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あの夏の最後の日。  作者: 伊呂波 うゐ
15/22

■ 拾伍.一九四五年八月九日(木曜日) 午前十一時二分

■ 拾伍.一九四五年八月九日(木曜日) 午前十一時二分


 天気はくもり。降りそうで降らない・・・

 朝からじゃがいもの苗に水をやったり、草をむしっていた。

 昼過ぎて、長崎で広島と同じ新型爆弾が落ちた、とラジオが告げていた

 数馬は

 「万里」

 「え」

 「少し散歩がしたい」

 「あ、うん・・・」

 数馬が帰ってきた、というのを近所の人たちは知っていたけれど、数馬の

姿を見て皆、何も言わなかった。足も手も片方ずつなくなり、顔にまかれている

包帯もまだとれない。消毒のために一度、おっちゃんが顔の包帯をとっていたが

左半分はものすごいヤケドで目も見えない、ということだった。

 「・・・変わったな」

 「え」

 「このへんも昔は家がたくさんあって・・・でも空襲で燃えてしまった。

・・・たった2年でなにもかも変わった」

 「でも・・・60年後は、ここいらものすごい住宅地だよ」

 「・・・そうか」

 「あのあたりに、コンビニがあってさ。・・・道も広いし。変わってないのは

神社だけだよ。たぶん」

 「神社はずっとあるんか」

 少し嬉しそうに数馬は笑う。

 「・・・そうか、なら安心やな」

 「・・・数馬がいるからだろ」

 「60年後・・・俺はいるのか?」

 「・・・う、うーん・・・どうだろう」

 辰宮家の事情。俺は辰ちゃんの家族構成とかまったく知らないのでわからない。

たとえば辰ちゃんの父親だったり親戚だったりがこの人・・・だとは思うけれど

確証がない。

 数馬が生きてたとしたら84歳

 「・・・覚えてちょるかな」

 「ん?」

 「もし、俺がもとの世界に戻れたら。数馬は俺のこと覚えちょるんかな」

 「・・・どうやろうな」

 でも

 俺は、辰宮神社にこういう人がいた記憶がない・・・

 またサイレンが鳴る。

 「・・・もうすぐ・・・この音も、聞かなくてすむようになる」

 空を見上げて数馬は

 「・・・それだけでせいせいする」

 「・・・うん・・・」


 空襲で焼け野原になった町の中で、俺と数馬は空を見上げていた

 きっと俺は忘れない

 と思った

 きっと・・・


 千鶴子からの連絡は ない

 誰も彼女のことを口にしなくなった

 それほど 広島は 酷かった

 いつかみんな知る

 自分たちが思ってる以上にきっと残酷な事実を


 この戦争が遺した傷痕を


 「戻ろうか」

 松葉杖の数馬が神社に歩き出す

 俺もそのあとをついていく

 二人の長い影が道路にうつった


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