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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第一部

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50話 1542年 府中評定その3

「まず、現在の小田領全体の石高と兵力を言ってくれ」


「ははっ! 現在の石高はおおよそ十八万石、兵力は最大で六千ほどでございます!」


 その報告に家臣達は声を上げて喜ぶ。


「六千でございますか! 去年と比べるとずいぶん増えましたなぁ!」


「以前の我らであれば考えられなかった数じゃ!」


 まあ彼らが喜ぶのは当然だ。


 去年までは小田も大掾もいいとこ二千の兵が限度であり、それが余裕を持って三倍の六千も出せるようになったというのは凄まじい進歩だからだ。


 それは認める。


 しかし、俺は首を横に振り言った。


「いや、足りぬな」


 その言葉に、盛り上がっていた場の空気は冷える。


「足りぬ、ですか?」


「ああ、足りぬ。佐竹を相手にするためにはな」


 その言葉に、家臣達はハッとした表情を浮かべる。


 そうだ、その辺の小勢力や国人衆を相手にするなら六千もあれば十分だろう。


 しかし、相手は佐竹、常陸最大の大名なのだ。


「勘助、佐竹の石高と兵数はいくらだと考えられる?」


「はっ! 恐らく石高は三十万石から三十五万石ほど、兵数はおおよそ八千ほどかと」


「はっ、八千!?」


 氏治様が驚きのあまり声を上げる。


 家臣達も同様であり、皆驚きの表情を浮かべていた。


「石高でも兵力でも負けている。それが今の現実だ。だからまずはこの二つを増やすことに注力する」


「それは、いかにして増やすのですか?」


 その問いに、俺は用意していた地図を広げた。


 広間の中央に置かれた常陸の地図。

 

「まず石高だ」


 俺は府中を指差す。


「やり方は単純だ。肥料を増やし、田畑を増やす。肥料は魚肥がある。田畑も揚水水車を用い、新田開発を行えば更に増やせるだろう」


「それでどれぐらい増える見込みですかな?」


「一年で二万石から三万石だな」


 俺がそう答えると、周囲は驚いた。


「さ、三万石!?」


「また増えるのですか!」


 氏治様も目を丸くしていた。


 無理もない。


 十八万石から更に三万石増えるということは、二十一万から二十二万石規模になるということだ。


 普通なら数十年掛けて達成する増加量である。


 だが、俺には根拠があった。


「まず魚肥だ」


 俺は鹿島を指差した。


「今年はまだ使っておらぬ。来年から本格的に使えば、それだけで収穫量はかなり伸びるだろう」


 次に霞ヶ浦周辺へ指を動かす。


「そして揚水水車。これが完成すれば今まで水が届かなかった土地も田に出来る。更に新田開発や街道整備、運搬効率向上、検地の徹底、これらを合わせれば三万石増加も決して不可能ではない」


 勘助殿が静かに頷いた。


「確かに理屈は通りますな。問題は実行出来るかどうかでございます」


「だからやるのさ」


 俺は即答した。


 氏治様も大きく頷く。


「うむ! 小田家はやり抜くと決めたら必ず家じゃ! 小田の底力を見せてやろうぞ!」


「「おおっ!!」」


 氏治様、小田家がそんな家なんて初めて聞きましたよ。


 まあ、俺もそのつもりだがな。


 そして広間からも賛同の声が上がっていた。


「では次は兵数だが、ただ石高を増やすだけでは追いつけない。そこで各地から浪人をかき集め、常備兵として雇う」


 その言葉に広間がざわついた。


「常備兵?」


「浪人を雇うのでございますか?」


 常陸介が驚いたように尋ねる。


 無理もない、戦国の兵の大半は農民兵だ。


 戦の時だけ集まり、終われば田へ戻る。


 それが普通だった。


 だがしかし、その常識をこれから覆す。


 そして俺は、更に彼らが予想だにしないことを言った。


「そうだ、目標は二千だ」


 その言葉に、広間は完全に静まり返った。


「に……」


 誰かが口を開く。


「二千!?」


 次の瞬間、広間が大きくどよめいた。


「常備兵二千でございますか!?」


「それは多過ぎませぬか!?」


「一年中食わせるのですぞ!?」


 当然の反応だった。


 たったの一年で兵を俺は二千増やすと言ったのだ。


 それも農民兵ではなく、常備兵である。


 毎日飯を食い、訓練し、銭が掛かる。


 有力な戦国大名でもそう簡単に維持出来る数ではない。


 だが、その兵達を養う力は今の小田家にはある。


 そして俺は言った。


「まあ落ち着け。佐竹と戦をする頃には、の話だ」


 そう言うと、広間は少し落ち着いた。


「今すぐ二千集めるわけではない。まず五百、そして千、最終的に二千を集めるという話だ」


 そう、段階的に増やすのである。


 俺の言葉を聞いた勘助殿が腕を組む。


「維持費はどうされるおつもりで」


「増えた石高と商業による収益だ。この一年での収益の増加率は皆も知っての通りだ。一年後には余裕を持って二千の兵を養える維持費を稼ぐことができるだろう」


「そう上手くいくでしょうか……?」


「上手くいくかではない、いかせるんだ。そうしなければ佐竹には勝てない」


 その言葉に、皆の表情が引き締まる。


 そうだ、この準備の段階から戦はもう始まっている。


 戦の勝敗は準備で九割が決まる、とはよく言ったものだ。


 佐竹に勝つためには、まずこの段階からあちらを追い抜くつもりで臨まなければならないのだ。


 だが、まだ不安は消えないようで常陸介が視線を落としながらこぼした。


「しかし、そもそも二千もの浪人が集まりますかな」


 その問いに俺は答える。


「数を集めるためにはとにかく領内に人を集めなければならない。そのために関所の通行費を大幅に下げ、移民の優遇策を取る」


 しかし、その発言に返ってきたのは皆の苦々しげな表情だった。


「そ、それでは税収が大幅に下がってしまいませぬか!?」


「一時的にはな、だが長期的に見れば税収は増える」


 俺の言葉に、皆は目を見開いて驚く。


 更に、氏治様はニヤリと笑いながら俺に続いて言った。


「以前、父上に進言したことと同じことを行うのだな」


「はい」


 そうだ、俺が行うのは以前政治様にも進言した楽市楽座政策。


 この政策によって関所を通りやすくし、商人が商売を行いやすくすることでとにかく人を小田領内へと呼び込むのだ。


「関所を通りやすくすれば、それだけ多くの者が小田家に来るだろう。ここで大事なのは人を定着させることだ。そのためにこれから様々な優遇政策を取り行う」


「そ、それは一体……?」


「まずは座の廃止だ」


 その一言に家臣達は再びざわめいた。

 

「座を……廃止?」

 

「それはつまり、商人達の特権を取り上げるということでございますか?」

 

 勘助殿が慎重に問い返す。

 

 俺は頷いた。

 

「その通りだ」

 

 現在、多くの商売は座によって独占されている。

 

 座に属していなければ品物を売ることができず、新しく商売を始める者は高い金を払って加入しなければならない。

 

 当然だが、それでは人は集まらない。

 

「小田領では誰でも商売が出来るようにする」

 

 広間が静まり返る。

 

「座に属していなくてもよい。領外の商人でもよい、職人でも百姓でも構わん。商売をしたい者は自由に商売をしてよい」

 

 常陸介が眉をひそめた。

 

「しかし、それでは既存の商人達が反発するのでは?」

 

「反発するだろうな」

 

 俺はあっさり認めた。

 

「だが、それ以上に新しい商人が来る」

 

 商人は利益の匂いに敏感だ。

 

 関所が安く、座がなく、自由に商売ができる。

 

 そんな土地があれば勝手に集まってくる。

 

「商人が増えれば市場が大きくり、市場が大きくなれば品物が増える。品物が増えれば人が集まり、人が集まれば税収が増える」

 

 俺は地図の府中を指差した。

 

「つまり人を呼び込むための政策だ」

 

 勘助殿は感心したように何度も頷いている。

 

「なるほど……目先の税ではなく、人そのものを増やすわけですな」

 

「その通り」

 

 戦国時代に最も価値があるもの。

 

 それは金でも米でもない。

 

 人だ。

 

 田畑を耕すのも人、商売をするのも人、兵になるのも人。


 全ての根源は人口である。

 

「だから移民には土地を与える」

 

 その言葉に広間がどよめいた。

 

「土地を!?」

 

「ああ」

 

 俺は頷く。

 

「新田を開発した者には一定期間税を免除する。家を建てる者には木材を支給する。職人には工房を貸し与える」

 

 これらは全て未来への投資だ。

 

 最初は損に見える。

 

 だが五年後、十年後には何倍にもなって返ってくる。

 

「更に鹿島港を拡張する」

 

 俺は地図の海岸線を指差した。

 

「港には商人だけではなく漁師も集まる。魚は食料にもなるし魚肥にもなり、干物や塩漬けにすれば兵糧や商品にもなる」


 すると氏治様が身を乗り出した。

 

「そういえば以前、お主が言っておったな。沖へ出ればもっと大きな魚が獲れると」

 

「はい」

 

 俺は笑った。

 

「鹿島沖は宝の山ですからね」

 

 実際、この時代の鹿島沖には魚が溢れている。


 イワシ、サバ、アジ。


 高級なものでいえばブリやタイ。


 そして当然、海であるため塩も大量に取ることができる。


 鰯も先ほど家臣達に言った通り、肥料として使えば農作物の収穫量を大幅に増やすことができる。


 まさに宝の山と言えるだろう。


「そして、常備兵はそんな移民や浪人達から集める。当然、最低限の試験は行うが身分や職業は問わず募集するつもりだ。優秀な者は新たに武士として取り立てる」


 その言葉に、今度は広間が別の意味で静まり返った。


「武士に……取り立てる?」


 家臣達は顔を見合わせる。


 戦国の世とはいえ武士は武士、百姓は百姓だ。


 その境界は決して低くない。


 だが俺は構わず続けた。


「戦で功を立てた者、優秀な者、忠義を示した者、そういう者には身分に関係なく褒美を与える」


 俺は更に続ける。


「土地を与え、俸禄を与え、家臣として取り立てる」


 その言葉に、若い家臣達の顔色が変わった。


 彼らもまた元を辿れば地方武士や国人の子弟だ。


 能力で出世できる。


 そう聞いて悪い気はしない。


 だが、年長の家臣達の中には不安そうな顔もあった。


「しかし殿」


 常陸介が口を開く。


「それでは家中の秩序が乱れませぬか。百姓が武士になるなど、古くから仕えている者が不満を抱くやもしれませぬ」


 もっともな意見だった。


 だから俺は頷いた。


「確かにその危険はある」


 皆が息を呑む。

 

「だからこそ条件は厳しくする。誰でも武士になれるわけではない。戦で功績を立て規律を守り、学び忠義を示した者だけだ」


 そして。


「既存の家臣より優秀でなければ取り立てない」


 その言葉に、何人かの家臣達は苦笑した。


「なるほど」


「それなら我らも負けてはおれませぬな」


「うむ」


 俺は頷く。


「これからの小田家は功績で評価する。血筋も大事だ。だが、能力はもっと大事だ」


 戦国の終盤、天下を取る者達は皆そうしている。


 織田信長。


 豊臣秀吉。


 徳川家康。


 能力のある者を抜擢したからこそ強かった。


 俺も同じことをするだけだ。


「そして軍備についても考えなければならない。戦に参加する最も多くの兵は百姓だ。そこで、俺は十字弓を大量に量産しようと考えている」


 その言葉に、元大掾家の家臣達がぴくりと反応した。

 

 特に土浦城攻めを経験した者達は、露骨に顔をしかめる。

 

「十字弓……」

 

「あれを増やすのでございますか……」

 

「思い出したくもありませぬな」

 

 誰かが小さく呟いた。

 

 周囲から苦笑が漏れる。

 

 まあ無理もない。

 

 あの時の戦いでは、彼らは散々十字弓に苦しめられたのだ。

 

 城壁や柵の陰から次々と飛んでくる矢。

 

 しかも撃っているのは歴戦の武士ではない。

 

 ほんの少し訓練した百姓達だった。

 

 弓術などほとんど知らぬ者達ですら一定の戦力になる。

 

 それが十字弓の恐ろしさだった。

 

「確かに威力は認めますが……」

 

 常陸介が渋い顔をする。

 

「武士の弓より優れていると?」

 

 俺は首を横に振った。

 

「いや、弓は弓で優れている」

 

 弓には連射力がある。

 

 熟練者ならば十字弓を遥かに上回る。

 

 騎射もでき、射程も長い。


 だが。

 

「問題はそこではない」

 

 俺は家臣達を見回した。

 

「百人の熟練弓兵を育てるのに何年掛かる?」

 

 誰も答えない。

 

「五年か? 十年か? それ以上か?」

 

 皆が黙る。

 

 だから俺は続けた。

 

「だが十字弓なら三ヶ月だ」

 

 広間が静まり返る。

 

「農民でも漁師でも職人でもいい。三ヶ月訓練すれば十分戦力になる」

 

 そして地図を指差す。

 

「これから人口が増える。移民も来るし、浪人も来るだろう。だが全員を武士として鍛えることはできない」

 

 だからこそ。

 

「誰でも扱える武器が必要なんだ」

 

 勘助殿が静かに頷いた。

 

「なるほど。兵を増やすだけではなく、兵を早く戦力化するための策ですな」

 

「その通りだ」

 

 俺は頷く。

 

「佐竹は八千、こちらは六千、普通にやれば不利だ」

 

 だから。

 

「兵の質と運用で覆す」


 その言葉に、皆は納得したように頷いた。


 そうだ、十字弓を大量に生産すれば鉄砲まではいかないものの、十分な戦果を上げるだろう。


 しかし……俺は心の中でまだ何かが足りないと思っていた。


 あとやるべきは兵全体の装備の強化だろうか。


 槍の長さを増やしたり、百姓にも装備をしたり、そんなことは考えられる。


 だが、決定的な何かが足りない。

 

 そんな違和感が胸の奥に引っ掛かっていた。


 気持ち悪いが、今答えが出ないのなら口に出すべきではない。


 俺は一度話を区切るように息を吐いた。

 

「まあ、軍備の細かい話は後だ。今はまず兵と民を増やすことが先決だからな」

 

 家臣達も頷く。

 

 どれだけ優れた武具があろうと、それを使う人間がいなければ意味がない。

 

 逆に人さえ集まれば、武具は後からでも揃えられる。


「これらの政策は政治様に伝えた上で許可を得て実行するものとする。では、今後二年の目標を改めて言う」

 

 俺は地図の中央を軽く叩いた。

 

「石高二十二万石、常備兵二千、総兵力八千以上、合計一万を超える軍勢を小田家は目指す」

 

 広間が静まり返る。

 

 誰もがその数字の重さを理解していた。

 

 もし実現できれば、小田家は常陸でも屈指の勢力となる。

 

 少なくとも佐竹と正面から戦う資格を得ることになるだろう。

 

「そして」

 

 俺は続ける。

 

「一年後には佐竹との決戦を視野に入れる」

 

 その瞬間、広間の空気が張り詰めた。

 

 氏治様ですら表情を引き締める。

 

「いよいよ……か」

 

「はい」

 

 俺は頷いた。

 

「もちろん相手も黙ってはおりませぬ。こちらが成長すれば警戒もするでしょう」

 

「うむ」


「だからこそこれから差を詰めるのです」

 

 そして俺は皆を見回した。

 

「皆の力を借りたい」

 

 静かだった広間に、勘助殿の声が響く。

 

「この老骨、最後までお供いたしましょう」

 

 続いて常陸介が頭を下げた。

 

「微力ながらお力添え致します」

 

「我らも!」

 

「無論でございます!」

 

「佐竹など恐るるに足らず!」

 

 次々と声が上がる。

 

 最後には広間全体が熱気に包まれていた。

 

 氏治様は満足そうに笑う。

 

「うむ! 皆頼もしいではないか!」

 

 そして。

 

「政貞!」

 

「はっ」

 

「お主に全て任せる!」

 

 その言葉に広間から笑いが漏れた。

 

 いや、氏治様……それを言われると責任が重過ぎるのですが。

 

 だが、俺も笑った。

 

「では全力を尽くしましょう」

 

 そう言って頭を下げる。

 

 家臣達も一斉に声を上げた。

 

「「「おおっ!!」」」

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