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あの夏の最後の日。  作者: 伊呂波 うゐ
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■ 弐拾壱 午後六時三分

■ 弐拾壱 午後六時三分


 「おう、古閑か。家は落ち着いたか?」

 「あの、辰ちゃん・・・」

 長崎駅から小倉駅に戻って俺は、その足ですぐに辰宮神社に行った。神社では辰ちゃん。

辰宮央司が神主の格好をしている。

 こうしてみると、数馬にほんとによく似てる・・・

 社務所にあげられて、麦茶を持ってきた辰ちゃんに聞いた。

 「辰ちゃんのじいちゃん・・・辰宮数馬って、どんな人やったん?」

 「?・・・どんな、っていうてもなあ。でもよう知ってるな、じいちゃんのこと。もう

死んだの20・・・21年前かのう。わしが3歳のときやったらしいから」

 「・・・誰と結婚したん?辰ちゃんの、じいちゃんって・・・」

 「まあまあ。冷たいもんでも飲みや。・・・じいちゃんなあ。わしも小さいからよう

覚えちょらんけどなあ・・・ああ、そうや。写真があったなあ・・・」

 奥から古いアルバムを持ってきた辰ちゃんは

 「戦争に行って、左手と右足、ふっとばしたっちいうちょったなあ・・・義足っていうん?

それひきずりながら歩いてた音を覚えちょるなあ。ギイギイ・・・て」

 「・・・」

 俺が見たことのある数馬の写真・・・出征前のやつだ。やっぱり辰ちゃんに似てる。

おっちゃんに見せてもらったやつと同じ写真だ。

 「ばあちゃんは早くに亡くなったみたいやな」

 「な、名前。・・・名前わかる?そのばあちゃんって人」

 「さあ・・・そんなん聞いたことない。あ、写真があるで」

 「・・・」

 それは顔を包帯にぐるぐると巻かれている女の写真だった。・・・結婚式、だろうか

数馬と女が二人で、映っていた小さい、古い白黒の変色した写真だった。

 「戦争で怪我したんかなあ・・・」

 「千鶴子・・・」

 「え?」

 「千鶴子だ・・・」

 きっと、そうだろう。顔は全部、包帯で巻かれていたけれど・・・

千鶴子は、生きていた。きっと。けれど・・・ひどい怪我をしてしまったのか。

空襲で?それとも・・・原爆で?


 「わしの父親もなあ・・・早くに死んじょるけん」

 「え」

 「ようわからんけど、白血病っていうん?わしが生まれる前に死んだんちゃ。

やからわしは、父親の記憶ってないん。わしはひいじいちゃんに育てられた

みたいなもんやし」

 「・・・そうなんか」

 「この神社は、わしのじいちゃんと、ひいじいちゃんがおったんやけどな」

 「・・・ああ・・・」

 ひいじいちゃん・・・辰ちゃんからしてみれば、曽祖父にあたる人は、俺に

とっての『おっちゃん』だ。・・・おっちゃんがいたんだ・・・ずっとここに

 「母ちゃんはわしを神社預けて、どっかに行ってもうたし、じいちゃんよりひいじいちゃん

のがけっこー長生きしたけんな。・・・100近くまで元気やったからな」

 「・・・」

 あのおっちゃんならなんとなくわかるような・・・俺は笑ってしまった。

 「・・・ああ、そう。お前の持ってた箱?な。・・・あれ、どこからもってきたん?」

 「え」

 「なんか昔の・・・戦争の時の色々入ってたけど。あんなんどこにあったん?

ざつのう袋とか、救急箱とか・・・」

 俺と辰ちゃんがこの神社の境内で会った時、俺が持っていた箱のことを辰ちゃんが

聞いてきた。

 「・・・防空壕」

 「ぼうくうごう?」

 「防空壕の中に・・・あって」

 そういうと辰ちゃんは笑った

 「お前、ほんとにどこいっとったんか?防空壕・・・ねえ」

 こいや、と言って辰ちゃんが神社の裏手にあるあの防空壕へ向かった。

なんだ?とあとをついていくとそこには何もなかった。

 「えぇーっ!?」

 「防空壕、て昔は確かにあったけど、今は埋めちょるぞ?」

 「い、いつから・・・俺の小さいときはまだ、あったけど・・・こないだだって」

 こないだ?という言葉に辰ちゃんは首をかしげて

 「んー・・・5年前くらいかなあ?子供が秘密基地とかにして遊んで、万が一

落盤とかあったら危ないからて、埋めたんちゃ」

 「・・・嘘」

 嘘だろ・・・だって俺、あの時、ここで雨宿りして・・・

 でも、確かにあったはずの穴は、綺麗に土をかぶせられていた。

 まるでそこには、最初から何もなかったみたいに。

 ・・・でも、俺はあの防空壕に入って、あの防空壕から確かに出てきたはず

なのに・・・


 その防空壕は、五年前に埋めてしまったという。


 じゃあ、 俺は、本当に『どこ』に行ってたんだろうか?


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