第一章エピソード14『外出費=?』
外に出てからというものの、二人は木戸達とそれはそれは激しい闘いを繰り広げていた。
紐で首と腰を縛られながらも、なんとか劇場内に戻ろうと必死に入り口側に足を向ける。
そしてそんな抵抗する二人を押さえつける木戸。
双方の争い声がそこら中に響き渡り、近所に住んでいる住民や、近くで店を開いている者達が
野次馬となって劇場前の石畳の広場にやってきて、双方を取り囲むようにして辺りに散らばる。
そんな野次馬なんて関係ないというように双方が壮絶な闘いを続ける。
「もういい加減離して!私達なんにもしてないって言ってるじゃないですか!」
凪が木戸達に抗議の声を上げる。
「だから何度も言っているだろう!お前らが盗みを働こうとした瞬間は
すでに目撃されているんだよ!」
凪の腰の紐を引っ張りながら、現実を二人に突きつける。
紐を握るその手は真っ赤になっていて、外に出てからかなりの時間争っていたことが伺える。
「だーかーら、その目撃情報が違うって言ってるんです!」
紅葉も凪と一緒に抗議の声を上げる。
何度も何度も同じ事を言っているのになぜか誰も取り合ってくれない。
きっと木戸達も私達に対して同じ事を思っているのだろう。
だがここで自分達が折れたらそれこそ取り返しがつかないことになる。
これは我慢比べなのだ。先に折れた方が負けなのだ。
そうして同じやり取りを続けている内に、野次馬達の騒ぎ声に紛れて、
彼らのものではない複数の足音が聞こえてきた。音の方角は・・・劇場の入り口からだ。
気になってその方向に視線を向けると、その周辺にいた野次馬達が道を開けた。
まるでこちらに誰かが自分達の所へやってくる為のように・・・・・・
そして、カツンカツンと石畳を杖で突きながらこちらへやってくる老人がいた。
この老人を見た紅葉は、おそらく普通の位の人間ではないと判断した。
なぜならその老人の周りには、何人もの傍仕えがいたからだ。
だがそれだけで老人の位を判断したわけではない。周りにいた野次馬達も、木戸達でさえも
地面に跪いていたからだ。
その様子を見た凪は、周りに合わせようと慌てて自分も跪こうとするのだが、
「そこのお主等は結構。」
と老人からやめるように指示が入ったのだ。しかも紅葉まで。
一体どういう事なのだろう。緊張と疑問符に溢れた紅葉の脳内を正気に戻そうとするように、
老人が続けて口を開いた。
「その者等を離してやるのだ。」
なんと驚くべきことに自分達の縄を解いてやれと命令したのだ。
その言葉に木戸達が顔を上げ、従順に従う。直後、紅葉達の縄を解き始めた。
急な展開に頭がついていけず、凪は解かれた右手を顎に当てながら今の状況を理解しようと至高を巡らせる。
しかし、彼女の思考を止めるかのように、老人が続けて口を開いた。
「お主等うちの天榎の知り合いだろう?」
その一言で、二人はようやくその人物のおおよその立場を把握できた。
おそらくこの老人は、紅葉山楽団の関係者だろう。
それに、周りの傍仕えを見ればそれが随分と位の高い人物だという事が見て取れる。
「あなたはもしかして紅葉山楽団の方ですか?」
凪が答え合わせをしようと、老人に問いを投げかける。
「ああそうだ。私は天道伊右衛門。紅葉山楽団の監修者をしている。」
その答えに凪は目を見開いた。どうやら伊右衛門の正体を知っているらしい。
「伊右衛門って・・・将軍の天道伊右衛門様!?」
「え、ええっー!」
突然の事に思わず大声を上げてしまった。
なんと目の前の老人の正体は将軍様だったのである。
将軍とは国の頂点に立つ者。全てを従え、すべてを我が物にする王者だ。
それに、将軍は普通城からは出られないのだ。近場の城下町に足を運ぶだけでも
信じられないほどの莫大な金額がかかる。
「あの、どうして伊右衛門様はこんな所にいるのですか?
将軍様って普通外に出ることは滅多にないって聞いた事があるのですが。
それになんで私達の拘束を解いてくれたのですか?」
紅葉のその問いに、伊右衛門がほんの少しだけ不機嫌そうな表情で、
血管が浮き出たその手で紅葉を指さす。
いきなり指をこちらに向けられた紅葉は驚いて「わっ!」とその場で飛び退いた。
「お主は質問が多いな。私は一人しかいないんだ。質問は一つずつだぞ。」
少し叱られた紅葉は、「じゃ、じゃあ何でここにいるのですか?」と呟いた。
「先程も言ったが私は紅葉山楽団の監修者をしていてな。
今日は丁度公演が終わったから出迎えをしていたんだ。」
その答えに凪と紅葉は顔を見合わせて頷く。そして伊右衛門の方へ顔を向けた。
「伊右衛門様!この後お時間ありますでしょうか?」
紅葉が伊右衛門にこの後の予定を聞いた。
「出迎えが終わって楽団全体に少し話をした後は特にはないな。」
その返答に紅葉は心の中でガッツポーズをとる。
そして拳を握りしめて口を開いた。
「あの、天榎ちゃんの事について話さなきゃいけないことがあります!」




