第二章6 『怒れる住人』
【2018年1月20日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
脅しという名の聞き込みの結果、有力な情報を得た。
捜している魔法使いはかつて勇者とともに戦った魔道士の娘で、テスタラの住人にとって宝物のように育てられてきた女の子だという。
勇者を騙るものに渡さぬよう、住人一丸となって守っているとは、なんとも愛に溢れた話だけど、勇者一行は困っていた。
魔法使いの情報を手に入れたはいいが、手を打つわけでもなく、僕たちは宿に戻ってきた。
「――で、どうする? 魔法使いのことはわかったけど」
「何もしないわ。少し、連中の動きを待ちましょう」
「あのさ、何しようとしてんの?」
「連中に『勇者です。』って言っても疑われて終わりでしょ? あんた、勇者の身分証明できるの?」
「そ、そりゃあ、無理っしょ。身一つで放り出されたんだし。免許証もなけりゃ住民票もないし」
「……? 最後の方はよくわからないわね。まぁ、現状で勇者を証明する方法は一つだけあるのよ。でもきっと、この町の連中には効き目がないわ」
「?」
「ここに観光客は来ない。昨日と今日観察してみたけど、新聞も運ばれてきてないみたいだし、畑もあったから食糧は自給自足。完全に外との壁があるのよ」
「――! そ、そんなことまでわかったの?」
「当然よ。気づかなかったの?」
すげぇ。
エリカちゃんって、抜けてるところありまくりだしチョロいけど、すごいのかも。
「……あんた。失礼なこと考えてない?」
「いいや、エリカちゃんすごいなって思ったんだよマジで」
「――!? べ、別にすごくないし。そそそ、それよりも! 連中はまだ、勇者の再誕を知らないし、知る手段がない。そんなところに勇者を名乗っても逆効果なわけ。わかる?」
「なるほど」
「だから、勇者を名乗っても意味がない。それなら強行手段しかないのよ」
「――というと?」
「まあ見てなさい。今夜あたり、動きがあるかもね」
エリカちゃんはそう言って笑った。
いったい今夜、何が起こるのか。気になるようで知りたくない僕だった。
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「起きなさい」
「ふえ?」
「そろそろよ」
夜。エリカちゃんに言われて昼間から寝ていた僕は、寝ぼけ眼で目覚める。
辺りは真っ暗。すでに夜中みたいだ。
あれ、それにしてもエリカちゃんが僕の部屋に……。
「もしかして夜這い!? だいかんげ――」
「服着ろ」
「はい」
すぐに着替えて剣を腰に差して盾を背負う。
エリカちゃんに言われ、そのまま息を殺しながら部屋を出た。
「それにしても、何が起きるのか教えてくれても……」
「しっ」
エリカちゃんは指を唇に当てる。
すると、耳を澄ませば外が騒がしくなっていくのがわかった。
「こっちよ。私たちは屋根裏に昇るわ」
「屋根裏?」
指示通りについていくと、エリカちゃんの部屋に来た。
彼女の部屋に入ると、エリカちゃんは天井へと届くように石のテーブルを軽々と運んで配置する。
そこに上り、天井の四角い石に手をかけると綺麗に外れた。
「もしかしてそれって」
「今日外しておいたのよ。さ、上がってきて」
エリカちゃんが先に上がり、僕も続く。
勇者になってから身体能力には恵まれているため、難なく天井裏へとたどり着いた。
「これを戻して……完成。このまま屋根に出るわ」
「わかった」
指示に従い、同じような要領で屋根の上に出る。
そこで身をかがめながら町を見下ろしてみると、松明の火がいくつも見えた。
「ここが二階建てで助かったわ。そうじゃなきゃ、こんな作戦思いつかないから」
「あ、あれって」
「住人達でしょうね。あの人が広めてくれたみたいよ」
あの人……例の爺さんか。
「あ、宿に入っていく」
「ちょうどいいわ。このまま息をひそめておきましょう」
「……でも、いつか見つかるんじゃ」
「大丈夫。……私を信じなさい」
「らじゃ」
エリカちゃんの言葉通り、宿の上で息をひそめていると、会話が聞こえてきた。
「い、いねえだ!」
「ど、どこいったんだい!? 店主! どういうことだよ!」
「知らんよ」
「使えないやつだね! 外のみんなに報せて! 大変なことになった!」
「あいよ!」
騒がしい声が消え、松明が宿から出ていくのを見た。
「ほらね。大丈夫でしょ?」
「……でもさ、宿の人が出て行ってないって言ったら天井がすぐにばれそうだけど」
「あの人は、ここの人じゃないわよ」
「え……」
「だから、きっと客を売るようなことはしない。すぐにわかったわ。さ、すぐに行きましょう」
探偵かよ……。半端ねえ。
ん?
「行くって、どこへ?」
「わからないの? わざわざこんな真似したんだから、少し考えたらわかるでしょ?」
「……もしかして、町から逃げるとか?」
「そんなわけないでしょ。ここの連中が教えてくれないなら、本人に会えばいいのよ」
「本人って魔法使いのこと? でもさ、どこにいるのかわかんないじゃん」
「そのために、こうしたのよ」
何を言ってるのか、さっぱりだ。
「いい? 宿に私達がいない。連中は焦るわ。なんてったって、秘密を知ってる二人がいないのよ? ――そこで、最初にとる行動は一つ」
エリカちゃんは自信たっぷりといった表情で笑みを浮かべる。
「安全確認。例の魔法使いの居場所は、彼らが丁寧に教えてくれるわ」
この時、正直言って彼女は戦士が似合わないと思った。
しかし、そんなこと口が裂けても言えず、僕は頷いた。
完全に、勇者はお荷物状態だ。
「さ、私達を探してない怪しい住人を見つけるわよ」
「らじゃ」
こうして僕は待ち望んでいたはずの夜の町を歩くことになる。こんなに物騒で何もない町に魅力は感じないけども。




