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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第一部

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72話 佐竹戦その10

1543年 佐竹陣中


 小田家中が結束を強めているその一方、佐竹家は彼らを包囲し夜の闇の中で身体を休めていた。


 その本陣には佐竹家当主、佐竹義篤の姿もありその傍には少数の重臣だけがいた。


「小田の様子はどうだ、降伏する様子は見せぬか?」


「ええ。未だ徹底抗戦の構えを崩してはおりませぬ」


 家臣の報告に、義篤は静かに目を閉じた。


「そうか……」


 掠れた声だった。


 その顔は青白く、額には薄く汗が浮かんでいる。


 鎧の下に着込んだ衣は汗で湿り、時折、身体を襲うような咳を必死に押し殺していた。


「殿」


 傍に控えていた家臣の一人が、苦しげな表情で口を開く。


「これ以上はお身体に障ります。どうか城へお戻りください」


「……まだ戦は終わっておらぬ」


「ですが!」


 家臣は思わず声を荒げた。


「病は日ごとに重くなっております! 今の殿のお身体で戦場に立たれるなど……!」


「ならば余計に、退くわけにはいかぬ」


 義篤はゆっくりと顔を上げた。


 その瞳には、病に苦しむ者の弱さなど微塵もなかった。


「小田をここで逃せば、常陸は再び乱れる」


「小田、鹿島、大掾、江戸……各地の者達がまた力を持ち、争いを繰り返すことになる」


 義篤は地図へ視線を落とす。


 そこに描かれているのは、まだ統一されていない常陸の地だった。


「わしはな」


 義篤は小さく呟いた。


「義昭に、争いのない常陸を残したいのだ」


 家臣達が息を呑む。


「義昭はまだ若い。これから先、何度も困難にぶつかるであろう。だからせめて、わしが生きている間に常陸を一つにする」


 病に蝕まれた手が、ゆっくりと握り締められる。


「そのためならば、この命など惜しくはない」


「殿……」


「たとえこの戦で討ち死にしようとも構わぬ」


 義篤の声は静かだった。


 だがその一言には、誰よりも強い覚悟が宿っていた。


「だから、勝たねばならぬ。わしが倒れようと、佐竹が勝てば義昭に未来を残せる。小田を討ち、常陸を統一する。それが父として、佐竹の当主として、わしが果たすべき最後の役目だ」


 しばらく、本陣には沈黙が落ちた。


 家臣達は皆、言葉を失っていた。


 主君の病を案じていた。


 城へ戻ってほしかった。


 生きていてほしかった。


 だが義篤の覚悟を聞いた今、その言葉を口にすることは出来なかった。


「……承知致しました」


 やがて、一人の家臣が深く頭を下げた。


「我らも殿と共に戦います。常陸を一つにするために義昭様へ、揺るがぬ佐竹の未来を残すために」


「「「ははっ!!」」」


 家臣達が一斉に頭を下げる。


 義篤はその姿を見て、僅かに笑った。


「頼んだぞ」


 その直後だった。


「ごほっ……! ごほっ!」


 激しい咳が義篤を襲う。


 口元を押さえた手には、赤い血が滲んでいた。


「殿!」


「騒ぐな」


 義篤は血のついた手を握り締める。


「まだ死んではおらぬ」


 そして、ゆっくりと立ち上がった。


 足元は僅かに揺れていた。


 それでも、佐竹義篤は立っていた。


「明日、総攻めを行う。小田に退路はない。奴らは追い詰められた獣よ。数で押し潰せ。城も、兵も、そして菅谷政貞も———」


 義篤の瞳に鋭い光が宿る。


「ここで終わらせるのだ」


「「「はっ!!」」」


 家臣達が本陣を出ていく。


 残された義篤は、夜の闇に包まれた小田の付城を見つめた。


「菅谷政貞……」


 あの男は危険だ。


 小田家を変えた。


 大掾を従えた。


 そして今、小田の者達を一つにまとめている。


 あの男を生かしておけば、佐竹の統一はいつまでも成し遂げられぬ。


「明日だ」


 義篤は低く呟く。


「明日、全てを終わらせる」


 佐竹もまた小田との決着に向け、全てを賭ける覚悟を固めていた。

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