第二章5 『隠し事』
【2018年1月20日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
「おかしいわよッッ!!!」
ドンッ!
宿から戻り、一度エリカちゃんの部屋に集まったけど、彼女は石のテーブルを叩いて怒りをあらわにする。
そっとテーブルを見ると、あの頑丈そうな石のテーブルにヒビが入り、彼女の手は無傷だった。
今度から、逆らわないようにしよう。そう心に誓った。
しかし今の怒り方からして、エリカちゃんも同様だったらしい。
「勇者のほうは?」
「想像の通り。エリカちゃんと同じだと思う」
「はぁ……なんなのよ、この町。お年寄りばかりだし、勇者のことも知らないし、おまけに魔法使いのことを聞けば激昂するし。わけわかんない」
かなり苦労したみたいだ。
聞き込みしたのは、一人じゃないみたいだな。
「どうする? やっぱりラスべス行っちゃう?」
「なんでそうなるのよ」
「ほら、勇者たるもの、他人の事情に首を突っ込んではいけないと思うわけさ」
「あんたが誰よりも先に突っ込みなさいよ。勇者でしょ?」
勇者ってつければ何でも許されると思わないけど、ここは言葉を飲み込んでおこう。後が怖い。
「でもさ、実際のところ誰も勇者のこと知らないし、魔法使いのことは黙秘。こんな町、とっとと出て先を急いだ方がいいんじゃね?
ほら、めんどくさいとかそういうのじゃないよ? 勇者的に? 魔王を倒すのに集中した方がいいかなーって思ったってだけで。だからここは魔法使いをあきらめてラスべスで一服でも――」
「結局、あんたは遊びたいだけでしょ? 却下よ。第一、無一文のくせにどうやって遊ぶのよ?」
「そ、そりゃあ……借りて」
「誰に?」
「えっと、その、エリカちゃんに」
「あんた、自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「はははは! 恥じらいは前世に捨て置いてきたぜ!」
「駄目ね、こいつ。――とにかく却下よ。まだ調べる必要があるから」
「調べるって魔法使いを? 無理無理。あの頑固な連中が教えてくれるはずないって」
僕の言葉に、沈黙が訪れた。
そして、エリカちゃんが笑顔でこちらを見てくる。
「……勇者様、どうしてあなたはこの宿に泊まれてるの?」
急に丁寧口調で訪ねてくるエリカちゃんの目は笑っていなかった。
「わかりました……従います」
「よろしい」
僕は完全にリードを握られる飼い犬の気分だ。
おお、自由をおくれ!
「じゃあ、明日は二人で聞き込みをするわ。いいわね?」
「わん」
「は?」
こうして明日の予定も決まったのだが……。
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翌日――。
全くと言っていいほど収穫は乏しかった。
昨日の今日、エリカちゃんの顔を見るたびに住人達はそそくさと立ち去ってしまう。
そして町の通りの中央、僕らはたった二人で立ち尽くしていた。
「や、やっぱりさ、ラスべスだよ。ラスべスは僕らを呼んでる! 金を使えと呼んでいる! 酒に遊戯に可愛い子をそろえて豪遊しよう! そうすれば鬱憤も晴れて――」
「うがああああああああああああああああ!」
ダンダンダンッッ!!
説得失敗。
エリカちゃんは空に叫び、地団太を踏む。
計二十余名。
これは今朝からエリカちゃんを無視した住人の数。
聞くところによると、昨日は三十名近くから無視されたらしい。
これはもう、僕たちのことが広まっていることは確実なのに、彼女があきらめずにトライしたのは先程のことだ。
オヤジに激怒され、石を投げつけられた。
エリカちゃんは悠々とかわしたが、堪忍袋の緒は待ったなしだったらしい。
「なによあいつ! 上から目線で腹が立つ! 第一、お前の頭のことなんてどうでもいいっての! 誰も興味ないのよ!!」
「まあまあ、そこまで怒らなくても」
以前から激情型だとは思っていたけど、ここまでとは。
何人もの女性を抱いてきたが、エリカちゃんはまさにヒトミちゃんそっくりだ。
「あったまきた!」
あった牧田。だったらどれだけよかったか。
なんか嫌な流れじゃね?
「勇者!」
「ひっ! な、なんすか?」
「絶対に見つけるわよ、魔法使い」
「いやいや、無理でしょ。諦めようよ。彼らが頑なに隠すのは理由があるに違いないって」
「関係ないわ! 私たちは勇者一行なのよ! 勇者が魔法使いを戦力にほしいって言ったら全力で協力するのが世界のルールってもんなの!」
すげぇ……。勇者ってそんなにすげぇのか。
ん? もしかして最初の町で女の子たちを集められたのも、この特権とか?
勇者、最強じゃん。やっぱ半端ねぇな。
「おし! 僕も覚悟決めた! 魔法使い探そう!」
「――! い、意外だわ。あなたがやる気を出すなんて」
「僕だってさ、少しはやる気を出すんだよ。見直した? 見直したんなら、今夜は一緒の部屋に」
「そこまでは見直してないから、安心して」
グサァッ!
「あ、相変わらず容赦ない物言い……そ、そんなんじゃ話してくれるものも話してくれないって」
「そ、そうなの?!」
本気で驚いてる。可愛いなぁ。
「僕が、元ホストのトーク力、見せてやるぜ」
「盛大にキモいし何言ってるかわからないけど、頼もしく見えるのが最悪ね」
「言うねー」
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「おとといきやがれ! このクソガキ!」
べちゃ。
熟したおばあさんに熟した果実を投げつけられた。
「……」
「最低ね。いきなりナンパしたかと思えば、肩に手をまわして魔法使いのことをさりげなく聞く。その結末はクソガキ……ぷふっ」
「わ、笑うな! くそ、相手が若かったら上手くいくのに。場数ふみすぎってのもなぁ」
「勇者は頼りないわね。私がやるわ」
「エリカちゃんが言っても同じでしょ」
「いいえ、やり方を変えればいいのよ」
その発想はなかった。もしかして、聞き込みよりも効果的な方法があるのか?
「どうするつもり?」
「普通に話して教えてくれないなら、脅せばいいの」
「は?」
エリカちゃん、別名は悪魔。
彼女は顔色一つ変えずに、最低な手段に打って出ようとしていた。
「いやいやいやいや! それはさすがに! 法に触れるのはどうかと思うんだけど!」
「いいのよ。勇者一行だし」
「勇者一行なら何してもいいって聞こえるんだけど」
「ま、罪はあんたにかぶせるわ」
「ちょいちょいちょい!」
「行くわよ」
こうなってしまえば時すでに遅し。
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「さあ! 吐きなさい!」
「や、やめとくれええええええええええ!」
「知ってること全部吐きなさい! 命が惜しくないの!? 余生を楽しめなくなるわよ!」
「…………」
勇者というより、魔王の所業だ。
まず最初に人通りの少ない路地裏で暇そうにしていた爺さんを見つけ、エリカちゃんは優しく話しかけた。
話は植木や盆栽、石工の話題で盛り上がる。
タイミングを見計らい、エリカちゃんはさりげなく魔法使いのことを訊ねた。
すると爺さんはギョッと驚いて強気に出ようとするが、エリカちゃんは躊躇せず腰に差していた剣を抜き出し、爺さんの残り少ない髪の毛に突き付けた。
――以上、犯行の一部始終である。
「そ、その辺にしておこうって。警察来たらヤバいじゃん」
「警察? なによそれ」
え、この世界って警察いないの?
魔王どころか国家治安がヤバくね?
「ああ、警備団のことね。昨日調べておいたけど、この辺りは警備ルートから外れてるし平気よ」
周到な準備だった。
――ってか、昨日から考えてたのか。これからは絶対に逆らわないでおこう。
また同じ終焉を迎えそうで怖い。
「わ、わかった! 話すから、話すから髪の毛だけはやめてくれええええ!」
「……素直でよろしい。ふふっ」
恐ろしい笑顔だ。
もしや、魔王の血が少なからず流れてるから、その影響とかなのか?
とにかく、爺さんは涙ながら切実な叫び声と共に命乞い、もとい地毛乞いをし、解放された。
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爺さんが落ち着いたところで、エリカちゃんが話を切り出す。
「おじいさん、魔法使いのこと。詳しく教えてくれない?」
「……」
「おじいさん?」
「わかったわかった! 頼むから剣を抜かないでくれ!」
エリカちゃん、すっごい怖い。でも痺れるぜ。
「あんたらが捜してる魔法使いってのは、テスタラで信仰されておる神様のようなものなんじゃ」
「神様?」
もしかして、僕をこの世界に転生させた人か?
「石工の町テスタラ。以前は繁栄しておったが、最近は娯楽の町に観光客を取られ、仕事は減り、若いもんも町を出て行った。わしらはここで屍になり、朽ちていくだけ。そう思っておった。じゃが、そんな折に高名な魔道士様がやってきたのじゃよ」
「魔道士?」
「魔法を極めた人のことよ。でも魔道士は数えるほどしかいないわ。ねえ、その魔道士ってもしかして――」
エリカちゃんは何かに気が付いたように爺さんに目を向けた。
「その通りじゃ。魔王と勇者の大戦、勇者の片腕と呼ばれた伝説の魔道士『ナハト』様じゃよ」
「そんなっ! どうしてナハト様がこの町に!?」
エリカちゃんが敬称で呼ぶとは……すごい奴っぽいな。
「さてな、わからん。しかしナハト様は我らに使命をくれた。それはもう生きがいになるものじゃったよ。彼女は娘を育ててほしいと頼み込んできたのじゃから」
「娘……待ってよ。ナハト様は未婚のはずじゃ」
「わしらにも、詳しいことはわからん。じゃが、わしらは授かった子を町全体で育ててきた。ナハト様が死んだと聞いてからは、より一層の愛情を注ぎこんできた」
「魔道士、亡くなったのか?」
「は?」
僕が訊ねると、エリカちゃんは呆れた顔で見てくる。
「あんた、もう少し世間のことを知っておきなさいよ。前の勇者が魔王を倒して数年後、新たな魔王が勇者と仲間たちを殺したのよ」
「ひでぇ……」
「……おじいさん、もしかしてその子が」
「ああそうだ。あんたらの捜す魔法使いだよ」
「ようやくつながったわ。町の連中がわざとらしく隠してきたのは、勇者を騙る者たちから魔道士の娘を守るためなのね」
「そうさ。さあ、帰っておくれ。あんたらには悪いが、あの子を渡すわけにはいかん」
そう言い切る爺さんの目は本気だった。
先程まで自分の髪の毛に涙を流した男とは思えない。
「……いいえ。もらうわ」
「なんだとっ!?」
「けど、まだその時じゃないわね。宿に戻るわよ」
「いいの?」
「ええ、行きましょう」
半ば強引に引っ張られ、僕たちはその場を後にした。
その最中、振り向くと爺さんはすごい形相でこちらを見ていた。




