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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第一部

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64話 佐竹戦その2

1543年 笠間城


「くくく……っ」


「宇都宮殿、随分と愉快そうですな」


 笠間綱家が杯を傾けながら尋ねる。


 その向かいには、宇都宮尚綱。


 さらに脇には結城政直の姿もあった。


 この三家が一堂に会することなど、これまでほとんどなかった。


 しかし今日ばかりは違う。


 共通の敵、小田家を討つためである。


「愉快にもなろう」


 尚綱は軍略図へ視線を落とした。


「ようやく小田政治へ借りを返す時が来たのだ」


 常陸南部で勢力を広げ続ける小田家。


 その中心には菅谷政貞という若武者がいる。


 戦でも政でも幾度となく宇都宮の思惑を崩してきた男。


 尚綱はその名を思い浮かべるだけで、胸の内に静かな闘志が燃え上がるのを感じていた。


「奴がおらねば、小田など恐れるに足らぬ家だった」


「その菅谷を討てる好機でもありますな」


 結城政直が笑みを浮かべる。


「まさしく」


 尚綱は頷いた。


「しかも今回は敵の動きが手に取るように分かる」


 そう言って懐から一通の書状を取り出す。


 笠間から届けられた密書。


 そこには小田軍の進軍経路が細かく記されていた。


「小田軍は本道を進み、こちらへ向かう。ならば我らは林道へ伏兵を置き、正面から誘い込めばよい」


 尚綱の指が軍略図の上を滑る。


「小田は挟み撃ちとなる。退くにも退けぬ」


「この一戦で勝負は決まる、というわけですな」


 綱家も満足そうに頷いた。


「我が笠間も兵を出しましょう。宇都宮殿の御恩には報いねばなりませぬ」


「頼もしい限りだ」


 尚綱は杯を掲げた。


「小田政治を討ち、常陸南部を手に入れる。そして佐竹殿の御期待にも応えねばならぬ」


 三人は静かに杯を重ねる。


 杯を置いた尚綱は、軍略図を静かに見渡した。


「結城殿」


「はっ」


 政直が居住まいを正す。


「そなたの兵は予定通り林道へ回せ。伏兵は決して早まるな。小田軍が街道へ十分引き込まれたところで背を突く」


「承知しております」


 政直は自信に満ちた笑みを浮かべた。


「小田政治も、まさか背後から我らが現れるとは思いますまい」


「その通りだ」


 尚綱もまた笑みを浮かべる。


 これまで何度も小田家に煮え湯を飲まされてきた。


 その度に、あと一歩というところで菅谷政貞にしてやられた。


 だが今回は違う。


 敵の進軍路は既に分かっている。


 兵数もこちらが勝る。


 伏兵も万全。


 負ける要素など、どこにも見当たらなかった。


「綱家殿」


「はっ」


「笠間勢には本道正面を固めてもらう。敵を食い止めるだけでよい、後は結城勢が背後を衝けば勝負は決する」


「お任せくだされ」


 綱家は力強く頷いた。


「小田家とは縁もございますゆえ、心苦しさがないと言えば偽りになります。ですが、もはや戦となれば話は別。我が笠間家も宇都宮家のため、全力を尽くしましょう」


「頼もしい」


 尚綱は静かに立ち上がった。


 家臣達も一斉に腰を上げる。


「では参るぞ。此度の戦は、ただ小田を討つための戦ではない。常陸の覇を決める戦よ」


 その言葉に、一同の目付きが変わる。


「長らく常陸南部で好き勝手に振る舞ってきた小田家も、今日で終わりだ。菅谷政貞も、己の才を過信したことをあの世で悔いることになろう」


「おおっ!」


 居並ぶ武将達が一斉に声を上げる。


 やがて法螺貝が城内に鳴り響き、三家の軍勢はそれぞれ持ち場へ向けて動き始めた。


 1543年 常陸国西部———。


 宇都宮・結城連合軍は夜明けとともに進軍を開始した。


 旗が秋風にはためく。


 総勢六千。


 先頭を進むのは宇都宮尚綱。


 その横には結城政直。


 さらに後方には笠間綱家の軍勢が続いていた。


「順調ですな」


 政直が周囲を見回す。


「うむ」


 尚綱は静かに頷いた。


「小田はまだこちらの動きを掴めておらぬ。予定通り進め」


 軍勢は街道を進み続ける。


 しばらくすると、軍配を持った家臣が駆け寄ってきた。


「申し上げます!」


「何事だ」


「小田軍、本街道を進軍中との報せ!」


 尚綱は満足そうに笑った。


「来たか! では予定通りだな」


 軍略図を広げる。


「正面は笠間勢が受け持つ。我ら宇都宮勢は街道を少し進み、小田を引き付ける。そして———」


 尚綱は林道を指差した。


「結城勢はこの林道を進み、小田軍の背後を衝け」


「承知!」


 政直は力強く頷いた。


「此度こそ小田政治に一泡吹かせてやりましょうぞ」


 結城勢千余が隊列を離れ、静かに林道へと入っていく。


 木々が兵の姿を飲み込んでいった。


 尚綱は満足げにそれを見送る。


「勝ったな」


「ええ」


 綱家も頷いた。


「政貞ほどの男でも、味方の内から情報が漏れていてはどうにもなりますまい」


 三人の間に笑みが広がる。


 だが———。


     


 一刻ほど進軍した頃だった。


 林道へ向かったはずの結城勢から、突然鬨の声が響いた。


「おおおおおっ!!」


 しかし、その声は勝ち鬨ではなかった。


「敵襲!」


「伏兵だ!!」


「ぐあああっ!」


 悲鳴が山間へ響き渡る。


 尚綱は思わず馬を止めた。


「何だと!?」


 次の瞬間、血相を変えた伝令が馬を飛ばしてくる。


「申し上げます! 結城勢、伏兵を受けました!」


「何!?」


「林道に小田軍千余! 結城勢は側面より急襲され、混乱しております!」


「馬鹿な!」


 尚綱の表情が一変した。


「林道に伏兵だと!? あり得ぬ! そこは我らしか知らぬ道ではなかったのか!」


 伝令は息を切らしながら叫ぶ。


「敵は待ち伏せしておりました! まるで最初から知っていたかのように……!」


 尚綱は軍略図を睨み付けた。


 あり得ない、あの林道は……。


「……待て」


 その瞬間、ある考えが頭をよぎる。


 背筋が冷たくなった。


「まさか……」


 懐から取り出した密書を見る。


 そこには確かに、小田軍は本道を進むと記されていた。


 しかしもし、この書状そのものが……。


「偽り……だったというのか」


 綱家も顔色を失っていた。


「そんな……姫が……?」


 尚綱は歯を食いしばる。


「違う。葵姫はこちらへ通じていたはずだ」


 だが言葉とは裏腹に、その確信は急速に揺らいでいた。


 情報は間違っていた。


 いや、間違っていたのではない。


 最初から、間違った情報を掴まされていたのだ。


「政貞……!」


 尚綱は思わず唸る。


「貴様……最初からここまで読んでいたというのか!」


 その頃、林道では———


「退くな! 押し返せ!」


 結城政直が必死に兵をまとめようとしていた。


 しかし山中から次々と飛び出してくる小田兵に隊列は崩れ始める。


 そこへ、一人の若武者が槍を携えて姿を現した。


「逃がすな!」


 真壁久幹。


 その後ろには兵が千。


 狭い林道では兵数など意味をなさない。


 逃げ場もなく、結城勢は完全に乱されていた。


 政直は奥歯を噛み締める。


「くそっ……政貞め……!」


 その名を吐き捨てた瞬間。


 ようやく理解した。


 自分達が嵌められたのだと。


 しかも、見事なまでに。


 こうして、小田対宇都宮・結城連合は早くも終わりに向かうのであった。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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