表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/70

第28話


 その晩、ウスケシの安宿。


 夕餉も済み、シズクとアルマダの騎士達はちびちび呑みつつ、何やら話しながら、時折大きな笑い声を上げている。

 クレールとラディは魔術の練習と、早々に部屋に戻ってしまった。

 アルマダは暖炉の前で本を開き、イザベルはマサヒデのテーブルの横で、ボディーガードのように立っている。


 マサヒデはずっと黙り込み、湯呑を両手で持って、茶を睨んでいる。


「ご主人様」


「・・・」


「ご主人様」


 は、とカオルの声に気付き、マサヒデが顔を上げた。


「ん? 何です?」


 カオルの心配そうな顔が、マサヒデの目の前。


「どうかなされましたか。先程から湯呑とにらめっこをして。お食事も上の空。イン先生に驚かれましたか」


「いや・・・まあ、確かにイン先生には驚きましたが、別の事です」


「別の事?」


「ええ・・・」


 カオルが離れて座り直すと、マサヒデは冷めきった茶を一口飲んで、湯呑を置いた。


「カオルさん、前にイザベルさんから熊の一部を買い取って、薬にしていましたよね」(※勇者祭689話)


「はい。何かご入用でしょうか」


 ぴく、とイザベルが固まる。熊の性器を切り取った事を思い出し、苦い顔で目を閉じる。


「精のつく物、ありますよね。明日、2人で出掛けませんか」


「はっ!?」


 カオルが声を上げ、イザベルも驚いてマサヒデを見る。


「おう! おうおうおうおう!」


 隣のテーブルで客と賭け将棋をしていたトモヤが声を上げ、仕切りの上から顔を覗かせる。


「マサヒデぇ~」


「何だ」


 にやっとトモヤが嫌らしく笑う。


「何じゃあ、そういう事か。次の嫁はカオル殿か」


 マサヒデが仕切りの上のトモヤに顔を上げると、カオルが真っ赤な顔を下に向ける。


「何を・・・? ああ、おい! 勘違いをするな!」


「精のつく物を持って、2人でお出掛けとなあ」


「ああもう! 違うわ!」


 マサヒデが、はあ、と溜め息をつき、神妙な顔に変わり、腕を組む。


「実はな。余命幾ばくもないお方がおる。そのお方に、1日でも長生きしてもらおうと思ってな」


「あの昼間の恐ろしい爺様か?」


「いや。別のお方だ」


「知り合いか?」


「全くの他人だ」


「全然知らん奴か? 何故じゃ」


 ふう、と息をついて、マサヒデが天井を見上げる。


「さ、何故かな。何となくだ。理由はないが・・・何か、気になってな」


「ふうん。じゃそうな。カオル殿、もう顔を赤くせんで良いぞ」


 こほん、とカオルが小さく咳払いして、顔を上げる。

 まだ少し顔が赤い。


「すみません。また勘違いさせるような事を」


「いえ・・・」


 テーブルの脇に立っているイザベルが、ほ、と小さく息をついた。

 ふん、と鼻を鳴らし、トモヤが引っ込む。


「まあ、今話した通りです。ただ、そのお方、昔は剣で鳴らしたそうで」


「剣で・・・その者が何か?」


「最初は死を受け入れていたのに、一命を賭しても死ぬ前にやり遂げたい事があると、医者に来たと。それが武術家としてなのか、別の事なのかは分かりませんが」


「なるほど。帰りに道を歩いていたあの医者。その死にかけの名を聞いても?」


 流石はカオル、察しが良い。


「死にかけって・・・サクゾウ=マチダ。知ってますか?」


「いえ。ご主人様は?」


 マサヒデがゆっくり首を振る。


「私も知りません。人族なら年齢はもう60を超えていると思います。長い病で老けて見えたのかもしれませんが、猫族だと何歳くらいでしょうか」


「100と、80から90といった所でしょう。病で老けて見える、という事もありますが」


「ふむ」


 あの医者も結構な年齢に見えた。それが幼い頃に世話になったという事は、30年以上は前に、セキト村なる村に来ていたと見える。

 剣で鳴らしたが、ずっと知られていなかった。隠れていたのか?

 一命を捨ててもとは、一体、何をしたいというのだろうか・・・


「その者のいる場所は?」


「セキト村です」


「セキト村・・・遠いですね。イン殿の道場と同じくらいの距離がございますが」


「ええ。付き合ってもらえますか」


「勿論です。用意をして参ります」


 カオルが席を立った後、イザベルがちらちらとマサヒデを見る。


「マサヒデ様」


「来て良いですよ」


「は!」


 ぶぶん! とイザベルの尾が嬉しそうに振られた。



----------



 翌日、セキト村。


 マサヒデ達がぽっくりぽっくりと馬で村を歩いて行くと、村人達が道を開け、へへえっ! と頭を下げる。

 そのたびにマサヒデは「大丈夫です」とか「頭を上げて」などと言い、イザベルはイザベルで、凛とした声で「ご苦労!」と声を掛けて行く。


 途中で馬を止め、村を見渡し、


「道場らしき建物は見当たりませんね。やっぱり隠棲しているのか」


 カオルが頷き、


「ご主人様、村の者に家を尋ねましょう。場所が分かりません」


「そうしましょうか」


 馬を下り、口を取って歩いて行く。

 少し歩いた所で、イザベルが声を上げた。


「マサヒデ様! しばらく!」


 ぱ! ぱ! と周りを見回す。


「どうしました」


 言いながら、ぱっと柄袋を取って袖に突っ込み、袖の中の棒手裏剣に手を掛ける。

 す、す、とイザベルが何度か小さく鼻を鳴らし、声を潜め、


「血です。新しいものではありませんが」


 血と聞いて、マサヒデとカオルに緊張が走る。


「どこから」


「向こうの林の方です。これは獣の血ではございません。人です」


「人・・・確か、ここ数日でここらに事件はなかったですよね」


「はい」


 3人が警戒の目で周りを見渡す。

 周りは平和な村の風景。雪遊びをしている子供が見えるだけ。


「イザベルさん、ちょっと見てきてもらえますか。人の気配を感じたら、そのまま逃がしても構いません。即戻って下さい。後で私達と追った方が良い」


 狼族の自分とカオルが居れば、追跡など楽なものだ。

 引けと言われたが、イザベルはあっさり頷いた。


「は!」


 しゃ! とイザベルが馬に跨がり、ばかか、ばかか、と駆け出していった。

 一体、何があったか・・・


「ご主人様。私達は、マチダなる者の所へ参りましょう。イザベル様なら、匂いで私達の場所が分かります。後で参られましょう」


「うむ・・・ええ。そうしましょうか」


 こくりとカオルが頷き、近くの家に歩いて行った。



----------



 村を外れると小さな寺があった。村人が寺の向こうを指差し、


「こっからじゃ見えんけど、あの寺の向こうじゃで、も少しじゃ」


「お手数をお掛けします」


 馬を引き連れ、足元に気を付けながら歩いて行く。

 ボロ家の垣根に手綱を引っ掛け、中に入って行く村人についていくと、


「せんせー! マチダせんせー! お客様じゃー!」


 村人が声を上げた。


 しばらく待っていると、小さな音が聞こえ、がた、と戸が開き、昨日の老人が杖をついて出て来た。

 背は曲がってはいないが、家に居る時は、病の身体に少しでも負担を掛けないようにしているのだろう。

 マサヒデを見て、少し驚いた顔で、


「貴殿は、確か昨日の・・・」


 マサヒデとカオルが頭を下げる。


「マサヒデ=トミヤスと申します」


「マサヒデ様の内弟子、カオル=サダマキと申します」


 全く知らない名だ。マチダが首を傾げる。


「トミヤス殿、サダマキ殿・・・して、本日は」


 マサヒデが頭を上げ、


「上がっても宜しいでしょうか」


「構いませぬ。さ、どうぞ。汚くしておりますが・・・」



----------



 中では、ぱちぱちと囲炉裏の火が音を立てていた。

 マサヒデ達は、囲炉裏を囲んで座ると、早速にマチダが口を開いた。


「トミヤス殿は、お若く見えますが・・・そちらの・・・内弟子とは、道場を?」


「いえ。父が道場を開いておりますが、私は家を追い出されました。恥ずかしながら、父の道場では高弟でして。カオルさんは私の方に弟子入りしたいと」


「左様でしたか」


 マサヒデは少し間を置き、


「昨日のお医者様に、剣で鳴らしたと聞きました。マチダ殿は道場を?」


 マチダは苦笑いで頷いた。


「あいや、道場と言っても、名ばかりのもので」


「どちらに?」


「キホ・・・ですが、それも・・・50年・・・いや、もう60年か。辺り前に閉じて、こちらに、流浪の旅で。お恥ずかしい限りでござる」


 キホ。ここからは随分遠い。本土の西側だ。


「道場をお閉めに? 何故です」


 マチダが答えに困った顔で、目を泳がせる。


「は・・・まあ、些かの・・・事情がありましてな」


 聞かぬ方が良いか、とマサヒデが白湯の入った湯呑を取ると、マチダも湯呑を取ったが、こん、と湯呑を置き、むっと小さな声を上げ、顔を歪めて横腹を押さえた。


「あ、大丈夫ですか。横に」


 慌ててマサヒデが片膝立ちになると、


「あいや、お気遣いなさるな」


 と、マチダが軽く手を上げ、震える声で、何とか笑顔を作る。


「この、この痛みとは、長年の付き合い。もう慣れておりまするので・・・」


「でしたら、良いのですが・・・」


 マサヒデが座り直す。


「何か、お役に立てる事があれば・・・と、思いまして」


 は、とマチダが痛みに歪んだ顔を上げた。


「では、本日はその為にわざわざ?」


「はい」


 マサヒデが頷くと、マチダは姿勢を直し、何とも言えない顔で頭を下げ、


「確かに、やり残した事はござるが・・・それは全くの私事にて。どうか、ご放念を願います」


「・・・」


 はっきりと拒絶された。

 会話が途切れ、気不味い感じになった所で、カオルが懐から小瓶を取り出す。


「熊の血を乾かした粉でございます。滋養に。指先につけて、舐めるだけで効果がございます。高い効果があるので、例え猫族といえど、多く飲むと逆に毒にもなり得ます。日にひと舐めだけで」


 マチダが小瓶を見て、カオルを見る。


「熊の・・・それは値の張るものでは」


「いえ。これは以前に人里近くに来た熊を狩った時に作った物です。私、少々調薬も学んでおります。金で買った物ではありませんので、お受け取り下さいますか」


 マチダは少し黙ったまま小瓶を見ていたが、頭を下げ、


「では、遠慮なく」


 と、小瓶を押し頂き、マサヒデとカオルに頭を下げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ