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三年間愛を育んだネトゲ嫁が三つ子になって転校してきた〜「「「私があなたのお嫁さんだよ?」」」三姉妹全員が譲らない、甘くて騒がしい正妻戦争〜  作者: ハイさん
第5章 夏休み!海と水着と、夏祭りの告白

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第128話 泣いたぶんの取り返しと、ふつうに戻った球

昼食のあと、ひとりで飲み物を買いに出た心花が、浜の途中で見知らぬ二人連れに行く手をふさがれた。

 駆けつけた三姉妹が壁になり、立花の大声に二人連れが引き下がると、心花は俺のラッシュガードの胸でひとしきり泣いた。

 二葉さんの「戻るわよ」のひと声で浜の端のパラソルへ引き返しはじめたのは、それからしばらくしてのことだ。


 紺のラッシュガードの裾は、まだ心花の指につかまれていた。

 目のふちは赤いままで、濡れた睫毛も乾ききっていない。

 布を引かれるぶんだけ、俺の歩幅は小さくなった。

 小さくなった歩幅のまま、それ以上は急がなかった。


 駆けつけるときに蹴散らしたビーチサンダルが、帰り道の砂の上にそのまま転がっていた。


「あ、私のサンダル……片っぽ裏返ってる」


 三桜さんが心花と手をつないだまま、砂の上へ腰をかがめた。


「三桜さん。手を離してから拾えばいいんじゃないか」


「やだ。あったまるまでこうしてるって言ったもん」


 三桜さんはつないだ手をほどかずに、空いているほうの手でサンダルをひとつずつ拾い上げた。

 三桜さんがかがむたびに手を引かれた心花がかがみ、裾を引かれた俺までかがむ。

 三人ぶんのお辞儀が、砂の上で二回くり返された。


「……なんですか、これ」


 心花の喉からかすれた声がこぼれた。


「わかんない。でも、なんかへんだね」


「へんです。……センパイまで、いっしょにお辞儀してます」


「裾を握られてるからな」


 言ってから、しまったと思った。

 握られている、と口にしたら、それで離されてしまう気がした。

 心花の指はほどけなかった。

 布をつかむ位置が、むしろほんの少しだけ深くなった。


「あっつ! え、待って、砂ってこんな熱かったっけ!?」


 少し先で一花さんが片足ずつ跳ねていた。

 遠くまで飛んでいった自分のサンダルを取りにいこうとして、素足のまま焼けた砂に踏みこんだらしい。


「一花お姉ちゃん、さっきは平気な顔して立ってたのに」


「さっきは砂どころじゃなかったの! ……あつっ、あつ」


 一花さんは跳ねながら言い捨てて、それから少しだけばつが悪そうに唇をとがらせた。

 さっきの一花さんは、焼けた砂の上で足の指一本動かさずに立っていた。

 熱くなかったわけではないらしい。


「ほい、綾瀬姉さん!」


 波打ち際のほうから立花が駆けてきて、両手にぶら下げてきたサンダルを、片方ずつ一花さんの足もとへ放った。

 放り終えると、立花はこっちへは寄ってこなかった。

 何歩ぶんか離れたところで足を止めて、所在なさそうに両手を腰に当てている。


「タチバナくん、今日いちばん役に立ったじゃん」


「今日いちばんがサンダル拾いって、俺の一日どうなってんの!?」


 一花さんはけらけら笑いながらサンダルをつっかけた。

 つっかけた途端に、ほっとしたような長い息をついている。


 二葉さんも素足だった。

 顔色ひとつ変えずに歩いているが、さっきから少しずつ足が速くなっている。


「二葉も熱いんでしょ。早歩きになってるよ」


「急いでいるだけよ。日なたは篠崎さんの腕に悪いもの」


「つま先立ちで急ぐ人、初めて見たけど」


 二葉さんは返事をしなかった。

 かかとをすとんと砂に下ろして三歩だけ平然と歩き、四歩目でまたつま先立ちに戻った。


「……センパイ」


 裾が小さく引かれた。


「ん」


「さっきから歩くの、ゆっくりですね」


「焼きそばがまだ腹に残ってるんだ」


「……さっき走ってたの、ちゃんと見てましたよ」


 返す言葉が見つからなかった。


「センパイ、嘘へたですね」


 赤い目のまま、心花の口の端がほんの少しだけ持ち上がった。

 泣いたあとにこぼれた湿った笑いとは、少し違う形だった。

 少し先で、一花さんが首だけこっちへ振り返った。


「誠の嘘、三桜といい勝負だもんね」


「私、嘘へたじゃないもん!」


「三桜。それがもう一つ目よ」


 つま先立ちのまま二葉さんに言われて、三桜さんは心花とつないだ手をぶんぶん振って抗議した。

 振られた心花の体が揺れて、裾を握られた俺も一緒に揺れた。


 パラソルの影に入ると、足の裏から砂の熱がすっと抜けていった。

 立花はシートのいちばん端に腰を下ろした。

 パラソルの影から半分はみ出した、日なたの場所だった。


「タチバナくん、なんでそんな端っこ? そこ日なただけど」


「え? ……あー、俺、焼けたい派だから。男は焼けてなんぼって言ったろ」


「朝から言ってたね、それ」


 一花さんはそれ以上つつかなかった。


「心花ちゃん、塗り直そ。腕、出して」


 三桜さんが一花さんのバッグから日焼け止めを取り出して、心花の正面にちょこんと座った。

 心花は右の腕を差し出した。

 さっきまで三桜さんの両手に包まれていたほうの腕だった。


「わ、境目くっきり。定規で引いたみたい」


「定規はひどいですよぉ……。三桜先輩、ぼかしてください。いっぱい」


「まかせて。ぼかすの得意なの」


「三桜の得意なぼかしって、だいたい自分の嘘のほうでしょ」


「一花お姉ちゃん!」


 三桜さんは頬をふくらませながらも、手つきだけは丁寧だった。

 袖の形に焼けた境目へ白いのを少しずつ乗せて、指の腹でとんとんとなじませていく。

 心花はくすぐったそうに肩をすくめた。

 すくめた肩の向こうで、もう片方の手はまだ俺の裾につながっていた。


「はい、こっちおしまい。次、そっちの腕ね」


 三桜さんが心花の左腕を指さした。

 心花は自分の左手を見下ろした。

 布を握りこんだ指の関節が、まだ少し白かった。


 心花は指を見つめたまま、しばらく動かなかった。

 それから、ひとつずつほどいた。

 小指、薬指、中指、人さし指。

 最後に親指が布から離れると、心花は空になった手のひらを顔の前で一度だけ握って、開いた。


「……よしっ」


 小さな掛け声と一緒に、心花は両手で自分の頬をぺちんと挟んだ。

 赤い目のまま顔を上げる。


「三桜先輩、こっちもお願いします! 境目、跡形もなく消してくださいね。夏休み明けにクラスの子に見られたら、私、恥ずかしくて溶けちゃいます」


 声はまだ少しかすれていた。

 かすれたまま、いつもの心花の高さまで戻っていた。


「……あ。誠のラッシュガード、そこだけ伸びてる」


 一花さんに言われて見下ろすと、裾の一か所だけが、指で握りこんだ形のまま小さくよれていた。


「あっ……すみません、センパイ。私の手の形になっちゃいましたね」


「いいよ。そのうち戻るだろ」


「篠崎ちゃん、それマーキングっていうんだよ」


「マーキング……! じゃあ戻らなくていいです」


「戻すわ」


 二葉さんが真顔で手を伸ばして、尖った裾を指先で丁寧に引っぱりはじめた。

 少し戻ったところを、反対側からまた引っぱる。


「二葉先輩、それ……逆に伸びてません?」


「均しているの」


「二葉、それ上書きっていうんだよ」


 二葉さんの手がぴたりと止まった。

 止まった手を裾から離して、まっすぐ海のほうへ顔を向ける。


「……海がきれいね」


「話の逸らし方、雑すぎない?」


 二葉さんは水平線の一点を見つめたまま、微動だにしなかった。

 涼しい横顔を取り繕ってはいるが、黒髪のすき間からのぞく耳の先だけが、さっきの日なたよりずっと赤くなっている。


 心花の目がシートの隅で止まった。

 朝に立花がふくらませた縞模様のビーチボールが、丸めた柄シャツの横に転がっている。


「……これ、まだみんなでやってないですよね」


「あ、それ俺の!」


 シートの端で立花が身を乗り出しかけた。

 乗り出しかけたところで、ぴたりと止まる。


「……いや、でもさ。篠崎ちゃん、今は休んどいたほうがよくね? 日陰で、こう、ゆっくり」


「休んでたら、腕の境目が増えるだけですもん」


 心花は三桜さんに左腕を預けたまま、右手だけでボールをつかんで持ち上げた。

 縞模様の向こうから、赤い目がこっちをのぞいている。


「泣いたぶん、遊んで取り返します!」


「篠崎ちゃん、それタチバナくんの足踏みの理屈じゃん」


「取り返すのは大事だろ! 俺は賛成!」


 立花の声がようやくいつもの大きさに戻った。


「その前に、飲み物よ」


 二葉さんが保冷バッグの口を開いてみせた。

 中は空っぽで、底のほうに保冷剤が二つ転がっているだけだった。


「補充は前倒しにすると言ったでしょう。前倒しのまま、もう遅れているわ」


「じゃ、ボールで決めよ。落とした人が買い出し係ね」


「いいわ」


 二葉さんの返事は、一花さんが言い終わるより早かった。


「二葉、即答じゃん。勝つ気しかないし」


「六人ぶんは一人では持てないわ。先に落とした二人よ」


「えっ、えっ、私ぜったい落とすよ!? 今からもう決まってるようなものだよ!?」


「三桜。負ける前から負けを宣言しないの」


  ◇


 波打ち際に近い、砂の締まったところで輪になった。


「マコトの右が私。私の右が立花くん。そこから一花、三桜、篠崎さん。篠崎さんの右がマコトよ」


「ボールの輪にまで席順あんの!?」


「輪にも隣はあるもの」


 一花さんは唇をとがらせた。

 とがらせたまま自分の立ち位置と俺の立ち位置を目で結んで、それからにやりと笑う。


「……あ、でも、あたし誠の真正面じゃん。打ちこみ放題」


「打ちこむ前提なのか」


「綾瀬姉さん、これラリーだからな!? ドッジボールじゃねえから!」


「タチバナくんは黙ってて。これは、あたしと誠のラリーなの」


「六人でやってんだよ!」


 心花の両隣は三桜さんと俺だった。

 立花は輪のちょうど反対側、心花からいちばん遠いところに立っている。


「よっしゃ、いくぞー! いーち!」


 立花の打ったボールが夏の空へ高々と上がった。

 数えるのは立花の係になった。

 頼まれてもいないのに、浜じゅうに届く声で数えている。


「二! 三! よーし、いいぞいいぞ!」


 四、五、六、七。

 立花の声に合わせて、ボールは思ったよりよく輪の中を回った。


「誠ー! 受け止めて、あたしの気持ち!」


 真正面で一花さんが跳んだ。

 赤い水着が日差しの中で跳ね上がる。

 首から吊った二本の紐が跳んだ勢いでふわりと浮き、着地のぶんだけ遅れて、紐の交わった真下のやわらかな重みが大きく弾んだ。

 目がそっちへ行ったのは、たぶん一瞬だった。

 その一瞬で、打ちこまれたボールが俺の顔の真ん中に届いていた。


 鼻の奥にビニールの匂いがつんと抜けた。

 額で跳ねたボールが真上へ上がって、二葉さんが落ち着いて拾う。


「八! 顔! 顔ありだよな!?」


「ありよ。マコトの体の一部だもの」


「顔で受け止めるとか、それもう告白の返事じゃん」


「……ボールを見てなかっただけだ」


「ふーん。じゃあ、何見てたの?」


 黙ると、真正面の一花さんの笑みがますます深くなった。


「マコト。視線はボールに固定しなさい。……よそへ落とさないこと」


「……善処する」


「努力目標ではなく、義務よ」


 二葉さんの受け方は、教科書の図をそのまま写したみたいだった。

 膝の角度も、組んだ両手の位置も、たぶんどこかで読んだとおりなのだろう。

 ボールが真正面に来るかぎり、返球は毎回まっすぐ俺の胸もとへ戻ってきた。


「二葉、さっきから誠にしか返してなくない?」


「いちばん取りやすいところへ返しているだけよ」


「九回中九回、誠なんだけど。数えてたからね、あたし」


「標本が少なすぎるわ。偏りとは言えない」


「九回中九回は、標本とか関係なくね!?」


 二葉さんの十本目で、海から風が吹いた。

 ふわりと横へ流されたボールを追って、二葉さんが斜めに踏みこむ。

 一本きりの肩紐が肩に食いこみ、伸ばした腕の下で、黒い布に収まりきらない重みが大きく揺れた。

 指先はボールの縞をかすめただけだった。

 ぽす、と気の抜けた音がして、ボールが砂に沈んだ。


 輪の中が静まり返った。


「はい、次女さんアウトー! 買い出し一人目!」


「今のは風よ。海から吹いた風が悪いの」


「風のせいにしたね」


「練習だったの。今のは」


「へえ。いつから練習だったの?」


「落ちた瞬間からよ」


 二葉さんの顔は、本気でそう信じている人の顔だった。


「二葉の練習って、後出しじゃんけんより後から出てくるじゃん」


「最初からよ。一から数え直して」


 二葉さんはもうボールを拾い上げていた。

 拾い上げて、誰より先に構え直している。

 知らなかった。

 二葉さんはどうやら、ものすごく負けず嫌いらしい。


「……次女さんがそう言うなら。いーち!」


 三桜さんのところへボールが落ちていく。

 三桜さんはぎゅっと目をつぶって、両手を前へ突き出した。

 当たったのは手首だった。

 ボールは前ではなく、三桜さんの頭の上を越えて真後ろへ飛んでいった。


「わ、わ、後ろ行っちゃった!」


「任せてください!」


 心花が砂を蹴った。

 小柄な体が低く跳んで、三桜さんの背後へ一直線に滑りこむ。

 伸ばした腕の先でボールが跳ね上がった。

 滑りこんだ勢いのまま、心花は砂の上でくるりと一回転して起き上がる。

 白い水着の胸もとに、砂がひとすじ張りついていた。


「セーフ! 今のセーフですよね!?」


「セーフセーフ! 篠崎ちゃん、うますぎだろ! 十四!」


「心花ちゃん、すごい! 後ろのボールが見えてるの、すごい!」


「三桜先輩は、前のボールも見えてなかったですよね?」


「……目、つぶってた」


 三桜さんの正直な申告に、輪のあちこちから笑いが漏れた。


 それからしばらく、ボールは輪の中をよく回った。

 一花さんからは強い球が、二葉さんからは正確な球が、三桜さんからはどこへ行くかわからない球が飛んでくる。

 立花の球はいちばん高くて、いちばん声がうるさかった。

 その立花の球が、一度も心花のほうへ飛んでいかなかった。

 真正面に立っているのに。


 先に口を開いたのは心花だった。


「立花先輩! 私のとこ、さっきから一回も来てないんですけど!」


「え。……そ、そうだっけ?」


「そうだよ。タチバナくん、篠崎ちゃんのとこだけ避けて打ってる」


 一花さんがあっさりと言った。

 立花の視線が宙をさまよった。

 さまよった視線は心花のほうへ行きかけて、なぜか俺のほうへ逃げてくる。

 俺を見られても困る。


「こっちにも打ってください。私、けっこう上手いですよ? さっきの、見てましたよね」


 心花は膝を軽く曲げて、両手を前で組んでみせた。

 構えだけなら二葉さんよりもさまになっている。


「……よ、よし。いくぞ、篠崎ちゃん」


 立花がボールを打った。

 打った、というより、そっと押し出した。

 ボールはありえないくらい高く、ありえないくらいゆっくりと輪の真上へ昇っていく。

 昇りきったところで、しばらく止まって見えた。


「なにあれ。タチバナくん、それ球じゃなくて綿毛」


「ふわふわ……。立花くん、魔法使いみたい」


「待っているあいだに日が暮れるわ」


 心花はボールの真下でじっと待っていた。

 待って、待って、ようやく落ちてきたところで、組んでいた両手をほどいた。

 小さく跳んで、右手を振り下ろす。

 ばしん、といい音がした。

 ボールは一直線に輪を横切って、立花の顔の真ん中に命中した。


「ぶっ」


 立花の顔で跳ねたボールがもう一度高く上がる。

 すかさず一花さんが拾って、つながった。


「二十一! ……今のも顔ありだよな!? 顔、体の一部だよな!?」


「ありよ。つながったなら、どこで受けてもいいもの」


「次女さんが即答した……」


「お返しです、立花先輩! 綿毛なんか送ってくるからですよ。私、そんなにやわじゃないです」


「やわじゃなさすぎるって! 篠崎ちゃん、今の、今日いちばんの球だぞ!」


 立花は赤くなった鼻の頭をこすりながら、歯を見せて笑っていた。


「次、俺もふつうに打つからな! 手加減なしで!」


「どうぞ! ぜんぶ拾いますから!」


 次に立花から飛んできた球は、ふつうの高さで、ふつうの速さだった。

 心花はそれをふつうに受けて、ふつうに一花さんへつないだ。

 それきり、誰もそのことを口にしなかった。

 三桜さんだけが、ボールを追いかけながらやけにうれしそうに笑っていた。


「三十! 三十一!」


 数が増えるにつれて、輪の中の空気が少しずつ変わってきた。

 一花さんの球が、やけに立花のほうへばかり飛ぶ。

 二葉さんの正確な球が、やけに三桜さんの取りにくい足もとへばかり落ちる。


「なあ! さっきから俺んとこだけ、球に殺意こもってね!?」


「こもってないって。愛だよ、愛」


「愛ってもっと優しいもんだろ!」


「……愛は重いものよ」


 二葉さんがぽつりと言って、また正確な一球を三桜さんの足もとへ落とした。

 三桜さんが悲鳴を上げて、どうにか膝で蹴り上げる。


「二葉が言うと、説得力ありすぎて笑えないんだけど」


 二葉さんは一瞬だけ言葉に詰まり、つんとあごを引いて視線をそらした。

 そのせいか、次の一球だけが狙いを大きく外れて俺の頭上を越えていった。

 後ろへ跳んで、どうにか拾った。


「……なあ。もしかして二人とも、買い出しに行かせたい相手を狙ってないか」


「誠、そういうのは気づいても言わないの」


「狙っていないわ。結果として、そうなっているだけよ」


「結果って、そういう意味の言葉じゃないよね!?」


 三桜さんの悲鳴まじりの抗議は、二葉さんの涼しい横顔に跳ね返された。


「四十二!」


 二葉さんの球が、三桜さんの頭の上へ落ちてきた。

 三桜さんは両手を上げて、つま先で跳んだ。

 跳んだ拍子に、肩紐のない胸もとがすとんと下がりかける。

 三桜さんの両手が空中で止まった。

 上にはボール、下には水着。


「わ、わ、わ……っ!」


 三桜さんは迷わなかった。

 両手で胸もとをがしっと押さえて、そのまま着地した。

 ボールはその頭のてっぺんにぽこんと当たって、砂へ落ちた。


「……正しい判断よ」


「えらいえらい。ボールよりずっと大事なもん守ったね」


「負けたのに、なんで褒められてるの……?」


 三桜さんは胸もとを押さえたままぺたりとしゃがみこんで、真っ赤な顔で、足もとのボールをつま先でつついた。


「はい、三桜ちゃん一人目な! あと一人! いーち!」


 立花がまた数えはじめた。

 十も数えないうちに、一花さんの打った球が立花の頭のはるか上を越えていった。


「届けえええっ!」


 立花は迷わず砂へ飛びこんだ。

 伸ばした指の先まで、あと少し。

 届かないまま顔から砂に着地して、ボールはその後頭部でぽんと跳ね、波打ち際へ転がっていった。


「……頭には届いてたよな?」


「落ちる前に当たれば有効、落ちてから当たれば無効よ。今のは後」


「次女さんのルール、さっきから都合よくね!?」


「最初から決まっていたわ」


「二葉のルールってさ、勝ってる側にだけ毎回ちょっとずつ増えてくんだよね」


 立花は顔じゅう砂だらけのまま、仰向けにひっくり返った。

 心花が声を上げて笑いだした。

 笑いすぎて、三桜さんの肩につかまっている。

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