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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第一部

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47話 鹿島の港

 鹿島平定から数ヶ月後、日本には夏が訪れていた。


 俺達が訪れたのは鹿島の港。


 朝早くから港は、異様な熱気に包まれていた。


 その熱気は夏の暑さにも負けないほどで、人々は暑さをものともせず商いや仕事に精を出していた。


「おお……」


 勘助殿が思わず声を漏らす。


 浜一面が銀色に輝いていた。


 鰯である。


 網から次々と吐き出される大量の鰯。


 漁師達の威勢の良い声に魚を運ぶ荷車。


 まるで祭りのような様相であった。

 

「これは凄いですな」


 勘助殿が笑う。


「港を手に入れた甲斐がありましたな」


 俺も頷いた。


 確かにこれだけあれば使い道には困らないだろう。


 食うにも、売るにも、そして……肥やすのにもな。


「確かにな」


「これだけ獲れれば収益も相当でしょう」


「ああ、だが確かにそうだ。だが俺は他の使い道を考えている」


「他の……でございますか?」


 勘助殿は首を傾げるが、すぐに何か思い至ったのかハッとした表情を浮かべる。


「気付いたみたいだな」


「ええ」


 勘助殿は浜いっぱいに広がる鰯を見ながら頷いた。


「肥料でございますな」


「その通りだ」


 俺は笑った。


 勘助殿は流石である、話が早いな。


「食えば一度で終わるし、売れば銭になるが、肥料にすれば毎年実りを増やせる」


 勘助殿の目が細くなる。


「なるほど」


「米を生む魚でございますか」


 まさにその通りだった。


 鰯は魚だ。


 だが俺にとっては米であり金であり兵糧でもある。


 しかも毎年増える。


 こんなに便利なものを見逃す理由がない。


「行くぞ」


「どちらへ?」


「見せたいものがある」

 


 港から少し離れた漁村。


 そこには小さな田畑が広がっていた。


 漁師達は漁の合間に農作業も行う。


 この時代では珍しくない。


 俺は一人の老人へ声を掛けた。


「今年の出来はどうだ」


「上々でございます」


 老人は笑った。


「魚肥を多く入れましたので」


 その言葉に勘助殿が反応する。


「なるほど、先程殿が言っていた肥料のことですな」


「その通りだ」


 俺は勘助殿の言葉に頷く。


 すると老人は納屋を指差した。


 中には乾燥させた鰯が積まれていた。


 独特の臭いが漂う。


「これを砕いて畑へ撒くのでございます。すると作物の育ちが違います」


 勘助殿は感心したように頷いた。


「なるほど、昔から使われているのですな」


「ええ」


 老人は胸を張った。


「魚は食うだけではありませぬ」


 帰り道。


 勘助殿は言った。


「そう言えば私が駿府にいた時も、ああして百姓達は鰯を肥料にしておりました。昔のことゆえ、すっかり忘れておりました」


「そうだったのだな。それにしても、肥料が使えるとなれば更に石高は高まるだろうな」


「確かに。そして、田畑が豊かになれば年貢も増えますな」


「その通り」


 鹿島の港を手に入れた本当の価値はそこにある。


 魚を獲ることではない。


 魚を使って土地を肥やすことだ。

 


 翌日。


 鹿島奉行達を集めた。


「命令だ」


 皆が頭を下げる。


「今後は鰯を大量に乾燥させろ」


「はっ」


「食用以外は可能な限り保存する」


 奉行達が顔を見合わせる。


「肥料でございますか」


「そうだ」


 俺は頷いた。


「来年から周辺の村へ配る」


 勘助殿も笑っている。


 既に効果を理解したのだろう。


「面白くなりそうですな」


「ああ」


 俺も笑った。


「来年の収穫が楽しみだ」

 


 その日の午後。


 俺と勘助殿は市場を歩いていた。


 鹿島平定後。


 市場は以前より活気付いている。


 商人も増えた。


 人も増えた。


 港の恩恵が少しずつ現れている。


「おお」


 俺はある店で足を止めた。


 農具屋である。


 店先には見慣れた品が並んでいた。


 千歯こき。


 千石どおし。


 備中鍬。


 改良型の鋤。


 そして最近量産が進んだ手押し車。


 どれも小田領で広まっている新農具だった。


「売れているか?」


 店主へ尋ねる。


 すると店主は満面の笑みを浮かべた。


「売れておりますとも!」


「毎月足りぬくらいで」


 俺は頷いた。


 良い傾向だ。


「どこへ売れている」


「それが」


 店主は少し声を潜めた。


「最近は佐竹領からの注文が多うございます」


 俺と勘助殿は同時に顔を見合わせた。


「佐竹か」


「はい」


 店主が頷く。


「まとめて何十本も買っていかれます。備中鍬も、千歯こきも、そして唐箕やその他のものも」


 なるほど、思った以上に動きが早い。


「値段はどうしている?」


 勘助殿が尋ねると、店主は笑った。


「佐竹向けは三割増しでございます」


 俺は吹き出した。


「ははっ、そうか! ちゃんとやっているようだな」


「もちろんでございます」


 店主は胸を張った。


「小田領民と同じ値段で売る理由はございませぬからな! はっはっは!」


 そして店主と別れ市場を出た後、勘助殿が言った。


「先手を打ってきましたな」


 そう笑う勘助殿の言葉に何のことかと思ったが、すぐに思い至った。


「なるほど、この行動は民を喜ばせると同時に俺達の調略を防ぐためであったか」


「左様でございます」


 一年前に大掾家に対して行った調略。


 それは、小田家が大掾よりも大きく栄え、民が良い生活をしている情報を大掾の民達に流し、寝返らせるものだった。


 あれは見事に成功したが、どうやら佐竹相手に同じことは通じないようである。


「民心を掴み、生産力を上げ、こちらの調略を封じる。一手で三つのことを成したわけだ。流石だな」


「やはり常陸最大の勢力、一筋縄では行かないようですな」


 勘助殿の言葉に、俺は頷いた。


 佐竹は今までの相手と違って格上だ。


 これまでの小手先の手口は通用しないだろう。


 やはり、奴らとは実力で決着をつける他なさそうだ。


「これから、忙しくなりそうだ」


「ですな」


 そう、これから始まるのは槍と槍の戦ではない。


 どちらが国を栄えさせ、戦を行うその時までに強くできるか、そういう戦なのである。


 発展競争は今、始まろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
>「肥料でございますな」 で、勘助は話が早いって考えてたすぐ後に、 >「魚肥?」 >「某はてっきり、港の収益に喜んでいるのだと思いました」 って言われると「分かってなかったんかい!」ってなりそうなもの…
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