第二章Ex2 『魅了の歌声』
【2018年1月20日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
仕事を終えた俺は、リフレッシュのために魔王城内を散歩していた。
「~♪~♪」
歩けば歩くほど、自分の位置を見失いそうな迷宮と化した魔王の城。そんな未だに慣れない不気味な廊下を歩いていると、澄んだ歌声を耳にする。
「この声、聞き覚えがあるな……」
気になる。
声のする方は、あっちか。
なんとなく、本当になんとなくだった。
なんとなく歩いた先にあったのは、魔王城3階にある庭園。
その中央では、半身半魚の少女がフワフワと浮かびながら、きれいな声を響かせている。
「あれって、セイレーンさん?」
彼女の正体に気付くと、肩をびくっと震わせてから恐る恐るといった様子で振り返り、目があった。
「や、やあ」
「ま、魔王様……!」
セイレーンさんはギョッとして宙を泳ぎながら庭園の隅っこに移動してしまう。
「今の歌、セイレーンさんが歌ってたの?」
「い、いえ……ち、ちがいます」
見え見えの嘘をつき、いつものジトッとしたオーラを放ち始める。明らかに警戒されているようだ。
「あ、あの、そっちに行ってもいい? セイレーンさんと話したことなかったから、ちょっと話したいんだけど」
「……いい、です。間に合ってます」
あ、そっちの「いい」ね。
でも、こんなことでは諦められなかった。
『魔王、また寝てるのか?』
『いや、今から寝ようとしていた』
以前の魔王なら、セイレーンさんと話すコツを知ってるかもしれない。
『そんなもん知らん。どうにでもしてくれ』
『え、ちょっと!?』
『いちいち俺様を呼ぶな。じゃあな』
俺の身体の中にしぶとく生きてる魔王の返事がなくなった。
そういえば最近、魔王は助言や手助けをしなくなった。いつぞやは随分と頼りにしろとか言っていたのにこれだ。
気分屋なのか、飽きたのかはわからないが、彼を頼ることは難しい。
「はぁ……」
「……! す、すみません。不快、ですよね。自分と、話す、なんて」
「え? ……あっ! ち、違う。今のはその、不甲斐ない自分への溜息で!」
「いいんです。取り繕わなくても、わかって、ます、から」
「セイレーンさん……」
「自分、その、昔から、こうです。魔王様が新しくなってしまって、その、戸惑いというか、あれがあって」
セイレーンさんはモジモジしながら言葉を懸命に繋げる。
それを見て、俺はいつかの自分を重ねていた。
「……わかるよ。俺も昔は、人と話すの苦手だったから。仕事をするようになってから、そんなこと言ってられなかったけど」
「魔王様も、ですか……?」
「うん。相手が何考えてるのかわからないのが怖くて、結局、勝手に壁作ったりしてた。だから、セイレーンさんの気持ちは少しわかる」
「……」
セイレーンさんは俺をじっと見て、強い眼差しを向けてくる。何か、先程とは違う視線だ。
「セイレーンさん?」
「やっぱり、違います」
「――!」
その言葉はずしりときた。
前の魔王とは違うのは当たり前だけど、今の意見はさすがに、小市民すぎたかもしれない。
「魔王様、その、自分は、魔王様が何者でも、忠義を、尽くします。これは、変わりません……その、たとえ人間であっても、従います」
「え……」
いま、人間って言った?
誰にも話してないのに、どうして……。
いかん、顔に出したらだめだ。どうにかしないと。
「に、人間ってなんのことかな。あはははは」
「大丈夫、です。魔界のみんなには言いふらしません。護衛衆なら当然、です」
そう言ってから、セイレーンさんは体育座りを解き、宙を泳いでこちらにやってくる。
どうやら見破られてるらしい。
「どうして、人間ってわかったの?」
「えと……魔王様は、その、新しくなってから、すごく、変わりました」
「変わった……ように見えるんだ」
「時折見せる迫力や、怒った時の行動は、変わりません。ですが……あなた様は、優しすぎます」
「優しすぎる……俺が?」
「はい。……その、自分に、あんなことを言う魔王様は初めてです。魔界の方ではないと、すぐに、気がつきました」
わかる人には、わかってしまうものなのか。
でも、それなら他のみんなも?
と、とにかく、人間ってばれるのは駄目だ。
「これからは気を付けるよ。自分でも、魔王っぽくはないと思ってるんだけど、しっかりしないとな……」
「いえ。それで、いいと、思います」
「え?」
予想外の言葉に思わず声が出る。
セイレーンさんを見ると、彼女は恥ずかしそうに俯き加減で口元をモゾモゾとしていた。
「セイレーンさん?」
「あなた様は、今の、魔王様、ですから」
「……!」
「その、先程の件、秘密にしますね。混乱、しますし」
セイレーンさんは初めて笑顔を見せてくれる。それはまさに天使のような笑顔で、今までの暗い表情とは全く違う。
「ありがたいけど……どうして、そんな」
「えっと、その……親しい者同士は、秘密を共有するのが、あちらの文化と聞いたことが、あって、その……つまり、ええと」
セイレーンさんが顔を赤く染めているのを見て、ようやく気付いた。
どこでそんな知識を得たのかはわからないけど、彼女の努力を無駄にするわけにはいかない。
「そうだな。秘密にしようか」
「……! はいっ!」
弾むような澄んだ声と笑顔。
ようやく彼女の本当の顔を見たような気がした。
「あ、で、でも、これだと一方的、ですよね」
そういわれると、俺の秘密だけを握られてる形になるのか。
「……あの、自分の秘密も、教えます。何でも、聞いてください!」
「は?」
さすがにそこまでオープンにされると、何を聞けばいいのか戸惑う。
……あ、そうだ。
一つ、妙案が浮かんだ。




