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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
1542年 日常の章

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番外編 人生双六

1542年 府中城 城下


 府中に来てから、俺達は多くのことに手を付けてきた。


 城下の道を整え、市を立て直し、農具を広め、商人を呼び、民の暮らしを少しずつ変えていく。


 それは決して派手なものではない。


 戦で敵を討つような分かりやすい手柄でもない。


 だが、民が腹を満たし、安心して暮らせる場所を作るためには、こういう積み重ねこそが必要だった。


 そんなある日のことだった。


 俺は氏治様と共に城下を歩いていた。


 特に大きな用事があったわけではない。


 市の様子を見て、道の具合を確かめ、民の顔を見る。


 それだけでも、政をする上では十分大事な仕事である。


「政貞」


「はい」


「最近、子供達が少し退屈そうではないか?」


 氏治様がふと足を止めた。


 その視線の先には、道端で木の枝を転がして遊んでいる子供達がいた。


 何人かは楽しそうにしている。


 だが、確かにどこか物足りなさそうにも見えた。


 府中は以前より落ち着いてきた。


 食べる物も少しずつ増え、城下にも活気が戻り始めている。


 だが、それでも子供達が遊べるものは多くない。


 石を投げる。


 枝で地面に絵を描く。


 鬼ごっこのように走り回る。


 それだけでも楽しい年頃ではあるが、同じ遊びばかりでは飽きも来るだろう。


「そうですねぇ。まあ、遊び道具が少ないですから」


「ふむ……何かよい案はないか?」


「遊びですか」


 俺は少し考えた。


 現代の遊びをそのまま持ち込むのは難しい。


 複雑なものは作れないし、材料が高すぎても広まらない。


 ただ、紙や木札で作れるものなら可能だ。


 将棋や囲碁のようなものもあるが、子供達には少し難しいかもしれない。


 もっと分かりやすく、誰でも遊べて、運と選択で盛り上がるもの。


 そこで、ふと頭に浮かんだ。


「人生ゲーム……いや、人生双六などどうでしょうか」


「人生双六?」


 氏治様が首を傾げる。


「はい。盤の上に道を描き、賽を振って駒を進めます。止まった場所によって、良いことや悪いことが起こる。最後にどれだけ銭や米を持っているか、どんな暮らしになったかを比べる遊びです」


「おお! 普通の双六とは違うのか?」


「普通の双六より、もう少し暮らしに寄せます。例えば、百姓から始まり、田を増やしたり、商人になったり、職人になったり、役人に取り立てられたり。途中で豊作もあれば、病もあり、火事もあり、結婚もあります」


「面白そうじゃ!」


 氏治様の目が輝いた。


「それなら子供達も喜びそうじゃのう!」


「ただ遊ぶだけでなく、世の中の仕組みを少し学ぶこともできます。米を蓄える大切さとか、火の用心とか、借金の怖さとか」


「借金の怖さまで遊びに入れるのか?」


「……現実は厳しいので」


「お主が言うと説得力があるのう……」


 氏治様が少し引いた。


 ま、まあ、俺としては大事なことだと思っている。


 楽しみながら学べるなら、それに越したことはない。


「まあ、暗くなりすぎないようにしますよ。悪いことばかりではありません。水車が出来て仕事が楽になるとか、千歯こきを使って収穫が早く終わるとか、市で良い品を売って儲かるとか、そういう良い札も入れます」


「なるほど! 小田の政も学べるわけじゃな!」


「そういうことです」


「よし、作ろう!」


 氏治様はすぐにそう言った。


「今から作ろう!」


「今からですか?」


「うむ! 善は急げじゃ!」


 こうして、俺と氏治様は急遽、人生双六を作ることになった。


     


 城へ戻ると、俺達は早速、板と紙を用意させた。


 最初から立派なものを作る必要はない。


 まずは試しに遊ぶための盤を作り、子供達に見せる。


 楽しんでくれるなら、後で量産すればいい。


 盤の中央には、曲がりくねった道を描いた。


 出発点は「生まれる」。


 そこから「子供の頃」「家の手伝い」「初めて市へ行く」「畑を耕す」「商いを学ぶ」「嫁をもらう」「子が生まれる」「家を建てる」など、人生の節目を入れていく。


「政貞、これはどうじゃ?」


 氏治様が筆を持って、目を輝かせながら言う。


「『若君に気に入られる。褒美として米三俵を得る』」


「小太郎様、それは若君の権力が強すぎます」


「では『若君と友になる。毎日楽しい』」


「それはもはや小太郎様の願望では?」


「駄目か?」


「駄目ではありませんが、子供達が全員若君と友になる盤は少しおかしいです」


「むう……」


 氏治様は不満そうに頬を膨らませた。


 だが、その後も楽しそうに札を考えていく。


「『水車が出来た。村の仕事が楽になる。米二俵を得る』」


「それは良いですね」


「『千歯こきを使った。脱穀が早く終わる。一回休まず進める』」


「それも良いです」


「『政貞に難しい政務を教わる。頭が痛くなる。一回休み』」


「それ、私怨が入っていませんか?」


「入っておらぬ」


 絶対入っている。


 だが、子供達には受けるかもしれない。


 俺は苦笑しながら、その札も採用した。


 その後も、俺達はあれこれと案を出していった。


『豊作。米三俵を得る』


『大雨で橋が流れる。修理のため銭を払う』


『市で良い品を売る。銭を得る』


『火の不始末で小屋が燃える。一回休み』


『葵に剣を教わる。獣を捕まえる。肉を得る』


『ちよに忍びの歩き方を教わる。なぜか迷子になる。一回休み』


『霧丸に気配を消す方法を聞く。答えが短すぎて分からず一回休み』


『小太郎様と畑仕事をする。楽しい。米を得る』


『勘助殿に策を教わる。難しすぎて二回休み』


「政貞」


「はい」


「勘助の札だけ、重すぎぬか?」


「勘助ですから」


「それなら仕方ないのう」


 納得されてしまった。


 勘助殿、すみません。


 こうして夕方には、試作品の人生双六が完成した。


 盤はやや歪んでいる。


 札の文字も統一感がない。


 だが、手作りらしい温かみがあった。


 何より、氏治様が本当に楽しそうに作っていた。


「政貞!」


「はい」


「これはきっと流行るぞ!」


「そうですね」


 俺も頷いた。


 子供達がこれで楽しんでくれればいい。


 そう思っていた。


     


 結果から言えば、人生双六は城下の子供達に大いに流行した。


 最初は物珍しさから集まっていた子供達も、すぐに夢中になった。


「やった! 豊作だ!」


「俺、商人になったぞ!」


「火事で家が燃えたぁ!」


「若君と友になった! 米三俵もらった!」


「ずるい!」


「賽で出たんだから仕方ないだろ!」


 子供達は笑いながら盤を囲み、賽を振り、札を読み上げていた。


 中には字が読めない子もいたが、読める子が代わりに読んでやる。


 そのうち、字を覚えたいと言い出す子も出てきた。


 これは思わぬ収穫だった。


 遊びたいから字を覚える。


 そういう入口もありだ。


「政貞、すごいぞ!」


 氏治様は大喜びだった。


「皆、楽しそうじゃ!」


「ええ。思った以上に受けましたね」


「うむ! ワシもやりたい!」


「小太郎様もですか?」


「当然じゃ! 作った者が遊ばずしてどうする!」


 そう言われると、確かにその通りだった。


 そこで夜、俺達は試しに人生双六で遊ぶことになった。


 参加者は俺、氏治様、葵、ちよ。


 勘助殿と霧丸にも声を掛けたが、二人は別件で外している。


 ということで、今回はこの四人のメンバーで開始だ。


    


「では、始めましょう」


 俺達は盤を囲んで座った。


 駒は小さな木片を色で塗り分けたもの。


 俺は青。


 氏治様は赤。


 葵は黒。


 ちよは黄色。


「何で私は黒なの? 普通、私が青じゃない?」


「いや〜、葵に似合ってると思ってな」


「どういう意味?」


「強そうという意味だ」


「ふ〜ん、ならいいけど」


 危ない。


 一歩間違えれば開始前に平手打ちを受けるところだった。


「では、最初に賽を振ります。出た目の数だけ進み、止まった場所の札を読みます」


「うむ! 分かりやすいのう!」


「勝ち負けは?」


 ちよが身を乗り出す。


「最後に持っている米と銭、家や職の内容で決める。ただし、今回は試しだから楽しくやることを目的にしよう」


「楽しくね!」


 葵が笑う。


 その笑顔は明るかった。


 だが、俺は知っている。


 葵は勝負事になると負けず嫌いだ。


 そして、ちよも負けず嫌いである。


 さらに氏治様は純粋に勝ちたがる。


 つまり、この場に穏やかに遊べる者などいない。


 俺は盤を作った責任者として、どうにか場をまとめなければならなかった。


「では、小太郎様からどうぞ」


「うむ!」


 氏治様が賽を振る。


 ころころと転がり、出た目は六。


「おお! 六じゃ!」


「幸先がいいですね」


 氏治様の駒が進む。


 止まった札を俺が読む。


「『幼い頃から人懐っこい。近所の者に可愛がられる。米一俵を得る』」


「はははっ! ワシにぴったりじゃな!」


「確かに」


 氏治様は満足そうに米札を受け取った。


 次は葵。


 賽の目は三。


「『山で迷子になる。だが弓で兎を仕留める。肉を得る』」


「何で迷子になるのさ」


「でも肉は得てるぞ」


「ならいっか。私、肉大好きだし!」


 葵は満面の笑みで肉札を受け取った。


 次はちよ。


 賽の目は一。


「『川で転ぶ。服が濡れる。一回休み』」


「えええっ!? 始まってすぐ休み!?」


「まあ運だからな。しょうがないよ」


「この賽、私に恨みある!」


「賽に感情はないぞ……」


 ちよは唇を尖らせた。


 最後に俺。


 賽の目は二。


「『父に叱られる。姿勢が良くなる。次に進む時、一つ多く進める』」


「政貞にぴったりだねぇ」


 葵がにやにやと笑う。


「まあ確かに、父上にはよく叱られましたからね」


「勝貞は怖そうじゃからのう」


 氏治様が真面目に頷く。


 まあ怒った政治様も大概ですけどね。


 俺はそう思いつつ、双六の進行を進めた。


     


 最初は平和だった。


 氏治様は人懐っこさで米を集め、葵は狩りや刀、弓関係の札を引き、俺は政務や勉学の札に止まり、ちよはなぜか休み札ばかり引いた。


「また休み!?」


「『忍び足の稽古をしていたら落とし穴に落ちる。一回休み』だ」


「何で私だけこんなの多いの!?」


「ある意味、天に愛されてるのかな。ははっ」


「ははっ、じゃないよ政貞様! こうなったら絶対逆転してやるから!」


 ちよは気合いを入れながらそう言った。


 ちなみに、この札は氏治様が面白がって入れたものだ。


 だが、ここで氏治様を売るわけにはいかない。


 主君を守るのも家臣の務めである。


「ちよ、人生とは思い通りにならないものだぞ」


「思い通りにばかりならないのも不自然だよ!」


 その後、葵が大きな目を出した。


 止まった場所は、俺が作った中でもかなり強い札だった。


「『良い商人と出会う。品を売って大儲け。銭五貫を得る』」


「やった!」


 葵が嬉しそうに銭札を受け取る。


「これで私が一歩先だね」


「まだ序盤ですよ」


「でも勝ってる」


「そうですね」


 葵はにこにこと笑っている。


 ただ、その目は完全に勝負師の目だった。


 次に氏治様が賽を振る。


 出た目は四。


「『民と共に畑を耕す。皆に慕われる。米二俵を得る』」


「おお! これもワシにぴったりじゃ!」


「本当にぴったりですね」


 氏治様は嬉しそうに米札を受け取った。


 ここまではよかった。


 だが、その次から盤面は荒れ始めた。


 俺が止まった札。


「『帳簿を付ける。計算が合わず夜まで働く。一回休み。ただし次に銭二貫を得る』」


「政貞らしい」


 葵が笑う。


「笑い事じゃない。これは現実でもよくある」


「あるんだ……」


 ちよが少し引いた。


 次の葵。


「『山で猪に追われる。肉を落とす』」


「はあ!?」


 葵が声を上げた。


「私の肉が!」


「肉札を一枚戻してください」


「嫌」


「札の効果だから」


「嫌」


「葵」


「だって私の肉だよ?」


「すまんな、諦めてくれ」


「チッ」


 葵はしぶしぶ肉札を戻した。


 だが、その顔は完全に不満だった。


 次にちよ。


「『忍びとして大活躍。密書を届ける。銭三貫を得る』」


「やったぁ!」


 ちよが飛び上がる。


「やっと良い札が来た!」


「おめでとう、ちよちゃん!」


「ありがとう葵様! よーし、ここから逆転するよ!」


 その直後、氏治様が止まった札を読んだ。


「『若君として皆に慕われる。全員から米一俵ずつ受け取る』」


「何ですかその札!?」


 俺は思わず叫んだ。


 氏治様が目を逸らす。


「……誰が作ったのでしょうね」


「小太郎様ですよね?」


「記憶にないのう」


「明らかに小太郎様に都合が良すぎます」


「いや、若君が慕われるのは良いことではないか!」


「徴収される側からすれば重税です」


「重税ではない! 慕われ税じゃ!」


「屁理屈を……!!」


 結局、札に書いてある以上、全員が米を一俵ずつ氏治様へ渡すことになった。


 氏治様はご満悦。


 葵は不満そう。


 ちよは机に突っ伏した。


「私、やっと銭を得たのに、米取られた……」


 ちよ、不憫な子……!


     


 中盤になると、勝負はさらに混沌とした。


 葵は銭を集めていたが、途中で「火事」の札を引いた。


「『火の不始末で小屋が燃える。銭二貫を払う』」


「何で!?」


「火の用心は大事だからな」


「私、火の不始末なんてしない!」


「盤の中の葵はしたみたいだぞ?」


「盤の中の私、許せない……!!」


 自分に怒る葵という、よく分からない構図が生まれた。


 氏治様は米を集めて順調だったが、途中で「政務をさぼって遊びに行く。一回休み」を引いた。


「これはおかしい!」


「何もおかしくありません」


「いや、おかしい! まるでワシが普段から政務をさぼっているようではないか!」


「違うんですか?」


「政貞!」


「はははっ、冗談です」


 半分は、とは言わなかった。


 ちよは一時は最下位だったが、忍び札を連続で引き、急激に追い上げてきた。


「『夜道を走って密書を届ける。銭三貫』!」


「『屋根裏で話を聞く。情報を得る。次の札を一枚見てよい』!」


「『敵の目を欺く。好きな場所へ三つ進める』!」


「ちよ、急に強いな」


「ふふん! これが忍びの力だよ!」


 ちよは得意げに胸を張った。


 だが、その次の札で。


「『調子に乗って木から落ちる。一回休み』」


「何でぇぇぇ!?」


 見事に落とされた。


 人生双六は、時に残酷である。


 そして俺はというと。


 帳簿。


 政務。


 農具。


 水車。


 また帳簿。


 遊びのはずなのに、盤の中でも働いていた。


「政貞、ずっと働いてるね」


 葵が少し同情したように言う。


「うん。俺もそう思う」


「楽しい?」


「分からなくなってきた……」


 しかも、俺の札は銭や米は増えるが、休みも多い。


 まるで現実の俺をそのまま盤に閉じ込めたようだった。


 作ったのは自分なのに、なぜこんな苦しみを味わっているのだろう。


 その時、氏治様が笑った。


「政貞は盤の中でも政貞じゃな!」


「小太郎様も盤の中で米を徴収していますよ」


「慕われておるだけじゃ!」


「物は言いようですね」


     


 終盤。


 勝負は僅差だった。


 氏治様は米が多い。


 葵は銭が多い。


 ちよは札の効果で一気に追い上げている。


 俺は家と田畑を持っているが、銭が少ない。


 まさに混戦だった。


「次で決まるかもしれませんね」


 俺が言うと、全員の顔つきが変わった。


 遊びのはずなのに、緊張感がある。


 まずは氏治様。


 賽を振る。


 出た目は二。


「『民の訴えを聞く。よい裁きをして名声を得る。米二俵』」


「おお! 良い札じゃ!」


「さすが小太郎様」


 氏治様は満足そうに頷いた。


 次は葵。


 賽の目は五。


「『海へ行く約束をする。楽しみが増える。次の番、二つ多く進める』」


 葵が俺を見た。


「政貞」


「どうした」


「これ、現実でも有効だよね」


「ば、盤の中の話だぞ?」


「現実でも有効だよね」


「……はい」


 なぜ人生双六で現実の約束を強化されているのだろう。


 でも、葵が嬉しそうなのでよしとする。


 次はちよ。


 賽の目は六。


「来た!」


 ちよが叫ぶ。


 駒は一気に終盤へ進む。


「『大事な密書を届け、大手柄。銭五貫を得る。ただし疲れて一回休み』」


「やった! 銭五貫!」


「でも一回休みだな」


「もう終盤だから関係ないもん!」


 確かに、かなり強い札だった。


 これでちよが一気に上位へ出た。


 最後に俺。


 賽を振る。


 ころころと転がった目は、三。


 止まった場所を見た瞬間、俺は固まった。


「どうしたの?」


 葵が覗き込む。


 氏治様もちよも身を乗り出す。


 俺はゆっくり札を読んだ。


「『若君に無茶な仕事を頼まれる。断れず働く。一回休み。ただし民が助かる。名声を得る』」


 全員が黙った。


 そして、氏治様が気まずそうに目を逸らした。


「……政貞」


「はい」


「これは、誰が作った札だったかのう?」


「小太郎様です」


「そうか」


「はい」


「すまぬ」


「いえ、慣れています」


 葵が吹き出した。


 ちよも笑い出す。


 氏治様は顔を赤くしながらも、最後には一緒に笑った。


 そして結局、その札の名声点が加わったことで、勝負は思わぬ結果になった。


 一位は氏治様。


 米と名声が多かった。


 二位は葵。


 銭では一番だったが、火事の損失が響いた。


 三位は俺。


 田畑と名声はあったが、働きすぎて休みが多かった。


 四位はちよ。


 終盤で追い上げたが、序盤の休みが多すぎた。


「何で私、最下位なの!?」


 ちよが叫ぶ。


「忍び札いっぱい引いたのに!」


「人生は序盤のつまずきが響くこともあるってことだな」


「……人生って、深いなぁ……」


 葵は二位ながらも満足そうだった。


「私は銭なら一番だったから実質勝ちだね」


「そういう解釈もあるな」


「じゃあ勝ち」


「それでいいのかよ……」


 氏治様は嬉しそうに胸を張っていた。


「ワシが一位じゃ! やはり若君としての器が出たのう!」


「小太郎様、自分に都合の良い札を少し入れていましたよね」


「何のことか分からぬな!」


 分かりやすく目を逸らす氏治様。


 それを見て、皆が笑った。


     


 遊び終えた後、俺達は盤を片付けながら話した。


「でも、これ本当にいいね」


 葵が盤を見ながら言う。


「子供達が遊びながら、商いや畑や火の用心を覚えられる」


「ああ。うまく作れば、村ごとの違いも入れられる。漁村なら魚、山村なら木材、市の近くなら商い。遊びながら、自分達の暮らしを知ることができるな」


「政貞は、何でも政に繋げるね」


「……もう癖だな、これ」


 ちよも札を眺めていた。


「私、自分用の札を作っていい?」


「いいぞ」


「じゃあ『ちよが大活躍。全員から銭をもらう』って札を作る!」


「却下だ」


「何で!?」


「小太郎様の慕われ税と同じことになるが、いいのか?」


「むう……」


 氏治様が楽しそうに笑った。


「政貞」


「はい」


「これは、もっと作ろう。府中だけでなく、小田の村にも広めたい。子供達が笑いながら、暮らしを学べるなら、それはきっとよいことじゃ」


「はい。俺もそう思います」


 氏治様は盤の上に置かれた小さな駒を見つめた。


「人生とは、不思議なものじゃな。賽の目で良いことも悪いことも起こる。だが、それでも前へ進む」


「そうですね」


「政貞」


「はい」


「ワシは、皆が前へ進める国にしたい」


 その言葉に、俺は少し驚いた。


 氏治様は普段、明るく、無邪気で、民と同じ目線で笑う人だ。


 だが時折、こうして真っ直ぐに大事なことを言う。


 だから俺は、この人を支えたいと思うのだ。


「できますよ」


「本当か?」


「はい。小太郎様なら」


 氏治様は照れたように笑った。


「なら、政貞も手伝え」


「もちろんです」


「葵も、ちよもじゃ!」


「はいはい」


「任せて!」


 葵とちよも笑って頷いた。


 人生双六。


 最初は、退屈そうな子供達を楽しませるための遊びだった。


 だが、それはただの遊びでは終わらないかもしれない。


 文字を覚える入口になる。


 商いや農の仕組みを知るきっかけになる。


 火の用心や助け合いを学ぶ場になる。


 そして何より、子供達が笑う時間を作れる。


 それだけでも、十分に価値があった。

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