私のコートで宜しければ」


 と、イザベルが革のコートを差し出す。


「・・・」


 革のコートだが、自分にはあまりに似合わない。デザインが正反対だ。

 しかも長いロングコートなので、クレールの背丈では引きずって歩くことになる。


「イザベルさん、ありがとうございます。でも、我慢します。私も慣れませんと」


「流石はクレール様です」


 それからウノ屋まで、クレールは風が吹くたびに肩を竦めながらも、我慢して黙っていた。



----------



 マサヒデはウノ屋の前で馬を止めて、しばらく眺めていた後、


「ふうん」


 と小さく声を出し、くるりと馬首を返してしまった。

 後ろに乗っていたクレールが、マサヒデの服をちょいちょいと引っ張る。


「もう良いんですか?」


「はい」


「お店には入らなくても良いんですか?」


「はい」


 下男が店先を掃除しており、特に騒ぎになっているでもなく、店はいつも通りという感じだ。


「店も落ち着いています。材木問屋で、私達が買い物する事はありませんし」


「娘さんは」


「多分、今日はマチダ殿の所におられるでしょう。連絡は入っているはず。わざわざ入って尋ねる事もないと思います」


 イザベルも頷く。


「クレール様、私もそう思います。娘御の事を尋ねれば、どういう関係かと確認されます。大っぴらに野盗を斬り殺した者ですとは言い辛いです。我らの名を出して尋ねる事は出来ますが、どちらにしても、娘御が胡乱な目で見られましょう」


「む・・・」


「参りましょう。マサヒデ様、何か土産を買って行きますか?」


「土産ですか・・・何が良いかな」


 クレールが嬉しそうに声を上げる。


「それなら船に戻って、焼き芋を作って持って行きましょう!」


「は? 焼き芋ですか?」


 マサヒデが怪訝な声を返したが、クレールが嬉しそうに頷き、


「はい。ゾエは芋が少ないので、焼き芋は滅多にない貴重な食べ物なんですよ。船には芋はたくさんありますから」


「へえ! 知りませんでしたよ。では、港に行きますか。船、久し振りですね」



----------



 久し振りに船に戻ったが、落ち着く事もなくすぐに出て来た。

 マサヒデの後ろのクレールが懐に焼き芋を入れ、湯たんぽ代わりにしている。


「はー! 温かいです! このくらいで丁度良いですね」


 マサヒデの背中にも、焼き芋の温かさが伝わってくる。


「うん。温かいですよ。そうそう、町を出たら建物がないので、風が強くなって吹きさらしでもっと寒くなりますから」


「ええーっ!」


「我慢するんですよね」


「・・・」


「慣れるんですよね」


「もう!」


「ははは!」


 ぽっくりぽっくりと馬を進めながら、他愛もない話で気分を紛らわせる。

 イザベルも2人の会話を聞き、くすっと笑った。



----------



 セキト村では、つい昨日に事件があったと知れ、マチダのボロ家は村人が遠巻きに囲まれていたが、皆、マチダの迷惑になると囲んでいるだけで、静かであった。


 マサヒデ達が馬で近付いて行くと「あっ」と声が上がり、村人の1人が近寄って来た。


「あんたはこないだ来た」


「はい」


「マチダ先生、助けてくれたんだな」


「恥ずかしながら」


「ありがてえ。感謝致します」


 と、深々と頭を下げた。

 後ろに並ぶ村人達も、頭を下げたり手を合わせたり・・・


「皆さん、おやめ下さい。それより、今、マチダ先生はお休みに?」


「へい。今朝方、おヨネちゃんが戻って来て」


「そうですか。では、私達もすぐに帰りましょう」


 そう言って馬を下り、ゆっくり歩いて行き、玄関を開ける。


「すみません」


 控え目に声を掛けると、すぐに若い娘が出て来た。

 マサヒデは頭を下げ、


「トミヤスと申します」


 あっと娘が驚いた声を上げる。


「もしかして、父を・・・」


「余計なお世話だったかもしれませんが」


「そんな」


 マサヒデは手を前に出して、言い出そうとしたヨネを止めて、


「マチダ殿にご迷惑なので、すぐ帰りますから。クレールさん」


「はい」


 クレールが出した焼き芋の袋を受け取り、ヨネに渡す。


「温かいうちに。それでは」


 と、頭を下げた。


「あの」


 引き留めようとするヨネに、


「もう帰ります。マチダ殿には、あなたから宜しくお伝え下さい」


 半ば強引に土産を押し付けたような感じになったが、これで良い、とマサヒデは玄関を閉めようとした。


「トミヤス殿」


 奥から静かな声。

 は、とヨネが中に振り向いた。

 戸に手をかけていたマサヒデの手も止まった。


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