第128話 泣いたぶんの取り返しと、ふつうに戻った球
昼食のあと、ひとりで飲み物を買いに出た心花が、浜の途中で見知らぬ二人連れに行く手をふさがれた。
駆けつけた三姉妹が壁になり、立花の大声に二人連れが引き下がると、心花は俺のラッシュガードの胸でひとしきり泣いた。
二葉さんの「戻るわよ」のひと声で浜の端のパラソルへ引き返しはじめたのは、それからしばらくしてのことだ。
紺のラッシュガードの裾は、まだ心花の指につかまれていた。
目のふちは赤いままで、濡れた睫毛も乾ききっていない。
布を引かれるぶんだけ、俺の歩幅は小さくなった。
小さくなった歩幅のまま、それ以上は急がなかった。
駆けつけるときに蹴散らしたビーチサンダルが、帰り道の砂の上にそのまま転がっていた。
「あ、私のサンダル……片っぽ裏返ってる」
三桜さんが心花と手をつないだまま、砂の上へ腰をかがめた。
「三桜さん。手を離してから拾えばいいんじゃないか」
「やだ。あったまるまでこうしてるって言ったもん」
三桜さんはつないだ手をほどかずに、空いているほうの手でサンダルをひとつずつ拾い上げた。
三桜さんがかがむたびに手を引かれた心花がかがみ、裾を引かれた俺までかがむ。
三人ぶんのお辞儀が、砂の上で二回くり返された。
「……なんですか、これ」
心花の喉からかすれた声がこぼれた。
「わかんない。でも、なんかへんだね」
「へんです。……センパイまで、いっしょにお辞儀してます」
「裾を握られてるからな」
言ってから、しまったと思った。
握られている、と口にしたら、それで離されてしまう気がした。
心花の指はほどけなかった。
布をつかむ位置が、むしろほんの少しだけ深くなった。
「あっつ! え、待って、砂ってこんな熱かったっけ!?」
少し先で一花さんが片足ずつ跳ねていた。
遠くまで飛んでいった自分のサンダルを取りにいこうとして、素足のまま焼けた砂に踏みこんだらしい。
「一花お姉ちゃん、さっきは平気な顔して立ってたのに」
「さっきは砂どころじゃなかったの! ……あつっ、あつ」
一花さんは跳ねながら言い捨てて、それから少しだけばつが悪そうに唇をとがらせた。
さっきの一花さんは、焼けた砂の上で足の指一本動かさずに立っていた。
熱くなかったわけではないらしい。
「ほい、綾瀬姉さん!」
波打ち際のほうから立花が駆けてきて、両手にぶら下げてきたサンダルを、片方ずつ一花さんの足もとへ放った。
放り終えると、立花はこっちへは寄ってこなかった。
何歩ぶんか離れたところで足を止めて、所在なさそうに両手を腰に当てている。
「タチバナくん、今日いちばん役に立ったじゃん」
「今日いちばんがサンダル拾いって、俺の一日どうなってんの!?」
一花さんはけらけら笑いながらサンダルをつっかけた。
つっかけた途端に、ほっとしたような長い息をついている。
二葉さんも素足だった。
顔色ひとつ変えずに歩いているが、さっきから少しずつ足が速くなっている。
「二葉も熱いんでしょ。早歩きになってるよ」
「急いでいるだけよ。日なたは篠崎さんの腕に悪いもの」
「つま先立ちで急ぐ人、初めて見たけど」
二葉さんは返事をしなかった。
かかとをすとんと砂に下ろして三歩だけ平然と歩き、四歩目でまたつま先立ちに戻った。
「……センパイ」
裾が小さく引かれた。
「ん」
「さっきから歩くの、ゆっくりですね」
「焼きそばがまだ腹に残ってるんだ」
「……さっき走ってたの、ちゃんと見てましたよ」
返す言葉が見つからなかった。
「センパイ、嘘へたですね」
赤い目のまま、心花の口の端がほんの少しだけ持ち上がった。
泣いたあとにこぼれた湿った笑いとは、少し違う形だった。
少し先で、一花さんが首だけこっちへ振り返った。
「誠の嘘、三桜といい勝負だもんね」
「私、嘘へたじゃないもん!」
「三桜。それがもう一つ目よ」
つま先立ちのまま二葉さんに言われて、三桜さんは心花とつないだ手をぶんぶん振って抗議した。
振られた心花の体が揺れて、裾を握られた俺も一緒に揺れた。
パラソルの影に入ると、足の裏から砂の熱がすっと抜けていった。
立花はシートのいちばん端に腰を下ろした。
パラソルの影から半分はみ出した、日なたの場所だった。
「タチバナくん、なんでそんな端っこ? そこ日なただけど」
「え? ……あー、俺、焼けたい派だから。男は焼けてなんぼって言ったろ」
「朝から言ってたね、それ」
一花さんはそれ以上つつかなかった。
「心花ちゃん、塗り直そ。腕、出して」
三桜さんが一花さんのバッグから日焼け止めを取り出して、心花の正面にちょこんと座った。
心花は右の腕を差し出した。
さっきまで三桜さんの両手に包まれていたほうの腕だった。
「わ、境目くっきり。定規で引いたみたい」
「定規はひどいですよぉ……。三桜先輩、ぼかしてください。いっぱい」
「まかせて。ぼかすの得意なの」
「三桜の得意なぼかしって、だいたい自分の嘘のほうでしょ」
「一花お姉ちゃん!」
三桜さんは頬をふくらませながらも、手つきだけは丁寧だった。
袖の形に焼けた境目へ白いのを少しずつ乗せて、指の腹でとんとんとなじませていく。
心花はくすぐったそうに肩をすくめた。
すくめた肩の向こうで、もう片方の手はまだ俺の裾につながっていた。
「はい、こっちおしまい。次、そっちの腕ね」
三桜さんが心花の左腕を指さした。
心花は自分の左手を見下ろした。
布を握りこんだ指の関節が、まだ少し白かった。
心花は指を見つめたまま、しばらく動かなかった。
それから、ひとつずつほどいた。
小指、薬指、中指、人さし指。
最後に親指が布から離れると、心花は空になった手のひらを顔の前で一度だけ握って、開いた。
「……よしっ」
小さな掛け声と一緒に、心花は両手で自分の頬をぺちんと挟んだ。
赤い目のまま顔を上げる。
「三桜先輩、こっちもお願いします! 境目、跡形もなく消してくださいね。夏休み明けにクラスの子に見られたら、私、恥ずかしくて溶けちゃいます」
声はまだ少しかすれていた。
かすれたまま、いつもの心花の高さまで戻っていた。
「……あ。誠のラッシュガード、そこだけ伸びてる」
一花さんに言われて見下ろすと、裾の一か所だけが、指で握りこんだ形のまま小さくよれていた。
「あっ……すみません、センパイ。私の手の形になっちゃいましたね」
「いいよ。そのうち戻るだろ」
「篠崎ちゃん、それマーキングっていうんだよ」
「マーキング……! じゃあ戻らなくていいです」
「戻すわ」
二葉さんが真顔で手を伸ばして、尖った裾を指先で丁寧に引っぱりはじめた。
少し戻ったところを、反対側からまた引っぱる。
「二葉先輩、それ……逆に伸びてません?」
「均しているの」
「二葉、それ上書きっていうんだよ」
二葉さんの手がぴたりと止まった。
止まった手を裾から離して、まっすぐ海のほうへ顔を向ける。
「……海がきれいね」
「話の逸らし方、雑すぎない?」
二葉さんは水平線の一点を見つめたまま、微動だにしなかった。
涼しい横顔を取り繕ってはいるが、黒髪のすき間からのぞく耳の先だけが、さっきの日なたよりずっと赤くなっている。
心花の目がシートの隅で止まった。
朝に立花がふくらませた縞模様のビーチボールが、丸めた柄シャツの横に転がっている。
「……これ、まだみんなでやってないですよね」
「あ、それ俺の!」
シートの端で立花が身を乗り出しかけた。
乗り出しかけたところで、ぴたりと止まる。
「……いや、でもさ。篠崎ちゃん、今は休んどいたほうがよくね? 日陰で、こう、ゆっくり」
「休んでたら、腕の境目が増えるだけですもん」
心花は三桜さんに左腕を預けたまま、右手だけでボールをつかんで持ち上げた。
縞模様の向こうから、赤い目がこっちをのぞいている。
「泣いたぶん、遊んで取り返します!」
「篠崎ちゃん、それタチバナくんの足踏みの理屈じゃん」
「取り返すのは大事だろ! 俺は賛成!」
立花の声がようやくいつもの大きさに戻った。
「その前に、飲み物よ」
二葉さんが保冷バッグの口を開いてみせた。
中は空っぽで、底のほうに保冷剤が二つ転がっているだけだった。
「補充は前倒しにすると言ったでしょう。前倒しのまま、もう遅れているわ」
「じゃ、ボールで決めよ。落とした人が買い出し係ね」
「いいわ」
二葉さんの返事は、一花さんが言い終わるより早かった。
「二葉、即答じゃん。勝つ気しかないし」
「六人ぶんは一人では持てないわ。先に落とした二人よ」
「えっ、えっ、私ぜったい落とすよ!? 今からもう決まってるようなものだよ!?」
「三桜。負ける前から負けを宣言しないの」
◇
波打ち際に近い、砂の締まったところで輪になった。
「マコトの右が私。私の右が立花くん。そこから一花、三桜、篠崎さん。篠崎さんの右がマコトよ」
「ボールの輪にまで席順あんの!?」
「輪にも隣はあるもの」
一花さんは唇をとがらせた。
とがらせたまま自分の立ち位置と俺の立ち位置を目で結んで、それからにやりと笑う。
「……あ、でも、あたし誠の真正面じゃん。打ちこみ放題」
「打ちこむ前提なのか」
「綾瀬姉さん、これラリーだからな!? ドッジボールじゃねえから!」
「タチバナくんは黙ってて。これは、あたしと誠のラリーなの」
「六人でやってんだよ!」
心花の両隣は三桜さんと俺だった。
立花は輪のちょうど反対側、心花からいちばん遠いところに立っている。
「よっしゃ、いくぞー! いーち!」
立花の打ったボールが夏の空へ高々と上がった。
数えるのは立花の係になった。
頼まれてもいないのに、浜じゅうに届く声で数えている。
「二! 三! よーし、いいぞいいぞ!」
四、五、六、七。
立花の声に合わせて、ボールは思ったよりよく輪の中を回った。
「誠ー! 受け止めて、あたしの気持ち!」
真正面で一花さんが跳んだ。
赤い水着が日差しの中で跳ね上がる。
首から吊った二本の紐が跳んだ勢いでふわりと浮き、着地のぶんだけ遅れて、紐の交わった真下のやわらかな重みが大きく弾んだ。
目がそっちへ行ったのは、たぶん一瞬だった。
その一瞬で、打ちこまれたボールが俺の顔の真ん中に届いていた。
鼻の奥にビニールの匂いがつんと抜けた。
額で跳ねたボールが真上へ上がって、二葉さんが落ち着いて拾う。
「八! 顔! 顔ありだよな!?」
「ありよ。マコトの体の一部だもの」
「顔で受け止めるとか、それもう告白の返事じゃん」
「……ボールを見てなかっただけだ」
「ふーん。じゃあ、何見てたの?」
黙ると、真正面の一花さんの笑みがますます深くなった。
「マコト。視線はボールに固定しなさい。……よそへ落とさないこと」
「……善処する」
「努力目標ではなく、義務よ」
二葉さんの受け方は、教科書の図をそのまま写したみたいだった。
膝の角度も、組んだ両手の位置も、たぶんどこかで読んだとおりなのだろう。
ボールが真正面に来るかぎり、返球は毎回まっすぐ俺の胸もとへ戻ってきた。
「二葉、さっきから誠にしか返してなくない?」
「いちばん取りやすいところへ返しているだけよ」
「九回中九回、誠なんだけど。数えてたからね、あたし」
「標本が少なすぎるわ。偏りとは言えない」
「九回中九回は、標本とか関係なくね!?」
二葉さんの十本目で、海から風が吹いた。
ふわりと横へ流されたボールを追って、二葉さんが斜めに踏みこむ。
一本きりの肩紐が肩に食いこみ、伸ばした腕の下で、黒い布に収まりきらない重みが大きく揺れた。
指先はボールの縞をかすめただけだった。
ぽす、と気の抜けた音がして、ボールが砂に沈んだ。
輪の中が静まり返った。
「はい、次女さんアウトー! 買い出し一人目!」
「今のは風よ。海から吹いた風が悪いの」
「風のせいにしたね」
「練習だったの。今のは」
「へえ。いつから練習だったの?」
「落ちた瞬間からよ」
二葉さんの顔は、本気でそう信じている人の顔だった。
「二葉の練習って、後出しじゃんけんより後から出てくるじゃん」
「最初からよ。一から数え直して」
二葉さんはもうボールを拾い上げていた。
拾い上げて、誰より先に構え直している。
知らなかった。
二葉さんはどうやら、ものすごく負けず嫌いらしい。
「……次女さんがそう言うなら。いーち!」
三桜さんのところへボールが落ちていく。
三桜さんはぎゅっと目をつぶって、両手を前へ突き出した。
当たったのは手首だった。
ボールは前ではなく、三桜さんの頭の上を越えて真後ろへ飛んでいった。
「わ、わ、後ろ行っちゃった!」
「任せてください!」
心花が砂を蹴った。
小柄な体が低く跳んで、三桜さんの背後へ一直線に滑りこむ。
伸ばした腕の先でボールが跳ね上がった。
滑りこんだ勢いのまま、心花は砂の上でくるりと一回転して起き上がる。
白い水着の胸もとに、砂がひとすじ張りついていた。
「セーフ! 今のセーフですよね!?」
「セーフセーフ! 篠崎ちゃん、うますぎだろ! 十四!」
「心花ちゃん、すごい! 後ろのボールが見えてるの、すごい!」
「三桜先輩は、前のボールも見えてなかったですよね?」
「……目、つぶってた」
三桜さんの正直な申告に、輪のあちこちから笑いが漏れた。
それからしばらく、ボールは輪の中をよく回った。
一花さんからは強い球が、二葉さんからは正確な球が、三桜さんからはどこへ行くかわからない球が飛んでくる。
立花の球はいちばん高くて、いちばん声がうるさかった。
その立花の球が、一度も心花のほうへ飛んでいかなかった。
真正面に立っているのに。
先に口を開いたのは心花だった。
「立花先輩! 私のとこ、さっきから一回も来てないんですけど!」
「え。……そ、そうだっけ?」
「そうだよ。タチバナくん、篠崎ちゃんのとこだけ避けて打ってる」
一花さんがあっさりと言った。
立花の視線が宙をさまよった。
さまよった視線は心花のほうへ行きかけて、なぜか俺のほうへ逃げてくる。
俺を見られても困る。
「こっちにも打ってください。私、けっこう上手いですよ? さっきの、見てましたよね」
心花は膝を軽く曲げて、両手を前で組んでみせた。
構えだけなら二葉さんよりもさまになっている。
「……よ、よし。いくぞ、篠崎ちゃん」
立花がボールを打った。
打った、というより、そっと押し出した。
ボールはありえないくらい高く、ありえないくらいゆっくりと輪の真上へ昇っていく。
昇りきったところで、しばらく止まって見えた。
「なにあれ。タチバナくん、それ球じゃなくて綿毛」
「ふわふわ……。立花くん、魔法使いみたい」
「待っているあいだに日が暮れるわ」
心花はボールの真下でじっと待っていた。
待って、待って、ようやく落ちてきたところで、組んでいた両手をほどいた。
小さく跳んで、右手を振り下ろす。
ばしん、といい音がした。
ボールは一直線に輪を横切って、立花の顔の真ん中に命中した。
「ぶっ」
立花の顔で跳ねたボールがもう一度高く上がる。
すかさず一花さんが拾って、つながった。
「二十一! ……今のも顔ありだよな!? 顔、体の一部だよな!?」
「ありよ。つながったなら、どこで受けてもいいもの」
「次女さんが即答した……」
「お返しです、立花先輩! 綿毛なんか送ってくるからですよ。私、そんなにやわじゃないです」
「やわじゃなさすぎるって! 篠崎ちゃん、今の、今日いちばんの球だぞ!」
立花は赤くなった鼻の頭をこすりながら、歯を見せて笑っていた。
「次、俺もふつうに打つからな! 手加減なしで!」
「どうぞ! ぜんぶ拾いますから!」
次に立花から飛んできた球は、ふつうの高さで、ふつうの速さだった。
心花はそれをふつうに受けて、ふつうに一花さんへつないだ。
それきり、誰もそのことを口にしなかった。
三桜さんだけが、ボールを追いかけながらやけにうれしそうに笑っていた。
「三十! 三十一!」
数が増えるにつれて、輪の中の空気が少しずつ変わってきた。
一花さんの球が、やけに立花のほうへばかり飛ぶ。
二葉さんの正確な球が、やけに三桜さんの取りにくい足もとへばかり落ちる。
「なあ! さっきから俺んとこだけ、球に殺意こもってね!?」
「こもってないって。愛だよ、愛」
「愛ってもっと優しいもんだろ!」
「……愛は重いものよ」
二葉さんがぽつりと言って、また正確な一球を三桜さんの足もとへ落とした。
三桜さんが悲鳴を上げて、どうにか膝で蹴り上げる。
「二葉が言うと、説得力ありすぎて笑えないんだけど」
二葉さんは一瞬だけ言葉に詰まり、つんとあごを引いて視線をそらした。
そのせいか、次の一球だけが狙いを大きく外れて俺の頭上を越えていった。
後ろへ跳んで、どうにか拾った。
「……なあ。もしかして二人とも、買い出しに行かせたい相手を狙ってないか」
「誠、そういうのは気づいても言わないの」
「狙っていないわ。結果として、そうなっているだけよ」
「結果って、そういう意味の言葉じゃないよね!?」
三桜さんの悲鳴まじりの抗議は、二葉さんの涼しい横顔に跳ね返された。
「四十二!」
二葉さんの球が、三桜さんの頭の上へ落ちてきた。
三桜さんは両手を上げて、つま先で跳んだ。
跳んだ拍子に、肩紐のない胸もとがすとんと下がりかける。
三桜さんの両手が空中で止まった。
上にはボール、下には水着。
「わ、わ、わ……っ!」
三桜さんは迷わなかった。
両手で胸もとをがしっと押さえて、そのまま着地した。
ボールはその頭のてっぺんにぽこんと当たって、砂へ落ちた。
「……正しい判断よ」
「えらいえらい。ボールよりずっと大事なもん守ったね」
「負けたのに、なんで褒められてるの……?」
三桜さんは胸もとを押さえたままぺたりとしゃがみこんで、真っ赤な顔で、足もとのボールをつま先でつついた。
「はい、三桜ちゃん一人目な! あと一人! いーち!」
立花がまた数えはじめた。
十も数えないうちに、一花さんの打った球が立花の頭のはるか上を越えていった。
「届けえええっ!」
立花は迷わず砂へ飛びこんだ。
伸ばした指の先まで、あと少し。
届かないまま顔から砂に着地して、ボールはその後頭部でぽんと跳ね、波打ち際へ転がっていった。
「……頭には届いてたよな?」
「落ちる前に当たれば有効、落ちてから当たれば無効よ。今のは後」
「次女さんのルール、さっきから都合よくね!?」
「最初から決まっていたわ」
「二葉のルールってさ、勝ってる側にだけ毎回ちょっとずつ増えてくんだよね」
立花は顔じゅう砂だらけのまま、仰向けにひっくり返った。
心花が声を上げて笑いだした。
笑いすぎて、三桜さんの肩につかまっている。




