獣王国、初めてのダンジョン
その後、彼らがいなくなった後の組合では……。
「すげーな、あの人間」
「あいつらがのした連中、この街でも5本の指に入るパーティって話だろ?」
彼らの凄さを語る者。
「周りの女も、上玉ばかりだったな……」
「あれなら俺だって声かけたくなるぞ」
連れている女性に対して羨望を向ける者。
「流石に子供の方は幼すぎるけどな」
「いやぁ、あれも数年したら相当なもんだぞ」
「ロリコンか?」
「何だと!」
趣向の違いから取っ組み合いの喧嘩を始める者など。
「……とりあえず言えることは、喧嘩を売る相手はきちんと見極めないといけないって言う教訓だな」
「だな……」
話の話題や内容は様々だが、今日の組合は、いつもより少しだけ騒がしかった。
「ここがダンジョンですか」
組合を出た俺達は、その後すぐ街を出て近くの遺跡へと足を運んでいた。
「ああ、獣王国に七つある最難関ダンジョンの中でも、最古のダンジョンと言われている『東の遺跡』だ」
ここを最初に選んだ理由は三つ。
まずは近い事。
ここが、最難関ダンジョンの中で街から最も近い距離にある。時間にして、街を出てから一時間とたっていない。
二つ目は、戦利品。
アイテムも勿論欲しいが、ここで手に入るのはアイテムではなく、盾。前回の世界で、俺が欲しいと思っていた防具の一つ。
結局あの時は、勇者が勝手に売っぱらってしまったため、俺の手に渡ることはなかったが。
そして三つ目が、難易度。
最難関ダンジョンの中では、おそらくではあるが、ここが一番簡単だと思う。
当時の基準なので絶対とは言い難いが、ボスモンスターなども居らず、最難関ってこの程度かよと言っていた勇者と珍しく意見が一致したのが印象的だ。
「ほう……うむ?」
俺の説明を聞きながら、興味深そうに遺跡を観察していたリーラが、ピクリと、何かに反応を示す。
「ここを知っているのか?」
もしくは、遺跡に来たことでもあるのだろうか。
「いや……」
俺の質問に首を振り否定したリーラは、そのまま、ミオンへと視線を移す。
「ところでミオンよ。姉妹などはおるか?」
なんだ、その突拍子もない質問は。……いや待て、そう言うことか?
「? はい、私より前に制作された姉が二人と、後に制作された妹が一人いますね」
そんなリーラの唐突な質問に、不思議そうな顔をしながらも答えるミオン。
二人を見ながら、今度は俺がリーラへと疑問を投げかける。
「……もしかして、いるのか?」
ミオンの姉妹となる、自動人形が。
「恐らくは……だがの」
リーラは俺の問いかけに肯定を示しながら、遺跡を睨みつける。
「ミオンと似た気配をここから感じるのだ」
彼女がそこまで言うのなら、本当に居るのかも知れない。
「ここにも隠された道があるのだとしたら、こいつの出番かな」
懐から、今やダンジョン探索の定番となったモノクルを取り出す。
姉妹達も、ミオンと同じように隠し部屋などで眠りについているのだろうか?
「……」
そんな俺たちのやりとりの中、ミオンは一人、黙って何かを考えているようだ。
「どうした、ミオン?」
「いえ……私は目を覚ます前の記憶が無いので、姉妹の事は詳しく知らないのですが……」
顔を上げ、目の前の遺跡を見つめる。
「この遺跡には眠っていないような気がして……」
遺跡にはいない?
「どう言うことだ……?」
ミオンかリーラ、どちらかが間違えているいるか、もしくは。
「姉妹の誰かをここに移したか、既に目を覚ましてここにやってきたとかでは無いのか?」
そう、その可能性。だが、もしそうだとすると、その自動人形は既に可動を初めていて、俺たちのように何か目的があってここに来ている事になる。
「……」
何か、嫌な予感がする。
「とりあえず、気をつけて進もう」
「そう、ですね」
みんなにも警戒を促し、俺たちは慎重に遺跡へと歩みを進めた。
♢
「足元に気を付けるんだぞ」
「はーい」
遺跡の中は思ったより明るい。だが、足元には瓦礫などの残骸も多く小さいロロは歩くのに苦労してそうだ。
「モノクルに反応は……特にないな」
遺跡へと入った時から、モノクルは常に着けて周囲を観察しているが、何かを見つけるような事もなく、順調に進んでいた。
「アイテムの回収などなしなくても良いのか?主よ」
「ああ、必要なアイテムだけを最小限で回収していく」
寄り道は不要だ。それに、俺たちがあまりにもアイテムを乱獲をするのは、周囲の反感すら買ってしまう。それは前回で学んだこと。
「ふむ、そうか」
「必要なアイテムって何があるんでしょうか」
今度はミオンが問うてくる。
「ここでは、アイテムじゃなく装備だな。『創造の盾』を手にいれる」
この盾は、かつて俺が喉から手が出る程欲しかった防具。
「盾……か。そう言えば主は、防具などを何も持っておらぬな」
「邪魔になるだけだからな」
リーラの疑問も最もだが、転移者は普通の人々と少し事情が異なっているのだ。
「俺たち転位者は、職業とステータスで武器や防具なんかなくてもある程度戦えるんだ」
そう、俺が防具を一切着けずに魔物の攻撃を受け切れているのは、単にステータスの補正が大きい故。
「だから、使う武器や防具は見た目や質よりも特殊な能力を有している物を装備したほうが良い」
煌びやかな剣を握った所で、剣自体が本人の力に耐えられなければ意味がない。
それならば、自動修復機能が付いた剣や魔法が放てる魔剣を使った方が格段に戦力が増す。
「つまり、今狙っている盾は主の役に立つ能力があるという訳か」
「そうだ。その盾は、名前の通り装備者のイメージで形を変える特性がある」
盾も同じ。使用者である俺が素で防御が高いのに対し、俺より脆い盾なんか持たない方がマシだ。
だからこそ、ここにある汎用性の高い『創造の盾』は俺好みの防具と言える。
「ほう」
「知らなかったのか?」
ロロの時、俺すら知らないアイテムを知っていたリーラだ。この手の情報には詳しいものだと思っていたんだが。
「我が知っているのはアイテム、それも神話級か秘宝級などの貴重なアイテムだけだぞ」
……つまり、古くから存在するアイテムなら知っていると言うことか。
「なるほどな」
さすがドラゴン。年の功は伊達ではないと言ったところ。
「主は何か失礼な事を考えておるな」
「そんなこと、ないぞ?」
考えていた事が読まれたのか、リーラに睨まれてしまう。
「マスターは顔に出やすいですからね」
慌てて誤魔化そうとする俺に、ミオンが苦笑いで言う。
「そ、そうなの?」
初めて知った。今までそんな事言われた試しもなかったし。
「はい。ですから、私の胸に対して憐れむような思考をしていても気づかないフリをしていました」
にっこり。微笑んでいるはずのミオンの目は、笑っていない。
「……」
冷や汗が止まらない。おかしい、この遺跡はこんなに寒かっただろうか?
「き、気を付けるよ」
辛うじて口から出たのは、そんな一言だけ。
「そうしてください」
ミオンは追求するつもりもないのか、俺から視線を外し顔を正面に戻す。
……助かった。
「ロロのお胸も小さいよー?」
「ロロさんは大丈夫ですよ。これからまだまだ成長しますから」
自分の胸を悲しそうに見つめるロロの頭を撫で、優しそうに諭すミオン。
「ほんと!?」
「ええ」
側から見てると、本当に微笑ましい家族のようだ。
「我も成長期だからな! これからが楽しみな年頃だ!」
いや、お前は俺のイメージでその姿になったと言っていたじゃないか。
つまり、機械であるミオンと同じでこの二人はこれ以上成長の見込みが――。
「マ ス タ ー ?」
ギギギ……と音でもしそうな緩慢な速度で、ミオンが振り返る。
「先程、気をつけると言いましたよね?」
「はい……」
「行きますよ」
「分かりました……」
あれ、もしかしてこのパーティで一番偉いのってミオンではないのか?
ふと、そんな事を思ってしまう。




