第一章エピソード12『潜入捜査レベル2』
呼吸と物音に気を配りながら、慎重に反対側に進む。
一歩一歩の進み方さえも命取りになることがある
緊張で足が震えそうになるが、
この状況で一瞬たりとも気を抜かすことはできない。
何としても管理室に行かないと───────
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
二人は楽屋から外に出て何とか劇場内の者が管理されている
管理室への道を進もうと奮闘していた。
だがこれはどうやら至難の道になりそうだ。
何故かというと・・・・・
「止めて止めて!全然駄目じゃん何やってんの本当に・・・
あと何時間かで本番なんだよ!?ちゃんとやってよね?」
「「「「はい!」」」
「じゃあさっきの所から始めるよ。」
「「「はい!」」」
現在紅葉山楽団の通し稽古中なのだ。そして紅葉と凪は客席から見て
舞台の後ろの壁側にある幕の裏に居るのだ。
先程の三人が楽屋から絵師控室に向かった際はまだ休憩時間中だったので良かったが、
今は完全に通し稽古の最中なので、バレたら言い訳するどころか、
三人は体験が中止になり追い出されてしまうのだ。
楽屋から出ると、その先が舞台袖だったので慌てて幕の後ろに隠れたが、
バレるのも時間の問題だ。
「紅葉、ぜーったい音立てちゃ駄目よ。」
凪が口に人差し指を当てて小声で紅葉にそう告げた。
舞台は照明がついているが、舞台の一番後ろの幕の前の天井の部分から客席側に向かって
照明が灯っているのでこちらに照明が当たることはないのだが、
問題は音が鳴ることだ。壁に足をぶつけたりして万が一音が鳴ったりでもしたら
絶対にバレてしまう。もしそれほど大きな音出なかったとしても、
幕に近い場所にいる、大きい楽器を演奏している楽師達にバレる可能性がある。
だとしても演奏中に移動すればいいという話ではあるが、
この通し稽古では部分的な所だけを練習している。
それに反対側の舞台袖までは10m近くの距離があるのだ。
なので一回一回の演奏での動き方が重要となってくるという事になる。
(そーっと、そーっと)
紅葉は体を壁に付けて、壁伝いに歩きながら必死に凪の後を追う。
溢れ出る心臓の鼓動をなんとか抑えながら
進むのだが........
「ゴツン!」
(っー!痛ったー!)
床から足を離さずに引きずって歩いていたので、足をひねってしまったのだ。
溢れそうな悲鳴を必死に押さえた。捻ってしまった左足を上げて、捻った箇所を押さえる。
一方凪は、必死に口元に指を当てながらこちらに目線を送っている。
「ん?今何か音がしたような......」
幕の外から声が聞こえてきた。どうやら楽師の中の誰かが音を聞いたらしい。
その声を聞いた凪は紅葉に手招きし、急いでこちらに来るように指示を送る。
それに応じて紅葉が捻った足を壁につけずに引きずりながら急いで凪の方へ向かう。
「だれ?」
その声と同時に、幕が開かれる。
だが、そこには何もなく、ただの壁が広がっていた。
試しに顔を入れて見てみても、何もなかった。
「なーんだ気のせいか!」
そう言って幕を閉じ、楽師は通し稽古に戻った。
「はあ良かったー。」
二人が安堵の息をつく。
「片方しか見てなくてほんと良かった。」
そう。あの楽師が見た方向は、先程紅葉が足を捻った場所の方だったのだ。
だから偶然バレなかったという事だ。
そしてその後も二人は壁伝いに歩いていき、何とか反対側の舞台袖に到着すると、
奈落と呼ばれている地下に通ずる扉を開けてはしごを降り、
暗い通路を通って管理室に繋がるはしごを登って行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
登って出た先は、沢山の木棚で埋まっていた。それらの棚は全て引き出しが付いており、
一個一個開けないと中に何が入っているのか分からない状態である。
人が歩けるスペースは本当に狭く、体はすっぽり入るがなんとか自由に身動きが取れるぐらいだった。
天井もあまり高くはないので、三吉鬼のような大柄な者は入れないだろう。
この管理室は切手場と呼ばれる公演のチケットを確認する場所でもあるので、
カウンター台があり、劇場内に通ずる扉までの通路と繋がっているので、
無闇に立つと、偶然カウンター台の前を通った者に姿を見られてしまうかもしれない。
なので二人はほふく前進のまま探索していた。
ちなみにそのカウンター台の席に座っている管理室の者はどこにもいなかった。
おそらくここから抜け出して公演をこっそり見ているのだろう。
凪は奈落を通ってきた側の通路を、紅葉はその反対側の通路の木棚の中身を確認する。
「ねぇ凪。そっちは何か見つかった?」
声の音量を抑えて紅葉が凪に問いかける。
「駄目だわ・・・こっちは全部公演の経費に関するものばかり。
そっちは?」
紅葉に現在の状況を聞き返す。
「こっちはね・・・もうちょっとでそれらしい所に辿り着きそうなんだけど・・・
あ、あった!」
契約書を見つけた喜びで思わず大声を出してしまったが、紅葉はハッとして
口元を手で押さえ、両手を合わせて凪に謝る。
そして紅葉が凪の元に近づいてその契約書の内容を一緒に確認した。
その内容は以下の通りだった。
〈紅葉山楽団入団契約書〉
・紅葉山楽団に入団した者は、己の楽器の限界を極める事
・公演に関係する事で楽師同士個人で争わない事
・常に音楽を愛することを誓う事
・入団してから必ず※十年は楽団に所属し続けている事
※何か事情があった場合は、将軍様に相談してから脱退する事
・上記の通りの以外の場合は絶対に脱退してはいけない事
・無許可で脱退した場合、音楽があなたから奪われる事
「何か事情があった場合は、将軍様に相談してから脱退する事・・・」
その文を読み上げた紅葉は凪と顔を見合わせてから、地下通路に行こうとした。
その時、カウンター台の外から何者かの足音が近づいてくる。
それに気づいた凪が急いで紅葉と外に出ようとするも、
遅かった。
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