注目
「うーん。とっても寝覚めがよいな! こんな朝は初めてだ」
世界をやり直して、五度目となる朝。思えば、随分と駆け足でここまで来てしまった。
「ロロさんも、よく眠れましたか?」
「うん!」
三人とも、朝日を浴びキラキラと輝いている。良いことだ、女の子はこうでなくては。
「……」
だから、俺一人が疲弊していても何も問題はないのである。
「マスターも、元気そうですね」
「……そう見えるか?」
昨日は、寝返りどころか身動き一つ取れないまま朝を迎えた。
そんな状態の俺が、元気に見えると言うのだろうか。
「はい」
……はっきりと目を見て答えるミオンに、これ以上追求する気も起きない。
「そうか……なら良いんだ」
みんなが元気なら、俺は嬉しい。
気を取り直そう。
「よし」
顔を軽く叩き、気合を入れる。
「組合に行くぞ」
今日の目的は、ダンジョン。しかもかなり本格的な攻略になると思われる。
あの国で巡ったダンジョンは、浅いものばかりですぐに攻略できた。しかし、本日向かう予定の場所はそうはいかない。
みんなの強さなら心配はいらないだろうが……油断は禁物だ。
「我らは登録なぞしていないが大丈夫なのか?」
リーラの純粋な疑問。だが、それは問題ない。
「ああ、パーティのリーダーが登録をしていれば、メンバー全員がダンジョンに潜れる」
実際、冒険者の殆どが組合に登録してからパーティを組むため、意外と知られていない情報だったりする。
「組合の仕事は、あくまでダンジョンの管理だからな」
「なるほどのう」
「では、行きましょうか」
ミオンの一言で、俺たちは組合へと歩き始めた。
心配は少ないが、気を引き締めて向かうとしよう。
昨日は一人で訪れた冒険者組合。今日は、みんなでその扉を潜る。
「ん?」
中に入って最初に感じたのは、複数と言うにはあまりにも多すぎる、視線の波。
「何か……注目されていますね」
「こわーい」
みんなもそれは感じているのか、少しだけ警戒の色を強める。だが。
「嫌な視線ではないのう。どちらかと言うと、畏怖や尊敬に近いものだ」
そう、リーラの言う通り肯定的な視線のように感じるのだ。
「……」
とは言え、無遠慮な視線が刺さっている事には変わらない。
俺たちは居心地の悪さを感じながら、受付へと足を進めた。
「あ……」
昨日も見た獣人の受付嬢が、俺の顔を見やり表情を変える。
「こ、こんにちは」
笑顔もどこかぎこちないように思うが……。
「何かあったのか?昨日とは随分違うが」
「いえ……」
受付嬢は、少し悩むような仕草を見せた後、意を決するように話し出してくれた。
「実は……昨日三人組の冒険者を一撃で倒した人間がいた……と話題になっていまして」
「ああ……」
なるほど、それでか。
彼女の最初の一言だけで、全てを察する。昨日のあれを、見られていたのだ。
「それで、その人も冒険者だったらしいと」
らしい、と言うのは、この街であまり見かけない者だったと暗に伝えているのだろう。
「実力はあるのに見たこともない人間の冒険者……登録を終えたばかりの人かも知れない、と噂されておりまして」
背後でもチラチラと、こちらに聞き耳を立てている気配がする。
それほど、気になっていると言うことか。
「それで、俺がそうだと?」
だが、ただの予測でここまで注目を集めるものなのか。
獣人達から見れば、俺は貧弱な人間そのものであるはずなのだが……。
「実は昨日、冒険者登録をしたのはあなた一人なんです」
「……なるほどな」
つまり予測ではなく、確信だったのだ。
今までの特徴全てに当てはまるのが、今この街では俺ただ一人。
「しかも昨日の方々は、実力は確かなんですが素行に問題があって評判は良くなかったんです」
「そうか」
噂の進行速度の正体は、これ。
元々悪目立ちしていた連中だった為に、こちらも巻き込まれる形で目立ってしまったと言うことか。
それに、ミオン達も相当目立つ存在だ。運悪く様々なことが絡み合い、今の状況が出来上がってしまった。そういうことだろう。
「あの……それで、真相はどうなんでしょうか?」
疑念ではなく確信であるはずが、それでも彼女は確認してくる。
俺の口から、聞きたいと。
「肯定はしない……が、否定もしないさ」
そう言うと、途端に背後から静かながらも歓声が上がった。
「あまり目立ちたくはないのだがのう……」
「昨日の事は仕方がありませんよ」
二人とも目立つ事がこそばゆいのか、視線が落ち着かない。
ロロに至っては、俺の影に隠れて黙りこくってしまった。
「それに、マスターの実力が知られれば昨日の様な事が少なくなりますし、ダンジョンの申請もスムーズに行くのではないですか?」
「む……確かに」
二人は目立つ事のメリットを考え、この境遇を受け入れるようだ。
俺はといえば、前回の世界で勇者の奴が例の三人組以上に悪目立ちしていた為か、慣れている。俺もあいつの仲間として良く睨まれたものだ。
「今日は……東の遺跡に行きたいんだ。可能か?」
とは言え、目立つためにわざわざ組合にまで来たのではない。今日の目的はダンジョンなのだ。
「い、遺跡ですか? あそこは最難関ダンジョンの一つですが……」
俺の発言に、渋るような表情を見せる受付嬢だが――。
「問題ない」
その一言で、押し通る。
「……わかりました。手続きをします」
俺の顔を見て、受付嬢は諦めるようにため息をついた。
「はい、こちらが通行証です……お気を付けて」
そして、ダンジョンに行くための通行証を発行し手渡す。
「ああ」
これがないと、ダンジョンに入ることができないのだ。
無事申請できて良かった。
通行証を受け取った俺達は、多数の視線から逃れるように足速に組合を去るのだった。




