表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
江戸っ子歌い手少女  作者: 水海月
第一章『始まりの音色』
PR
9/12

第一章エピソード7『妖気の漂う酒屋』

「で、どうだった?」


紅葉の家に戻ってきた凪がそう聞かれた。


「だめだったわ....何なのよあの速さ!到底追いつけやしないわ!」


それを聞いた紅葉が「そっかー。」と言ってガクッと肩を落とした

逃げた時点で分かっていたことだが期待してしまっていた自分もいた。

あの子の演奏技術が絶対欲しい。あの子じゃなきゃダメ──────


「でも、あの子を捕まえられるかもしれない情報が分かったわ。






「どうやらあの子が担当している歌舞伎役者を気に入っている将軍様がいるみたいでね、

むやみやたらに接触して目をつけられると厄介なことになりそうだからやめておいたほうがいいと言われたの。」


「う〜ん、じゃあどうしたらいいのかな?」と紅葉が言い、一人でしばらく考えていると、


「あのさ、できるかどうかは分からないけど、いい方法があるかもしれないわ。」


この状況でそんな事あるわけないと思いながらも黙って凪の話を聞く紅葉。


「できるかどうか怪しいけど私が持つ猫又の妖気を使って妖怪たちの手を借りられないかなって思ったの。」


「そっか、確かにそれならあの子を追いかけることができるかも!」


意外と筋が通っている話だったので二人はその作戦を決行することにした。


「あれ?でもどうやって妖怪たちに会うの?」


「町の人たちに妖怪が出る場所を聞けばいいのよ!」


その後二人は、花鳥家周辺の人々に聞き込みをして、

三吉鬼という妖怪が出る場所を教えてもらった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



三吉鬼が出ると聞いた場所に二人はやってきたのだが、


「・・・・酒屋?」


そこは、看板に琥珀亭(こはくてい)と書かれている酒屋だった。

どうやら周辺住民によると、三吉鬼は酒がたいそう好きな鬼らしく、

常日頃、琥珀亭に入り浸っているらしい。


「酒が好きな鬼ねぇ・・・・」


看板をまじまじと見つめている凪関係なく、紅葉はずけずけと琥珀亭へ入っていく。


「こんにちはー!番頭のおっちゃん居ますか?」


それに気づいた凪が看板から目をそらし、


「あれ?ちょっ、紅葉ー!勝手に行かないでよ!」


紅葉に続いて琥珀亭へ足を踏み入れる凪であった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


店内の席は畳にあって、そこに座布団が縦に三列ほど並べられていた。

おそらく座布団に座った時に、奉公人たちが目の前にお膳を持ってきてそれを食べるのだろう。

客はあまりおらず、三人四人ほどだった、平日の朝っぱらから酒屋で飲むものなどなかなかいないからだ。


「で、お嬢ちゃんたち俺に聞きたいことがあるって?」


紅葉達より一回りほど身長が高い琥珀亭の番頭、薬師寺蒼龍(やくしじそうりゅう)が紅葉達の話を聞いてくれた。


「ここのお店に三吉鬼という妖怪が出るって聞いたんですけど、、、」


凪の質問に蒼龍がすぐに頷く。


「ああ!あいつのことね。あいつならすぐそこにいるよ、ほら。」


蒼龍の指先が指す場所に目を向けると、

そこには、編笠を被り、黙って酒ばかり飲んでいる筋肉隆々の大男がいた。


「おい三吉鬼、ご客人だ。おまえに聞きたいことがあるんだとよ。」


蒼龍の声に反応して大男がこちらを向いた。


「何だこいつら」


「あの!私たちに協力してほしいことがあるんです。将軍様がごひいきにしている歌舞伎役者の専属能管師の女の子知ってますか?」


話が始まった途端、蒼龍は「んじゃ、俺は仕事あるんでこれで。」


そう言ってその場から立ち去り、調理場の方へと向かった。


「知ってるぞ。あの不良野郎だろ?」


「その子を私たちの専属楽師にしたいんです!そのためにあなたには私たちの仲間になってもらいたいんです!」


凪の真剣な顔はお構いなしに、

頭の後ろで手を組みながらふぅんといった顔で三吉鬼が話を聞いていた。


「そこのお前、俺と似た匂いがするんだがお前も妖怪なのか?」


と、凪の方を見てそう言った。


「.....はい、私は猫又です。」


「そうか、やっぱりな。猫又は人間の姿になることができるらしいからな。」


三吉鬼の疑問が解消されて、そこから本題に戻る。


「俺は頼み事をされる時は酒さえあれば何でもいいんだが、、、仲間になるっていうのはなぁ。」


すこし考えた後に、三吉鬼はあぐらをかいてこちらに体を向け、組んでいた手で足をつかみ、ゆらゆらと前後に揺れながら話を続けた。


「それはお前たちが困ったときに俺が毎回お前たちを助けろってことか?」


「うん、そうだよ!」


紅葉がそう言うと、


「やだ。めんどくさい。」


と、三吉鬼は正直すぎる回答をした。


「え〜」


「俺の貴重な酒を飲む時間をお前らなんかに潰されるなんてごめんだね。」


「じゃあお酒が入った樽3ヶ月分買うよ!」


紅葉が必死に頼んでも三吉鬼は首を横に振る


「じゃあ半年分!」


次は凪が声を上げた。


「凪お金払えるの!?」


紅葉の質問を無視して今度は一年分などと次々に量を増やしていく。それでも三吉鬼の首が縦に振られることはなかった。

数時間経つと、二人の声は止まり、今度はどうしたら説得できるかの作戦会議を始めた。

凪が紅葉の耳を借りてひそひそ話を始める。


「紅葉、三吉鬼を説得できる方法思いついた?」


三吉鬼の方を見た紅葉が

その質問に首を横に振って答える。


「だめ。全然思いつかない。お酒で釣れないんだったらどうすればいいんだろう?」 


三吉鬼は現在二人との交渉に飽きて寝そうになってきている。このままうまくいかなければかなりまずいことになるだろう。


しばらく考えた後、紅葉が「いいこと思いついた!」と言って凪の耳を借りて伝える。


「おお!それいいじゃない!私も聞きたいしやってみてほしい!」


正直真剣に歌ったことは今までの人生なかったので緊張で手が震える。だが、これも予行練習だと思い、真剣な眼差しで首を縦に振り、咳払いをしてから作戦を決行する。



店内に、紅葉の歌声が流れた。客たちがその歌声に驚いて紅葉の方を振り返った。

紅葉が今歌っているのは、小さい頃に母親に教えてもらった曲だ。この曲は、母上の友人が作った曲で、これから始まる何かへの期待を表した曲だそうだ。

紅葉の歌声に反応して三吉鬼が目を覚ます。

だが、なにも言わずに、黙って紅葉の歌を聞いていた。

紅葉は店内を歩き回りながら、楽しそうに歌った。自分でもこんなに楽しく歌ったことは一度もなかった。自分でも不思議だったけれど、今この瞬間の楽しさを忘れないようにしようと思った。


※ ※ ※ ※ ※


曲が終わり、「で、できた」と小さく呟いて恐る恐る顔を上げた。すると、そこには拍手喝采を紅葉に送る人々がいた。いつの間にか店内の客や蒼龍が紅葉の歌声を聞いていたようだ。


「紅葉すごいじゃない!あなたあんなに歌えたのね。ほんとにすごい!」


「じょうちゃん、あんたそんなに歌がうまかったのかい?俺びっくりしたよ!」


「あ、ありがとう・・・・」


と照れ臭そうに反応する紅葉が三吉鬼の方に視線を移した。


「すまねぇな、お前がそんなに本気だとは思わなかった。俺が飲む酒よりお前の歌声には価値がある。これからよろしくな。」


酒にしか目がなかった三吉鬼に紅葉の歌がどんな影響を与えたのかは全く分からない。

だが、これだけは言える。

紅葉の歌には人の心を惹きつける力があると。紅葉には舞姫の才能があると。

紅葉の顔がパアッと明るくなり、「うん!」と言って三吉鬼の握手に答えた。

奉公人・・・主君や主人に雇われて、労働を提供する人

紅葉の家の奉公人と混ざってしまった方本当に申し訳ございませんでした。

それと、これから紅葉が歌っていく曲(今回のも含めて)

はこれから小説家になろうで『江戸っ子歌い手少女の曲一覧』というタイトルで歌詞を見れるようにしておきますのでそちらもよろしくお願いします。


面白いと思ったら躊躇せずに感想とブックマークで応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ