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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第二部

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91話 足利学校

 それから数日後。


 俺達は足利学校へ向け、府中を発った。


 供回りは勘助殿に由兵衛。


 護衛の菅谷隊を十数名。


 大人数で行けば目立つ。


 かといって、少なすぎれば道中で何があるか分からない。


 今回はこれくらいが丁度いいだろう。


「では父上、照貞叔父上」


 俺は馬上から二人へ頭を下げた。


「府中と牛堀のこと、よろしくお願いします」


「うむ」


 親父は力強く頷く。


「安心して行ってこい。人を探すのも領主の務めじゃ」


「はい」


 俺は頷いた。


「政貞!」


 照貞叔父が、なぜか目を輝かせながら近付いてくる。


「足利には美しい女が多いと聞く! 甥っ子よ! 良い娘がいたら叔父上にも紹介するのだぞ!」


「絶対に嫌です」


「即答!?」


「当たり前じゃないですか」


 俺が呆れていると隣の葵が、にっこりと笑った。


 それはそれはもう暗黒のオーラが漂う可愛らしい笑顔だった。


「照貞義叔父上様、政貞様に変なことを吹き込まないでくださいね」

 

「は、ははは……」


 照貞叔父の顔が、僅かに引き攣った。


 あの数々の女性トラブルを切り抜けてきた照貞叔父をビビらせるとは……。


 流石は葵、恐るべしだ。


「も、もちろんじゃとも! ワシは甥の幸せを願う、良き叔父じゃからな!」

 

「どうですかねぇ……」


 葵は、完全に信用していない目をしていた。


 まあ俺もしていないけどね。


 そして会話もほどほどに、俺達は出発した。


「行ってきます」


 俺は手綱を握る。


「府中と牛堀を、頼みます」


「任せておけ!」


 親父の声を背に、俺達は府中を後にした。




 常陸を出て下総を抜け、さらに西へ進む。


 道中は思っていたよりも平穏だった。


 小田家が常陸をまとめたことで少なくとも領内では、以前より盗賊や野盗の類も減っている。


 だが一歩外へ出れば、そこは別の家の領地だ。


 関所では名を告げ、時には通行の銭を払い、時には小田家の使者であることを示す。


 領地が変わる度に道の整い方も、村の様子も、民達の表情も変わっていく。


「常陸とはやっぱり違うねぇ」


 街道沿いの村を眺めながら葵が呟いた。


「そうだな。同じ関東でも治める家が違えば、土地の空気まで変わる」


 田畑が整っている村もあれば、荒れ果てた畑の横を痩せた子供が歩いている村もある。


 俺は馬上からその景色を眺めた。


 領主が変われば民の暮らしも変わる。


 当たり前のことだ。


 だが、だからこそ俺達は小田の領地を、少しでも良くしていかなければならない。

 

「大将」


 前を進んでいた由兵衛が振り返った。


「あれが足利の町じゃねえか?」


「おっと、もう着いたのか?」


「みてぇだな」


 俺は前方へ目を向ける。


 山を背に町が広がっていた。


 商人、旅人、僧侶、武士。


 様々な者達が行き交っている。


 府中とも、土浦とも違う。


 この町には、何処か独特の空気があった。


 武だけではない。


 書と学び、そして知恵を求める者達が集まる場所がこの足利学校なのだ。



 


 足利学校は町の一角に静かに建っていた。


 門をくぐると、外の賑わいが嘘のように消える。


 木々が揺れ、風が葉を鳴らす。


 その奥には古びた建物と、書物を抱えた者達の姿があった。


 若い者、年老いた者、僧の姿をした者、武士らしい者。


 皆何かを学び、何かを求めている。


「何が古風なところだねぇ……」


「そうだな」


「しかし凄え場所だな。ここにいるだけで頭が良くなった気になれるぜ」


「気になれるだけだぞ」


 俺達が門の近くで軽口を叩いていると、一人の僧が近付いてきた。


「もし、そちらは小田家の方々でございますかな?」


 穏やかな口調だった。


 だがこちらの身なりや供回りを見て、ただ者ではないと察したらしい。


「そうです」


 俺は頭を下げる。


「小田家臣、菅谷政貞と申します。足利学校で仕える先を探している者、あるいは算術、土木、兵法、商いに通じた者を探しております」


 僧は少し驚いたように目を細めた。


「小田家が、人をお求めに……でございますか」


「はい。これから町を作り、港を整え、民が生きる場所を増やしたい。そのために、力を貸してくれる者を探しています」


「……なるほど」


 僧はしばらく俺を見ていた。


 そして、ゆっくりと頷く。


「ならば、幾人か心当たりがあります。学問はあれど、仕える家を失った者。才はあれど家柄がなく、世へ出る機会を得られぬ者。そして」


 僧は意味深に言葉を続けた。


「故郷を失い、再び立ち上がる時を待つ者も」


 俺はその言葉に、僅かに胸が騒いだ。


「その者達に会わせていただけますか」


「ええ」


 僧は微笑んだ。


「まずはこちらへ」


 俺達は僧の後を歩き始める。


 足利学校。


 ここには俺達の未来を変える者達がいる。


 そんな予感が不思議なほど、強く胸に残っていた。

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