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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第一部

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82話 決着! 佐竹戦!

「勝った……勝った、勝ったぞおおおォッ!!」


「やった!! やったぞおぉっ!!!」


 あちこちから歓声が湧き上がる。


 小田の兵達は皆、勝利に喜び、生を噛み締めていた。


 槍を天へ掲げる者。


 地面へ膝をつき、声を上げて泣く者。


 隣にいた仲間と抱き合い、生きていることを確かめる者。


「生きて帰れるぞ……!」


「妻に、子に会える……!」


「俺達は……佐竹に勝ったんだ!」


 誰もが傷だらけだった。


 鎧は血に濡れ、腕には矢傷が残り、足を引きずる者もいる。


 それでも皆の顔には、確かな笑みが浮かんでいた。


 それを見ていると、俺は確信した。


 俺達は勝った。


 生き残ったのだと。


「政貞!!」


 氏治様が、槍を片手に駆け寄って来た。


 鎧は傷だらけで、顔にも泥と血が付いている。


 それでも、氏治様は子供のように笑っていた。


「政貞あああぁぁっ!! 良かった!! 本当に生きてて良かったぞ!!」


「小太郎様こそ、今回が初陣だったのに、とてもご立派でした。政治様もお喜びになられますよ」


「そ、そうか? だと嬉しいのう、ははははッ!!」


 氏治様は照れたように頬を掻いた。


 本当に。


 本当に氏治様はよく頑張ってくれた。


 俺を助けに来てくれただけでなく、初陣で怖かっただろうに、最後まで皆を鼓舞して役目を果たしてくれた。


 家臣として、とても誇らしく、嬉しい気持ちだ。


 それに、氏治様の初陣を勝利で飾ることができて良かった。


 何せ、史実での氏治様の初陣は川越野戦。


 結果は知っての通り、北条氏康に敗北し、氏治様は逃げ帰ることとなったのだ。


 だからこそ、今回勝てて本当に良かった。


 氏治様は、とても気持ちよさそうに笑っていた。


 俺も笑おうとした。


 だが、そこで身体から力が抜ける。


「政貞!?」


 膝が崩れた。


 倒れかけた俺を、葵がすぐに支える。


「うおおっ!?」


「無茶し過ぎ!」


「……悪いな」


「謝る前に、座って。全く、二回も一騎打ちなんて本当に無茶するんだから! 死んだらどうするのさ!!」


 葵の声は怒っていた。


 けれど、その目には涙が溜まっていた。


「はははっ、ごめんごめん。でも、大好きな妻の前だから格好つけたかったのさ」


 俺が葵を揶揄うつもりでそう言うと、葵は予想以上に顔を赤くした。


 そして次の瞬間。


 俺の頬に平手打ちが飛んだ。


「いった!?」


「馬鹿ッ! くだらないこと言って誤魔化さないでよね!」


「……ごめんなさい」


 ぐうの音も出ない。


 そんな情けない俺の姿に、氏治様は大笑いしていた。


「ははははッ!! 政貞のそんな情けない姿、初めて見たわい!」


 氏治様め。


 後で覚えてろよ。


     


「政貞」


 その時、低く太い声がした。


 親父だ。


 菅谷勝貞。


 血と泥に塗れた鎧のまま、大槍を肩に担いで歩いてくる。


 親父の鎧にも無数の傷が刻まれていた。


 だが、その足取りはまだ力強い。


 まるで戦そのものを背負って歩いているようだった。


「父上……ご無事で」


「それはこちらの台詞だ」


 親父は俺の前に立つと、じっと俺を見る。


 そして、呆れたように息を吐いた。


「随分と派手にやったな」


「すみません」


「謝るな。勝ったのだ。ならば、まず胸を張れ」


 親父は大きな手で俺の頭を乱暴に撫でた。


「……はい」


「もっとも」


 親父は俺の傷だらけの身体を見る。


「後で説教はする」


「えっ」


「当然だろう。父に心配をかけた罰だ」


 親父はにやりと笑った。


 そう言いながらも、その目は優しかった。


 親父はすぐに氏治様へ向き直る。


「小太郎様」


「お、おう」


「ご立派でした」


 その一言に、氏治様は目を丸くした。


「勝貞に褒められると、何だか照れるのう」


「照れる必要はありませぬ。今日の小太郎様は、小田の旗でございました。兵達は、小太郎様が逃げぬ姿を見て踏み止まった。これは紛れもない武功です」


 氏治様は、一瞬だけ言葉を失った。


 そして、少しだけ涙ぐみながら笑った。


「……そうか。ワシも、少しは役に立てたか」


「大いに。政治様にも、そう報告致します」


 親父は深く頷いた。


「うむ! 父上に自慢してやるのじゃ!」


     


 少し離れたところでは、勘助殿が戦場を見回していた。


 片腕に包帯を巻き、顔にも血がついている。


 それでも、その目は最後まで冷静だった。


「勘助殿!」


「おお、政貞様」


 勘助殿はこちらへ歩み寄り、静かに頭を下げた。


「佐竹は北へ退いております。真壁の兵も、武器を捨てました。追撃は不要ですな」


「ああ。義昭を守るために、佐竹の兵達は退いた。ここで追えば、また多くの者が死ぬだろう」


 俺は頷いた。


 氏治様も、ゆっくりと頷いた。


「うむ! 今日、我らは勝った。ならば、これ以上に血を流す必要はないな」


「そのお言葉、必ず兵に伝えましょう」


 勘助殿は静かに答えた。


 その顔には、深い疲労が浮かんでいた。


 だが同時に、確かな安堵もあった。


「勘助殿」


「はい」


「あなたがいてくれたから勝てました」


 俺がそう言うと、勘助殿は一瞬だけ目を伏せた。


「私は軍師として、当然のことをしたまでです」


「それでもです」


「……では、ありがたく受け取っておきましょう」


 勘助殿は珍しく、ほんの少しだけ笑った。


     


「大将!」


 由兵衛が、足を引きずりながら歩いてきた。


 その顔には血が乾き、片腕には包帯が巻かれている。


 それでも、いつものように乱暴な笑みを浮かべていた。


「生きてたな!」


「由兵衛こそ」


「へっ、俺がそう簡単に死ぬかよ」


 由兵衛はそう言った後、ふと空を見上げた。


「……三平太の馬鹿にも見せてやりたかったな」


「ああ」


「いや、見てるか」


 由兵衛は空へ向かって拳を突き上げた。


「おい、三平太! 勝ったぞ! お前が残してくれた命で、俺達は勝ったぞ!」


 その声は、震えていた。


 由兵衛は歯を食いしばり、目元を乱暴に拭った。


「馬鹿野郎が……勝ったんだから、少しくらい笑って見てろよな」


 俺は何も言えなかった。


 ただ、由兵衛の横に立ち、同じ空を見上げた。


 霧丸も近づいてきた。


 肩に血が滲み、黒装束のあちこちが破れている。


 だが、その足取りは静かだった。


「政貞」


「霧丸」


「終わったな」


「ああ」


 霧丸は戦場を見渡す。


 そこには多くの倒れた者達がいた。


 敵も、味方も。


 皆、それぞれの主と家と未来のために戦った者達だった。


「勝った命もあれば、拾えなかった命もある。大将とは、重いものだな」


「……そうだな」


「だが」


 霧丸は俺を見る。


「お前は逃げなかった。それで救われた者もいる」


 その言葉は短かった。


 だが、霧丸なりの慰めなのだと分かった。


「霧丸、ありがとう」


「礼は要らん。雇い主が死ぬと困るだけだ」


 霧丸はいつものようにそっけなく言う。


 その横から、ちよが飛び込んできた。


「政貞様ぁ!」


「うおっ」


「生きてた! 本当に生きてた!」


 ちよは泣きながら俺の腕にしがみつく。


「ちよも無事で良かった」


「うん! でも、もうこんなの嫌だよ! 怖かった! 痛かった! 皆いなくなっちゃうし、もう本当に嫌だった!」


 ちよは子供のように泣いていた。


 霧丸が黙ってその頭に手を置く。


「よく生きた。それでいい」


「兄さん……」


 その言葉に、ちよはさらに泣いた。


 葵はそれを見て、静かにちよを抱き寄せた。


「ちよちゃんも頑張ったねぇ」


「うん……うん……!」

    

 


 慶幹もやって来た。


 大掾慶幹。


 府中を失い、一度は追い詰められながらも、この戦で再び立ち上がった若き当主。


 その顔には疲労が濃く残っていたが、瞳は澄んでいた。


 そして、その少し後ろには、額賀常陸介の姿もあった。


 大掾家に三代に渡って仕えてきた老臣。


 かつて府中で、俺と勘助殿の策をただ一人見抜き、慶幹へ忠言した知恵者。


 そして今なお、主家を支えることを諦めなかった忠義者である。


 常陸介の鎧もまた、泥と血に汚れていた。


 老いた身体には酷な戦だったはずだ。


 それでも、背筋だけは真っ直ぐに伸びている。


「政貞殿」


「慶幹様」


「勝ちましたな」


「はい」


 慶幹は遠くに掲げられた大掾の旗を見た。


 その旗は傷つき、泥に汚れていた。


 だが、まだ倒れてはいない。


「府中を失った時、私は全てを失ったと思っていました。だが、今日分かりました。家とは城だけではない。旗を掲げる者、支える者、生き残ろうとする者がいる限り、家はまだ終わらぬ」


「慶幹様……」


「大掾は、ここから立て直します。小田と共に」


 その声には、確かな決意があった。


 その時、常陸介が静かに膝をついた。


「殿。よう、ここまで御立派におなり申した」


「常陸介……」


「先代様、先々代様より仕えてまいりましたこの老骨、今日ほど大掾の旗を誇らしく思ったことはございませぬ。府中を失い、家臣も散り、民の心も揺らぎました。されど、殿は折れなかった。小田と共に立ち、己の足で家を残す道を選ばれた。それこそ、大掾の当主にございます」


 慶幹の目が、僅かに揺れた。


「私は……お前にも苦労をかけたな」


「苦労など、家臣の務めにございます。ただ一つ、悔やむことがあるとすれば、政貞殿と勘助殿の策を見抜きながら、止め切れなかったことでございましょう」


 常陸介は、俺と勘助殿へ目を向けた。


 その瞳は老いてなお鋭い。


「政貞殿、勘助殿。府中での策、お見事でございました。あの時、私は確かに小田の狙いを見ました。民の心、商いの流れ、噂、道具、全てが繋がっていた。武ではなく、国を揺らす策。あれを初めて見た時、私は背筋が寒くなりましたぞ」


「常陸介殿……」


 勘助殿が静かに頭を下げる。


「貴殿に見抜かれていたこと、我らにとっても脅威でございました」


「ふふっ。見抜いただけでは戦には勝てませぬ。私は、見抜きながらも流れを止められなかった。ならば、政貞殿と勘助殿の勝ちでございましょう」


 常陸介はそう言って、深く頭を下げた。


「されど、今日よりは同じ常陸を支える者同士。小田が常陸を束ねるなら、大掾はその一角を支えましょう。老骨ながら、殿を支え、府中を立て直すため、最後まで働く所存にございます」


 慶幹は黙って常陸介を見つめていた。


 やがて、静かに頷く。


「頼りにしている。常陸介」


「はっ。この命尽きるまで」


 そのやり取りを見て、俺は胸が熱くなった。


 大掾家はまだ終わっていない。


 若き当主と、三代に渡って支えた老臣。


 この二人がいる限り、府中はきっと立ち直る。


「常陸介殿」


 俺は頭を下げた。


「これからは、共に常陸を支えてください」


「無論にございます、政貞殿。もっとも、油断なさいますな。私は一度、貴殿らの策を見抜いた男。もし小田が民を忘れるようなことがあれば、その時は老骨ながら、また見抜いてみせましょうぞ」


 常陸介は、かすかに笑った。


 俺も思わず笑う。


「それは心強いですね」


「ええ、実に」


 勘助殿も珍しく、楽しげに目を細めた。


     


 鹿島殿、大野殿も並んで歩いてきた。


 鹿島殿は肩から血を流しながらも、いつものように武骨な顔で笑っていた。


「政貞殿、見事であった」


「鹿島殿こそ、左翼を支えてくださり助かりました」


「ふん、礼を言うなら我が兵に言ってやれ。皆、よう耐えた」


 大野殿も頷く。


「まったく、老骨には堪える戦であったわ」


「ですが、大野殿は最後まで退きませんでした」


「退ける場所がなかったからのう。だが、悪くない。若い者達が未来を作るために、老いた者が少し血を流す。それならば、この老骨にも意味があったというものよ」


 大野殿はそう言って笑った。


 江戸忠通殿も姿を見せた。


 兵を多く失い、肩にも深い傷を負っている。


 それでも、目だけは死んでいなかった。


「江戸殿……」


「政貞殿、そんな顔をするな。ワシは生きておる。江戸もまだ終わっておらん。真壁には随分と借りを作らされたが……最後に勝ったのはこちらだ」


 江戸殿は倒れた兵達の方を見る。


「失った者達には、顔向けできるような国を作らねばならんな」


「はい」


「銭も、人も、港も、町も。戦で壊れたものは、戦の後に積み直す。その時は、ワシも力を貸そう」


「ありがとうございます」


 一郎太も弓兵達を連れてやって来た。


 若い顔には疲労と興奮が入り混じっている。


「政貞様!」


「一郎太、よくやった」


「い、いえ! 俺はまだまだです! でも、皆で旗を倒しました! 政貞様の背中、少しは守れましたか!?」


「ああ。十分すぎるほどに」


 俺は頷いた。


 一郎太は、その言葉を聞いて泣きそうな顔になった。


「よ、よかった……!」


 葵がそんな皆を見て、小さく笑う。


「何だか、みんなボロボロだねぇ」


「葵もな」


「私はいいの。政貞を叱る役が残ってるから、倒れるわけにはいかないし」


「まだ叱るのか?」


「当然。海に連れて行ってもらうまでは、絶対に許さないからね」


「はいはい」


「はいは一回」


「はい」


 周囲から笑いが漏れた。


 その笑いは、勝利の笑いであり、生き残った者達の笑いだった。


     


 そうだ。


 もう血を流す必要はない。


 もう誰も犠牲になる必要はないんだ。


 俺は天を見上げ、散った者達の顔を思い浮かべる。


 今回の戦は、百姓も、町民も、武士も、皆が小田家のために戦ってくれた。


 そして、三平太も。


「勝ったぞ、皆」


 俺は天の皆に宣言するように言った。


 そうだ。


 俺達は勝った。


 だからそっちに行くのは、しばらく後になるだろうが、まあ気長に待っていてくれよな。


 その時は酒でも酌み交わそう。


 三平太。


 その時だった。


 風が吹いた。


 まるで、遠くから三平太が笑っているような気がした。


     


 ———その頃。


 佐竹の居城。


 まだ幼い佐竹義昭の前に、血に濡れた使者が膝をついていた。


 部屋の中には、重苦しい空気が満ちている。


 家臣達は皆、顔を伏せていた。


 誰も言葉を発しない。


 誰も、幼い若君へその事実を告げる役目を引き受けたくなかった。


 だが、告げねばならなかった。


「義篤様は……恋瀬川にて、討ち死になされました」


 使者の声が震える。


 部屋の中から、音が消えた。


 義昭は、しばらく何も言わなかった。


 ただ、小さな手を強く握り締めていた。


「……父上が。父上が……死んだのか」


 震える声だった。


 誰も答えられない。


 家臣達は皆、さらに深く顔を伏せた。


 義昭の目から、一滴、涙が零れ落ちる。


 父は厳しかった。


 いつも遠くを見ていた。


 常陸を一つにする。


 佐竹を残す。


 義昭には戦ではなく、国を治める未来を残す。


 そう何度も語っていた。


 幼い義昭には、その全てを理解できていたわけではない。


 だが、父が自分の未来のために戦っていたことだけは分かっていた。


「父上……」


 義昭は唇を噛む。


 泣き叫びたかった。


 父の名を呼んで、その胸に縋りたかった。


 だが、その父はもう戻らない。


 そして、自分の前には家臣達がいる。


 父を失った者達。


 主君を失った者達。


 彼らもまた、義昭の言葉を待っていた。


 その時、使者が懐から一通の書状を取り出した。


「義篤様より、若様へお預かりしていたものにございます」


 義昭は震える手で書状を受け取る。


 封を開く指が上手く動かない。


 それでも、何とか開いた。


 そこには父の筆で、確かにこう記されていた。


『義昭へ』


『もしわしが敗れたならば、常陸統一を諦めよ』


『領地を割いてでも、小田と和睦せよ』


『そして小田と手を結び、北を見よ』


『佐竹を残せ』


 義昭の唇が震える。


 涙が書状へ落ちる。


 それでも義昭は、父の言葉を最後まで読んだ。


 さらに書状には、続きがあった。


『義昭』


『佐竹の強さとは、ただ領地を広げることではない』


『家を残し、民を守り、次へ繋ぐことだ』


『わしがそれを果たせぬ時は、お前が果たせ』


『恨みで佐竹を滅ぼすな』


『誇りで佐竹を残せ』


 義昭は、声を殺して泣いた。


 幼い肩が震える。


 だが、書状を握る手だけは離さなかった。


 家臣の一人が、絞り出すように言う。


「若様……我らは、いかが致しましょう」


 その問いに、義昭は顔を上げた。


 涙はまだ止まっていない。


 だが、その目には、先程までとは違う光が宿っていた。


「……父上は」


 幼い声だった。


 けれど、確かな意志があった。


「父上は、佐竹を残せと仰せられた」


 義昭は書状を胸に抱く。


「ならば、私は佐竹を残す」


 家臣達が顔を上げる。


「小田と和睦する」


 その言葉に、部屋の中が小さく揺れた。


「若様、それは……」


「父上の命だ。父上が命を懸けて遺した言葉だ。ならば従う」


 義昭は震える声で、しかしはっきりと言った。


 幼い少年は、涙を拭った。


「佐竹は終わらない。父上が遺した佐竹を、私が守る」


 その目には、父を失った少年の悲しみと、新たな当主としての覚悟が静かに宿っていた。


「父上。見ていてくだされ。私は、佐竹を残します」


 義昭は書状を抱き締める。


 その日。


 佐竹義昭は父を失った。


 そして同時に。


 佐竹を背負う者となった。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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