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あの夏の最後の日。  作者: 伊呂波 うゐ
17/22

■ 拾七.一九四五年八月十六日(木曜日) 午前十時四十六分

■ 拾七.一九四五年八月十六日(木曜日) 午前十時四十六分


 ・・・何が変わったのかよくわからないけれど、戦争は終わった。

 畑に水をまきながら空を見上げる。今日も暑くなりそうだ

 「万里、防空壕の荷物を持ってきてくれんか」

 「うん?」

 「もう防空壕も必要ないだろうからな」

 「・・・」

 防空壕に置いていたランプや毛布を神社に引き上げてこい、と

何度か防空壕と神社を往復していた。

 「・・・あれ」

 昼前に、小雨が降り始めた。・・・さっきまで晴れてたのにな、と

雨がやむのを待つ。

 防空壕にはいろいろなものが置かれていた。ほとんどが非常時の

生活用品。鍋だとか救急箱だったが、雨も上がってそれを神社に持って

いくとおかしなことに気づいた。


 「・・・うそ・・・」


 俺の知ってる、いつもの辰宮神社の朱塗りの社があった。

あまりのことに持っていた箱を落とす。

 「・・・んー?」

 神主の格好をしている男が俺を見て

 「あーっ!?古閑万里!?」

 「た・・・辰ちゃん?」

 慌てて辰宮絵馬が駆け寄ってきた。そしてグーで殴られる。

 「お前、今までどこにおったんや!?捜索願が出ちょったで!このアホ!」

 「・・・うそやろ・・・」

 ・・・俺のいた時代・・・しかも、きちんと2005年の8月16日・・・

つまり1945年の8月16日から60年後の世界、だ。

 「なんやそんカッコウ。・・・お前今までどこにおったんか?」

 「・・・というか、数馬・・・おっちゃん・・・辰ちゃん!辰ちゃんの

お父さんって名前は!?数馬って人は辰ちゃんの何!?」

 「な、なんやいきなし?数馬・・・辰宮数馬、てわしのじーちゃんの名前や。

なんでお前がそんな名前知っちょるんか」

 「じいちゃん・・・辰ちゃんのじいちゃん・・・」

 「でも、もう20何年も前に死んどるで?・・・わいの名前付けてくれたんやけどな」

 「・・・」

 「どうしてそんなこと・・・って、あー!お前、今から警察いくぞ」

 「・・・警察?」

 「行方不明の捜索願出されとるし、お前のお母さんに連絡したんか?」

 「・・・あの、俺ってどうなってんの?」

 「はあ?それはこっちの台詞っちゃ!いきなし1ヶ月前・・・そう、わしがお前と

会った最後の人間やったみたいやし。家出か誘拐か失踪か事故かしらんけどなあ、

お前どれだけ親に迷惑かけちょると思う?いきなりお前がおらんくなって一騒動

あったんやで」

 「・・・行方不明・・・?」

 「でも、なんやいきなり裏から何事もなかったかのよーに・・・それに」

 「・・・」

 「お前、何もっちょるんか・・・」

 俺の持ってる箱の中には救急箱やランプがあった。

 「・・・?・・・いつのか?ずいぶんと古い・・・とにかく警察!学校!お前の家!

・・・長崎からお前の父親きちょったし」

 「・・・父さんが?」

 「そら、いきなり子供が行方不明なったら親は心配するやろー・・・」

 「・・・」

 わけがわからない・・・

 辰ちゃんに警察に連れて行かれ事情聴取みたいなことをされたが俺にはまったく

わけがわからなかった。自分がどこにいたのか、誰といたのか。


 きっと言っても信じてもらえないだろうが・・・


 「万里!」

 家に帰ると母親が

 「今までどこで何をしちょったん!?」

 「・・・ごめん・・・」

 「ああ、でもよかった。本当に無事で・・・」

 そう言って泣き始めた母親を見て胸がずきっとした。

 「・・・父さんがきとったっち?」

 「ええ、一週間してあんたがほんとに帰ってこんかったし、思い当たるところは

全部連絡して最後にあの人のところに。ひょっとしたらあんたが、あの人の

ところかもしれんっち思って。そして違う、っち、わかったら急いできて・・・」

 「・・・」

 父親にも心配かけたんだな・・・と思うと申し訳なかった。

 「・・・ごめん、母さん・・・」

 「万里・・・」

 「本当に、ごめんなさい・・・」

 それにしても、と改めて60年後の・・・自分のいた場所に戻って驚いた。

こんなにものがたくさんあるなんて。

 昔はほんとに何もなかったのに。それでも、ひとは生きていられた。

 テレビもパソコンも携帯も、洗濯機もドライヤーも、冷蔵庫も電子レンジもない。

風呂に入るのも薪を割って火をつけて湯を沸かし、水も井戸からくみ上げるかポンプ

で何回も往復して水を入れる。食事をするのもかまどに火を入れた。ガスコンロもないし

食べ物もろくになかった。

 でも、それでも毎日が過ぎていった。

 何もないなりに、色々な工夫をしながら生きていた。

 扇風機もクーラーもないし、殺虫剤なんてもんもないので、蚊帳をつるして、風鈴を

置いて風をみる。うちわをばたばたあおぐ。水を撒いて、少しでも涼しくなるように

工夫した。野菜は井戸で冷やして、決して食べ物を捨てる、なんてこともなかった。

今みたいにおいしくなかったら、とか味に飽きたから、なんて理由で食べ物をすぐに

棄てたりもしない。その食べ物自体も、本当になかったのだ。

 シャンプーなんてもんもないので、俺は髪を毎日洗いたくてたまらなかったが、

灰をまぜた水ですすぐといい、と近所のおばちゃんが教えてくれて、それをすれば少しは

マシだったし、洗剤や石鹸がなくてもなんとかなるってことも知った。


 それが

 60年前は『当たり前』だった・・・

 60年たって、世の中は便利になったけれども、便利になったはずなのに、なんだか

心は窮屈になってしまったみたいだ。あと、色がこんなにたくさんあるのにも驚いた。

赤や黄色、青、緑。色鮮やかな服。あのときにみんな着ていた服は、白だとかカーキ色

とかばかりで、鮮やかな色だとかはほとんど見れなかった。でも。山や木の緑なんかは

60年前のほうが濃く感じた。そして、空の色も・・・


 『万里?お前どこに行っとったんか』

 「・・・ごめん」

 『心配かけさせるんじゃない』

 「・・・」

 久々に父親の声を聞いた。両親が離婚して、父親は実家のある長崎に戻っていた。

5年前から父親に会ってないから、5年ぶりに聞く父親の声だった。

 『じいちゃんもお前のこと心配してたぞ』

 「・・・じいちゃん?」

 長崎のじいちゃんは、あんまり会ったことがない人だった。離婚してからは

まったく音沙汰もない。それでもものすごい昔・・・長崎に行ったとき。

 俺と一緒に坂道を歩いたり、海を見に行った記憶があった。


 「古閑のお義父さん、入院してるってお父さんがいってたわ」

 「・・・そうなんだ」

 「もうあんまり長くないかもね・・・76歳だったかしら」

 「ふうん・・・」

 とにかく俺がブジに戻ってきた、ということで学校のほうでも警察でも

こってり絞られたのだが、この時期(夏休みは?)は家出とか多いみたいだから俺も

そんな一人だと思われてみたいだった。

 俺はきっかり7月15日から8月16日までの1ヶ月、行方不明になって

いたらしい。・・・つまり俺が60年前の世界に行ってたときはそのまま

コチラの世界では行方不明だったのだ。


 じゃあ、向こうの世界での俺は行方不明になってるんだろうか・・・

 60年も前のことだからわからない。


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