↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三年間愛を育んだネトゲ嫁が三つ子になって転校してきた〜「「「私があなたのお嫁さんだよ?」」」三姉妹全員が譲らない、甘くて騒がしい正妻戦争〜  作者: ハイさん
第5章 夏休み!海と水着と、夏祭りの告白

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
124/134

第124話 海!まぶしさは水着か、夏か

乗り換えの駅で落ち合い、電車に揺られてたどり着いた浜の端に、俺たちはパラソルを立てた。

 女子四人は買ったばかりの水着に着替えるため、ひとかたまりで更衣室へ向かった。

 先に着替えを済ませた俺は、ビーチボールをふくらます立花の隣で荷物番をしながら、更衣室の方角ばかり見ていた。


 水着の色も形も、俺だけがまだ知らされていない。

 見せるときには、何か段取りがあるらしい。


「誠ー!」


 一花さんの声だった。

 顔を上げると、四人が一列になって砂を踏んでくるところだった。

 四人とも大きなバスタオルを肩から体に巻きつけている。

 首から下が、ピンクと紺と白と黄色のタオルで、すっぽりと隠されていた。


 四人はパラソルの前で横一列に並ぶと、ぴたりと足を止めた。


「誠、そこ立って。動かないでね」


「なんで立つんだ?」


「座ってたら見上げる角度になっちゃうじゃん。もったいない」


 何がもったいないのかは、たぶん聞かないほうがいい。

 言われるままに立ち上がると、四人ぶんの視線が俺の顔に集まった。


「タチバナくんは、ボールふくらましてて」


「おう。ふくらましてる」


 立花は素直にボールの吹きこみ口をくわえ直した。

 この状況でいちばんどうでもよさそうな顔をしているのが、こいつだった。


「じゃあ、いっせーので、だからね! みんなで、いっせーので!」


 三桜さんが、タオルの合わせ目を両手でぎゅっと握りしめて言った。

 駅で口を滑らせた段取りは、どうやらこれのことらしい。


 一花さんが、気の抜けた声で音頭を取った。


「はいはい。いくよー。いっせーの――」


 最後のひと声を待たずに、ばさっとピンクのタオルが宙を舞った。

 放り投げられたタオルが、ちょうど立花の頭の上に着地する。

 ボールをくわえたまま、立花の上半身がタオルの山になった。

 タオルの下から「んぐっ!?」とくぐもった声が漏れたが、誰ひとり気にとめなかった。


「――で!」


 三桜さんの掛け声どおりに、二葉さんのタオルがすとんと足もとへ落ちた。

 心花の手はタオルの端をつかんだところで止まっていた。

 三桜さんの手は、そもそも動いてすらいなかった。


「一花、早いわ」


「だって待てなかったんだもん。はい誠、一発目」


 一花さんは片手を腰に当てて、胸を張った。


 真っ赤だった。

 首の後ろから降りてきた二本の紐が、胸の真ん中で一度だけ交わっている。

 交わったところがちょうど深い谷間の上にあって、目は勝手にそこへ吸い寄せられた。

 吸い寄せられた先から、きゅっと締まった腰へ。

 腰から、すらりと伸びた脚の線へ。


 目線が上から下まで一往復したところで、一花さんがにやりと笑った。


「今、上から下まで見たね。往復で」


「……見てない」


「見たよ。顔に書いてあるもん。……ね、倒れそう? 倒れたら介抱したげるよ。このまんまで」


「一花。順番よ」


 二葉さんは背筋をまっすぐ伸ばして立っていた。

 肩紐は右にしかなかった。

 黒い一本の線が右肩から胸もとへ斜めに降りて、左の肩をまるごと夏の光の中へ放り出している。

 日傘の下で過ごしてきた肌は、砂浜の照り返しを浴びて、まぶしいくらいに白かった。

 そして、その斜めの線が支えているものの量に、俺は今さら言葉を失った。


 プールの紺のワンピースは、あれでもまだ隠していたほうだったらしい。

 電車で二の腕に乗っていた重みが、目の前でそのまま輪郭になっていた。

 二葉さんは腕で隠そうとはしなかった。

 左手を体の横にまっすぐ下ろしたまま、顎を少しだけ上げて、俺の顔を見ている。

 ただ、右手の指先だけが、肩紐のつけ根をきつくつまんでいた。


「……見ていいわ。マコトのために選んだのだから」


「二葉、それ砂浜で言うセリフじゃないって」


「……比喩よ」


 何の比喩なのかは、二葉さん本人にもわかっていない顔だった。


「三桜先輩、手、動いてすらなかったですよね!? 私も止まっちゃいましたけど!」


「て、手が、離れないの……。いっせーのでって言った瞬間、急にぜんぶ恥ずかしくなっちゃって……」


「言い出しっぺが最後って、いちばん目立つやつじゃん」


「わかってるよぉ……!」


 三桜さんはタオルの合わせ目を握りしめたまま、首まで真っ赤になっていた。

 隣の心花もタオルの端をつかんだまま固まっている。

 開きかけた布のすき間から、白いものがちらりとのぞいていた。


「……出遅れたの、私もけっこう恥ずかしいんですけど」


 心花は小さく深呼吸すると、三桜さんのほうへ体を向けた。


「三桜先輩。私といっしょに、もう一回だけやりましょ。いっせーので」


「……心花ちゃんと?」


「はい。二人なら、恥ずかしいのも半分こです」


 三桜さんの目がタオルと心花の顔のあいだを一往復した。

 それから、こくりと小さく頷く。


「……いっせーの」


「――で!」


 二枚のタオルが、同時に砂の上へ落ちた。


 淡いミントグリーンだった。

 肩紐がどこにもない。

 胸もとをふちどるフリルだけで留まっていて、細い肩も、首筋から鎖骨のくぼみへ続くなだらかな線も、まるごと光の中に出ていた。

 三桜さんは両手を胸の前で握り合わせて、上目遣いにこちらをうかがっている。

 それから意を決したように、くるりと背中を向けた。


 背中はほとんど素肌だった。

 肩甲骨の少し下を細い紐が一本横切って、真ん中で小さな蝶結びになっているだけだ。

 背骨の浅いくぼみが、うなじからその結び目をくぐって、腰のほうまでまっすぐ続いている。

 プールの日、タオルを巻いたまま更衣室から出てきた子と同じ背中だとは、とても思えなかった。


「……背伸びしたの」


 背中を向けたまま、三桜さんが消え入りそうな声で言った。

 結んだ細い紐の先が、浅い呼吸に合わせてふるふると揺れている。

 振り向けないでいる背中が、うなじから肩甲骨のあたりまで、ほんのり桜色に染まっていた。


 そして、その隣。


 白だった。

 肩紐のつけ根に小さくレモンイエローが差してあって、同じ色の細い縁取りが、胸もとの弧をなぞっている。

 その縁取りが描く弧を、俺は見下ろす角度のまま、まともに見てしまった。

 首も肩も二の腕も、どこを取っても小柄な後輩のままだった。

 それなのに、そのあいだで白い布がいっぱいに張りつめて、思いがけないほど豊かなふくらみを包みこんでいる。


 いつものだぼっとしたTシャツの下に、これがあったのか。

 その一文だけが頭の中で空回りを続けた。

 気がつくと、息をするのを忘れていた。


「あ」


 心花が俺の顔を指さした。


「固まった! 今、センパイ固まりましたよね!? 見ました、一花先輩!?」


「見た見た。完全に止まってた」


「三秒は止まっていたわ」


「四秒だよ。背中向けてたけど、ちゃんと数えてたもん」


「数えるな」


 ようやく出た声が、それだった。

 心花はぱあっと顔を輝かせて、両手で小さくガッツポーズを作った。


「やった! 宣言どおりです!」


「宣言?」


「それも、なんでもないです!」


 ガッツポーズのまま、心花の動きがふっと止まった。

 俺の視線がまだ自分の上にあることに、遅れて気づいたらしい。

 心花はばっと両腕を体に巻きつけた。

 ――二の腕を、反対の手のひらでそれぞれ包みこむようにして。


「う、腕は見ないでください! 腕は!」


「なんで腕なんだ?」


「焼けてるんです! Tシャツの形に! ここから先だけ夏で、ここから内側は真っ白なんですよ!?」


 言われてみれば、二の腕の途中で肌の色がくっきりと切り替わっていた。

 袖の縁から先だけが小麦色で、そこから肩までは、水着の白とほとんど見分けがつかない。

 隠すところの優先順位が、たぶん少しだけおかしい。


「篠崎ちゃん、隠すとこそこなんだ」


「ここがいちばん恥ずかしいんです!」


「……大丈夫だ。腕しか見てない」


「うそだー。目線、真ん中から一ミリも動いてなかったじゃん」


「マコト。嘘をつくなら、もう少し上手につきなさい」


 二方向から同時に撃ち抜かれて、俺は黙るしかなかった。


 そのとき、タオルの山がもぞもぞと動いた。

 頭からピンクのタオルを引きはがした立花が、ぱんぱんにふくらんだボールを高々と掲げる。


「ぷはっ、できた! お、みんな着替え終わってんじゃん。いいね、似合ってる似合ってる。で、ボール誰からやる?」


 ボールを抱えたまま、立花の目はもう波打ち際のほうを向いていた。


「タチバナくん、感想うっす!」


「え、だって、そういうのは相沢の担当だろ。俺が先に言ってどうすんだよ」


 あっけらかんとしたひと言だった。

 四人ぶんの視線が、立花からくるりと俺のほうへ戻ってくる。


「……そうね。次は、マコトの番よ」


「四人とも似合ってる。すごく」


「まとめんな」


「ひとりずつよ」


「順番は? 順番、どうする?」


「私、最後がいいです! トリで!」


 逃げ道は最初からどこにもなかった。

 俺はひとつ息を吸って、一花さんのほうを向いた。


「赤、すごく似合ってる。一花さんにしか着こなせないと思う」


「ふーん。どこが?」


「……そこ、掘るのか」


「具体的に。どこが、どう似合ってるか」


「具体的に言ったら、たぶん俺が捕まる」


 一拍おいて、一花さんがぶはっと吹き出した。


「なにそれ。今日いちばんの褒め言葉かも」


 笑いながら、一花さんはつま先立ちになって、俺の耳もとまで顔を寄せてきた。

 胸の前で交わった紐が、ラッシュガードの胸に触れそうな距離だった。


「じゃ、具体的なほうは、あとで二人きりのときに聞かせてね」


「一花。次よ」


 二葉さんの声が、俺と一花さんのあいだに冷たく割りこんだ。

 さっきと同じ姿勢のまま、二葉さんは俺の言葉を待っていた。

 右手の指先はまだ肩紐のつけ根をつまんでいる。


「黒、大人っぽくて似合ってる。……あと、肩が白いな」


「……日傘の成果よ」


「知ってる。毎日差してたもんな」


「……見ていたの?」


「隣にいたら見えるだろ」


 二葉さんは唇を結んだ。

 肩紐をつまむ指に、ぎゅっと力がこもる。

 むき出しの左の肩が、日差しのせいではない色で、ゆっくりと桜色に染まっていった。


「二葉、肩まで赤くなってるけど」


「日差しよ」


「まだ一分も浴びてないって」


 いつのまにかこちらへ向き直った三桜さんは、心花の陰に半分隠れながら、自分の番を待っていた。

 隠れきれずに、ミントグリーンのフリルがはみ出している。


「三桜さん。タオルを巻いてないのが、いちばんいい」


「……それ、水着の感想?」


「水着も背中も、ぜんぶ込みの感想だ」


 三桜さんの顔がふにゃりとほどけた。

 うれしさが体からあふれたみたいに、その場でぴょんと小さく跳ねる。

 肩紐のない胸もとが一緒に弾んで、布の縁がほんの少しだけ下へずれた。


「三桜、跳ねない! 落ちる!」


「ひゃっ」


 一花さんの悲鳴に、三桜さんは両手で胸もとを押さえて固まった。

 布はぎりぎりのところで踏みとどまっていた。

 その場にいた全員が、そろって息を吐いた。


「三桜。その水着を着ている間は、喜びを心の中だけで完結させなさい」


「む、無理だよぉ……」


「はい、トリです! センパイ、どうぞ!」


 心花は二の腕を押さえていた手をぱっと離して、ぴんと背筋を伸ばした。

 さっきまで必死に隠していた焼け跡の線が、夏の光の中にそのまま出る。


「白、似合ってる。心花らしい」


「私らしいって、どこらへんがですか!?」


「明るいとこ。……あと、腰の黄色いのも」


 腰の横で結んだ紐の先に、小さくレモンイエローが差してある。

 心花はそれを指でつまんで、ぱちぱちと瞬きをした。


「でしょ!? それ、私が選んだんだよ!」


 三桜さんが心花の後ろから身を乗り出して、得意げに胸を張った。


「三桜先輩、そこで胸張ります!? 今、私の感想の番なんですけど!」


「三桜の見立て、大当たりじゃん」


「心花ちゃんはね、隠さないほうがかわいいの。ずっとそう思ってたんだもん」


 心花は言い返そうとして、口をぱくぱくさせた。

 それから黄色い紐の先を指に巻きつけたまま、俺のほうを見上げる。

 見上げてくる目が、ほんの少しだけ心細そうに揺れていた。


「……センパイ。それ、ほんとですか?」


「ほんとだ」


「……えへへ。じゃあ、さっき固まってた分も込みで、受け取っときます」


 心花はくすぐったそうに笑って、短い髪をがしがしとかき回した。

 潮風に吹かれた毛先が、ぴょこんと跳ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。