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あの夏の最後の日。  作者: 伊呂波 うゐ
14/22

■ 拾四.一九四五年八月八日(水曜日) 午後一時

■ 拾四.一九四五年八月八日(水曜日) 午後一時


 8月8日の天気は、くもり


 ・・・昨夜の空襲の影響もあるのかもしれない。昨日の夜は一晩中、空襲警報が

鳴り響いていた。北九州市には官営八幡製鉄所、と小倉陸軍造兵廠、というのが

あるので空襲が多いのだそうだ。日本で一番最初に空襲があったのも八幡だと

数馬が教えてくれた。今では八幡製鉄所、なんていわれてもよくわからない。

八幡といえばスペースワールドという遊園地があるくらいしか印象にない。

千鶴子が働いているのは小倉造兵廠というところで、昔の地名を言われても

よくはわからなかったけれども、今の市役所のあるあたりに行っているようだった。

萬亀は下曽根にある工場に行っているらしかったけれど、そこで何をつくっている

だとかは何も話さなかった。小倉や下曽根に工場があったことも、俺は知らない。


 数馬は防空壕に入らない。サイレンが鳴ってもずっと空を見上げていた。

 だから俺も、ずっと隣にいる。朝方は晴れてたけれども、昼前になって雲が多く

なりはじめた。この天気が、小倉の運命を変えたことも、俺は何も知らずにいた。


 「・・・降るかなあ」

 「どうだろうね」

 数馬は辰ちゃんのレポートにざっと目を通していた。ほかにも俺の持ってきた

雑誌を見て色々と聞いていた。


 「携帯電話・・・便利やな。どこにおっても連絡ができるなんて。無線みたいな

もんかな」

 「無線???」

 無線がよくわからなかったが、大きさが手のひらにおさまる、というと驚いていた。

 「そんな小さな機械で世界のどこにいても連絡がとれるんか?」

 「うん、海外ケータイにしたらね」

 「じゃあ、戦況はつつぬけだろうにな」

 「・・・うーん」

 数馬のいたのは、南の島だったらしい。ジャングルの中を何日も彷徨っていた

のだそうだ。アメリカの攻撃を受けて爆弾で手足がふっとばされそれでも

生きてこうして日本に戻ってきた

 「船で死んだ人間もたくさんおった・・・遺品だけ箱につめてあとは海に捨てられた」

 「・・・数馬も時計が届いたけど・・・」

 「死んだと思われたんやろうな。それに・・・時計をつける腕もないし」

 そういって手のない腕を振った

 「・・・明日、長崎で何か起きるんやな」

 「ああ・・・また、原爆が落ちるん。・・・広島と長崎に原爆が落ちて、戦争は

終わる・・・と思うよ」

 「爆弾が落ちる前に終わればよかったんだ」

 「・・・」

 「こんな戦争・・・」

 いつになく顔をしかめて数馬はつぶやいた

 「・・・数馬は」

 「ん」

 「・・・戦争は間違ってたと思う?」

 「・・・わからん。・・・今でも天皇陛下の言葉は絶対だとおもう。ただし・・・

負ける、なんて思わんかった。この戦争に」  

 「・・・」

 「今になってみたら、わかる。最初から勝ち目はなかったんかもしれん」

 「・・・そう」

 「でも、大切なのはこれからだろう?・・・この戦いに負けても、この先が

あるのなら」

 「・・・」

 この先・・・

 この先の 未来

 辰ちゃんのレポートは8月15日で終わっていた。きっとその日に戦争は終わる。


 ・・・あと、一週間・・・


 この世界は

 変わる

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