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あの夏の最後の日。  作者: 伊呂波 うゐ
11/22

■ 拾壱.一九四五年八月六日(月曜日) 午前六時十七分

■ 拾壱.一九四五年八月六日(月曜日) 午前六時十七分


 ・・・俺はずっと気になって昨日から眠れてない。

 小倉の天気は晴れ。


 千鶴子は

 無事に広島を離れただろうか・・・。

 それすらも確かめるすべは、ない。


 「広島に新型爆弾が落ちたってよ!」  


 そんな話が、午後から出てきた

 「一体どうなるんかねえ、この戦争は・・・」

 負けるんだよ

 「空襲も毎日ひどいし」

 「千鶴子ちゃん、大丈夫かねえ・・・」  


 ・・・わからない

 千鶴子がどうなったのか、とか。息をきらせて夕方にやってきた

萬亀は

 「ば、万里さん。万里さんのいったとおりに広島ですごい空襲があって・・・

なんだか新型爆弾が落ちて大変なことになっとるみたいっち、いいよった」

 「・・・」

 「どうして万里さんは広島に爆弾が落ちるっちわかったん?万里さんは・・・

ほんとは連合軍の人間なん?」

 「・・・」

 「どうして・・・」

 「・・・萬亀」

 「百太郎にいちゃんも千鶴子ねえちゃんも・・・みんな、みんないなくなったら俺

どうしたらいいんだよう!」

 「・・・」


 どうにもならない・・・

 この絶望の中で


 「この戦争は、負けるん」

 「・・・万里さん?」

 「多分、あと少しで・・・日本が負けて戦争が終わるん」

 「そんなん嘘だ!日本は負けない。日本は神国やから・・・」

 「負けるんっちゃ!アメリカに負けて、占領されて、でもそっからがんばって

がんばって。日本はすっげーいい国になるんっちゃ!・・・だから・・・」

 「・・・」

 「あと。ちょっとの辛抱だ・・・」

 それ以上、言えなかった。

 俺には

 正直、わからなかったから。

 どうして今の日本があるのか、とか。

 ・・・どうやって日本が戦争に負けて今のようになったのか、とか。


 何も知らないから・・・


 夕闇

 風が吹いた

 血みたいな赤い夕焼け

 ・・・ひぐらしの鳴き声がやむ

 暗闇の向こうから、なにかがやってきた。

 「・・・な・・・ん?」

 最初、それは布だった。

 布、にしか見えなかった。

 布が浮いている。

 「ひっ・・・」

 おどろいて萬亀が俺にとびついた。

 「あ、あれ何・・・」

 「・・・」

 人間・・・?  


 それ

 は


 人間・・・のよう・・・だったが、明らかに異質だった。

 まず

 左腕が、なかった。

 そして

 右足も。

 かろうじてある右腕に松葉杖をつき、よたよたと階段を上ってくる。

 血まみれの包帯。

 息をつくのもきつそうだ。そして頭も包帯でまかれてある。

 「・・・数馬・・・にいちゃん?」

 「え・・・」

 「数馬にいちゃんだ・・・」

 「・・・」

 「にいちゃん!」

 萬亀が近寄る。数馬は少しだけ笑った(ように見えた)

 「・・・元気・・・やったか?」

 「にいちゃん、どうして・・・足・・・」

 「・・・ああ、ざまあないな・・・生きとるんが・・・みっともない。あのとき・・・

わしも、死ねばよかった」

 「そんな・・・」

 「・・・死ねれば、よかった・・・」  


 「数馬!?」

 おっちゃんが出てきて数馬に寄った。

 「お前、その・・・腕は・・・」

 「・・・申し訳ありません・・・」

 「・・・」

 「・・・生きて・・・しまって・・・」

 「何を言うんちょるんか!早く家の中に・・・」  


 ・・・ああいう状態でも

 ひとは、生きてられるのか。

 まだ、切断された腕や脚は血がにじんでいた。  


 一瞬

 数馬と、目が合った。

 ・・・ぞっとする。  


 まるで

 生きてるみたいだけど、もう死んでる人間のような、瞳・・・。  


 「・・・私のいた部隊は、全滅したんです・・・私一人を残して」

 「・・・」

 「私は・・・気がついたら、野戦病院におりました・・・体中の感覚が

なく・・・ほどなくして、左足と右手がないことに気付いた・・・

喉が渇いて、水が欲しくて・・・ハエが飛び回って、傷口に卵を

産み付けてそこから蛆が這い回る・・・どんどん、まわりの兵隊たちが

死んでゆきました・・・皆、口々に家族の名を呼んでいた・・・」

 「・・・」

 「船に乗せられて・・・下関に着きました。けれど、空襲で・・・下関は

私の知ってる町ではなくなっていた・・・小倉も、八幡も。すべて・・・

すべてが、灰に・・・この神社にやっとたどりついて・・・でも・・・」

 涙を流しながら

 「生きているのが、皆に申し訳ない・・・」

 「何を言うとるんか!生きちょるだけで・・・生きててくれただけで・・・」

 「・・・」

 おっちゃんも泣いていた。萬亀も泣いていた。

 「萬亀も、大変やったな・・・そうだ、千鶴子は・・・」

 「それが・・・」

 「・・・?」

 「・・・」

 

 広島の百太郎のところに、というと、真っ青な顔をして数馬は

 「広島・・・?今日、新型爆弾が落ちて・・・街が、壊滅状態に・・・」

 「電報を打っちょるけど、無事かどうかなんて、わからなくて」

 「・・・」

 「ところで・・・こちらは誰だ?」

 俺を見て数馬は、怪訝そうな顔をした。俺はうつむくしかない。

 「詳しい話は、また明日だ。・・・数馬、もう休むんだ」

 「・・・」

 「萬亀も、早く家に戻って・・・ひょっとしたら連絡があるかもしれん」

 「う、うん・・・」

 しぶしぶと萬亀が家に帰る。よく帰ってくれた、と床の間に布団を敷いて

おっちゃんはずっと数馬についていた。  


 数馬が戻ってきた。

 でも

 千鶴子は・・・?  


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