↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/117

57話 収穫祭

「おお、政貞! やっときおったか!」


 収穫祭当日、早朝から農村を訪れるとそこには百姓に混じり収穫を行う氏治様の姿があった。


 こんな朝早くから大名の嫡男が民に混じって稲刈りとはな。


 他家じゃ絶対に見られない光景だ。


 まあ、小田家じゃあ日常風景だがな。


 俺はそんなことを思いつつ、氏治様へと近づく。


「小太郎様が早いんですよ。それにしても、随分と実りましたね」


「そうじゃのう! 皆も去年とは比べ物にならない豊作だと喜んでるわい!」


 氏治様はそう笑いながら、田畑を見渡す。


 氏治様の視線の先には、金色の稲畑が広がっていた。


 壮観だな。


 俺はその光景に魅せられていた。


 畑一面に実る稲、何度見てもいい光景だ。


 俺が思わず満足気に頷いていると、後ろからつんつんとつつかれる。


「政貞、いい景色だねぇ。去年、田畑の整備を頑張った甲斐があるね」


 振り向くと、俺の妻である葵の姿があった。


「そうだな。田畑を見直すだけで結構変わるものだ。だが、来年はもっと変わるぞ。大量の干鰯を肥料に更に収穫量が増すだろうからな」


「おぉー、そりゃあ楽しみだね! それにしても難しいとか言ってた割にあっさりと鹿島を取っちゃったよね。私の旦那は流石だね」


 と、ぐりぐりと俺の腰に肘を当てながら葵は笑う。


 葵が素直に褒めてくれるなんて珍しいので、俺は少し照れてしまった。


「はははっ、そう褒められると悪い気はしないな。せっかく港をとったわけだし、今度また釣りに行きたいもんだな」


「海で釣りかぁ……海魚ってどんなのがいるの?」


「葵が好きそうなのもいるが……まあ、そん時のお楽しみだな。今はとりあえず、収穫を楽しむとしようか」


「はーい」


 そして俺と葵も百姓に加わり、稲刈りを始める。


 だが、稲刈りを手伝うのは勿論俺達だけではない。


 菅谷隊と常備兵隊の面々も総出で稲刈りに参加してもらっている。


「兄さん! 忍びの私達が稲刈りするなんて思わなかったよね!」


「まあな。だが不思議と良い気分だ。引退後は百姓をするのもいいかもな」


「あはは! 兄さん、老後を考えるのは早いよー!」


 と、風魔をはじめとする忍びの者達も参加している。


 城主も武士も忍びも皆で稲刈りをする。


 こうした光景は小田家ならではと言えるだろうな。

 

 一方、別のところに目を向けると


「一郎太! 弓ばっか引いてたくせに鎌の扱いは上手ぇじゃねぇか!」


「元百姓ですから!」


「だろうな!」


 一郎太も元気に働いていた。


 顔色も良くなっている。


 一か月前は骨と皮みたいだったのに、今では見違えるほど逞しくなった。


 人間、飯を食うだけで結構変わるものだ。


「政貞様!」


 その時、一郎太がこちらへ走って来た。


「どうした?」


「ありがとうございます!」


「何がだ?」


「家族が食えてます!」


 満面の笑みだった。


 その笑顔を見ると、こちらも悪い気はしない。


 彼が笑顔だということはその家族も笑顔を浮かべることができているのだろう。


 それは間違いなくいいことだ。


「そうか」


「妹も喜んでます!」


「それは良かった。家族のためにも頑張れよ」


「はい!」


 元気よく走り去っていく。


 俺はその背中を見送りながら思った。


 こういうのを見ると、兵を集めた意味もあったのだろうなと。


 もちろん戦のためだ。


 だが同時に、行き場を失った者達の受け皿にもなっている。


 それは悪いことではない。


 むしろ領主としては歓迎すべきことだった。


 そんなことを考えていると。


「殿」


 いつの間にか鼠が隣に立っていた。


 相変わらず気配がない。


「驚かすな」


「申し訳ございません」


 コイツ、全く悪びれていない。


「どうした?」


「収穫祭ですので」


「うん?」


「今日は報告を控えております」


「気を遣ったのか?」


「はい」


 鼠は微笑んだ。


「良い日ですから」


 その言葉に少し驚いた。


 こいつにもそういう感性があるのか。


「……そうか」


「ですが」


 やっぱり続きがあった。


「明日からは働いて頂きます」


「だろうな」


 俺は苦笑した。


 城主に休みはなし、ということか。


 厳しい話だ。


 まあしかし、今日ぐらいは戦や政務のことは忘れたいものだな。

 

 そんなことを考えていると、遠くから歓声が上がった。


「おーい! 全部刈り終わったぞー!」


 誰かが叫んだ。


 それを合図にあちこちから声が上がる。


「終わったー!」


「酒だ酒だ!」


「祭りだー!」


 百姓達が歓声を上げる。


 子供達が走り回り、女達が笑い、男達が肩を叩き合う。


 実に平和な光景だった。


「良いものだな」


 俺が呟く。


 すると隣の葵が頷いた。


「うん」


「何だ?」


「皆が笑ってる」


 葵は田んぼを見ながら言った。


「それって当たり前だけどさ、凄いことだと思うよ」


 確かにそうだった。


 今は戦国時代だ、笑えない人間の方が多い。


 飢える者もおり、家を失う者もいて、戦で死ぬ者もいる。


 そんな時代だからこそ、今こうして笑えていること自体が価値なのだろう。


「政貞」


 葵が俺を見る。


「せいぜい来年も皆が喜ぶような領地を作れるよう、がんばりなよ?」


「ははっ、ああ! 勿論だ」


 俺は迷わず答えた。


「来年はもっと盛大にやる」


「本当?」


「相撲だけじゃない」


 俺は少し考える。


「弓大会もやるか」


「おお!」


「あと舟競争」


「おおお!」


「それから———」


「待って待って!」


 葵が笑う。


「増えすぎ!」


「祭りなんだから派手な方が良いだろ」


 俺がそう言うと、葵も氏治様も大笑いした。


 その笑い声は周囲にも広がっていく。


 やがて夕日が沈み始める頃。


 収穫祭は本格的な宴へと移っていった。


 酒が振る舞われ、飯が並べられ、歌が響く。


 誰もが今年の実りを祝い、来年の豊作を願った。


 そして俺は賑やかな宴を眺めながら、静かに思う。


 守りたいのは、こういう光景なのだと。


 黄金の稲穂と民の笑顔。


 それを守るためなら。来るべき戦も、きっと乗り越えられるだろうと。


 俺はそう、思うのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

ブックマークや評価をしていただけると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。