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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第一部

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53話 一同集結

 江戸家との会談を終え、早くも二週間が経過した。


 時間の流れは驚くほど早かった。


 事の発端は、政治様から届いた一つの書状であった。


『佐竹家に調略の動きあり。家臣と国人衆達を集め、策を練る必要がある』


 その文は各有力家臣や国人衆達にも配られていたようで、この府中にて菅谷、赤松といった譜代の家臣は勿論、真壁、岡見といった元々の小田家配下の国人衆から鹿島、島崎、大野といった新参まで多くの者が集められることとなった。


 更に先日、正式に同盟者となった江戸忠通殿の姿もある。


 そして本日、政治様の元で大評定が開催されることとなったのであった。



「皆の者、まずはよう集まってくれた」


 政治様の言葉に、皆は平伏する。


 そこに集まったのは親父……菅谷勝貞、赤松凝淵斉殿、真壁家久殿をはじめ錚々たるメンツであった。


 そして鹿島の新しい当主や、島崎俊興、江戸忠通の姿もあり、かつての敵であった者達も一堂にこの場へ会していた。


 俺がここにいることが間違いだと思えてくる、正直こんな若輩者がいていいのだろうか。


 一応、府中副城主ではあるものの少し気後れしてしまう。


 だが、そんなことも言っていられない。


 政治様はさらに続けた。


「まずは一つ、言っておきたいことがある。もし佐竹に降りたいと考えている者がおれば正直に名乗り出てくれ、止めはせぬ」


 その言葉が発せられた瞬間、広間の空気が凍り付いた。


「……」


 誰も口を開かない。


 俺も思わず政治様の顔を見た。


 本気だ、冗談でも試しでもない。


 政治様は穏やかな笑みを浮かべたまま、国人衆達を見渡している。


「政治様」


 真壁家久殿が口を開いた。


「それは本気で申されておるのですか」


「もちろんじゃ」


 政治様は即答した。


「皆それぞれ家を背負っておる。家臣もおり、領民もおる。家を残すことを第一に考えるのは当然じゃ」


 広間は静まり返ったままだ。


 だが先程とは少し違う。


 皆が政治様の真意を探ろうとしている。


「わしはな」


 政治様はゆっくりと言った。


「佐竹が強いことくらい知っておる」


 その言葉に何人かが頷く。


 否定できる者はいない。


 常陸において佐竹家は巨大な存在だった。


「だから佐竹へ付けば安泰と思う者がおっても不思議ではない。そのことについて責めるつもりはない」


 そこまで言って、政治様は笑った。


「だが隠されるのは困る」


 その一言に皆が少しだけ表情を変えた。


 なるほど、そういうことか。


 俺は内心で感心した。


 政治様は裏切りを恐れているのではない。


 疑心暗鬼を恐れているのだ。


 誰が敵で誰が味方か分からぬ状態が一番危険なのである。


 それ故にいっそのことここで腹を割って話そうと、そういうつもりなのだろう。


「……」


 しばらく沈黙が続いた。


 そして。


「では私から申しましょう」


 声を上げたのは鹿島氏当主だった。


 視線が集まる。


 ここへやって来た鹿島家当主は小田家に降伏をした当主、その嫡男であり、つい先月家督を譲られたのだ。


 まだ若い当主だが、その背筋は真っ直ぐだった。


「私は佐竹へ降るつもりはありませぬ」


 広間に僅かな安堵が広がる。


 だが鹿島殿は続けた。


「しかし」


 その一言で再び空気が張る。


「不安はあります」


 率直であり、そして正直だった。


「佐竹家は今も昔も強い。その強さは近年さらに増しております。対して我らは未だ一枚岩とは申せませぬ」


 それも事実だった。


 小田家を中心としてまとまりつつある。


 だが完全ではない。


「だから迷う者がおっても不思議ではない」


 鹿島殿はそう言って政治様を見た。


「だからこそ聞きたい。何故政治様は、あの強大な佐竹に立ち向かうつもりなのですか?」


 彼の言葉に俺はハッとした。


 確かにそうだ。


 佐竹は常陸統一こそ考えているものの、小田家に対して徹底抗戦を唱えているわけではない。


 これまでも同盟を組み、共に何度も戦って来た過去がある。


 常陸南部を抑えた今となっても同盟や従属関係を結び、その庇護を受けるという道は存在する。


 にもかかわらず、政治様は戦う道を選んでいる。


 広間中の視線が政治様へ集まった。


 江戸忠通殿ですら静かにその答えを待っている。


 政治様はしばらく黙っていた。


 そして。


「鹿島殿」


 穏やかに口を開いた。


「難しい理由を聞きたいのかの?」


 鹿島殿は少し戸惑ったように頷く。


「できれば」


「では期待に添えぬかもしれん」


 政治様は笑った。


「わしはあまり難しいことは考えておらぬ」


 広間から小さな笑いが漏れる。


 だが誰も油断していない。


 政治様が本当にただの楽天家ではないことを皆知っているからだ。


「わしはな」


 政治様はゆっくりと言った。


「佐竹が強いことを知っておる。それは認めよう———だがな」


 笑みが消えた。


「強いから従うというのは好かぬ」


 広間が静まる。


「そ、それだけですか?」


 鹿島殿が動揺しながら尋ねた。


 政治様は笑いながら頷く。


「ははっ、それだけじゃ」


 あまりにも単純だった。


 だが、政治様は続ける。

 

「佐竹は強い。だが、小田もまだ生きておる。家臣もおるし、国人衆もおる。勿論、土地も民もな」


 広間を見渡す。


「戦う前から負けを認める理由がどこにある」


 その言葉に、何人かの国人衆が思わず顔を上げた。


「もし戦って負けたなら仕方ない。だが戦わずに頭を下げるのは性に合わん」


 なるほど、単純な理由だ。


 しかし、だからこそ強く共感できる。


 俺は苦笑しそうになった。


 理屈ではない、損得でもない、だが不思議と人を納得させる言葉だった。


「それに」


 政治様は再び笑った。


「今の小田は昔とは違う」


 そこで、政治様の視線が俺へ向いた。


 えっ、あの、やめてくださいよ。


 嫌な予感しかしない。


「政貞がおる」


 やっぱりだ。


 広間の視線が一斉に俺へ向き、非常に居心地が悪い。

 

「市場を作り、街道を整え、水車も作った。百姓達は以前より飯を食っておる」


 政治様は楽しそうだった。


「だからな」


 政治様は国人衆達を見る。


「今の小田には未来がある」


 その言葉は重かった。


 何故なら、それは単なる希望ではなく、皆が実際に見ている現実だったからだ。


 島崎俊興殿が頷く。


「確かに」


「我が領でも商人の往来が増えた」


 真壁殿も続く。


「農具の売買も以前とは比べ物になりませぬな」


 岡見殿も頷く。


 数年前から少しずつ、少しずつだが、小田領は変わり始めていた。


 それが今では大きく変わっている。


 それを皆知っている。


「だから」


 政治様は言った。


「わしは賭けてみたい」


 静かな声だった。


「佐竹に従う未来ではなく、自分達で作る未来にな」


 広間が静まり返った。


 しばらく誰も何も言わない。


 やがて。


「参りましたな」


 鹿島殿が苦笑した。


「理屈では勝てませぬ」


「理屈では話しておらんからの」


 政治様が笑う。


 広間にも笑いが広がった。


 空気が柔らかくなる。


 その時だった。


「では」


 今度は江戸忠通殿が口を開いた。


 広間が再び静まる。


 江戸家当主にして新たな同盟者。


 小田家と立場上対等である彼の発言は重い。


「私からも一つ申したい」


 政治様が頷く。


「聞こう」


 忠通殿は静かに立ち上がった。


「江戸家もまた、佐竹家から誘いを受けました」


 広間がざわつく。


 やはり、予想していたとはいえ実際に聞くと重いな。


「だが断りました」


 忠通殿ははっきりと言った。


「理由は簡単です」


 そして、静かに政治様を見る。


「私は小田殿を信じることにした」


 広間が静まる。


「政貞殿とも話した。小田家の家臣達とも話した。そして」


 忠通殿は続ける。


「今の小田家には勢いがある」


 その評価は大きかった。


 第三者だからこそ価値がある。


「だから江戸家は小田家と共に歩む」


 明言した。


 しかも国人衆達の前で。


 これは明確な共闘宣言だった。


 広間の空気が変わる。


 先ほどまでの不安が、少しずつ自信へ変わっていくのが分かった。


 だが、ここで忠通殿は思わぬことを言った。


「それに、私は見たいのだ。これまで数百年間一度も実現しなかった常陸統一、それが叶う瞬間をな」


 それを聞いた時、皆だけではなく俺も驚いた。


 常陸統一、まさか忠通殿が家の生き残りだけでなく、そんなことまで考えていたとは。


「そして、常陸が統一したら次は関東だ。流れ者の北条を制し、関東を統一する。それが幼い私の夢であった」


 そう話す忠通殿の言葉はどこか楽しそうだった。


 しかし、周りの者達は少し困惑した様子でこぼす。


「しかしそれは……」


「夢物語、では案外ないと思うぞ」


 忠通殿の言葉に、更に政治様が続いた。


「事実、この二年で小田家は常陸の南半分を統一した。この数百年でできなかったことをなしたのじゃ。常陸統一、いや関東統一も夢ではあるまい」


 政治様が笑いながらそう言うと、周囲の者達の表情が少しずつ変化していくのが見えた。


 最初は戸惑い、次に驚き、そしてほんの僅かだが期待があった。


 そんな感情が混ざっていた。


 無理もない。


 常陸統一などという言葉は、これまで何度となく語られ、そして消えていった夢だからだ。


 佐竹家ですら成し遂げていない。


 小田家も成し遂げていない。


 ましてや関東統一ともなれば、笑い話で終わるのが普通だった。


 だが今この場には、それを笑い飛ばせない理由があった。


 この二年で小田家がやってきたことがある。


 江戸家との同盟、霞ヶ浦周辺の平定。


 そして鹿島や島崎といった有力者達との関係改善。


 少しずつ、だが確実に勢力を伸ばしてきた。


「……」


 真壁家久殿が腕を組む。


 しばらく考え込んでいたが、やがて小さく笑った。


「確かに」


 広間の視線が集まる。


「二年前に誰かが今の小田家を予想したなら、私は笑っていたでしょうな」


 その言葉に何人かが頷いた。


 それは皆同じだった。


「だが今は違う」


 家久殿は政治様を見る。


「少なくとも夢を語る資格はある」


 広間の空気がまた変わる。


 夢物語ではない。


 現実の延長として語られ始めている。


 それが大きかった。


 すると。


「私も一つ申そう」


 今度は岡見氏の当主が立ち上がった。


「元より岡見は小田家の家臣、今更佐竹へ走るつもりはござらぬ。だが正直に言えば、不安はあった」


 その言葉に何人かが頷く。


「しかし今聞いておって思った」


 岡見殿は笑った。


「不安なのは皆同じだったのですな」


 小さな笑いが広がる。


 その通りだった。


 誰もが不安だった。


 誰もが迷っていた。


 だからこそ、こうして顔を合わせる意味があった。


 政治様は満足そうに頷く。


「その通りじゃ」


 そして。


「だから今日集まってもらった」


 広間を見渡す。


「皆が同じ方向を向くためにな」


 静かな声だった。


 だがよく響いた。


 その時、島崎俊興殿が口を開く。


「ならば一つ聞きたい」


「申せ」


「小田家は今後どう動くおつもりですか」


 現実的な質問だった。


 夢を語るだけでは意味がない。


 実際にどうするのか。


 それが重要なのだ。


 政治様は少し笑った。


「それについては」


 そう言って、こちらを見た。


 嫌な予感しかしない。


「政貞」


「……はい」


「説明してやれ」


 やっぱり俺か。


 広間中の視線が集まる。


 非常に逃げ出したい。


 だが無理だ。


 俺は諦めて立ち上がった。


「まず」


 地図を広げる。


「我らは佐竹家と正面から戦うつもりはありません」


 その言葉に何人かが驚く。


 だが続ける。


「少なくとも今は」


 今の小田家と佐竹家では力の差が大きい。


 それは事実だ、認めるべき現実でもある。


「だからまず力を蓄える」


 霞ヶ浦周辺を指差す。


「この一年で各々が土地を豊かにし、兵を増やす」


 江戸忠通殿を見る。


 忠通殿が頷いた。


「佐竹家に対抗するためには小田家だけでは足りませぬ。だから皆の力が必要です」


 国人衆達を見る。


「今日集まっていただいた理由もそこにあります」


 しばし沈黙。


 やがて、鹿島殿が頷いた。


「なるほど、無理に戦を急がぬということですな」


「はい」


 俺は答える。


「勝てる戦しかしません」


 それは俺の本音だった。


 戦国時代だからこそ、無駄な戦は避ける。


 勝てる状況を作ってから戦う。


 そのために内政をやってきたのだから。


 すると、忠通殿が笑った。


「やはり面白いな」


「え?」


「普通なら勢いのある若者は戦いたがる」


 確かに、だが俺は違う。


「戦は失うものが多いですからな。特に銭が」


 そう答えると一瞬静まり返った後、広間が大笑いになった。


「はははは!」


「違いない!」


「全くその通りだ!」


 緊張が完全に解けた。


 政治様も声を上げて笑っている。


 氏治様など腹を抱えていた。


 その時だった。


 広間の外から慌ただしい足音が響く。


 全員が振り向く。


 使番だ。


 だが顔色が悪い。


「申し上げます!」


「何事じゃ」


 使番は膝をついた。


「北方より急報!」


 広間の空気が一変する。


 佐竹家だ、誰もがそう思った。


「申せ」


 政治様の声が低くなる。


 使番は大きく息を吸った。


 そして。


「太田城下にて、大規模な兵糧買い集めが行われております!」


 広間がざわめく。


 やはり、俺は思わず拳を握った。


「さらに!」


 使番は続ける。


「常陸北部各地より兵が招集され始めているとのこと!」


 今度は完全に静まり返った。


 兵糧、兵の招集、これはもう噂ではない。


 義篤殿は確実に何かを始めようとしている。


 問題は……その軍勢がどこへ向かうのかだ。


「まさかもう攻めてくるつもりなのか!?」


「いや、それはないでしょう」


 慌てる周囲を落ち着かせるように、親父が立ち上がった。


「兵糧の集積も兵の招集も、始まったばかりなのでしょう?」


「は、はい」


 使番が頷く。


「であれば即座の出兵は考えにくい」


 広間の空気が少しだけ落ち着く。


 確かにその通りだ。


 大軍を動かすには準備が要る。


 兵糧も武具も人馬も、何もかもが必要になる。


 招集を始めたばかりなら、すぐには動けない。


「では何が目的だ」


 真壁殿が問う。


 親父は腕を組んだ。


「そこが問題ですな」


 皆の視線が自然と地図へ向く。


 常陸、そして周辺諸国、佐竹家が兵を動かす先は一つとは限らない。


「我らとは限らぬ」


 江戸忠通殿が言った。


「北へ向かう可能性もある」


 それも事実だった。


 佐竹家は常陸だけを見ているわけではない。


 北には奥州諸勢力、西には那須、南には我ら。


 敵は多い。


「だが」


 鹿島殿が低く言った。


「この時期に兵糧を集めるということは、何か大きな動きをするつもりなのでしょう」


「うむ」


 政治様が頷く。


 そして、ゆっくりと俺を見た。


 嫌な予感しかしない。


「政貞」


「はい」


「どう思う」


 また俺ですか。

 

 しかし当主の命令なので拒否はできない。


 俺は地図を見た。


 そして慎重に考える。


 義篤、あの男は無駄なことはしない。


 兵糧を集め、兵を招集する。


 だがまだ出兵していない。


 つまり。


「威圧」


 思わず口から出た。


「何?」


 島崎俊興殿が聞き返す。


「佐竹家は我らを見ているのだと思います」


 皆が静かになる。


「兵糧を集め、兵を招集する。それをわざわざ周囲に見せる」

 

 普通なら隠す。


 だが今回の情報は比較的簡単に漏れている。


 そこに違和感があった。


「つまり見せている?」


 凝淵斉殿が問う。


「はい」


 俺は頷いた。


「見せて怯えさせ、迷わせ、離反者を増やす」


 広間が静まる。


 なるほど、そういうことか。


 口にすることでよく納得できた。


 兵を動かす前に敵を崩す。


 戦国では珍しくない。


「調略と同時ですな」


 勘助殿が呟いた。


「その通りです」


 俺は答える。


「先に国人衆を揺さぶり、次に兵を集めて見せる」


「そして」


 一度言葉を切った。


「小田家は終わりだと思わせる」


 嫌らしい。


 だが実に合理的だ。


 正攻法だけではなく、戦う前に勝つ。


 そのための動きだ。


「ふむ」


 政治様は面白そうに頷いた。


「ならばどうする」


 俺は少し考えた。


 そして答える。


「簡単です」


 皆がこちらを見る。


「慌てないことです」


「……」


「兵を集めたからといって、こちらも慌てて兵を集めれば向こうの思う壺です」


 相手が威圧してきたから威圧に付き合う。


 それが一番まずい。


「我らは今まで通り内政を続ける。そして同盟を強化し、国人衆との結束を固める」


 そして。


「情報を集める」


 俺は使番を見た。


「太田城下だけでは足りませぬ。兵糧がどこから運ばれているのか、どこの兵が集まっているのか、誰が動いているのか、全部調べる必要があります」


 親父が頷く。


「風魔にも動いてもらいますかな」


 今必要なのは情報だ。


 焦りではない。


 すると、政治様が大きく笑った。


「なるほどのう!」


 広間に響く豪快な笑い声。


「兵を集めたと聞いて皆慌てておったのに、政貞だけは相変わらずじゃな」


 いや、こっちも正直平常心じゃないですけどね。


 表向きは冷静に見えるだけで。


 しかしまあ、先ほどとは打って変わって空気は変わった。



 皆の目はもう先程とは違っていた。


 不安だけではなく、覚悟がある。


 佐竹家が動く、それは間違いないだろう。


 だが、だからといって小田家が、我らが慌てる必要はない。


 今日この場で確認できたことがある。


 国人衆達はまだ離れていない。


 江戸家も味方だ。


 そして政治様の言う通り、今の小田家には未来がある。


 それを信じる者達が、この広間には確かに存在していたのである。

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