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あの夏の最後の日。  作者: 伊呂波 うゐ
12/22

■ 拾弐.一九四五年八月七日(火曜日) 午前九時三分

■ 拾弐.一九四五年八月七日(火曜日) 午前九時三分


 翌朝  

 縁側に一人、座って数馬が外を見ていた。

 「・・・君は?」

 「・・・こ、こんにちは」

 「・・・君は、どこからきたんか?・・・その髪の色は、外国の方なんか?」

 「いや、これは染めてて・・・」

 「・・・父さんは、君は遠い外国からきたといっちょった・・・でも日本人みたいだ」

 「・・・いや日本人なんだけどね」

 隣に座る。・・・腕や足がない。顔の包帯も痛々しい。

 「君も戦争に行ったんか?」

 「いや、俺は・・・まだ学生だから」

 「そう・・・」

 まだ、若いんだな、というと

 「・・・日本は、戦争に負ける」

 「・・・」

 「もう、戦うちからが残ってないのに・・・どこにも」

 「・・・そうですね」

 「沖縄も占領されて・・・空襲をこんなに受けて・・・新型爆弾が落ちて・・・

もうなにも、日本には残されちょらんな」

 「・・・」

 それにしても・・・

 痩せてはいたが、この人、本当に辰ちゃんにそっくりだった。

 どういう親類なんだろう・・・。

 「父に、ちょっと君の持ってきた資料をみせてもらったよ」

 「え・・・」

 「・・・君は・・・『明日の世界』からきたんやな」

 「・・・」

 「でも、君が『明日の世界』からきたっちゅうことは・・・このままこの世界は

終わらないって事やな」

 「でも・・・俺は、もう戻れないかもしれん。ずっと・・・この時代に

生きていかないといけないかもしれん」


 どうしたら戻れるのか、なんて。きっと誰にも解らない。


 俺がここに来た原因がわからないのと同じで


 「古閑・・・万里くん、っていったっけ。・・・君は、もし君のいたもとの場所に

戻れなかったら、どうするん?」

 「・・・そのときは、ここで生きていかんと・・・ですね」

 「・・・そうか」

 「・・・でも、俺にも家族がいて・・・母親だけど。・・・少しはシンパイしてるか

も。・・・俺には兄弟はいないけど・・・」

 「・・・お父さんは?おるん?」

 「離婚して。・・・ずっと会ってないです」

 「そう・・・」

 それから何も言わなかった。

 「・・・千鶴子は、生きちょるやろうか」

 「・・・わかりません」

 「・・・私なんかが生きちょっても、どうにもならんのに。もう・・・」

 「そんなこと・・・」

 世界は

 こんなふうに過ぎていても、残酷なくらい美しい。

 緑はあおあおと茂ってて

 セミはやかましく鳴いて

 「・・・ああ、また空襲やな」

 遠くでサイレンが鳴った。でも、防空壕には入らなかった。

 だから俺もそこにいた。

 銀色の飛行機が見える。何かをバラバラと空から落とす。

 そして


 『世界は終わる』  


 きっと人もたくさん死ぬ。

 建物も燃える。

 でも

 俺たちは、ここにいる。


 「・・・もし元の世界に戻れたら、俺、学校に戻ろう・・・」

 「戻る?」

 「・・・学校、行ってなかったん」

 「・・・どうして」

 「わかんねーけど、いきたくなくて。行きたくなくなったら、ほんとに行くのが

いやでいやで。逃げて逃げて逃げて・・・でも、逃げ場なんてどこにもなくて。

・・・でもさ。多分、おっちゃんとか、あんたの親戚の人で。・・・辰ちゃん・・・・

辰宮央司って人がさ。・・・気を遣ってくれて」

 「・・・ヨウジ・・・」

 「戻れたら、ちゃんと学校行くよ。戻れなかったら・・・うーん、それでも

学校行くよ。この世界でも」

 「・・・そうやな」

 そうするといい、と数馬は笑った。

 「央司・・・私の死んだ弟の名前と、同じやな」

 そういえば、10年前にヨウジ・・・おっちゃんの息子で、この人にとっては

弟になるという人が、肺結核で死んだ、ということを聞いていた。


 俺は

 まだ、何も失くしてはいない

 父さんも、母さんもいる。

 そういうことが、どれだけ幸せなことだったかなんて、この世界にくるまで

気付かなかった。


 「・・・」

 「・・・子供、か・・・」

 なくなった足を見て、数馬は笑った

 「・・・父が再婚でもするのかな」

 「・・・さあ・・・」

 いつしか空襲警報も終わった。静かな静かな、夏の午後だけがあった。

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