第一章エピソード18『濡れる大地、後追い星』
音のなる方に導かれ、進んだ先にはその奏者の姿があるはずだったのだが・・・
「あ、あれ~?」
頭を掻きながら予想外の事態に困惑する紅葉。
音色に導かれ、辿り着いた河原には、紅葉の予想だと能管奏者の天榎がいるはずだった。
だが、そこには何者の姿もなく、あの美しい音色は途絶え、河原に水が流れる音だけが辺りに響いていた。
「おっかしいな?さっきまでここら辺から聞こえてきてたはずなんだけど・・・」
河原の橋の下、家々の曲がり角、様々な場所を探したがどこにも彼女の姿はみえなかった。
凪も頭を働かせ、心当たりがある場所は全て捜索したのだが、どこにも天榎はいない。
「もう満足いくまで吹いたから帰っちゃったとかじゃないかしら。」
天榎が満足したのでもう帰ったという可能性を掲示する凪。
その予想の説得力が高くもしかしたらそうなんじゃないかと不安が紅葉の胸を支配する。
だが絶対に最後まで諦めないと決心していたので、もう一度周辺を捜索してみる。
灯台下暗しという言葉もあるくらいだ。きっと見逃している部分があるに違いない。
そう思い、今度は地面にも視線を落としてみた。河原にはいきいきとした色艶の良い草が生い茂り、
街道には硬くなった茶色い土が広がっている。
よーく目を凝らして見てみると、そこにはうっすらと履物の足跡があった。
隅々まで確認しないとなかなか気づけないくらいの薄さだった。
足跡のつま先が向く方向の地面に視線を追うと、
その先には同じ人物のものと見られる足跡が橋まで続いていた。
「ね、ねえ凪!これちょっと見て!」
発見した足跡を凪に見せようと、彼女の名前を呼んでその場に連れてくる。
「どうしたの?何か見つかった?」
河原の辺りを捜索していた凪が、紅葉に呼ばれたので、進展はあったのかと問いを投げかける。
「この足跡なんだけど・・・この大きさ多分私達と同じくらいの子だよね?
男の人のだとしても小さすぎるし、もっと小さい子でも大きすぎるし。それにほら・・・」
そう言って紅葉が足跡の隣に自分の足を並べる。
比較してみると、確かに紅葉の言った通り彼女の足と足跡の大きさにはそこまで大差なく、
一、二センチ程の差しかなかった。
紅葉の話を聞いた凪は、手を顎に当てながら頷いて、
「確かにこの足跡は私達の年齢に近いわね・・・それにこんな時間に出歩く十四歳なんて
中々いないだろうし・・・天榎の可能性が高いわ。」
「あとさ、これ見てみて。」
紅葉が足下にあった足跡から、それが赴く方向に、一つ一つの足跡を指さしながら
跡を追っていく。凪も紅葉の指先を追って地面の足跡一つ一つがそこにあるのを確認する。
「ここら一帯の土が乾いているのに足跡が残っているのも恐らくあの河原の水が原因でしょうね。」
そう言って、こんなに薄暗い闇に包まれた場所でも、ただひたすらに流れている河原の水に、
まるで探偵が推理をするときのような鋭い眼光を向ける。
「きっと河原で楽器を吹いていた時に草履が濡れたのよ。
それで私達がこっちに走ってきた時にきっと足音が聞こえたんでしょうね。
驚いて履物が濡れている事に気づかずに逃げたんだと思うわ。」
凪の推理を聞き終えて、つまり彼女が何を言いたいのかを短くまとめる。
「つまりこの足跡を辿っていけばその先に天榎ちゃんがいるってことだよね?」
「そうね。きっと今頃家に帰ろうと必死に走っていると思うわ・・・・
って、こんな呑気になってる場合じゃないわ!早く見つけないと走った時の衝撃で水が草履から
落ちちゃう!紅葉、早く行きましょ!」
推理に集中していた凪が現実に引き戻され、急いで足跡を追う。
その場に紅葉を置いていかないように、彼女にもすぐに自分の後を追うように促しながら
凪は紅葉の先を行く。
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ~!」
凪の突然の素早さに追いつくのが遅れた紅葉が、急いで彼女の後を追う。
いつも凪は大人しく冷静な動きをする人物なので、いきなり素早くなると、
ついていくこちらも中々ペースを合わせるのが難しい。
必死に足を前後に動かして凪の後を追う紅葉。
時間切れになる前にいち早く天榎を見つけようと走り出す凪。
そんな二人の様子を静かに見守るかのように、
夜空の星々は、幻想的な美しさで光り輝いていた。




