第二章7 『飯屋の迷宮』
【2018年1月20日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
「……」
外が騒がしかった。
町の教会にある隠し部屋のなかで、一人の少女が目を閉じて瞑想している。
少女はローブを纏い、二本に束ねた黒髪を床にまで垂らし、正座していた。
耳を澄ましても聞こえるものではないが、町中に設置した魔法陣から大体の様子は把握できる。
「ほほぉ、なにやら面白そうな方々がいますです」
金髪の男性と赤い髪の女性。
彼らは住人の一人を尾行しているようだった。
「ふふっ。簡単なのはつまらないでしょうから、わたくしが少々遊んであげるです」
暗闇のなか、少女は微笑んで手をかざすと、足元に魔法陣を作り出す。
「抜け出ることはできるです? ふふっ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふふふふ。尾行されてるとも知らずに、愚かなものね」
「エリカちゃん、完璧に悪役じゃね?」
「何か言った?」
「いえ、なんでもございやせん」
僕達は作戦通りに不審な住人を見つけ、夜の闇に紛れながら尾行していた。
エリカちゃんと僕は武装も十分の格好で、剣や盾の音を出さないようにそっと歩き続ける。
そんな中、不思議なことにエリカちゃんが足を止めた。
「どったの?」
「……変ね。この角、さっきも曲がらなかった?」
「そう言われてみれば……」
目の前にあるのは廃れた看板に書かれた「飯屋」の文字。
そして、不気味なマスコットキャラがパンを頬張っているカオスな構図……これは先程も見た気がする。
「でも、あいつの後を追ってるんでしょ?」
「そうだけど……あ、あそこを曲がったわね。行くわよ」
「おっし」
エリカちゃんとともに静かに歩いていき、例の角を曲がる。
「は?」
そうすると、またしても目の前に飯屋。
馬鹿な僕にも、これはおかしいとわかる。
「さすがに変じゃね? こんな奇天烈な看板、世界に二枚もないよ」
「……そういうことね」
「え、どういうこと?」
エリカちゃんは悔しそうに周囲を見る。
「やられたわ」
「何に?」
「どうやら例の魔法使い、腕は確かみたい」
「うんうん。それで?」
「……あんた、本当に理解してないの?」
「まあ、馬鹿っすから」
「なんで自信たっぷりなのよ。……私達は魔法にはめられたのよ。しかも高度な魔法」
「魔法?」
前々から不思議だったけど、魔法って実在すんの? この世界すごくね?
魔法っつーと、あの、えっと、とにかくすごいやつだ。うん。
「馬鹿な勇者に、簡単に説明してあげるわ」
「おねがいしゃす!」
「私達は彼女の作った迷宮に迷い込んだのよ」
「は?」
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光の屈折を利用する錯視系統の魔法。
それを展開すれば町中に迷宮を作ることも可能だとエリカちゃんは言う。
いや、なんのこっちゃわからんけど。
「とにかく、ヤバいってことだね」
「……まあ、そんなところ」
「んで、どうすんの?」
「ちっ、少しは頭使いなさいよ。あんた、今のところ何も役立ってないじゃない」
「何も? はははっ、大きく出たね。僕はいるだけでエリカちゃんを安心させて――」
「あんたに頼った私が馬鹿だったわ。……にしても、光魔法の使い手だったか。光魔法は詳しくないのよね」
なんと、エリカちゃんにも難題のようだ。
迷宮かぁ……つまり、迷路ってことだよな?
迷路迷路迷路……あ。
『知らないの? こーやって右手を壁につけて、沿うように歩けばいいのよ? ほうら、また一つ賢くなったわね。うふ』
そういえば、遊園地デートの時の巨大迷路。あの時の攻略法を使えばいいんじゃねえの?!
「エリカちゃん!」
「なに? いま考えてるんだけど」
「この迷宮、僕に任せなよ!」
キラーン。
決まったな。
「……は?」
オーケーオーケー。この反応は予想通り。
僕が実際に迷宮を攻略すれば、自ずと……。
『ゆ、勇者って頭いいのね。私、頭よくて高学歴な男の人、タイプなの。見直しちゃったわ。いままで貸してたお金、付き合ってくれたらチャラにしちゃうけど……どうする?』
そりゃもう喜んで!!
「またくだらないこと考えてるわね。はぁ、お気楽でいいわね」
「ちっちっちっ。そう言っていられるのも今のうちさ。ついてきなよ!」
「……」
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十分後――。
「ま、また飯屋だとっ……!?」
「あんたを少しでも信用した私が馬鹿だったわ。そもそも、今みたいな古典的な方法で魔法を突破できるわけないでしょ?」
あの後、僕は例の攻略法を試した。
しかし、進めど進めど飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋飯屋ッッ!
あのキモカワゆるキャラと出会うこと46回。
攻略法は通用しなかった。
「ははっ、これじゃあお手上げだ。こーうさん」
「なんで全て出し尽くしたかのようなセリフなのよ。まだ一つしか試してないじゃない」
「ふっ、ここで一生、エリカちゃんと暮らすのも悪くないな。へへっ」
「~~?! 何言ってんのよ! 却下よ却下!」
「でも、抜け出せないし」
「いえ、方法ならあるわよ」
「え?」
エリカちゃんは秘策を思いついたのか、ニヤリと笑った。
あ、これよくないやつじゃね?
「道は路地。それは思い込みなのよ。つまり道が無ければ作る。先人のありがたい知恵ね」
そうら、とんでもないこと言いだした。
今のは馬鹿な僕でも分かった。だってエリカちゃんはそう言いながら武器を構え始めたのだから。
「あ、あのさ、この辺の建物、確か民家だったような」
「関係ないわよ。そもそも、大暴れしても支障は無いわ。さ、やるわよ」
「ぼ、僕も? 僕ってそういう野蛮なのはちょっと」
「その剣は飾り? 協力しないなら、二度と宿代払わないわよ」
「よっしゃやるぜ! やってやるぜ!」
「変り身早いわね……いくわよ!」
エリカちゃんの掛け声と共に武器を構え、僕達は石の町を破壊し始めた。




