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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第五章 「社畜魔王とクズ勇者」
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第五章2 『瓜二つ』

 魔王の視点です。



 魔王たちは勇者一行に忍ばせていたスパイ、雪女の妹シュネーの報告を受けてすぐに準備を始めた。

 城の留守はデュラハンとフェニックス、ミノタウロスに任せ、計画通りに転移魔法を用いて霧の湖畔へとやってくる。

 そこで勇者たちと出会い、彼らを圧倒した後、ついに魔王は勇者と顔を合わせる。



 サキさんの誘惑の力で勇者は逆らうこともできずに凍った湖の上を歩いてくる。

 ここまでは作戦通りだ。

 セイレちゃんの魔法で逃げ道を塞ぎ、雪女さんとサキさんの力で勇者の仲間を拘束する。

 こうすることで、勇者と一対一の空間が作り出される。


「魔王様、それでは、自分は離れていますね」


「ありがとう、セイレちゃん」


 セイレちゃんが気を遣って湖の端へと移動した。

 サキさん達もこちらを見守るだけで、遠くにいてくれる。


 本当に、どうして俺なんかのためにここまでしてくれるのか。


 そんなことを考えていると、勇者が歩いてくる。

 ひとつ間抜けな勇者の顔を拝んでやろうと思い、その顔を凝視した。



「――!?」



 輪郭やパーツの形がはっきりとわかる距離になり、俺は驚いた。


 その勇者が、あまりにもここに来る前の自分に似すぎていたからだ。


 髪色やピアスの穴など違う点は多々あるものの、いつも鏡で眺めていた自分の顔そのものだ。


 ここまでそっくりだと、恐ろしくなってくる。

 もしかしてここに転生させた奴は、わざと顔の似たこいつを勇者にしたのか?

 そうだとしたらこんな悪趣味なことはない。自分そっくりの勇者を殺せというのか。


「お前の名前を、教えろ……」


「は?」


 確認だ。これは別人であるための確認。


「そんなの聞いてどうするつも――」


「教えろ。お前はこの状況が呑み込めてないらしいな」


「……へいへい」


 勇者は渋々といった表情でブツブツと「どうして野郎に名前教えなきゃなんねえんだよ」と呟きながら、口を開いた。



「――――――だよ」



 え……。


「う、嘘だ……そんなはずはない!!」


「失礼な奴だな。ん、待てよ? お前も元は人間だって話だよな? もしや同名ってことか? こりゃあ驚いた、でもまあよくあることだよな。簡単な名前だし苗字もありふれてっから」


 あってたまるか。

 苗字も名前もありきたりじゃないんだぞ。


 それがどうして、顔も名前も性別も一緒なんだ。


 まるでドッペルゲンガーでも見てる気分だった。

 気色悪くて頭痛がしてくる。

 

「……なぁ、一つ提案なんだけどさ、こんな真似やめない?」


 こちらが混乱しているのを見透かしているのか、周りに聞こえないように勇者は小声で話しかけてくる。


「俺は魔王、お前は勇者だ。こうなるのが当然だ」


「いやいやいやそんなことないって。僕たちは事情が事情なんだ。この世界に来て少し経ってからさ、考え付いたことがあんだよ」


 こいつ、何を悠長なこと……。


「俺は今、お前を殺そうとしているんだぞ。随分と余裕だな?」


「だってお前、僕のこと殺せるわけないじゃん」


「――!?」


「元ホストって職業柄、男も女も顔見りゃ大体わかる。あんたは今、それどころじゃない。自分が全く見えてねぇみたいだからな」


 どうして、初対面のこいつに、こんな……。


「黙れ。俺は本気だ」


 剣を抜き、勇者の首元にそれをかざしてみせるが、奴は微動だにしない。

 虚勢だということはわかっているが、唇を震わせ、こちらを見てくる。

 俺と同じ顔をした、俺とは違う勇者が、まっすぐに見てきた。


 こんな目は、俺にはできない。


 やはり、そうだ。

 断言できる。


 こいつは、俺じゃない――。


 そう思い、俺は剣を握る手に力を込めた。


 一振り。

 そうすれば解放される。人生をやり直せる。

 もう、魔王として生きなくていいんだ。


「すまない――」


 覚悟を決めて剣を振り切ろうとしたとき、勇者は口を開いた。



「僕を殺して、元の人生をやり直すってのか?」



 その言葉に驚いて剣を止め、俺は頷いた。

 なんなんだこいつは。決心の鈍るやつだ。


「そうだ。それしか方法はない。俺はあの時に戻ってもう一度――」


「つまんねえよ、あんた」


「……!」


「自慢じゃないけど僕は何人もの詐欺師に騙されたことがあんだけど、連中の手口と似てんだよ。あの……神様、だったか? そもそも、人生を巻き戻してくれる保証がないじゃん」


 その意見は説得力があった。

 確かにそうだ。確証はない。

 一度も疑おうともしなかった俺の方が、馬鹿かもしれない。


 だが――それでも縋りたいからこうしている。

 下唇をかみしめ、勇者を殺そうとしている。


「……っ!」


 しかし、決心は揺らいでしまった。

 そこをこの男に付け込まれてしまったのかもしれない。



「そこでだ。勇者と魔王で、和解しないか?」



 その提案に、俺はまたしても剣を振る決心を鈍らせてしまった。

















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