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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第30話


 ウスケシの安宿。


 マサヒデは夕餉を終えた後、暖炉の前に座った。

 アルマダはいつも通り、暖炉の前で本を開いている。

 半刻程して、アルマダが本から顔を上げ、


「何か私に話したい事でも」


 マサヒデは暖炉を見つめたまま、小さな声で呟いた。


「あると言えばある、ないと言えばない・・・です」


「そうですか」


 再び、アルマダが本に目を戻す。


 客が1人、2人と帰っていき、マサヒデ達の連れも2階の部屋に戻り、1階の食堂には2人だけになった。

 女中が表に出て暖簾を下げた後、盆に酒を載せて来て、マサヒデの横のテーブルにそっと置いた。


「何か、お悩み事ですか」


「はい」


「私で、お聞きになれますか」


「・・・」


 ぱち、ぱち、と暖炉の火が小さく音を立てる。

 女中が静かに返事を待っていると、マサヒデがゆっくりと、言葉を選びながら、


「もうすぐ、病で死にそうな方がいます」


「まあ・・・お可哀想に」


「その方は、誰からも好かれていて・・・感謝されていますが・・・」


「はい」


「・・・」


「そのお方が、何か」


「犯罪を」


「どんな?」


 マサヒデが黙って首を振る。


「そうですか・・・トミヤス様は、そのお方をどうご覧に」


「とても良い方に見えました」


 女中はゆっくり、小さく頷き、


「世の中は、善と悪と、はっきりと割り切れない事の方が多うございます」


「はい」


「そういう時は、御心のままにされたら良いと思いますが」


「自分でも・・・どうしたら良いのか」


 マサヒデは暖炉の火を見つめたまま、小さく首を振る。


「御心のまま。考えて出す結論でなく、心で感じた方で良いかと思います」


「感じたままですか」


 たとえ悪党といえど、人を斬る事に抵抗のあるマサヒデには、割り切れない。

 ここが自分の弱い所・・・


「この迷いは、私の弱味でしょうかね」


「トミヤス様の弱味?」


 マサヒデは酒の徳利を引っ掴み、ごく、ごく、と飲み干す。


「ああ、ちょっと!」


 女中が驚いて声を上げ、アルマダも驚いてマサヒデを見る。

 ぷは、と息をつき、袖で口を拭い、


「お女中、これから出掛けます。弁当を作ってもらえますか」


「これから!? 凍えてしまいますよ!?」


「厚着していきますから。アルマダさん、コート貸して下さい」


 ぱたん、とアルマダが本を閉じる。


「嫌です」


「良いじゃないですか」


「駄目です。別の方に借りて下さい」


「けち臭いですね」


「私が着ていくからです。マサヒデさん、他に誰か連れて行きますか」



----------



 マサヒデは馬車は目立つと思い、カオルとイザベルだけを連れて宿を出て来た。

 カオルはシズクのコートを借り、イザベルは普段は「寒くない」と言って仕舞いっぱなしのコートを出して着ている。

 そしてマサヒデは、ラディのもこもこのコート。


「ふっ」「くっ」「ん、ごほん」


 皆がマサヒデを見て、小さく笑う。

 イザベルも顔を赤くして、必死に笑いが顔に出るのを堪えている。


「・・・似合わないのは分かってますよ」


 アルマダがくすくす笑いながら、マサヒデの肩に手を置く。


「ふふふ。この姿を見たら、カゲミツ様はどう思いますかね」


「・・・」


 マサヒデは渋い顔で横を向いたが、アルマダは真面目な顔になる。


「しかし、真面目な話、そのくらい着ておいた方が良かったでしょう。ゾエの夜をなめていました。市中でこの寒さ、市外に出ると吹きさらしですよ。凍えてしまうというのも、嘘ではありませんね。鼻と口が凍りそうです」


 そう言って、アルマダはマフラーをくるくると頭から顔に巻き付け、覆面にする。


「その方が良いですね」


 マサヒデも笠を取り、手拭いを出して頭から顔へ巻き付ける。

 カオルもイザベルも同じように覆面をする。

 覆面の口から出る白い息が、音を立てて宙で凍りそうだ。


「着込みが凍らないと良いのですが」


 アルマダが頷き、


「ええ。早目にそのマチダ様の所へ参りましょう」


 ぱぱ、と皆が馬に跨がり、夜のウスケシを歩いて行った。



----------



 セキト村。


 もう夜も遅くなり、周りは風で揺れる木の音だけ。

 雪が音を吸い込んで、とても静かだ。

 どの家からも、火の明かりが漏れている。

 一晩中、気を付けて火を燃やしていないと、この村の建物では死んでしまうだろう。


「し」


 先頭のイザベルが小さく声を出し、手を挙げて馬を止めた。

 マサヒデ達も馬を止める。


「・・・」


 ぽつぽつと漏れる火だけの暗闇の中、皆が耳を澄ませる。


「剣の音です!」


 返事を聞く前に、ぱっとイザベルの馬が走り出した。

 マサヒデ達も馬を走らせる。

 雪に足を取られ、走る速度が遅い。しかし、急がせると馬が転びそうだ。


(ええい!)


 ち、と舌打ちをしながら、思い切り走らせていく。

 方向はマチダの家。


「何だ!」

「馬だ!」

「奉行所だ! 散って逃げろ!」


 声が聞こえる。


「カオルさん! イザベルさん! 追って!」


「は!」「ははっ!」


 マサヒデとアルマダはマチダのボロ家に飛び込み、馬を飛び降りる。


「奉行所じゃねえ! てめえら何者だ!」


 逃げ遅れた者か、数人が残っている。


(12345! 5人!)


 ささっと目を回し、人数を数える。

 は! と目を奥に向けると、倒れて刀に手を伸ばすマチダ。


「く!」


 すらりとマサヒデとアルマダが抜く。

 むかあっとマサヒデの心に怒りが込み上げてきた。


「クズが!」


「いいや! マサヒデさん、クズではない! 藪蚊だ! 追っても払っても、人の血を啜りに集まる! 叩き潰すんです!」


 のしり、のしり、と刀を持った覆面の野盗が前に出て来て、庭に下りてくる。

 続いて、2人も出てきた。

 残りの2人はばたばたと奥に入り、玄関を乱暴に開け、マサヒデ達の後ろに立つ。


「若造が言うじゃねえか! 叩き潰してみやがれ!」


 かーっ! と声を上げて向かって来た男に、ぱっと飛び込み、顎の下から愛刀の雲切丸を突き込んだ。


「えげ」


 すっと抜くと、屈んだマサヒデの背の上を、絶命した野盗が跳び込むように転がり落ちる。


「何だこいつ!?」


 声を上げた野盗の横に突っ込むように、無願想流で振る。


「たっ・・・たっ・・・」


 鎧ごと横腹を斬った。

 無願想流に、トミヤス流の金切りを合わせた振り。

 ぼさ、と野盗が雪に膝をつき、鎧の上から腹に手を当てる。


「くそっ!」


 振り向いて逃げようとした男の首の後ろに、マサヒデの棒手裏剣が突き刺さり、数歩を歩いて倒れた。

 アルマダの方を見ると、既に後ろの1人は頭を割られて倒れていた。もう1人はアルマダの剣に刺されている。

 袖で軽く雲切丸を拭いて、納めながら駆け込む。


「マチダ殿!」


「お、お見事」


「怪我は!?」


「大丈夫で・・・ごふっ!」


 マチダが口を押さえ、大きくむせた。

 手と口の隙間から、血・・・


「斬られましたか!?」


「いや、いや・・・斬られてはおらぬ・・・調子の悪い所に、動き過ぎた」


 マサヒデがマチダの手から刀を取り、鞘に納めると、アルマダがマチダを引っ張って布団に寝かせ、服をはだけた。斬られてはいない。

 む、と頷き、服を着せ、上から布団をかける。


 ふう、と息をついて、マサヒデが障子を閉め、マチダの枕元に座った。


「マチダ殿、やはりあなたが天虎」


「如何にも・・・私が、天虎を名乗っておりました」


「何故」


「ヨネを・・・お頼み申す・・・」


 娘の名? どうやら朦朧としているようだ。


「マサヒデさん」


 アルマダがマサヒデを止め、


「マチダ殿、後は私達に。あの輩共は我々で潰します。今は寝て下さい」


「・・・お頼み申す」


 マチダがゆっくりと目を閉じた。

 アルマダが立ち上がると、マサヒデも立ち上がった。

 縁側から出て、静かに障子を閉める。


「マチダ殿の身が割れた」


 さく、さく、と血が染みて薄赤い雪を踏みながら、斬り捨てた者達を見下ろす。

 アルマダが転がった死体を足で転がし、


「ここに5人。まだ逃げていった者達がいる」


「大人数で来ましたね」


「大きな仕事をしに集まったんでしょう。何かは分かりませんが、天虎に見つかるとまずいという仕事。それで先んじて斬りに来た。確実に仕留めに、頭数を揃えて。互いに探していたんですね」


「ふむ・・・」


 アルマダが闇の向こうを透かすように目を細め、


「マサヒデさん。今はどうしようもない。カオルさんとイザベル様を待ちましょう。あの2人なら、ねぐらを掴んでくれます」


「はい」


「それか・・・」


 1人だけ、辛うじて生きている者がいる。

 マサヒデが横腹を斬った者。

 すらりと雲切丸を抜き、


「あなた達のねぐらは?」


「へっ!」


 暫く待っても黙っている野盗を見て、ぴす、と切先で首の脈を斬った。

 たた、と血が落ちた後、派手に血が吹き出す。

 吹き出る血を避けて、雲切丸を納めた。


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