表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/70

第31話


 セキト村から離れた林の中。


 雪が積もっており、馬では途中から進めなくなったので、カオルもイザベルも馬から下りて野盗を追っていくが、足が雪に取られる。

 木の上を跳んで行くのも、枝に雪や凍った霜があるので難しい。

 雪も降っておらず、足跡がはっきりと残っているので、追うのは容易ではある。


(が、相手もそれは承知だ)


 待ち伏せは必ずあると見て追うべき。

 無事にねぐらまで付いて行けても、そこには人数が揃っているはず。

 そして、ねぐらはそう遠くはない。

 この時間、この足が沈む雪の中をセキト村まで来たのだから、そう離れてはいないと見ても良いはずだ。


「ん」


 さくさくさく、と雪中を軽く歩いていたカオルが手を挙げ、足を止める。


「何か」


 後ろのイザベルもぴたりと足を止め、耳を澄ませて足を止める。

 し、とカオルが小さく口を鳴らし、


「声です。おそらく仲間でしょう」


「よくお分かりに」


 人族のカオルよりも、狼族のイザベルの方が耳は良いのだが、幼い頃から忍として鍛えられてきたカオルには、軍で鍛えられたイザベルも舌を巻く事ばかりだ。


「静かですから・・・行きましょう。向こうでは、我々を待ち構えているはず」


「カオル殿、彼奴らは逃げませぬか?」


 カオルは上げた足を下ろし、


「ありえますが、近くに他のねぐらを用意してあればです。この寒さ、この雪の深さ。そう遠くへは歩けないはず。そのまま追えば良いだけです。待ち受けている可能性の方が高いでしょう」


「なるほど」


「斬り捨てて構いませんが、1人は捕らえましょう。出来ればあの者共の狙いが知りたい所です。あれだけ集まったのですから、大きな仕事のはず。他に仲間がいるかもしれませんし」


「確かに。しかし、そうなると頭領やまとめ役の者を誤って斬らぬようにしませんと。下っ端では先の計画を知らぬやも」


「大丈夫でしょう。細かい所までは分からないでしょうが、大きな仕事をするから集まれ、と集めたはず。何処を狙うかくらいは聞かせ、集めていると思いますから、下の者からでも聞けましょう」


「なるほど」


「慎重に参りましょうか」


 木の枝を跳んでこっそり行きたい所だが、ばさばさ雪が落ちてはこっそりの意味がない。仕方なく、そのまま歩いて進んで行くと、すぐに木の間に小さな光が見えた。



----------



 光が見えたとはいえ、夜の闇の中で遠くからでも目立つのだから、距離はある。

 深い雪の中をかなりの距離を歩いて、流石にカオルも疲れてしまった。

 建物の見える所で止まり、


「イザベル様、少し」


「何か」


「疲れました」


「えっ」


 イザベルが驚き、口を開けてカオルを見る。

 このカオルが『疲れた』とは・・・

 稽古の後ならまだしも、歩いていて疲れたとは!?


「イザベル様? どうなされました?」


「いや、カオル殿が疲れたとは、お珍しく」


 む、とカオルが口を尖らせ、


「私でも疲れはします。生き物なのですから」


「それはそうですが・・・」


 カオルは、ふ、ふ、と手に息を当て、袖に手を突っ込む。

 こんな姿を見るのは初めてだ・・・

 が、驚いてばかりもいられない。


「カオル殿、遠眼鏡をお貸し下さい。私が偵察致します」


「はい」


 もそもそと懐から遠眼鏡を出し、イザベルに渡す。

 元々は長鉄砲に着ける物で、通常の遠眼鏡より小さく、携帯しやすくて便利だ。


「む・・・」


 きちきちきち・・・と上のつまみを回して、ピントを合わせる。

 小さく戸が開き、誰かが顔を出してこちらを見ている。

 イザベルが手で合図して、小声で、


「木の裏に。何者かが様子を伺っております」


「はい」


 2人がゆっくりと木の陰に隠れてしゃがむ。

 夜目の利く猫族であると、こちらは暗闇であるとはいえ、見えるかもしれない。

 イザベルが木からそっと顔を出し、じっと観察。


「古いお堂です。中は見えませぬ。今、顔を出している者が1人・・・外にはおりませぬ。人数は不明」


「お堂ですか」


「修験者が使っておったものでしょう。そう大きくはありませぬ。奥行きが分かりませぬが、入って10人少しと見えます」


「床下はありますか?」


「はい」


 カオルがにやりと笑った。


「では、焼き討ちしましょう。この雪で森林火災にはならないでしょう。イザベル様は隠れたままゆっくり近付き、扉を塞いでしまって下さい。1人は捕らえられるでしょう」



----------



 しばらくして―――


 カオルはこっそり床下に忍び込み、にやにや笑いながら、枝と枯れ草の山に特製の油をとろとろと巻いて垂らし、ゆっくりと下がりつつ、指で地面に線を書きながら、火薬をそこに途切れのないように細く落として行く。


 上からは野盗達の声。


「上手く撒いたみてえだな」


「この寒さだ。途中で帰ったのかもしれねえ。日が登る前に出ようぜ。明るくなったら足跡追われちまう。寝るのはどっかに移ってからだ」


「顔は見られてねえよな? 町に行って2、3日は宿借りるか?」


「んー・・・」


 会話を聞きながら、カオルがにやにや笑う。


(逃げられぬぞ)


 床下から這い出て、引いてきた火薬にじゃりっと火打ち石で火薬を飛ばすと、ちり! と火薬が音を立てて燃えた。さー! と床下を走って行き、ぼ! と油に火が点く。


(よし!)


 入口の引き戸には、イザベルがつっかえ棒を掛けている。後は待つだけだ。

 ゆっくりと音を立てないように、慎重に雪を踏んで、近くの茂みの後ろに隠れ、息を潜める。


 後は斬るのみ。


 手が冷えないように懐に突っ込み、温めておく。

 床下からは火の明かり。


(ふふ。すぐに暖かくなる)


 白い吐息が見えないように気を付け、じっと待つ。

 入口側にはイザベルが隠れている・・・

 ふかし芋になるのは何人かな、などと考えていると、


「あっ!」


 と声が上がった。

 咄嗟に柄袋を取って、さっと懐に入れ、鯉口を切る。


「何か燃えてるぞ!」


「下か!? 火が落ちたのか!?」


 ごとごとと扉を引く音。


「あっ、ちきしょう! 凍っちまったか!?」


「開かねえのか!?」


 ごとん! ごとん!


(開かぬ、開かぬ)


「仕方ねえ! 破れ!」


 ばかん! と音がして、ばきばきと破れ戸を壊す音。


(ここだ)


 ささ! と音に紛れ、お堂の裏手から屋根に飛び移り、イザベルに見えるように手を振って、屋根に積もった雪を蹴る。


「うおっ!?」


 ばさ! と雪の塊が落ち、野盗が驚いて声を上げる。


「何やってんだ! 暴れ過ぎだ!」


「でもよ」


 ばすん! と雪の音がして、また落ちてくるかと野盗が上を見上げた時。

 一瞬、何かが光ったのが見えた。

 そして、縦に真っ二つに両断され、血を吹きながら左右に倒れる。

 両断された男の向こうで、剣を床まで振り下ろしたイザベルがゆっくり立ち上がる。


「・・・」


 絶句した野盗達にイザベルが剣を向け、


「最後の1人だけ生かしておいてやる。他は斬るが・・・」


 ばかん、と音を立て、燃えた床が落ち、めらめらと火が立った。


「そこにおっては焼け死ぬぞ。出たければ我を斬れ」


「ええい!」


 しゃしゃしゃ! と野盗達が剣に刀にと抜いて立ち上がる。


「洒落臭え!」


 左腕を前に、右手で持った剣を思い切り引いて、奥の1人が飛び込んできた。

 腹に向けて、イザベルの長い剣が伸びてきたが、


「む」


 がきん! とこもった金属音がして、剣が流された。袖の下に金属の小手を着けていたのだ。


「死にや」


 かすん!


「がれっ、れっ、れれっ・・・」


 イザベルの横を通り過ぎ、野盗は左右に転がった死体に躓いて、雪の中に転がり落ちていった。イザベルの目に、野盗の目と目の間に、深々と棒手裏剣が刺さっていたのが見えた。

 すう、とイザベルの後ろからカオルが出て来て、横に立った。


「イザベル様、今のはご油断です」


「は」


 ひょいとカオルが手を振ると、かしゃん! と音がして、投げた小壺が割れた。油が飛び散って、ぼう! と音を立てて火が燃え広がる。


「ささ、皆様、お早目に。外は寒いですが、ここは暑すぎます」


 かしゃん! ぼうっ!

 あっと言う間に火が燃え広がり、お堂の中が熱気に包まれる。


「あ! くそうっ!」


 野盗の袴に火が燃え移り、ばん! ばん! と袴を叩く。


「ちきしょう! お堂を燃やしやがって、罰当たりめが!」


 ぷ! とカオルが吹き出し、


「ふふ、罰当たりなどと、ご冗談を・・・あなたには及びません。面白いお方ですね。さ、参りませ。私共を斬らねば出られませんよ」


「けっ! 壁を破る! おい! 何とか止めろ!」


 敵を目の前にして、壁をなどと、何を暢気な・・・

 壁に向かって剣を振り上げた男の背に、ぱきん! と小壺が当たった。


「うわ、うわあーっ! 助けてくれえー! うわあーっ!」


「・・・」


 燃えながら暴れる野盗を見て、他の野盗が喉を鳴らす。

 残り、3匹。


「先程、こちらのお方が言いました。そこにいては焼け死ぬ、と。もうお忘れで?」


「た、たた、助けてくれ!」


 刀を放り投げてイザベルの前に手を付いた野盗の顔に、思い切り剣の切先が入り、後頭部まで突き抜けた。イザベルが野盗の顔を押し蹴ると、中まですっ飛んで転がる。


「カオル殿、どちらを生かしましょう」


 カオルが首を傾げ、2人を見る。


「ふむ・・・あなた達、私達を相手にしたくなければ、斬り合って下さい。勝った方を助けます」


「嘘だろ」


 野盗2人が目を見合わせる。


「おお、カオル殿、それは良い案」


「ふふ。我らを蹴散らして出られそうなら、どうぞこちらへ」


 カオルが冷たく笑う。

 その目は全く笑っておらず、野盗2人の目には、悪鬼に見えた。


「すっ・・・すまねえ! 死んでもらうぜ!」


「この畜生が! 死ぬのはてめえだ!」


 野盗2人が、燃えるお堂の中で剣を向け合う。


「はーっはっは! 良いぞ! 殺し合え!」


 イザベルの残酷な笑い声が、静かな林の中に響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ