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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第32話


 夜が明けて、セキト村外れのボロ家。


 マサヒデとアルマダがまんじりともせずに待っていると、外を歩く音が聞こえた。

 はっとして、2人が柄に手を掛ける。


「マサヒデ様! おられますか!」


 イザベルの声。

 さらりと障子を開けると、イザベルが馬上でにこにこ笑っている。

 後ろには簀巻きにされた男が乗っている。野盗を捕らえたのか。


「夜通し、よくやってくれました」


「は!」


 イザベルの喜ぶ顔を見て、カオルも微笑む。

 イザベルは馬を止め、簀巻きの男を担いで庭まで来て、転がっている死体を見て、


「おい」


 と、ぐいっと肩を揺らす。


「口を割らねばお前もこうなる」


「わい・・・」


 乱暴に雪の上に投げ出すと「ぐふ」と野盗が猿ぐつわの奥で声を上げる。

 アルマダも庭に下りてきて、野盗を見て、カオルを見る。


「カオルさん、他の者は」


「死亡しております」


 アルマダが頷いて歩き出した。


「私は通信を探してきます。村にも設置されているという話でしたからね。口を割っておいて下さい」


「はい」


 ばさっとマントを翻し、アルマダは馬に跨って行った。

 マサヒデも庭に下りてくると、イザベルが野盗の猿ぐつわを外す。


「鬼め」


 ふ、とイザベルが鼻で笑い、


「本物の鬼はこんなものではない。我らの連れには鬼族がおるが、連れてくるか?」


「けっ!」


「お主、マサヒデという名を聞いて思い当たらぬか?」


「ああん?」


「鬼族とレイシクランを連れた・・・狼族を連れた・・・」


「あ・・・?」


 野盗が胡乱な顔でマサヒデを見て、イザベルを見て、首を傾げ、は! と顔色を変えた。


「ああっ!? てめえ、トミヤス流の!?」


 ごす! と男の背中にイザベルのブーツの先が入る。

 ぐ! と野盗が喉を詰まらせて声を上げる。


「口に気をつけろ。次にてめえと言ったら、耳を落とす。口の利き方を間違えるたびに、どこかが無くなるぞ」


「へ、へい・・・」


 マサヒデが野盗の前にしゃがみ込み、


「随分と人数がいましたが、あなた達、何か大きな仕事でも?」


「・・・」


 す、とイザベルがナイフを抜き、耳の根元にぐっと入れる。


「いて!」


 声を上げた野盗の頭を、イザベルが引っ掴んで動かないようにする。


「おい、気を付けろ! 動くと耳が落ちる。黙っていても落ちる。落ちる前に答える事を勧める」


 ぐ、ぐ、ぐ、と少しずつナイフが耳に・・・


「い、言う!」


 ぴたりとナイフが止まる。


「ウノ屋だ! ウノ屋の金蔵を襲おうって誘われたんだ!」


「ウノ屋・・・ですか」


 後ろで、カオルがぴくりと一瞬だけ眉をひそめた。

 ウノ屋はマチダの娘、ヨネが奉公に出ている店だ。

 なるほど、そういう事であったか。


「仲間はまだ居ますか?」


「死んじまったよ」


「そうですか。もう尋ねる事はありません。奉行所を待って下さい」


 イザベルが猿ぐつわを噛ませ、庭木まで引っ張っていく。


「カオルさん。入りましょう」



----------



 囲炉裏に新しく薪をくべ、白湯を湯呑に注ぐ。

 カオルが湯呑を取って、はあ、と深く息をついた。


「疲れましたか」


「はい。いや、この程度は良いのです。疲れではなく、油を使いすぎました」


「油?」


「あの者らの寝床を燃やしました」


 野盗のねぐらを派手に燃やした、という事か?

 放火は重罪。これはまずいのでは。


「・・・大丈夫なんですか? それって、あの者が喋ったら、放火には・・・」


「緊急避難で通します。イザベル様も証言して下さいますし、相手は多数の野盗です。少々は目も瞑ってもらえましょう」


「少々、ですかね」


「少々です」


 つつ、と白湯をすすった所で、マチダが声を掛けてきた。


「あの野盗共を」


 あ、とマサヒデがマチダを見る。起きていたか。

 あれだけ庭でぎゃあぎゃあ騒げば、病人でも起きるか。


「マチダ殿」


「血の臭いは、嫌なものでござるな」


「はい」


「されども・・・斬らねば、誰かが斬られる・・・嫌なものでござるな」


「はい」


 はあ、とマチダが喉から掠れた息を吐く。


「今まで、何人も斬りもうした」


「・・・」


「斬った方が人の為と言い聞かせ・・・私には剣しかないと言い聞かせ・・・」


 こと、とカオルが湯呑を置く。


「マチダ様。ひとつ不審がございます」


「何か」


「斬る相手の証拠は何処で? あなたは斬った者の所に、証拠を書き連ねた封を置いていかれました」


 マチダが目を瞑り、ゆっくりと首を振る。


「それは、答えられませぬ」


「ならば聞きますまい」


 誰かがマチダに情報を提供していたのだ。

 答えれば、その誰かに迷惑が掛かるという事か。


「マチダ殿のお働きの事は、口止めは致しておりますが・・・お調べで喋るやもしれませぬ。捕らえた者は斬っておいた方が宜しゅうございましょうか」


 ふ、とマチダが小さく笑う。


「構いませぬ。どうせ捕まった所で、すぐ死ぬ身体。娘も私の事は知りませぬ」


「親が人斬りと、娘御の周りに知れたらどうなさいます。娘御は知らぬと言われても、周りにはどう見られましょう」


「・・・」


「失礼」


 カオルが立ち上がり、障子を開けて出て行った。

 入れ違いに、イザベルが入ってくる。


「あの者は、木から吊り下げておきました」


「そうですか・・・」


 その時「が!」と庭から声がした。


「む!?」


 イザベルが腰を上げたが、マサヒデが手で止める。


「構いません。あの輩は、今、自害しました」


「それは・・・」


「そういう事です」


 マチダが目を閉じ、


「申し訳ござらぬ」


 と言って、横を向いた。



----------



 奉行所から同心が来る頃には、村の者がマチダの家の周りに集まって来ていた。

 障子の向こうの縁側に、誰かが座ったのが分かった。


「マチダの先生?」


 と、呼び掛ける声。同心か。

 マサヒデとカオルが立ち上がって、静かに外に出た。

 縁側に座った同心が、マサヒデ達を見上げる。


「あんたらは」


「マチダ殿の知り合いです」


「何でここに居る」


 し、とマサヒデが口に指を当て、中を指差して、庭に下りると、同心も頷いて立ち上がる。

 少し離れて、同心が口を開いた。


「で」


「昨夜、マチダ殿を訪ねて来たのですが、あの者達が」


 と、庭に転がる死体を指差す。


「ふうん。で、マチダ先生は?」


「幸い間に合って、怪我はありませんでしたが・・・動いたせいか、今は」


「ああ、ううん・・・で、あれは?」


 同心が、簀巻きになって吊るされた野盗を顎でしゃくる。


「逃げた者を追いかけ、捕らえました。縛っておいたのですが」


 吊るされた野盗の口からは血が流れ出て、逆さ吊りの顔が血まみれになっている。

 カオルが舌を噛ませたのだ・・・


「目を離した隙に、舌を噛まれたようで」


「ううむ、そうか。せっかく捕らえたのに、最後にヘマしたな」


「申し訳ありません」


「いや、良いよ。何か言ってたか」


「仲間はもう居ないと。狙いはウノ屋の金蔵だと」


 ううむ、同心が唸って、深く頷く。


「なあるほどなあ。先生はそれを聞いちまったのかな。娘さんの奉公先だ。で、向こうもそれに気付いてて・・・ってわけだ」


 マサヒデが頷き、答える。


「ウノ屋が狙いとなれば、私もおそらくそうではと・・・」


 ち、と同心が舌打ちをして、簀巻きの野盗を睨み、


「くそ、こいつが死んでなけりゃ・・・あ、待て。追っかけたんだな。ねぐらは?」


 マサヒデがカオルを見て頷いた。


「カオルさん」


「は」


 カオルが後ろから進み出て、同心に頭を下げた。


「私とイザベル様が追いました。ねぐらは掴みましたが、彼奴らめは我らを認めると火を放ちまして」


 火と聞いて、同心が大きく舌打ちをする。


「ちっ! 追い詰められて火い着けたか! 仕方ねえ、取り敢えず案内を頼む、と言いてえ所だが、ひとつ聞き忘れた。あんた、名は」


「マサヒデ=トミヤスと申します」


 同心が驚いて目を見開き、


「トミヤス流の」


「はい」


 納得したのか、同心が頷く。


「あんたが・・・そうか、剣客か。それで、マチダ先生の所に来たか」


「それもありますが、通りすがりに、お医者様から先は長くないと聞きまして、滋養に良い薬などを持って来たのです」


「そうかい・・・」


 同心が沈痛な顔で俯いた。

 そして、しばらくして、俯いた顔を上げ、カオルに向けた。


「じゃあカオルさんとやら、案内を頼む」


「は。同心様、少々遠いです。マサヒデ様達はここに?」


「ああ、いや。帰って良いぜ。ここに居ても、先生の邪魔だしな。後でまた確認に行くと思うから、宿は変えねえようにしてくれ」


「ご配慮、ありがとうございます」


 マサヒデが頭を下げると、カオルと同心が出て行った。


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